007話 (閑話)本音と建前
勇者候補者たちの魔法の実技訓練が終わった後、教会関係者が王宮を後にする。
お見送りは侍従長、財務大臣、法務大臣といった王国の重鎮。
しかしその中に宰相はいない。
お互いに慇懃な挨拶を交わした後、教会関係者は馬車に乗って去って行った。
馬車が見えなくなるまでお見送りし、侍従長以下全員王宮内に引き揚げた。
◇ ◇ ◇ ◇
王宮内。
美島の神聖魔法の再鑑定が済み、美島も下がらせ、王と宰相と騎士団長と若干名の護衛騎士だけ残った部屋。
「あの使い物にならない連中は何だ。力の無さも腹立たしいが、あの下品さ、女官を見る下卑た目付き。 ・・・虫唾が走る」
「あのけたたましい笑い声・・・ 正気を疑いますな。どう考えてもまともではありませぬ」
「枢機卿が抹殺しようとした神聖魔法使いが抜きん出てまともでしたな」
「鑑定結果をチラとみましたが、何名か「LUK」が無かった者がいます」
「なんだと・・・ それは」
「はい。前の世界で前科者であった可能性が高うございます」
「ふむ・・・ 鑑定水晶をつかって奴らの背景を洗い直せ。奴らが時折口にする『武勇伝』とやらを確定しないうちは囚人扱いもやむをえまい」
「それにしても勇者とはあんなものでしょうか。10年鍛えてもウチの騎士団員に及びそうもありません」
「わたしも目を疑いました。年齢的にこれから化けるとは思えませぬ。強大な魔法を操るならまだ納得するのですが」
「魔法の存在しない世界から来たと申しておりましたな。そんな世界が実際にあるのですな」
「なにも選りに選ってそのような貧しい世界から呼び寄せなくてもよいでしょうに」
(一同失笑)
「そもそも勇者召喚とはどのような仕組みで成り立っているのでしょう? 勇者を召喚するのですから、勇者のいる世界から召喚するのではないのでしょうか?」
「そのあたりは教会にまかされておるのじゃ。われらは口出しできぬ」
「うーむ。しかしその結果がこれでは・・・」
「女神のいかがわしさにも磨きが掛かったな。きゃつの口車で膨大な金をつぎ込んで勇者召喚をさせておきながら、都合が悪いから殺せとはずいぶんいい加減な神だ」
「まあ、次の女神の戯れ言を撥ね除けるネタとして使わせていただきましょう」
「それにしても一番使えそうな神聖魔法使いに呪いを掛けておいて、能力が無いから殺せとは、きゃつらの正体は見えましたな」
「神聖魔法使いは生かしておけ。呪いを解く手立てを調べさせろ。解呪できれば我が国にとって戦力になる。教会との関係も見直せる」
「教会は今後、あの手この手で神聖魔法使いに刺客を放つでしょう」
「替え玉を使いましょうか」
「ウォルフガングに一働きしてもらいましょう」
「神聖魔法使い以外の勇者はどうしましょう?」
「膨大な元手が架かっているのですから、とりあえず鍛えてみましょう。2~3人は物になるかもしれません」
「残りは・・・」
「駄目だったらそれまでということで。 教会には『使い物になりそうも無かったので王都から追放した。行方はしらん』とでも言っておきましょう。彼らもどうせ神聖魔法使い以外はどうでも良いのでしょうし」
密談は続いた。