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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
07 原始ダンジョン偵察編
72/302

072話 再びハーフォードへ


ヒックスからハーフォードまで馬車で4日掛かる。


夜は宿屋に泊まるが、貴族向けのシャトーではない。

冒険者向けの安宿である。



「お前は貴族じゃないのか?」


「半平民です」


「都合のいい身分だな」


「でしょー」



ソフィーにポカリと頭を叩かれる。


宿では皆にこれからハーフォードで予想される事について説明した。


ハーフォード公爵に休暇終了の報告。

ソフィーを娶ったことの報告。

たぶんソフィーは公爵夫人へお目通りになる。


ソフィーは名が売れている?

そんなことは無い? なら大丈夫かな。

気に入ったからソフィーを召し上げるって話にはならないよね?



「先にお前の女(妻)にしたと言っておけば、普通は大丈夫だ」



帰還後は公爵から仕事を命じられなければ待機となる。

実はそれを期待している。




本題に入る。


ハーフォード領にはダンジョンが無い。


無かったのだが・・・


どうやらイルアンという街の近くに初めてダンジョンができそうなのだ。



「原始ダンジョンか!」


「ええ」


「どうしてわかった!?」


「アイシャ様に耳打ちされました」


「アイシャ様の情報か。まず間違いないだろうな」


「私もそう思います」



4人ともかなり驚き、2人が険しい顔をした。


ここにはダンジョンのエキスパートが2人もいらっしゃる。

意見を聞くと、ウォルフガングとソフィーが口を揃えて、



「普通は近寄らない」



アイシャ情報だから間違いないとは思うが、本当にあったら公爵報告案件(アイシャ報告案件でもある)なので、まずは我らで確かめる必要がある。

聞いてしまった以上、知らん顔は出来ない。



「本気か?」


「本気も本気」


「藪蛇になるぞ」


「ラミアだけに」


「馬鹿者」




「次にアイシャ様にお目にかかった時に手ぶらなのはちょっと・・・」


「次に会う機会なんてあるのか?」


「ありますよ。私はアイシャ様とアレクサンドラ様から、いつでも呼び出しが掛かるようになっております」


「そうか・・・」


「その代わりと言っては何ですが、何か手に余る事態に遭遇したらみんなで古森に逃げ込みますよ。ラミアの皆さんに匿ってもらいますからね」


「そういうことか」



全員納得してくれた。



◇ ◇ ◇ ◇



早速公爵邸に出向き、帰還報告。

と思ったら公爵不在。


公爵夫人に帰還報告。


公爵は年貢を納めるために王都にいらっしゃる。

この時期はどこも忙しいですね。



「ビトー・スティールズ、ただ今帰還致しました」


「よく戻りました。目的は達したのですか?」


「はい」


「ご友人は?」


「無事助け出して参りました。

 報告のついでで恐縮でございます。

 私ビトー・スティールズは友人を娶りましたことをご報告申し上げます」


「なんですと!」


「まずは公爵閣下と御方様にご報告と思い・・・」


「連れてきなさい」



ソフィーを招き入れる。


ソフィーは冒険者ギルドの受付嬢の出で立ちをしている。

ヒックスで最下層の貴族女性のドレスを購入しようと思ったのだが、吊るしの服ではソフィーに合うサイズが無かった。


メッサー冒険者ギルドの受付嬢の服は余計な飾りが無く、清楚で、しかも仕事が出来そうな感じが私の好みである。

なによりソフィーの体に合わせて作られたオーダーメイドである。



「お初にお目に掛かります。ソフィーと申します。ビトーの妻でございます」



公爵夫人の前で意外と滑らかなカーテシーを披露。


公爵夫人はソフィーをまじまじと見ていた。

貴族女性にはあり得ないその身長にびっくりしたと思う。



「あなた、その服は?」


「私に合う服がこれしか無く・・・ 以前の職場の仕事着でございます。見苦しい姿をお目にかけてしまい、申し訳ありません」


「前職は何をされていたのですか?」


「冒険者ギルドのフロントをしておりました」


「なるほど。しかしハーフォードの貴族の妻女としてはその服はいかがかと思います。私がオーダーメイド致します。日を改めてまた来なさい」


「はい」



それから公爵夫人に家を管理するハウスキーパー、シェフ、メイドを紹介してもらい、辞去した。


公爵夫人紹介のハウスキーパー、シェフ、メイドはすぐにきた。

全員女性だ。

ハウスキーパー:1名、シェフ:1名、メイド2名。

全員住み込み。


ハウスキーパーはアラフォーの寡婦。公爵夫人の古い友人らしい。


シェフは20代後半。


メイドは10代半ば。


みなさんの人件費はいかほどで・・・ はい。了解しました。

頑張って稼ぎます。


部屋割りを決め、早速家事を丸投げした。



◇ ◇ ◇ ◇



ウォルフガングによると原始ダンジョンへのアプローチは。基本普通のダンジョンと変わらない。


1.出入り口の発見

2.魔物の種類と強さの見極め

3.ダンジョンの規模の見極め

4.いつでも逃げられる準備



「観察はまあ良い。問題は探索だ」


「とういうと?」


「原始ダンジョンは、安定化して普通のダンジョンになるまではコロコロと構造が変わる。昨日通った通路が今日は無い。入口の位置が変わっている。出てくる魔物が違う。罠が増えている。ということがざらにある」


「困るじゃないですか」


「そうだ。だからどこまで関わる気だ?」


「ウチのメンバーでは探索は厳しい?」


「条件付きで初層なら探索が可能だ」


「その条件ってなにか意味があるのですか?」


「ダンジョンに外から刺激を与えることで変化を促す」


「?」


「生まれたてのダンジョンは変化したくてうずうずしているのさ。そのきっかけを与えてやろうというわけだ」


「するとどうなるのです?」


「何度か刺激してやって、何度か変化すると、ダンジョン自身が自分はどのように成長するのかを決める」


「すると?」


「ダンジョンが安定化に向かう。階層化が始まれば安定した証拠さ。あとは普通のダンジョンだ。冒険者ギルドで管理できるし、普通の冒険者も探索可能になる」


「なるほど」


「何度刺激すれば安定化するのかは、やってみなければわからん」


「先ほど言われた条件とは?」


「どこまで潜ればダンジョンの変化が始まるかわからん。その見極めには定説が無い」


「困るじゃ無いですか」


「だからだ。ベテランを連れて潜る。空気の変化、妙な視線、臭い、音、振動、出てくる魔物の変化、なんでもいい。

ベテランが『変化が始まる』と感じたら、四の五の言わずにダンジョンの外に飛び出す。これを鉄則にしないと変化に巻き込まれて、ダンジョンの肥やしになる」


「わかりました。ウォルフガング。あなたの判断に任せます」


「儂が全員の命の責任を持つのか」


「ええと。判断をあなたに任せます。責任は私が負います」


「何が違う?」


「あなたは判断し、私に撤退を進言する。私が撤退を決める。失敗したら私の責任。あなたは責任の重圧から解放されて的確な判断が出来る、と言うわけです」


「もしお前が撤退を拒んだら?」


「ソフィーに目配せする。ソフィーが私をぶん殴り、小脇に抱えて撤退する」


「なるほど」



ソフィーに「私に何をさせる気だ」と小突かれたが、それ以上は言われなかった。



「納得しました。ではダンジョンを外から観察した後、1度初層の途中まで探索することにします。そこでクエストの一区切りとします。それ以降は結果を見てから判断しましょう」


「わかった」



◇ ◇ ◇ ◇



原始ダンジョン探索に向けた体作りが始まった。


元々ウォルフガングとソフィーは必要な技術と体を持っていたが、毒と怪我で衰えため、体を鍛え直すという。

ジークフリード、クロエ、私は更なる技術と体力の向上を目指す。


ハーフォードの街の外に出て、全員(5人+1匹)で走り込み。

私は久しぶりに魂が抜けるほどの走り込み。

ジークフリードとクロエも魂が抜けかけていた。



ウォルフガングとソフィーも走る。

ゆっくりと、急にダッシュで、またゆっくりと走っている。

自分の体と相談しながら走っている。


そのダッシュが凄いのなんの。

ダッシュ時はマロンも置いて行かれる。


だが、あの巨体であのダッシュをされると膝が不安になる。

トレーニング後は、マロンも含め全員に入念なキュアとヒールを施術した。


ソフィーは寝る前に全身を念入りに整えた。



単純に走るスタミナはマロンが飛び抜けている。


ダッシュのスピードは、ウォルフガングとソフィーが飛び抜けていて、マロンがそれに続く。


ず~~っと遅れてジークフリード、クロエ、私がいる。




トレーニングとキュア&ヒールの効果だろうか。

3日後にはウォルフガングとソフィーが全快したと言ってきた。



「ありえない回復だ・・・ これならもう少し鍛えても良い」



そこでウォルフガングとソフィーの見立てにより、各自別々のメニューで能力向上を図ることにした。


ウォルフガングは鎧・大楯・長剣のフル装備の状態で、スタミナ向上、スピード向上に取り組んでいる。


猛然と連続ダッシュをしている。

ジークフリード、クロエ、私は目を剥いて彼を見ている。

あの巨体であの装備であの動きをされたら、誰が敵うというのか?


・・・レッドサーペントくらいか。



ソフィーも鎧・大楯・長剣のフル装備は同じながら、走りながら水魔法を撃つ。

剣を振りながら水魔法を撃つ。

更にはアイススピア(氷槍)の連続射撃を試している。

アイススピアの射撃は全方位に向けて一斉射撃と、一方向への連続射撃を交互にしている。

一方向への連続射撃は1秒間に4射が可能で、リアル機関砲だった。



「お前のお陰だ。魔力量を気にせず撃ちまくれる」



そう言ってソフィーは藍玉の首飾りを撫でた。


ジークフリードはウォルフガングの指導を受けながら、接近戦・集団戦における大盾の使い方を学んでいる。大楯をハンマーとして使うらしい。


クロエはソフィーの指導を受け、走りながらウィンドカッターを撃つ、剣を振りながらウィンドカッターを撃つ訓練をしている。


マロンは辺り一帯を走り回っている。


走りながら索敵する範囲を広げているらしい。


皆が好き勝手撃つ魔法の先に人がいないことをチェックしている。




私はこのパーティでは攻撃力は無いも同然。

治癒要員であることは良いとして、他に何を鍛えるべきかソフィーに相談した。



「走りながらのヒール、そして認識阻害を徹底的に鍛えろ。それがパーティ全員の生死を分ける」



と言われた。


走りながら認識阻害を掛けられるようになった。ここまでは良かった。

走りながらのヒール。これが難題だった。

マロンに併走してもらって鑑定&ヒールを試すが、これが本当に難しい。

走りながら鑑定が出来ない。


訓練あるのみ。


念のため、デ・ヒールと遠隔操作と無音空間も走りながら使えるように訓練中。



ソフィーから乗馬の訓練を課せられた。


馬はジークフリードがどこからか貰ってきた。

足を怪我して走れなくなってしまった馬。

怪我を治してあげたら私に懐き、背中に乗せて走ってくれた。


いい奴だ。



◇ ◇ ◇ ◇



私以外は仕上がった。


原始ダンジョンの探索に行ける準備が整ったと判断した。


明日は装備を確認しようという日の夜。

寝室でソフィーに、私の備品の中の「武器に見えないけど武器に転用可能な道具」について情報共有した。



タクト。


「これは思い通りの光を出す道具です」


「ラミア達へ合図を送った道具か」


「ええ」


「これでどうして人間の首を落とせるのだ?」


「ある種の光を出すように念じます。その光は人間の首や腕くらいなら切り落とすことができるのです」


「光が、か?」


「光が、です」



理解できない様だった。



トレントの樹皮、ハーピーの羽根、レッドサーペントの皮。

これは闇魔法「傀儡」とセットで変わり身の術に使う。

呪いを写し取るときにも使う。

これはすぐにわかったようだ。



「お前、変な物をいっぱい持っているな」


「コスピアジェ様が授けて下さったのです」


「ああ・・・ 私の剣もそうだったな」


「ええ」



「明日に差し障りがある。もう寝ろ」



道具を片付けるとソフィーに抱き抱えられながら眠りについた。




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