049話 レイとユミ
ゴブリン集落の真ん中でゴブリン達を荼毘に付した。
周辺に燃え拡がらないように注意しながら、風上から火を監視。
監視しながらレイとユミのポーチを並べた。
ラミア達が面白そうに見ている。
あることを思い浮かべながらレイのポーチの中を手探りすると、期待通りの手応えがある。
そこで奥まで手を突っ込んで向きを調整して、エイヤッと引っ張り出した。
呆然とした表情で、座り込んだ体勢のレイが出てきた。
ラミア達がワッと湧いた。
リーは目を剥いている。
続いてユミも引っ張り出した。
リーとマキとマロンは何が起こったのか、何となく理解したようだ。
だが、ポーチから人間を取り出すという手品を見たラミア達が盛り上がってしまい、やいのやいのとレイとユミを突っつきだした。
レイとユミが怯えてしまったので両者を分け、まずはレイとユミの現状把握から始めることにした。
ユミの方が落ち着いているように見えたので、ユミと話すことにした。
「ユミさん、お帰りなさい」
「ああ・・ うん・・ え~と、ここはどこ?」
「ゴブリンの集落だよ」
「そっか・・・ じゃあうまくいったのかな?」
「二人とも無事だからうまくいったんじゃないかな」
「えっ! レイはっ!?」
「そこにいるよ」
「レイッ!」
「・・・」
ユミはレイに抱きついて涙を流し、レイはまだ呆然としていた。
お膳立てはユミがして、レイは言われるまま実行しただけらしい。
そう思って引き続きユミに話を聞いた。
「ユミ。 落ち着いてからでいいので少し教えてくれないか」
「うん・・・ うん、ごめんね。助けてくれたのに」
「ゆっくりでいいよ」
「うん。もう大丈夫。 どこから話せばいいかな?」
マキ、マロン、私と別れてからの話を聞いた。
「どうしようか迷ったけど、何事も無ければビトー君たちが帰ってくるまでヒックスの街にいようと思ったの」
「うん」
「冒険者ギルドで簡単なクエストか仕事が無いかなって思ったの」
「うん」
「それでね。ヒックスの街と古森の間の草原のゴブリン間引きの依頼が通年で出てたんで、これを受けようとしたのよ」
「うん。良い判断だと思う」
「でもね。冒険者ギルドの受付嬢が受け付けないのよ」
「ん??」
「他の冒険者のクエストは次々に受けていくのに、私たちのクエストだけ受け付けようとしないのよ」
リーの顔が険しくなった。
「受付嬢は何て?」
「あなた方の実力ならもっと高度なクエストを受けてはどうですか、って言うのよ。
『無理ですよ。私たちペーペーですよ』って言っても無視するのよ」
リーの顔が更に険しくなった。
「そのうち私たちの装備を褒めたりしてね。装備なんて一度も見せていないのにね。
それから神聖ミリトス王国内における私たちの実績を褒めたりするのよ。
なんか気味が悪くてね」
「そのほかに何か言っていた?」
「ええとね。とにかく時間の掛かる、手の込んだクエストを受けさせようとしたわね。
人里離れた山岳地帯へ行かないと達成できないクエストを熱心に勧めてきたわ」
「ふ~ん・・・」
「私たち、前の世界で色々あったでしょ。だからなんとなくわかるのよ。
これって悪質な勧誘の手口だって。レイもそう感じてた」
「よく見破ったね」
「えっ! じゃあやっぱりあの受付嬢はミリトス教徒なの?」
「そう」
「やばいよ! 早く知らせないと!」
「大丈夫だ。もう知らせてある。 ほら、ここにギルド長もいらっしゃる」
「あっ!!」
「リーです。お二方を大変危険な目に遭わせてしまい、申し開きも出来ませぬ。
ただただお二方が無事に帰ってこられて本当に良かった・・・」
リーは巨軀を限界まで縮め、ユミとレイの手を取って頭を下げ続けた。
危機を乗り越えた実感が湧いたのだろう。
ユミとレイはマキとマロンを抱きしめてしばらく涙を流した。
落ち着いてから話を再開した。
「あの受付嬢はね、私たちのことを話すときは、まるでギルド内にいる誰かに聞かせるかのように大声でしゃべるのよ。変でしょ?
それで横で聞いていた他の冒険者がね、『おいおいオルガ、いい加減新人いじめはやめてやれ』って声を掛けたら、物凄い顔でその冒険者を睨みつけるのよ」
「ああ。間違いないね」
「うん。それでね、気付いたの。わざと誰かに聞かせるように大声でしゃべっていたっていうことは、この中に殺し屋がいるんだ。きっと」
「凄いぞ。よく気付いたね」
「それでね。ミューロンの時もそうだったけど、きっと殺し屋はB級冒険者でしょ?
戦うなんて無理。逃げ切れる相手でもない。
もう捕捉されてるわけだし。どうしよう? って」
「今こうしてここにいるからいいけど・・・ 今聞いても胃が冷たくなってくる」
「そうよ。何でビトー君は側にいてくれないのって恨んだわよっ!」
「やめて」
「死んだら絶対呪うから」
「本当にやめて」
「それでね。誰が殺し屋だろう?ってギルド内を見渡したの。でもわからなかった」
「そうだね。見ただけじゃ誰が殺し屋で誰が普通の冒険者かなんてわからない。
街を出れば後を付けてくるだろうけど。
でもどうやって切り抜けたの? 想像がつかないんだけど」
「それはね。ギルド内を見渡したらね、全員が私たちと受付嬢を見ているのよ。
注目の的よ。そのとき閃いたの。
『まあ、どうしましょう? わたし達、なぜか受付嬢の機嫌を損ねているみたいなんですけど・・・
皆さんいい手はありませんか?』
ってね。冒険者たちに向かって大きな声で訊いたのよ」
「その後の展開が想像できないんだけど・・・」
「ふふっ。ビトー君でもわからないんだ。
何人かの冒険者がね『じゃあ俺たちと合同でクエストを受けたらいい』って言ってくれたの」
「・・・」
「まだわからないでしょ?」
「うん」
「面白半分に声を掛けてきた冒険者もいてね。すぐに離れていったわ。
でもね、2つのパーティが残ってくれたの。
そしてね、最初に声を掛けてくれたパーティは明らかに “臭い” がおかしいのよ。
全員手練れでリーダーはB級冒険者だった。
で、こいつらが殺し屋パーティじゃないかな?ってね、勘が働いたの。
女の勘よ。
それでね、受付嬢をチラッと見たら、期待していている表情がモロに出てたし、すごく勧めるのよ」
「はあーーー」
「もう一つのパーティはリーダーがC級だった。メンバーはC級とD級だったの。
そして全員臭くなかったわ。受付嬢をチラッと見たら険しい顔をしてるのよ。
間違いないと思ったわ」
「いいぞ」
リーダーがC級冒険者のパーティはブリサニア出身の『東雲』。
Cランクパーティ。
『東雲』のリーダーはマーカスといった。
『東雲』が受けていたクエストはゴブリン集落の発見と偵察。
古森には強大な魔物が生息しているにも拘わらず、ヒックスと古森の間の草原にゴブリンが増えている。
原因はゴブリン集落が出来ているためと予想された。
ゴブリンは典型的な雑魚扱いの魔物だが、集落となると話が違う。
集落には必ずゴブリンキングとホブゴブリンがいる。
そしてゴブリンキングは最低でも脅威度D。
配下のゴブリンが何十匹もいると全体の脅威度はCからBになる。
ゴブリン集落を攻略するには複数パーティで一気に落とすしかない。
冒険者ギルドが合同クエストを立案するために集落の情報が必要となる。
『東雲』と一緒にヒックスの街を出て、ゴブリン集落捜索のため古森方面へ向かった。
道すがら『東雲』のメンバーに事情を話すと、彼らも薄々わかっていたようだった。
「多分オルガが勧めたパーティが殺し屋だろうな」
「わかるのですか?」
「あのパーティは実力はあるんだが評判の悪いパーティでな。
非合法のクエストをよく受けるとの噂がある。
ヒックスの冒険者ギルドでは『あのパーティとは合同クエストを受けるな』と暗黙の了解がある」
「そうなのですね」
「ああ。だからあのパーティが合同クエストを言ってきたときは驚いたし、それ以上にオルガが勧めたのにもっと驚いた。絶対裏がある」
「救って下さってありがとうございます」
「なに。君達みたいな若手を危険な目に遭わせたくないのさ」
「でも皆さんを危険な目に巻き込んでしまっているのですが・・・」
「実はな、もう1つのパーティがウチの後ろをこっそりガードしている。
あのパーティがなにか企んでいても大丈夫だ」
「本当ですか・・ 何から何までありがとうございます。私たち、御礼のしようも御座いません」
「いや。礼には早すぎる。君達はヒックスに居続けるといつか殺られてしまうだろう?
今後どうするか考えないといかん」
「はい。これはミリトス教絡みですのでハーフォードへ向かいたいと思います」
「そうか。君達がここでと思うタイミングで別行動を取ってくれていいぞ」
「重ね重ねありがとうございます。ではゴブリン集落を発見したら別行動を取ります」
「わかった。集落はもう近い。気をつけろよ」
マーカスの言ったとおり、間もなくゴブリンの集落を見つけた。
すぐにレイとユミは茂みに隠れ、別行動を開始した。
『東雲』メンバーはレイとユミがいるかのごとく、話し掛け、指示を出し続けた。
『東雲』メンバーと別れてから身を隠しながらハーフォードへ向けて走り始めたが、夕刻になる頃に誰かに付けられていることに気付いた。
幸い気付いたのはこちらが先だったので、夕闇に紛れてこっそり追っ手をやり過ごした。
だがそのままハーフォードへ進むわけにはいかなくなった。
奴らも足取りが掴めなくなったら網を張りながら引き返してくるに違いない。
夜の間にこっそりとゴブリン集落へ戻ったが『東雲』は既にいなかった。
捲かれたことに気付いた殺し屋パーティはすぐに引き返してくるだろう。
夜が明けたら見つけられてしまう。
進退窮まった。
ここでユミは窮した者だけが取り得る発想の飛躍を行った。
レイはユミの計画を理解していなかったが、
「このままじゃ絶対死ぬ。前回ビトー君が言ったでしょ。
このままなら勝率0%。でもこの方法なら五分五分。
これに賭ける」
それだけをレイに言い聞かせると、ゴブリン集落に向けて攻撃魔法を放ち、すぐに各々のポーチ(アイテムボックス)に自分から潜り込んだ。
その後は想像になる。
ゴブリンは集落を攻撃されたことに驚き、怒り、攻撃してきた方向へ敵を探しに来た。
だが誰もいない。
持ち主不明のポーチが2つあったので、とりあえず集落へ持ち帰った。
ゴブリンどもはポーチの中をあらためるが、アイテムボックスの特性として、取り出す物をイメージできていないと中の物を取り出せない。
アイテムボックスの持ち主でも、干し肉が入っているとわかっているから干し肉を取り出すことが出来るが、干し肉が入っていることを忘れてしまえば干し肉を取り出すことは出来ない。
そしてアイテムボックスの中を覗いても何も見えない。
ゴブリンどもはポーチの中に人間が入っているとは想像できなかったため、レイとユミが引っ張り出されることは無かった。
一方殺し屋パーティは、レイとユミは恐らくゴブリンに殺されたのだろうと想像は出来たが、自分達だけでゴブリンの集落に入って調べることは出来なかった。
そしてレイとユミはポーチの中で時間が止まっていた。
「そして今、ビトー君に引っ張り出されたのよ」
我々の動きも共有した。
「まずラミアの皆さんがマキと私を狙う殺し屋パーティを捕らえた。そして丁寧に尋問して、ユミとレイをつけ狙う殺し屋パーティと、冒険者ギルド内の隠れ信徒の情報を得たんだ」
「ラミアって本当に凄いのね」
「うん。ユミが思っている以上に凄いと思うよ。
すぐにラミアたちはユミ達を狙っている殺し屋を探し出して捕縛して、やっぱり丁寧に尋問して、ユミとレイの足取りを掴んだんだ。
そしてゴブリン集落が鍵になっていることがわかったので、捜索してくださったんだ。
ゴブリン達が何一つ集落から持ち出せないように集落を包囲してね」
「そっか・・・ ラミア達ならそんなことが出来ちゃうんだ・・・ 凄い」
「そう。ラミアの皆さんの協力が無かったら何もできなかった。実際凄かったよ」
ラミア達にユミとレイを紹介する。
「エリス殿。こちらがユミ、こちらがレイと言います。二人とも人間族です。
皆さんに命を救って頂いた二人です」
「古森のラミア族、小隊長のエリスです。
お二方を狙っていたB級冒険者パーティ『閃光』は始末しました。ご安心ください」
「ユミと申します。この度は私たちを救っていただき、感謝の念に堪えません」
「レイと申します。この度は私たちを救っていただき、感謝の念に堪えません」
ラミアたちに紹介した後、改めてレイとユミの気持ちを訊いた。
「二人は古森のラミア族の知己を得たわけだけど・・・大丈夫?」
「何の見返りも求めずに私たちを救ってくださったんだもん。感謝しかないよ」
「うん」
「じゃあ挨拶に行こうか」
エリスの先導でアイシャにお目見えした。
「この度は偉大なる族長の恩寵に与り、感謝に堪えません。卑賤、非力、短命の身ではありますが、今後は古森の利を第一と致す所存で御座います」
ユミの挨拶は様になっているな。
どこで勉強したのだろう。
アイシャはアレクサンドラの母だと伝えると、ユミもレイもびっくりしていた。




