076話 マーラー商会ハーフォード支店始動
ウォルフガングとジュードと騎士団長は冒険者ギルドに場所を移し、今後想定されること、今できることの検討をすることにした。
私とソフィーは公爵の館に残った。
今、私とソフィーは公爵夫人の居間にいる。
「ダンジョンの報告を受けている間に仕立屋を呼びました。あなたの採寸をします」
そう言って公爵夫人はソフィーだけを控えの間に連れていった。
控えの間からは「カチャ、カチャ」「ドスッ」と鎧を外す音がしていたが、やがて静かになった。
今頃ソフィーはあられも無い姿を晒しているに違いない。
しばらくすると話し声が聞こえてくる。
何やら興奮しているようだ。
何だろう?
まずいことが起きていなければ良いが・・・
そわそわしていると扉が開き、公爵夫人がでてきた。
「ビトー、入りなさい」
公爵夫人は猛禽類のような目をされている。
無礼があったのだろうか・・・
控えの間に入ると公爵夫人と夫人の侍女とソフィーと仕立屋(採寸師・女性)がいたが、皆さんそわそわされている。
ソフィーは私とユミ発案の下着を身に着け、あざといまでにメリハリの利いたプロポーションを披露している。
乳房は1/4ほど見えている。
うん。見事な美巨乳だ。
お尻は・・・ 今日履いているパンティはハイレグタイプのビキニショーツだな。
お尻の肉が下から持ち上げられ、ほんの少しプリッとはみ出している。
何時間でも見ていられそうだ。
肌は傷一つ無い、シミ一つ無い、玉の肌。
うん、ソフィー。
いつにも増して美の化身だ。
私が入ってきたのに気付いたソフィーが泣きそうな目で私を見る。
なにがあった?
公爵夫人の詰問が始まる。
「何ですか、これは!」
「ソフィーです」
「違います。このブラジャーです!」
「あ・・・ これは私から妻となったソフィーに贈ったものです」
「どこで求めたのです」
それから、どこでこんなデザインのブラを売っているのか、この色は何だ、どんな機能なのか、と厳しい尋問が続いた。
「これは既製品ではございません。ソフィーは既製品が合わなかったので、私がソフィーのためにデザインし、オーダーメイド致しました」
「乳房の形が崩れぬよう、下がらぬよう、アンダーの位置を決めて下から乳房を支えるように、包み込むようになっております。これによって乳房の形を整えるとともに、全力疾走時も、激しい戦闘時も乳房の揺れを抑えます」
私の説明を聞いた公爵夫人は、つくづくソフィーのブラジャーを見ていたが、ふとパンティに目を落とすと、
「あなたっ! これを説明なさいっ!!」
「ハイレグタイプのパンティでございます。ソフィーは冒険者ですので魔物と相対する時は全力で走ります。また、はしたのうございますが、足を上げて魔物を蹴り飛ばすこともございます。足を動かしやすくなるようデザインされております」
布面積が小さく、鋭角的に股に食い込んでいるパンティ。
一分丈パンツしか見たことのない人にとって、革命的に扇情的なパンティ。
公爵夫人が喉の奥で 「なんて破廉恥な!!」 という言葉を辛うじて飲み込んだのがわかった。
なかなかソフィーのブラジャーとパンティから目を離せない公爵夫人(と侍女と採寸師)。
気持ちはわかる。
機能性と扇情性を高レベルで実現した上下セットの下着。
色もなかなか・・・
今日は濃いピンクに白の刺繍の入った上下セットね。
私だってずっと見ていたい。
やっとの思いで目を離した公爵夫人は私をジト目で見てきた。
(こいつにこんな甲斐性があったのか?)
と言う猜疑の目と、
(にもかかわらず、あんな事務服で “良し” としたのか?)
という軽蔑の籠もった目で見られた。
気を取り直した公爵夫人と「どこであつらえたのだ」の話になり、ヒックスのマーラー商会であつらえたという話になり、「ヒックスですか・・・」とちょっとがっかり。
ともかくソフィーの採寸はされ、ドレスも忘れずに注文されたが、関心はすっかり下着に移っていた。
採寸屋さんが退出され、ソフィーが鎧を身に纏い、あとは退出というとき。
「マーラー商会はここハーフォードに支店を出す予定があると聞きました」
「もしお邪魔でありませんでしたら、御方様へ挨拶に伺うよう伝えましょう」
すると公爵夫人はサッと振り向き、
「ええ。都合の良い時にいつでも来るようお伝え下さい」
公爵夫人の目がキラリと光った。
◇ ◇ ◇ ◇
帰りにソフィーと一緒にマーラー商会ハーフォード支店予定地へ立ち寄った。
サビーネが忙しそうにしていたので、
「サビーネ殿、ご苦労様。支店長はおられるかな?」
と声を掛けた。
「ビトー様、ようこそおいで下さいました。アンナは奥におります。直ちに呼んで参ります」
サビーネが裏に引っ込むと、すぐに入れ替わりでアンナが出て来た。
「これはビトー様、ようこそおいで下さいました。私どもの方から伺いましたのに」
「いや、開店準備のお忙しいところ申し訳ありません」
「とんでも御座いません。本日はどのような御用を?」
「実はハーフォード公爵夫人がソフィーの下着に興味を持たれまして」
「まあ、それは名誉なことでございます」
「それでですね、もしアンナ殿の御都合がよろしければ、一度顔をお見せ下さいと伝えて欲しい、そう伝言を頼まれまして・・・」
「!!! それはいつですか!?」
「つい先ほどです」
アンナは私に一礼すると、
「サビーネ! サビーネ!!」
と大声で呼んだ。
サビーネが出てくると、
「直ちにハーフォード公爵家へ伺います」
「準備は?」
「ビトー様発案のランジェリーのカタログを。急いで!」
「はい!」
コマネズミのように動き始めた。
「アンナ殿?」
「公爵夫人へ口利きをして頂き、感謝に堪えませぬ。これでハーフォード支店は繁盛間違いございません。また改めて御礼に伺います」
「おお・・ では失礼致します」
帰り道、ソフィーに聞いた。
「アンナ殿が慌ててマグダレーナ様に会いに行ったアレは何だったのだろう?」
「マグダレーナ様が都合の良い時に来てくれと言ったでしょ」
「うん」
「あれはすぐに来い、と言う意味よ」
「都合が付き次第って言っていたけど」
「マーラー商会の都合でしょ。マグダレーナ様はいつでも来いと言われたからマグダレーナ様の都合は付いているの。マグダレーナ様の都合とマーラー商会の都合、どっちが重要か考えるまでもないでしょ」
「ソフィー、あなたは戦略家だねぇ」
ソフィーに小突かれた。
「馬鹿。あなたも貴族なのだからよく憶えておいて」
「はい」
下着フラグが立ったので、夜はソフィーをしっかりと看護した。
◇ ◇ ◇ ◇
今年の下半期。
マーラー商会の革命的なランジェリーは、マグダレーナ様発信の流行として、ハーフォード領内の上流階級のご婦人方に爆発的に広まった。
マーラー商会はハーフォード支店だけでは生産が追いつかず、本店の応援を得て、上客の苛立ちが募る前に最初のロットの納品を済ませた。
顧客満足度は言うまでも無かった。




