065話 ソフィー
顔なじみの冒険者がメッサーから去り始めた。
理由はわかる。
ダンジョンが以前と比較にならぬほど危険になったからだ。
危険なのはダンジョンの魔物ではない。人間だ。
最近他国から流れてきた冒険者が強盗・暗殺などの闇クエストの常連なのだ。
そして犯罪冒険者を匿うのがミリトス教会。
奴らはダンジョンに入るが魔物は殆ど狩らず、冒険者を襲って装備品を奪う。
冒険者は魔物よりも人間を警戒しなければならない。
そんな面倒なダンジョンにしがみついていては自分が危ない。
私が一介の冒険者だったらとっくにメッサーを去っている。
冒険者がダンジョン都市から去ると、その街は急速に寂れる。
冒険者が去ると商店の客が減る。宿屋の客が減る。食堂の客が減る。酒場の客が減る。娼館の客が減る。
特にメッサーは王都アノールと一体の都市なので、ここの景気が悪くなると国全体の景気が悪くなる。
そんな中、ギルドから帰宅途中のギルド職員が殺された。
目撃情報があり、犯人の目星も付いた。
他国から流れてきた犯罪冒険者だった。
奴らの足取りを追ったところ、ミリトス教会の施設に逃げ込んだことがわかった。
教会に引き渡しを申し入れたが「そんな者はいない」と白を切られた。
予想通りだった。
やられっぱなしと思ってもらっては困る。
次に狙われるのは私だろう。
事前準備をした。
一日の営業が終わり、冒険者ギルドの戸締まりをしていたところ、顔を隠した正体不明の集団にギルドが襲撃された。
襲撃者は冒険者ではない。素人集団だ。
私を生け捕りにするつもりらしい。
「ふん。B級冒険者の私を生け捕りにしようとは舐められたものだな」
「そいつの膝は使い物にならねぇ。安心して取り押さえろ」
「今まで散々威張りくさりやがってもう我慢なんねぇ」
「お前を恨んでる奴は20人は降らねえ。司祭様の前に突き出す前に、全員で輪姦してやる」
「かかれ!」
情けを掛けてやる理由もなかった。
こいつらは以前私がギルドから叩き出した不正職員どもだ。
そして全員ミリトス教徒だ。
事前準備した罠を使うまでもなかった。
10人全員の首をはねた。
被り物を毟り取って全員の顔を晒し、名前を記し、住所も記し、ミリトス教徒であることを明記し、顛末を冒険者ギルド前に貼り出した。
骸は騎士団へ突き出した。
メッサーも王都も治安が悪化しはじめた。
王宮から夜間の外出は控えるよう通達が出た。
それからしばらく経った夜。
冒険者ギルドが冒険者の襲撃を受けた。
襲撃者は10名。
それなりに腕は立ったが、私とギルド長には遠く及ばない。
7人殺したところで、3人逃げた。
嫌がらせついでに7人について調べることにした。
神聖ミリトス王国での活動記録は殆ど無かったので、各国の冒険者ギルドに照会を掛けた。
・似顔絵
・身長・体重・体型・利き手・目立つ傷跡
・主な装備品
・神聖ミリトス王国における名前
・推測される等級
・メッサー冒険者ギルドでやらかした犯罪
・メッサーダンジョンでやったと推測される犯罪
・逃げた仲間が3人いる
・貴ギルドにおける登録名を教えて欲しい
・貴ギルドにおけるクエスト歴を教えて欲しい
・主なクエスト依頼主(推測も可)を教えて欲しい
いやはや。
来るわ来るわ。
各国の冒険者ギルドから「これでもか!」というほど情報が寄せられた。
こいつらはどこのギルドでも鼻つまみだった。
「社会のダニを駆除して頂き、感謝に堪えませぬ」
そう綴って金一封を贈ってきたギルドさえあった。
7人の情報を整理して、ミリトス教会のところを「○○○○教会」と伏字にして、ギルド前に大々的に貼り出した。
王宮に対しても「どうぞ掲示板に貼りだして下さい」といって渡しておいた。
各地、各国の冒険者ギルドにも送った。
ミリトス教会から王宮に抗議が行ったらしい。
何に対して抗議したのか明確に言わなかったらしいが。
◇ ◇ ◇ ◇
まだメッサーに残っていた顔なじみの冒険者に真面目に言われた。
「なあソフィー、ギルドを閉鎖しないのか?」
「なに言ってるんだ」
「真面目な話だ。王宮は犯罪者を放っておくつもりだ。つまりミリトス教会が何をしても黙認だ」
「・・・」
「いつか殺されるぞ」
「A級冒険者がミリトス教会の闇クエストなんか相手にするもんか」
「A級じゃない。いつか思いもよらないことで、雑魚みたいな冒険者に隙を突かれる。そんなもんだ。お前もいっぱい見てきただろう」
「わかってるよ。でもな、冒険者ギルドが店仕舞いするのは一番最後さ。真っ当な冒険者が一人でも残っているうちは店仕舞いできんさ」
そいつは3日後に挨拶に来て、メッサーを去って行った。
◇ ◇ ◇ ◇
ギルド長がレッドサーペントの襲撃を受け、重傷を負った。
ギルド襲撃の顛末報告と治安維持対策で王宮に呼ばれ、ギルドへの帰途、見覚えのない冒険者の集団3人に襲われた。
実力はB級~C級と見えたそうだ。
ギルド長はB級冒険者上位の実力を持つので軽くあしらっていたそうだが、背後からレッドサーペントに襲われた。
間一髪、ロングソード・アクセルの切れ味が生死を分けたらしい。
一振りでレッドサーペントの首を落とし、もう一振りで冒険者3人の命を刈り取った。
だがレッドサーペントの牙が左腕をかすめ、毒が入った。
激痛に堪えて冒険者ギルドへ飛び込んできた。
ギルドの建屋の中の秘密の小部屋にギルド長を匿い、解毒ポーションを使った。
ビトーがいてくれたら・・・ と思った。
ギルド長が襲撃を受けたその夜。
絶対に襲撃があると読んで準備をした。
予想通り12名の襲撃者がやってきた。
この人数。
今夜で決める気できたな。
B級相当1名、C級相当3名、D級相当8名。
問答は一切せず襲いかかってきたので、こちらも誰何せず、罠を起動した。
奴らの眼前に水球が出現。
水球を避けたところに背後から槍が飛び出し、串刺しにする。
槍筋から外れた奴は、私のアイススピアで串刺しにした。
この罠で10名倒した。
B級1名を切り伏せた。
武器の性能の差で楽に倒した。
最後にC級1名を片付けた後、気付いたら左頬に針が刺さっていた。
毒針だ!
急いで解毒ポーションを飲んだ。
解毒ポーションはミリトス教会の暗躍に備えて最近ギルドに常備したのだが、ギルド長と私が使うとは滑稽だ。
私にも毒の影響が残った。
ここまでだな。
そう思ったとき、ジークフリードとクロエが来てくれた。
私が鍛えた真っ当な冒険者達だ。
しばらく私に付くという。
有り難い。
罠の再設置をさせ、次の襲撃に備えた。
クロエから冒険者ギルドからの撤退の進言を受けたが、今、ギルド長を動かせない。
完全に後手を踏んでしまった。
お前たちまで危険に晒して済まぬ。
だが次の襲撃は無かった。
よく考えれば私とギルド長でミリトス教会に雇われた暗殺者を22人も葬っていた。
素人襲撃者も加えれば32人だ。
すぐに補充が出来なかったのだろう。
その後、真っ当な冒険者は誰一人ギルドに来なくなったので、ギルドを開けることをやめた。
少し間が空いてギルド長と私の容態が少し落ち着いた頃。
冒険者ギルドを下見する奴がチラホラ見え始めた。
次の襲撃は近い。
ジークフリードとクロエに罠の再確認を命じた。
そのうち下見も来なくなった。
すぐに次の襲撃があるぞ。
そうジークフリードとクロエに伝え、ギルドの建屋内を点検させていた時。
扉を軽くノックする音が聞こえた。
この間延びした、やんわりとした、特徴的なノックの音は聞いたことがある。
だが・・・
私が返事をせずにいると、扉を開けて入ってきた。
あいつが。




