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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
05 ハーフォードの呪い編
57/302

057話 冒険者ギルド

「大変お世話になりました。それではこれにて失礼致します。領都に戻りましたらすぐに公爵に共有致します」


男爵と助役に礼を述べ、私とマロンはハミルトン村をお暇した。

男爵も目の前の事案を片付け次第、すぐに領都へ向かうとのことだった。

男爵は馬車を使われるので、徒歩の私は急がないといけない。

昼夜行軍の訓練だ。


徒歩4日の行程を2日で走り抜けた。

マロンは「もっと、もっと」と言うが、これが限界。

領都の大門を守る守衛の前を通るときは全身薄汚れてヘロヘロだった。



公爵のご予定を確認すると公爵は不在。領都におられなかった。

そこで公爵夫人のご予定を確認すると領都におられた。

時刻を指定して面会を申し込み、面会までの間に全身と服の汚れを落とそうと考えていたら、今すぐ来いといわれた。



「薄汚くて申し訳ございません。御方様のお目汚しにも程がある、と反省しております・・・」

「かまいません。それでどうでした? 何かとんでもないことが起きていましたか?」


仔細に報告した。

公爵夫人なら村の状況も男爵の心情も全て理解されていると思い、問われるまま事細かに報告した。

公爵夫人は優雅に額を押さえてため息をつかれた。


「それでは兄は理解したのですね?」

「はい。全く異なる案件に応用が利くかどうかわかりませぬが、この案件については正しく理解されておられます」

「そうですか。それで兄自身が領都に来るのですね?」

「はい。公爵閣下に、御方様に、御心配をお掛けしたお詫びを申し上げねばならぬ、と仰っておられました」

「そうですね。その方が良いでしょう。公爵は明日お戻りになります。私から伝えましょう」

「ありがとう存じます」

「それにしても、あなたにはどれほど感謝しても足りませぬ」

「もったいのうございます。御方様のお言葉を頂戴しただけで、一介の冒険者には十分な褒美でございます」

「まあ、お上手ですこと」


公爵夫人が何か言いたそうにされていた。

多分あのことだろうと想像はついたが、汚れを理由にすぐにお暇した。

公爵の不在中、公爵夫人の独断で余所者を公爵邸に宿泊させたり、勝手に褒美をやるわけにはいかない。



翌日男爵が領都に到着され、公爵も戻られた。

公爵、公爵夫人、男爵で打ち合わせをされたそうだ。

私にはその内容は伝わってこない。

私とマロンはお暇の後、冒険者向け安宿に宿泊して体や服を洗っていたから。



◇ ◇ ◇ ◇



私はプータローに戻った。


私とマロンの次の行き先はどこにしよう。

まだ銭はある。

たんとはないが、ある。

王都へ行ったマキの様子を見たいが、今は死ぬほど忙しいだろう。

ユミやレイの近況を聞くにしても別れてからあまり間が空いていないし、例のキャンペーンで猛烈に忙しくなるだろう。


ということでハーフォードの冒険者ギルドへ行ってみた。

ギルドの扉を開けると中にいた冒険者が一斉にこっちを見る。

だが「余所者が来た、どれ暇つぶしに弄ってやれ」というテンプレは無かった。

幸いなことにハーフォードにはダンジョンが無く、魔物も刺激さえしなければおとなしく、従って脳筋肉体派冒険者は皆無で、無駄に絡まれることは無かった。


壁に貼り出されたクエストを見ていく。

ここを見れば街の実情がわかる。師匠の言葉だ。

クエストの6割は隊商の護衛。3割が薬草採取だ。

だが魔物の間引きの依頼が無い訳では無い。

黒森周辺の間引きが通年で出ている。

間引きの対象はイナゴとスライム。


イナゴ?

イナゴって魔物なの?

ひょっとしてこっちのイナゴはデカイのか?

条件をよく見る。

100匹持ってくると銀貨1枚。

100匹単位か。


スライムは討伐時期によって報酬が異なる。詳しくは受付で聞け、とある。


黒森周辺の魔物の観察が通年で出ている。

間引きでは無く観察。

何を観察?

レッドアイ?

赤目ってなに?

聞かないとわからない。



受付が空いていることを確認し、受付嬢に聞いてみた。


「レッドアイって何ですか?」

「魔物の種類です・・・ あなたは当ギルドは初めてですね?」

「はい」

「では冒険者証をお見せ下さい」

「え~~っと。皆さんにも提示をお願いしているのですか?」

「はい。ここは隊商の護衛クエストが多いので、様々な商売上の情報が飛び交います。スパイ防止のため、全員に身分証の提示を求めています」

「なるほど」


ヒックスの冒険者ギルドの永久会員証を提示したら受付嬢に不審に思われ、強引にギルド長室へ連行された。



「よく来てくれた。儂はここのギルド長のジュードだ。こっちはアリスだ」


腕っ節の強い受付嬢も一緒に紹介するのね。

ギルド長は冒険者っぽくない。

ガテン系商人か、現場監督といった感じ。


「お初にお目に掛かります。ビトー・スティールズと申します。E級冒険者でございます」

「おお。丁寧な挨拶。痛み入る」


それから「どもども どもども」と言いながらお互いに頭を下げ合った。

なんだか懐かしい感じだ。



冒険者ギルドとしては見逃せない話題なのだろう。ヒックスにおける一連の顛末を詳細に聞かれた。

ラミアとの通商も公になっているので、私が治癒魔法士と言うところと、ラミア族の個人的な友好関係を隠して、だいたい本当のことを話した。

私の話を一通り聞いた後、私の質問に答えてくれた。


「イナゴって、バッタですよね?」

「そうだ」

「バッタの魔物ですか?」

「いや、魔物ではないな。 だよな? アリス」

「はい、ギルド長。イナゴは魔石を持っていません。魔物ではありません」


よく聞くと、佃煮にされるイナゴではなく、トノサマバッタと思えば良いらしい。

そのトノサマバッタの討伐依頼って何?


「ハーフォードは領内全域が穀倉地帯だからな、害虫には特に神経をとがらせる土地柄だ。特にイナゴは要注意だ。あいつら単独で暮らしている分にはたかが知れているが、ひとたび集団になるととんでもねえ事になる」

「蝗害ですか」

「おお、知っているのか?」

「知識としては。見たことはございません。たしかイナゴが第2形態へ進化するのですよね?」

「なんだ、知っているじゃないか。飛蝗になると冒険者の手に負えん。すぐに公爵へ連絡して騎士団に出動してもらわねばならん」

「騎士団はどのように討伐するのでしょう?」

「火魔法を操る魔道士をずらりと並べて焼き尽くす」

「壮観ですねー」


「ああ。 アリス、補足することはあるか?」

「イナゴの間引きは100匹で銀貨1枚ですが、飛蝗は10匹で銀貨1枚です。さらに魔石も買い取ります」

「飛蝗になると魔物に進化するので討伐価値が上がる、魔石も持つ、と言う意味ですね?」

「そういうことになります」

「まあ、飛蝗が発生すると餓死者がでるほどの災害になる。そうなる前に、イナゴの内にコツコツと駆除しようってことだ」


なるほど。勉強になる。



「レッドアイって何ですか?」

「レッドアイは蜘蛛の魔物だ」


体の大きさが1m程の蜘蛛の魔物で、地上を走って獲物を捕らえる。

1mの地蜘蛛に追いかけられるのか・・・

想像するだけでうなされそうじゃないか。

目が赤く光っているのでレッドアイという。


「クエストに観察とありました」

「そうだ。討伐じゃ無い。もっともお前には討伐出来ないと思うが・・・」

「強いのですか?」

「脅威度Cだ」

「無理です。それで何を見るのですか?」

「存在確認だ」



レッドアイの主食は昆虫だ。

特にイナゴを好んで食ってくれる。

レッドアイがいる土地は蝗害が起こらないとされる。

何らかの事情でレッドアイがいなくなると、イナゴが激増君になる。

そこで他のクエストのついでに、レッドアイを見かけたら教えてくれ、というクエストだった。

レッドアイは黒森に定住していることが知られており、いかに黒森から離れた場所で確認できるかと、生息密度が重要とのこと。



「スライムの間引依頼もありました。私はまだスライムを見たことがありません」

「そりゃよかった。この領が平和な証拠だ」

「そうなのですね」

「うむ。お前は水龍の呪いを知っているか?」

「知識としては・・・」

「水龍の呪いが起こると、水にやられちまう魔物、水は乗り切るがエサが無くなって食い詰める魔物、逆に急増する魔物に分かれる」

「・・・」

「水にやられちまう魔物の代表がイナゴだ。増殖する魔物がスライム。食い詰め魔物がその他大勢だ。

スライムは雑食だが、普段は動物や魔物の死骸を食べる。

増殖するとエサが無くなって食い詰めスライムになる。すると手当たり次第に食い始める。死骸も生物も何でも食うんだ」


「危険のイメージを掴みにくいのですが・・・」

「そうだな。草原いっぱい、見渡す限りスライムまみれ。

そのスライムがゾロゾロと押し寄せてくる。

スライムが通った後は死骸も生き物も草も樹木も無い。土や石まで食うぞ。

人間が捕まると靴から服から肉から髪の毛から骨まで全部食われる」


「殺りましょう。殺って殺って殺り尽くしましょう」

「ふふふ、奴らは平時は掃除屋だからなあ。絶滅させるわけにはいかないよ」

「どうやって討伐するのですか?」

「騎士団の指示に従う」

「塩をぶっかけるのは?」

「農地でそれをやったらブッ殺されるぞ。自分の家の敷地内にしときな」




ギルド長室の扉がノックされた。


「はいれっ!」

「失礼致します。公爵の使いの方がお見えになっておられます」

「お通ししろ」

「ではギルド長、私はこれで」



私とアリス嬢がギルド長室を退室するために扉の横に控えていると、公爵の側近が入ってきた。

公爵の館で見知っている人だ。


「おお、ビトー殿。ここにおられましたか」


何故か喜んでいる。


「是非ギルド長といっしょに公爵のところへおいで下さい」



ギルド長と私 (とマロン)が公爵の館へ連行された。


公爵の館に着くと商業ギルド長も呼ばれていた。

尋常に挨拶をした。

ハーフォードの商業ギルド長はスティーブンソンといった。



◇ ◇ ◇ ◇



公爵、公爵夫人、ジュード、スティーブンソン、私 (とマロン)が額を寄せ合って打ち合わせをしている。

なんでこんな格好をしているかというと、私の無音空間を使っているから。



まず公爵からハミルトン村の状況説明があり、ジュードに対して最近の領内の魔物の動向について聞かれた。

ジュードからはレッドアイの目撃範囲が拡がっているとの報告が上がった。


通常は良い知らせなのだが、雨期の前では判断が難しいらしい。

単にイナゴを追いかけてピクニックをしているだけか、天候の変化を感じ取って食いだめに走っているのか。


ハミルトン村の古老の意見を聞くことになった。


続いてスティーブンソンに対し、今のうちに可能な限りハミルトン村の穀物を買い集めておくよう(領都へ運び込んでおくよう)指示が出された。



ジュードとスティーブンソンが退出したあと、公爵と公爵夫人と私とマロンが残った。

すると公爵はハーフォードの紋章の入った立派な革財布を取り出し、私の前に置いた。



「そなたに報酬を渡すことを失念していた。貴族として恥ずかしい限りだ」


そう言って公爵は深々と頭を下げたので慌ててしまった。


「閣下、頭をお上げ下さいませ。私は超級ポーションを閣下に献上致しますと申し上げました。お気になさらないで下さい」

「そちの好意には頭が下がる。だが上級貴族としてそちの好意に甘えることは許されぬ。私とマグダレーナの気持ちだ。受け取って欲しい」

「本当に、どれほど感謝してもし切れませんわ。私からもお願い致します」



ポーションはマーラーが持たせてくれたものだったが、これは断れない。

だが貰いっぱなしと言うわけにはいかない。


「閣下と御方様の御厚意に甘えさせて頂きます。謹んで頂戴致します。

失礼を承知で申し上げます。

代わりに、という訳ではございませんが、私にもう一働きさせて頂けませんか?」

「おお・・・」

「まあ・・・」


公爵と公爵夫人は顔を見合わせ、あることを頼んできた。




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