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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
05 ハーフォードの呪い編
52/334

052話 ハーフォード公爵

マキとマロンと私は馬車に揺られている。

乗っている馬車は乗り合いではない。

王都より派遣された宗教査問官用の豪華な馬車に御相伴させて頂いている。


この世界にはサスペンションがない。

せっかく豪華な馬車に乗っていても、地面の凹凸の衝撃が直接ケツに伝わるのが残念である。

ただし気分は良い。


馬車の周囲は騎乗の騎士団が囲んでいる。

この世界に来て、初めて身の危険を感じない旅。

いいじゃないか。


領境を越えてヒックスからハーフォード公爵領に入るときに検問所を通ったが、フリーパスだった。

騎士団と宗教査問官の威光すげーという奴。

人生で初めて権力を持つ側に立った実感を持てた瞬間だった。




ハーフォード公爵領に入るとこの地が豊かであることがわかる。


まず街道がきれいだ。

路面の荒れや路肩の崩壊が無い。

轍をならした整備の跡もある。

稀に馬糞は落ちているが、ゴミは落ちていない。


街道は穀倉地帯のど真ん中を通っている。

場所によっては360°麦畑しか見えない。

広大な麦畑の中に村が点在している。

この地が豊かであること実感させる風景ではあるが、収穫期は大変だろうと思う。


街道沿いの街には宿場が整備されている。

ハーフォード公爵領に入ってからハーフォードの領都まで3日掛かった。

騎士団に言われるまま、王侯貴族が定宿にするようなシャトー(宮殿)とかヴィラ(離宮)と呼ぶにふさわしい宿に宿泊した。

分不相応の宿に泊まると落ち着かなくて眠れない。

根っからの貧乏性なのだ。


ちなみに前の世界では、出張で23区内に宿泊する場合は宿泊費が1万1千円支給され、食費が2千円支給された。

前の世界とこの世界で貨幣価値は異なるだろうが、逆立ちしても1万1千円で泊まれるような宿では無い。

10倍出しても泊まれないだろう。


朝、出発する前に思わず、


「領収書を下さい」


と言いたくなってそわそわした。



◇ ◇ ◇ ◇



ハーフォード公爵領の領都、城塞都市ハーフォード。

都市に沿うようにハーフォード川が流れている。

巨大な堤防を持つ大河である。

領地の名前が付いている川なので、領地の象徴なのだろう。


ハーフォードに入城するにはハーフォード川を渡る必要がある。

橋は架かっていない。

大船で川を渡る。馬や馬車も一緒に渡る。

大変に優雅であると同時に、防衛も兼ねているのだろう。


降船したところでハーフォード公爵領の騎士団が待っていた。

全員で公爵の邸宅(城)を表敬訪問。

すぐに謁見の間に通され、公爵へ挨拶をした。




ポール・ハミルトン・ハーフォード公爵。

身長180cm強。

体はがっちりされている。

2m級の冒険者や騎士ばかり見てきたので、男性で180cmは小柄に感じる。

(私はもっとちびなのだが)


ただしその目力は尋常では無い。

何物も見逃さぬ鷲のような目をされている。

鼻も口も大きいが、上品にまとまっている。

額から頭頂部に掛けてきれいに頭髪が蒸発しており、そこも含めて大変に男性的な、そして精力の塊のような人物である。

セカンドネームのハミルトンは元々このあたりの地名らしい。

徐々に領地が拡がってハーフォード公爵領になったが、発祥の地の由緒を残しているとのこと。


隣には小型公爵のような人物がいた。

嫡男のジェームス・ハーフォード子爵と紹介された。

父親の薫陶が行き届いていそうで有能そうだ。


その隣には、どことなく公爵の面影を感じ取れる女性がいた。

オルタンス・ハーフォード嬢と紹介された。

美少女である。

よくこの公爵からこのような美人が生まれたものだ。


ジェームス子爵とオルタンス嬢はすぐに席を外した。




公爵と我々だけになると、公爵はすぐに超級ポーションを売れと迫ってきた。

お互いの情報交換もヒックスの顛末の話も無し。

いきなり要求を突きつけてきた。

ただでよこせ、と言わないだけマシだろうか。


我々の代表は筆頭宗教査問官だが、彼もかなり戸惑ったようだ。

彼は戸惑いを押し隠し、ヒックスでの出来事を話の軸にしながら、要所々々にハーフォードの善政、豊かな実りを称える言葉を配置し、挨拶の言葉を述べた。


彼はヒックスで起きた様々な出来事から要点を抽出し、起承転結を明確にし、誰が聞いても一度でスッと頭に入る説明をされた。

当事者の私でさえ「ああ、そうだったのか。そうだよな」と感じ入ってしまうほど見事なものだった。


ハーフォード領に対する修辞は、貴族に対する挨拶として教科書にしたいほどの名文だった。

さすが筆頭宗教査問官。

その地位は伊達では無い。

そう思って感心していたら、逆に公爵は苛立ちを募らせていた。



「オーウェン殿。あなたの我が領に対する評価には痛み入る。だが今は一刻を争う。至急超級ポーションを回して欲しい」


公爵は、後ろの方に控えているマキと私をチラッチラッと見ている。

あいつらなら口利きが出来る、と確信している雰囲気だ。

私たちとラミアとの関係を知っているのかどうかはわからない。

だが、今回の高位ポーション量産化の顛末に私たちが深く関わっていることを知っているらしい。

マーラーの言った通り、かなり腕利きの密偵を雇っているようだ。


筆頭宗教査問官オーウェンは一瞬考えたが、すぐにマキと私を呼び寄せた。



「お初にお目に掛かります。マキ・タミヤと申します。この度宗教査問官見習いに引き立てて頂きました。今後ともよろしくお願い致します」


「お初にお目に掛かります。ビトー・スティールズと申します。E級冒険者で御座います」



しかし公爵は私たちの挨拶に何の反応も示さなかった。

私たちの挨拶は無視されたまま本題に入った。


私は身分が違いすぎるため、喋ってはいけない。

マキは(辛うじて)この国の貴族の末席にいると見て差し支えないだろう。

話すのはマキに任せた。

そのマキも、最初の挨拶以降は公爵に直答することを遠慮し、オーウェンへ向かって言葉を返したが、公爵は直答を許可した。



「超級ポーションをご所望なさるということは、呪われている御方がいらっしゃるのですね?」

「そうだ。呪われている者がいる。当方でも鑑定した。間違いない」

「領民が呪われておられると・・・ 数は多いのでしょうか?」

「いや、2名だ」



呪いとなると万一のケースを疑わないわけにはいかない。

失礼とは思ったが、マキが話している間にこっそり公爵を鑑定させてもらった。

うん。呪われていない。

隠れ信徒でもない。

犯罪歴もない。


公爵の焦燥感が強い。

自分以外の誰かを助けるためにポーションを入手しようとされているのは確かだ。

マキが呪われている者の素性、呪われる理由、呪いの症状を聞き出そうとするが、公爵は頑なに呪われている人物を特定できる情報を出さない。


マキが困ってしまい、私を見る。

私は更に公爵を鑑定する。

公爵個人を通じて公爵家全体を見ようとする。



思い通りに話が進まない状況にしびれを切らした公爵が何かを言おうとされ掛けたところで、オーウェンが強い口調で止めた。


「ハーフォード公爵。この二人を権力で使役しようとされるのはお止め下さい。

また、爵位を持たぬこの二人を疎かに扱うことはお止め下さい。

この二人は建国の英雄ブリスト・スチュワードの偉業を踏襲した者達です」


「なんだと・・・」


それだけで私たちとラミアの関係がわかったようだ。



このやりとりの間に公爵家の家族構成が垣間見えた。

夫人と長女がいるはずだが紹介されていない。

どういうことかな? そういうことかな?

失礼を押して私が話を進めることにした。


「公爵閣下、直答をお許し下さい。ここに盗聴防止魔術具はございますか?」

「いや・・・」

「では私が “無音空間” を出します」



魔力を練り、手のひらを合わせ、頭の中で「ゾーンオブサイレンス」と唱える。

手のひらの間に、外に音を漏らさない阻害ポイントを作り出す。

ポイントが安定したらそれを広げる。

直径2mほどの円錐形の空間にする。

今の私の力ではこれが限界。これ以上大きくすると音が漏れてしまう。


ハーフォード公爵、オーウェン、マキに合図し、頭を突き合わせてもらう。

目に見えない円錐形の空間に入ると、急に外の音や話し声が物凄く遠くから、微かに漂ってくるように聞こえる。

うん。盗聴防止が効いている。


「小さな声で話して頂ければ他の者には聞かれません」

「お主、これは・・・」

「闇魔法のゾーンオブサイレンス。いわゆる盗聴防止空間になります」

「闇魔法・・・」

「閣下、失礼を承知でお伺いします」

「うむ。何でも聞くが良い」

「呪われているのは奥方様とお嬢様ですね」

「なに・・・ 貴様どうしてそれを」

「閣下が言い辛そうにされていたこと、オルタンスお嬢様が次女であらせられたため、推測致しました。 出過ぎた真似を致しました。申し訳ありませぬ」

「よい・・・ その通りだ」

「お二方以外にはおられませんね?」

「うむ」

「では・・・」


3人だけに背負い袋の中の超級ポーションの瓶をチラッと見せる。

オーウェンとマキが驚いていた。


「これ・・・」

「これは超級ポーションに間違いありません。ヒックスの商業ギルドの封印があります。 それにしてもお主、個人で持っていたのか」

「・・・」


超級ポーションが目の前にあると知った公爵が狂喜する。

ただし注意が必要だ。

呪いの種が残っていると、いったん呪いを解除出来たように見えてもまた呪われる。私のように。


「閣下。超級ポーションはお譲り致します。ご安心下さい」

「おお。有り難い。感謝致す」

「ところで一つ懸念がございます」

「なに、今度は何だ!」



公爵の感情の振幅が激しくなり過ぎたので、まずは落ち着かせるため、超級ポーションを公爵の手に握らせた。


「閣下。この通り超級ポーションを献上致します。そこはご安心下さい」

「おお・・ 済まぬ。失礼した」


公爵は誰にも見られぬよう上着の内ポケットにしまい込んだ。


「その上で、私の申し上げることをお聞き願いたく」

「ふむ。申すがよい」

「ありがとう存じます」




私はかつて自分が呪われていた経験を話した。

体に呪いの刻印をされ、一度呪いの道ができてしまうと、解呪できたように見えても刻印を消さない限り、再び呪われる。

呪いの刻印を探しだし、消し、その上で解呪ポーションを使うのが理想であること。



「う~む。そうであったか。そこまではわかっておらなかった」

「奥方様とお嬢様の御身に刻印があるか否か、わかれば良いのですが」

「お主は呪いの刻印を見つけられるのか?」

「実際に拝見しないことには何とも」

「う~む。女であるし、肌を見せるわけにはいかぬ」

「はい。例えば侍女たちにお話だけでも伺えませぬか」

「わかった。手配しよう」



1時間後。

公爵は、公爵夫人とマチルダ嬢(長女)本人と、2人の侍女へ面会する手はずを整えて下さった。



◇ ◇ ◇ ◇



オーウェンとマキと私が公爵一家の団欒の間に通された。

すぐに公爵夫人とマチルダ嬢、そして二人の侍女が入室された。

お二方とも厚いベールを被っておられ、肌の露出を極力抑えたドレスを身につけておられた。

表情や顔色を伺うことは出来なかった。

それでも全身に広がっていると予想される青黒い痣と、体調の悪さは見て取れた。


二人の侍女に状況を確認した。

最初は侍女が背中に痣があることに気付いた。翌日には背中全体に痣が拡がった。

その翌日には全身に痣が拡がった。

痣の部分に刺すような痛みがある。

痛みは周期的に襲ってくるが、特に夜が辛い。


公爵にこれまでの対応を訊いた。

公爵配下の鑑定士に鑑定させると呪われていることがわかった。

解呪の試みをした。

痣を小さくすることは出来たが、翌日には再び痣が拡がった。



1点から痣が拡がる。

解呪の試みをするといったん痣が縮むが、夜になると再び痣が拡がる。

この話から、(わら人形に釘を打ち込むような)漠然とした外からの呪いでは無く、刻印を通して確実に呪いのエネルギーが流れて込んでいる。

お二人とも背中からか。

背中に何があるはずだ。

侍女達に確認した。



「公爵夫人とお嬢様のお背中に、たとえば入れ墨のように見える、見慣れぬ刻印はございませんか?」

「いえ、そのようなものはございません」

「ホクロやシミのように見えることがございます」

「ホクロやシミ程度でございましたら無いことも御座いませんが・・・」

「なるほど」



公爵夫人とマチルダ嬢と侍女にお引き取り頂いた。

公爵夫人とマチルダ嬢は一言も喋らなかった。


再び無音空間を出し、公爵、オーウェン、マキ、私で頭を寄せあう。

まずオーウェンが口を開いた。


「呪いの経過から見まして、典型的なミリトス教の呪いとお見受けします」

「やはりそうか・・・」


公爵は歯ぎしりしながら声を絞り出した。

空気を変えるために私が対処法の口火を切った。


「公爵夫人とマチルダ様のお背中に呪いを受信する1点があるはずです」

「そなたの呪われた経緯を聞くとありそうだな」

「それが非常に目立たないように、ホクロやシミに紛れるようにデザインされていると予想します」

「ふむ。どうすれば良い?」

「まずポーションを使いましょう」

「良いのか? また呪いが再発するとそちは言ったではないか」

「はい。公爵夫人とマチルダ様にはいったんきれいなお体にお戻り頂き、その上で再び痣が拡がる様を確認して頂きます。痣が拡がり始める1点を割り出しましょう」

「なるほど!」

「そこに私は立ち会えませぬ。閣下と侍女、お二方の信用の厚い者に見張って頂き、始まりの1点に印を付けて頂きたく」

「おお。それなら特定できそうだ」


オーウェンが話を引き継いだ。


「それはわかった。だが割り出した後、どうする?」

「呪いの刻印を浮かせます」

「浮かす?」

「はい。浮かせます」

「ふむ。方法は任せるが、浮かせた後どうする?」

「転写します」

「転写・・・ どうやって」

「策がございます」

「ほう」

「細工は流流仕上げを御覧じろ、でございます」

「自信があるのか。 しかし転写してどうするのだ」

「そこでオーウェン閣下の御力をお借りする必要がございます」

「なんだ?」

「閣下は肖像画をお持ちではありませんか?」

「なに・・・」


持っているはずなのだ。

宗教査問官ならば。

隠れ信徒あぶり出し用の、踏み絵用の肖像画を。


「転写した呪いの刻印を肖像画に移します」

「おまえという奴は・・・」

「どういうことだ?」


話の流れを理解できなかった公爵が聞いてきた。


「閣下・・・ いや、こやつは見かけ以上の相当なワルですよ」


そう言うと、オーウェンはニヤリと笑った。




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