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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
04 ブリサニア王国入国編
51/302

051話 (閑話)ジークフリード

俺は「入らずの森」の近くの村で生まれた。


神聖ミリトス王国の者は「入らずの森」と聞いただけで顔をしかめる。

それだけ強い魔物が棲んでいる、危険な森なんだ。



両親は百姓をしていた。

両親だけじゃない。

村人は、たった一軒の鍛冶屋を除き、みんな百姓だった。


両親は貧しかった。

村全体が貧しかった。

畑を広げたらもっと生活が楽になったのかも知れない。

でも出来なかった。

入らずの森から出てくる魔物に畑を荒らされるからだ。

魔物から守れる広さの畑しか持てなかった。




ある年、村を嵐が襲った。

村の城壁が痛んだ。


嵐の翌日。

村の城壁を破られ、村の中に魔物が侵入した。

たった1匹の魔物に村人総出で戦いを挑み、退治した。

オーガという大鬼だった。

村人が7人死んだ。


三男だった俺はその時冒険者になることを誓った。




俺は14歳になった日に村を出た。

冒険者ギルドのある街へ行き、冒険者になるためだ。


クロエが一緒にきてくれた。

クロエの父はオーガに殺され、長兄が家を継いでいたが生活は苦しかった。


「ちょうどいい口減らしだよ」


明るくそういったクロエの横顔がまぶしくて、まともに見られなかったのを鮮明に覚えている。



◇ ◇ ◇ ◇



冒険者になるのは簡単だった。

村の最寄りの街に冒険者ギルドがある。

そこで冒険者登録をして、5年掛けてE級冒険者になった。


俺もクロエもいっぱしの冒険者気取りだった。

E級冒険者になると言うことは、特にアルバイトをしなくても、クエストの報酬で衣食住&装備をまかなうサイクルが出来ていると言うことである。


俺たち二人は大ベテランのようなつもりで、肩で風を切って歩いた。

E級冒険者になりたての奴は全員そうなるらしい。


別に俺たちが勘違いしちゃいけないっていう法律があるわけじゃ無い。

俺たちはE級冒険者証を胸に得意満面だった。



◇ ◇ ◇ ◇



俺たちはE級冒険者なら誰でも通る道、メッサーを目指した。


メッサーで思い出したいことはあまりない。

メッサーには管理されたダンジョンがあり、深層階まで攻略が進んでいる。

確実な稼ぎが見込めるし、運が良ければ大穴も見込める。

そう思っていた。


だが思うように稼げなかった。

E級冒険者なんて売るほどいた。

そしてE級冒険者の誰もが、深層階はおろか、中層階すら行けそうもなかった。


まれにダンジョン内でB級、C級冒険者を見かけたが、我々とは別種の人間だった。

深層階へ潜れるパーティはE級冒険者など歯牙にも掛けなかった。



首都に隣接するメッサーは物価が高い。

生活はじり貧になる。

俺たちE級冒険者は早くメッサーに見切りを付けるべきだった。

だがダンジョンの魅力に取り憑かれ、皆も俺たちも無駄なあがきを続けていた。



◇ ◇ ◇ ◇



転機が訪れた。


ダンジョンで稼げない俺とクロエは、森の中の魔物討伐をしていた。

無理をすべきでは無かった。

だが欲をかいた。

その結果、クロエが蛇に噛まれた。

なけなしの金で買った中級ポーションで毒の回りを抑えたが、クロエは苦しそうだ。

何とか生きて欲しいが、どうなるかわからない。


地下の噂で聞いたギルドの闇治療を思い出した。

必死にクロエを励ましてギルドまで戻った。




ギルドの闇治療。

噂以上だった。

解毒はもちろん、傷跡一つ残さず怪我を治すなんて信じられなかった。

金額も信じられないほど安かった。


だが、その金も俺たちは持っていなかった。



俺は奴隷になることを決心した。

そうソフィーに言うと張り倒された。


「少しだけ猶予をくれてやる。その間に冒険者稼業とギルドの業務を掛け持ちして金を稼げ」




それから冒険者稼業の傍ら、ソフィーの密命をこなすようになった。


ソフィーの密命を幾度かこなした後、俺とクロエはソフィーの腹心冒険者として特訓を受けるようになった。


ソフィーはB級冒険者だ。

B級の訓練とはこれほどのものなのか、と思った。


“死ぬほどキツい” と思っているうちは全然キツくなかった。

そのうち意識的に “死ぬほど” と思わなくした。

思った瞬間、死ぬと思った。

それほど死と隣り合わせだった。


実際、死んだと思ったことも何度かあった。

ソフィーは容赦なく俺たちを鍛え上げた。




C級冒険者になった今ならわかる。

俺とクロエの努力は努力じゃ無かった。


E級冒険者とD級冒険者は全然違う。

そしてD級冒険者とC級冒険者はもっと違う。


頭ではそう理解していても、D級冒険者になるためにどんな努力が必要か、全く理解していなかった。


よく “血の滲むような努力” というが、そんなのは全然わかっていない奴が言うことだ。

リアルにドバドバ流血する研鑽を積まないと上に行けないのだ。


ソフィーは、


「お前のは努力じゃ無い。努力もせずに奴隷になりたいとは何事だっ!」


と言いたかったんだ。




俺とクロエはソフィーの手足として日々過ごし、ソフィーの課す訓練に勤しんでいる。

借金も返し終わった。




村を出たときは全く想像できなかったけど、今の生活はかなり気に入っている。




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