071話 ジェームス子爵
呪いに気付いたのは偶然だった。
リオーズ商会が献上してきた首飾り。
創業10周年記念?
日頃の御愛顧に感謝?
俺はお前のところを贔屓にしたことなど無いぞ。
母上と姉上が上得意?
そうか。
なら良い。
だが俺に首飾りなど似合うものか。
そう思って放置していた。
3ヶ月後。
突然お気に入りの侍女が暇をくれといってきた。
あれはいい女だ。
なぜ辞めたい?
給金ははずんでいたはずだ。
「だめだ。お前は手放さない」
「身分が違うので側室にすることはできぬが、俺はずっとお前を囲い続ける」
そう言うと女は黙って俯いた。
女は突然死んだ。
他の侍女に聞くと凄惨な死に様だった。
自分の体に火を放ち、叫ぶように何かに謝りながら焼け死んだ。
俺の首飾りを俺に黙って身に付けていたらしく「呪われた、罰が当たった、お許し下さい」と叫んでいたらしい。
俺の首飾り?
俺はそんなもの持っていたか?
数日後、リオーズ商会から献上された首飾りのことを思い出した。
だがどこに仕舞ったのか思い出せない。
そもそも仕舞った記憶も無い。
呪われたとはどういうことだ?
他の侍女に聞くと、死んだ侍女は体中に青黒い痣が拡がり、見るも無惨な姿になり果てていたらしい。
夜伽に呼ばれる日が近づき、どうにもならないことがわかり、自殺したのだという。
侍女に聞いた。
死んだ侍女が身に付けていたのはリオーズ商会から献上された首飾りか?
そうだった。
俺が放置した首飾りを、呪われた侍女が片付けるフリをして自分で着けていたらしい。
まずリオーズを探らねばならん。
呼び付けたら逃げられる可能性が高い。
こちらから出向いてやろう。
いきなりリオーズ商会へ乗り込んだ。
リオーズの表情を見て理解した。
奴は知っている。
リオーズ、なぜ俺がここに来たのかわかるな?
貴様は秘密を守れるな?
よし。俺の子飼いにしてやる。
あの首飾りだが、誰に贈った?
ほお・・・
お前が俺に忠誠を誓う限り、俺が何かを言うことはない。
その代わり呪いを祓う手段を言え。
わからない?
馬鹿もん。すぐ調べろ。
母上と姉上が呪われた。
さてはリオーズが献上した首飾りを着けたな。
俺とリオーズにとって幸いなのは、母上も姉上も大量の首飾りを取っ替え引っ替え着けているので、どれが原因かわからない。
そもそも首飾りが原因なのかどうかもわからない。
父上はアレコレ手を回して解呪ポーションを手に入れようとしている。
だが解呪ポーションなど噂ばかりで、実際に効いたためしが無い。
そんなことは貴族の常識だろうに。
父上も耄碌した。
そろそろ俺に公爵位を譲って引退されてもいい頃だ。
ここは俺が母上と姉上の呪いを祓って差し上げ、その功績をもって父上に引退を迫るべきだろう。
リオーズ。さっさと解呪の方法を調べろ。
◇ ◇ ◇ ◇
普段王都に常駐する宗教査問官と王都騎士団がハーフォードに立ち寄った。
ヒックスでミリトス教会が暗躍していたらしく、宗教査問官と王都騎士団がヒックスへ出張し、奴らを根絶した。
その帰り道とのことだった。
ミリトス教会?
まさかリオーズの首飾りはミリトス教会絡みなのか?
リオーズ!
リオーズはどこだ!
リオーズ商会はもぬけの殻だった!!
くそっ!!
はめられた!!
◇ ◇ ◇ ◇
母上と姉上の呪いは、宗教査問官と一緒に来たビトーとかいう冒険者があっさりと解呪してしまった。
俺が公爵に陞爵する計画が一介の冒険者風情に台無しにされた。
許せん。
そもそも奴が二ヶ月早く来れば、俺のお気に入りの侍女も解呪できたはずだ。
なぜ遅れてきた?
絶対に許せん。
宗教査問官の調査の結果、呪いの原因はリオーズの首飾りだったことがバレた。
そしてリオーズはミリトス教会の手先だったことが判明した。
リオーズは既に雲隠れしている。
リオーズが捕まらない限り、俺とリオーズの関係はわかるまい。
大体リオーズが捕まって何か証言しても所詮は平民。
貴族の俺が否定すればそれまでだ。
ひとまず安心だ。
どうも雲行きが怪しい。
宗教査問官と一緒に来たマキという女。
あれほど優秀とは予想できなかった。
潜伏したリオーズの関係者が次々に挙げられている。
俺も気付かなかった隠れ信徒が続々と捕縛されている。
俺は奴らの前で何かを話したかも知れない。
平民が何を言っても知らぬ存ぜぬだが、マキが平民を尋問し、マキが代弁すると話は別だ。
放っておけば俺まで累が及ぶ。
マキは殺らねばならん。
だが、今マキを殺るのは不可能だ。必ず俺までたどり着いてしまう。
まずはビトーという腐れ冒険者だ。
コイツはマキと親しい。
情報共有している可能性が高い。
まずはこいつから殺そう。
暗殺では無く、事故に見せかけて殺さねばならん。
クソっ! また無駄な出費になる。
許せん。
◇ ◇ ◇ ◇
国全体で反ミリトスキャンペーンが始まってしまった。
俺も俺の子飼いも駆り出されることになった。
事故に見せかけて殺すには要員が足りない。
命拾いをしたな。
◇ ◇ ◇ ◇
父上は例の冒険者にハミルトンのトラブルに当たらせるという。
あんな腐れ冒険者風情に何が出来る。
無駄、無駄。
ハミルトンも馬鹿にされたものだ。気の毒に。
俺の露払いにもならん。
例の冒険者はハミルトンのトラブルを解決したという。
ハミルトンの件は無能な伯父上をダシにして、俺を引き立たせる演出だったのに。
俺がハミルトンに赴いて問題を解決するはずだったのに。
俺の功績を横取りするとは・・・
絶対に許すことはできん。
父上と母上はハミルトンにおける功を愛でて、あんな腐れ冒険者風情に大金を与えるという。
本来俺がもらうはずだった金だ。
もう許せん。
腐れ冒険者は殺し、父上も母上には退場してもらおう。




