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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
06 メッサー脱出編
69/302

069話 帰還


マロンを先頭に古森からヒックスへ向かう道をたどる。


道。

そう。道なのだ。


最初私とマキとマロンでここを歩いた時は道なんて無かった。

明日の展望も持たず、野を越え、丘を越え、湿地を越え、原野を歩いた。

今は馬車道がある。


ヒカリオルキス。


凄い経済効果だったのだな、と改めて認識した。


道すがらユミと話した。



「人間の話し相手がいないとキツいな」


「うん・・・ 自分は人付き合いは苦手だと思っていたんだけどね」


「アイシャ様も古森に人間が紛れ込んでいるのがイヤだったのかな」


「ビトー君ならそんなことはなかったと思うよ」


「それはそれでちょっと怖いな」


「ふふっ」



ヒックスの街の西門から入る。


私とユミとマロンは入れたが、ウォルフガングとソフィーとジークフリードとクロエは守衛に止められた。

身分証が神聖ミリトス王国の冒険者証のままだから。


ええと、こういうときは。



「ちょっとよろしいか?」



貴族の身分証を提示しながらちょっぴり偉そうに守衛に声を掛ける。

身分証を見た守衛はビシッと敬礼した。



「彼らは私の従者なのだが、まだ冒険者証が間に合っておらんのでな。リーのところへ直接出向くところなのだ」


「リーとおっしゃいますと冒険者ギルド長の?」


「うむ。 良かったら一緒に来てくれるか?」


「はっ」



守衛2名と一緒にヒックスの冒険者ギルドへ向かった。

冒険者ギルドの扉を開け、やはり受付のカウンターにいるレイに声を掛け、ギルド長に面会を申し入れたところで守衛は敬礼し、帰って行った。



ギルド長室で報告&メンバー紹介をした。



「彼らは?」


「メッサーの元冒険者ギルド長、元受付嬢、元専属冒険者の2人です」


「なんと! 救出してきたのか!」


「はい。何か情報は入っていますか?」


「うむ。メッサーの冒険者ギルドは完全に閉鎖されたと聞いた。職員がどうなったかという情報は入ってこないな」


「ではギルド長、お願いがあるのですが」


「彼らの冒険者証だな。すぐに用意しよう」


「ありがとうございます。ところで “踏み絵” はいかが致しましょう?」


「ここでできるぞ」


「本当ですか、では是非お願いしたく」


「わかった。ちょっと待ってろ」



リーが席を外している間、5人から一斉に言葉が発せられた。



「おまえ貴族だったのか!」


「いつから・・・」


「見えないわね」


「知らなかった」


「まあ、私はどうでも良い」



駆け足で説明した。


ハーフォードで起こっていたこと。

強力なポーションの存在。

呪いと解呪。

ハーフォード公爵が今少し私を手元に置きたいのだろう(と思う)。

準男爵位を授けられたこと。

私の喫緊の課題として、妻と腕の立つ護衛を必要としていること。



「ソフィーは絶対に私と一緒にハーフォードに来て頂きます」


「用心棒としてか?」


「妻としてです」



ウォルフガングとジークフリードとクロエとユミがびっくりしていた。

ソフィーは満足そうだった。



「皆さんにも一緒にハーフォードに来て頂きたいのです」


「お前の下で働くのか」


「はい。お給金は○○くらいでお願いします」


「俺は受けさせてもらうよ。俺はビトーとソフィーには返しきれない恩がある。クロエもいいだろ?」


「当然よ。一生掛かってでも恩を返すわ。それに新しく生活の基盤を整えないといけないしね。給与も用意されているなら文句は無いわ。家は用意されているの?」


「ございます。実はまだわたしも1回も夜を明かしたことがないのですが。ウォルフガング様もよろしいですね?」


「様はよせ。様は。 いいぞ。一緒に行こう。まだまだ本調子にはほど遠いが」


「ありがとうございます」


「ところで・・・ 結婚相手は貴族から選ばなくていいのか?」


「はい。準男爵というのは貴族の末席ですが、純然たる貴族では無く、半平民です。どこの貴族も準男爵に娘を嫁がせるようなマネは致しません」


「そんなものか」



ユミは悩んでいるようだった。



「私どうしよう・・・」


「護衛をしろと言われても困るよね」


「うん・・・」


「せっかくラミア族に顔が繋がったのだから、ヒックスなら高給で雇うところはいくらでもあるよ。マーラーさんに相談しよう」


「うん」



リーが踏み絵用の肖像画を抱えて戻ってきた。

4人とも肖像画の上で派手に踊ってくれました。

4人の新しい冒険者証を渡してリーが尋ねる。



「ユミがどうしてここにいる?」



アイシャに言われたことを伝えた。



「ということは古森には人間の窓口がなくなるのか! すぐにマーラーに会わねばならん!」



急遽リーの先導で商業ギルドを尋ねた。

マーラーもえらいことだと騒ぎ始めた。



「アイシャ様はヒックスにレイがいれば大丈夫、と申されました」


「ううむ」


「ラミアと直接顔を突き合わせるのがキツいのでしょう? ならレイを連れていけば良いのではありませんか?」


「そうなのだが一人では不安だ。ユミの次の予定は決まっているのか?」


「いいえ。今日からプーですわ」


「ならばマーラー商会にポストを作る。ここにいてくれ!」



あっけなくユミの再就職先が決まった。



◇ ◇ ◇ ◇



マーラー、リー、レイ、ユミ、ウォルフガング、ソフィー、ジークフリード、クロエ、マロン、私の10名が商業ギルド長室で密談中。


リーより神聖ミリトス王国の最新状況の説明があった。


メッサー冒険者ギルドは閉鎖。


騎士団も引き揚げたらしい。



「私らがいた時から既に引き揚げていたぞ」



ソフィーが補足する。



メッサーダンジョンは放置。

今すぐというわけではないが、近い将来スタンピードが起きる可能性がある。

神聖ミリトス王国へ行く者は、必要に迫られない限りメッサーに近づかないように。


神聖ミリトス王国へポーションの密輸(ミリトス教会から見れば)が増えることが確定的になった。


マーラーは商機を見つけたようだ。



リーは国境の封鎖を視野に入れつつ、入国検査の厳重化を代官へ進言するそうだ。



国内では隠れミリトス信者の炙り出しはほぼ終わったようだ。

発見された信者は処刑済み。

問題のある冒険者は捕縛するか国外追放完了。



「それからハーフォードから妙な連絡があったのだが、ビトー、お主貴族になったのか?」



黙って貴族の身分証を見せる。

マーラー、リーは黙って貴族に対する礼をした。



「あの・・・公の場では仕方ないですけど、私的な場では今回だけにして下さいね」


「わかった。 それで、これからどうするのだ?」


「ハーフォードに戻ります」


「彼らはどうするのだ?」


「一緒にハーフォードへ来てもらいます。彼らの力が必要なんです」



◇ ◇ ◇ ◇



ヒックスの街でマーラー推薦の婦人服の店を聞く。



「誰が着るのだ?」


「ソフィーです」


「冒険者用の服ではまずいのか?」


「サイズが合えば貴族用の服を準備したいのです。下着は絶対に良い物を着せたいと思います」


「そうか。では儂の経営するブティックに案内しよう」



マーラー自ら案内してくれた。


さすがは商業ギルド長。

ヒックスの表通りのど真ん中に高級店を構えていた。

だが、これは “ブティック” でいいのか?

ブティックってこんなにデカイ店なのか?

なにかのブランドの旗艦店じゃないのか?


店に入るとお客さんが売るほどいる。

お金持ちのご婦人方がわんさかいる。

旅行の途中に立ち寄ったと思われる外国のご婦人の姿も見える。


マーラーは四方八方に愛敬を振りまきながら店の一角へ我々を通す。



「アンナ。こちらのお客様の採寸を頼む」



アンナと呼ばれた年齢不詳の上品な美女がソフィーを裏に通した。

やがて裏から出て来たアンナは興奮気味に報告した。



「お客様は当店始まって以来、最大のトップとアンダーの差をお持ちです」


「既存の型紙では合いません。お客様用に新たに型を起こします」



それからいろいろ採寸した後、生地を選ぶことになった。

ソフィーはどうでも良いみたいだったので、私とユミが選ぶことにした。


型紙と生地のサンプルを見せてもらったが、ユミが言うにはこっちの世界の女性用下着は元の世界の70年前相当らしい。


ブラは全て大判。

ショーツはお腹が冷えない一分丈。

これは貴族用も庶民用も同じだった。


貴族用は使っている生地が高級というだけ。


確かに戦闘職であるソフィーはこれでも良いのだろう。

だが、貴族の妻の顔の時は違う物もあった方が良い。

もっとバストとヒップを美しく見せる物があっても良い。


そこでユミと一緒に紙にラフスケッチを描いてみた。



「こんなイメージなのですが」


「これはなんですか!? ハーフォードではこれが流行っているのですか?」


「いえ、どこでも流行っていないと思います・・・」


「この図案を売って下さい!」


「はい・・・」


「ひょっとして旦那様はもっとアイデアをお持ちではありませんか?」



グイグイくるアンナにせっつかれ、呆然と見守るマーラーを横目に、自身の願望を交えて描いてみる。


ユミもガンガン要望を伝える。

フリルをあしらいましょう。

レースを合わせましょう。

同型でも色は複数展開しましょう。

白だけでは無く、パステルカラーは定番で。

ビビットな色もグッときますね。

一部商品にはフロントホックもラインアップするといいですね。

ワイヤを入れる? 入れない? ワイヤって何?


まだこの世界にはワイヤは無いらしい。


ブラとショーツのセットは鉄板ですね。

ショーツはビキニスタイルで。

戦闘職なので足を上げやすいハイレグタイプもラインアップしましょう。

ガードル・・・ こんなの出して良いの?


アンナの 「うおおおおおおお!!!」 という心の声が聞こえてきそうだった。



「旦那様とユミ様の描くデザインは素晴らしいのですが、どうやって縫製すれば良いか悩みます・・・」



すかさずユミが助け船。



「ココとココでパーツを分けて用意して、最後に縫い上げればどうですか?」


「!!!!」



それからデザインを選び、生地を選び、色を複数選び、飾りを選び、制作をお願いした。



「いつ頃出来ますでしょうか?」


「明日朝には必ず1点用意致します!」



それからひそひそとユミとアンナで密談。



「このショーツに合うサイズの○○用品もお願いします」


「小さくなってしまいますね」


「厚みを1.5倍にして下さい」


「かしこまりました」



◇ ◇ ◇ ◇



今宵の宿を取ってなかったので、マーラー推奨の宿に投宿することにした。

ユミと別れ、宿に向かった。


マーラーは宿まで案内してくれた挙げ句、宿泊費、夕食、朝食まで持ってくれた。

マーラーは急いで帰っていった。


宿と言うよりも最高級のホテルと言った方がふさわしい。

宗教査問官御一行様に御相伴させて頂いたシャトーを思い出した。


ホテルのレストランで夕食を頂き、酒が少し入ったところで、私とマロン以外はぼんやりし始めた。

まさか毒・・・ 


鑑定してみると「健康」と出たので一安心した。


緊張の糸が切れてきたな。

食事の途中だったが、食べきれない料理をさりげなく背負い袋に入れ、すぐに部屋へ引き揚げた。


ソフィーと私とマロンで一部屋。

ウォルフガングは一人で一部屋。

ジークフリードとクロエで一部屋。



ジークフリードとクロエには、絶対に一人で風呂に入るな、不安な時はシャワーだけにしておけ、と口酸っぱくアドバイス。


ウォルフガングは一人にするのが怖かったので、我々の部屋で風呂に入れ、案の定風呂の中で寝始めたところを叩き起こし、自分の部屋に放り込んで鍵を掛けさせた。


お湯を張り直してソフィーを風呂に入れ、ベッドに寝かせた。


ソフィーもすぐに眠った。


最後に私が風呂に入り、マロンは行水し、マロンの毛皮を乾かした。



背負い袋から食べきれなかった食事を出して、マロンと二人で平らげた。



「ご苦労様でした」


「わうっ」


「まずは一献」


「フンフンフン」


「つまみはこれでどうですか?」


「わうっ」


「味はどうですか?」


「わうっ」


「何か欲しいものありますか?」


「うひゃうきゅうきゃぁう」


「あ、これですか」


「わうっ」



それから今回の冒険について色々話しながら、そのまま寝落ちした。




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