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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
04 ブリサニア王国入国編
48/302

048話 アイシャの特命

時は少し遡る。


私とマキとマロンはアイシャから、しばらくラミアの里を拠点に活動するように言い渡されていた。


「お前たちを付け狙う殺し屋集団がいるわ」


アイシャは私のことを「お前」と呼ぶようになっていた。


「始末が終わるまで、夜は必ずラミアの里で過ごすように」

「はい」

「表向きは、しばらく取引に立ち会うようになった、としておきなさい」

「はい」

「ヒックスと古森の間の道中は陰から護衛を付けます。警戒せずに突っ走りなさい。敵をあぶり出します」

「はい」



そしてB級冒険者パーティ『燭光』が捕縛され、尋問された。

私は後から結果だけ聞かされたが、ラミア族による極めて丁寧な尋問なので、誤魔化したり韜晦したりする余地の無い、リアルな拷問らしい。


『燭光』のメンバーは死に方を選ぶことが許されただけだった。

つまり楽に死ねるか、苦しみ抜いてなかなか死ねないか。


一方、ヒックスでも隠れミリトス教信者の捕縛が進み、尋問が始まっている。

しかしもう一つの殺し屋パーティ『閃光』の足取りが掴めない。


『閃光』が捕縛されるまでの間、アイシャから私に特命が出された。


「『燭光』がいなくなったことに『閃光』も気付くでしょう。用心深くなるはずです。そこで1週間ほどアレクサンドラのところへ行きなさい」

「はい。一時避難ということですね?」

「そうよ」

「ではどうか “若返り魔法” についてはアレクサンドラ様には御内密にお願い致します」

「無理。とっくに知られているわ」

「え・・・」

「これはアレクサンドラからの指名よ」

「えぇ~」

「真っ先に自慢しに行ったのがいるのよ」


ええと。

良くわからなくなってきた。


「まさかラミアの皆さんは定期船に乗りませんよね? 船上がパニックになります」

「川を渡るのにそんなの頼らないわよ」

「どうやってミューロン川を渡るのですか?」

「あら。誰も教えなかったの?」


アイシャが言うにはラミア族は種族的に泳ぎが得意で、小舟をビート板代わりにしてミューロン川を泳いで渡るらしい。

疲れたら小舟に乗って休む。

小舟に乗せていた肉や酒で疲労を回復し、また泳ぎ始める。

2時間ほどで渡れるらしい。


水中に魔物はいないのだろうか?

聞いてみると、いることはいるのだが、川の魔物はたかが知れているらしい。

恐ろしいのは海の魔物だ、と教えられた。


私は小舟に乗り、船頭役のラミアに舟を押してもらいながらミューロン川を渡った。



マキには別の仕事が与えられた。

マキは古森に残り、元の世界の経験を生かし、ミューロンの街で進行中の隠れ信徒のあぶり出しに協力した。


1日1回。騎士団が古森まで進捗報告に来る。

さすがの騎士団でもラミア達と直接顔を突き合わせるのは精神的に厳しい。

マキが報告を受け、マキからラミアへ報告がされた。



一方、マキは騎士団に対し、進捗に応じた捜査の指針を与えた。


信者および親族の立ち寄り先を調査せよ。

 => 既に冒険者&商業ギルドで対応済み。


信者の出身校の教職員、同級生、友人関係を洗え。

 => 冒険者&商業ギルドで調査開始。


「勉強会」「講演会」「セミナー」「慈善活動」の主催者、スポンサーを洗え。

 => 商業ギルドで調査開始。


若い女が勧誘するイベントを洗え。

 => 冒険者&商業ギルドで調査開始。


最近不幸に遭った人(配偶者を失う、親を失う、子供を失う、財産を失うなど)に聞き込みをしろ。接触してきた連中を洗え。

 => 冒険者ギルドで調査開始。


しばらく会っていなかった旧友・同級生から、用もないのに突然連絡があった人の情報を集めろ。その旧友・同級生の背景を洗え。

 => 冒険者&商業ギルド&騎士団で調査開始。


商人でもないのに「神聖ミリトス王国と貿易」を謳う団体を洗え。

 => 商業ギルドで調査開始。


「神聖ミリトス王国と文化交流」を行う団体を洗え。

 => 宗教査問官で調査開始。


ミリトス教以外の宗教で動きがあるときは、一応疑え。ミリトス教が隠れ蓑にしている場合がある。

 => 宗教査問官で調査開始。


この会合の効果は絶大で、103名の隠れ信者をあぶり出した。

前代未聞の検挙数に王都から派遣された騎士団と宗教査問官は驚愕した。

全員秘密裏に逮捕し、連絡が取れなくなって動き出す者を探った。

(隠れ信徒の深掘り)

そして更に49名の隠れ信徒をあぶり出した。


宗教査問官はマキが与える指針の切れ味に驚愕した。

そして進捗報告を密かに『神託会議』と命名した。



◇ ◇ ◇ ◇



私は小舟に乗ってミューロン川を渡っている。


ラミア族の河渡り部隊は2人が基本。

小舟を押しながら泳いでいるのはラミア族のシャロン。

小舟には私とアリアドネが乗っている。

シャロンが疲れたら、アリアドネと交代する。


ちなみにアリアドネは古森のラミア族の中の河渡り専門部隊の小隊長だ。

彼女は種族的に泳ぎの得意なラミア族の中でも別格とされ、『人魚』の称号を持っている。


そして今、私は恐縮しながら小舟に乗っている。

強大なラミア族が押す小舟に乗って大河を渡る、大名のような私。

後日のいじめ案件ではなかろうか?

ビクビクしながら乗っている。

約2時間後に対岸に着いた。

岩の森が川岸まで迫っている場所へ小舟を着けると、すぐに岩の森のラミア族が現れ、小舟を引き揚げてくれた。




岩の森のラミア族の里へ出戻った。

里の入り口でペネロペが待っており、大歓迎された。

ハグして両頬にキスすると、耳元で「若返り若返り・・・」とつぶやかれた。


早速族長の家へ連れて行かれた。

アレクサンドラから満面の笑みで極めて濃厚な歓迎を受けた。

必死にアレクサンドラの乳房から顔を上げると、


「なんで前回は “若返りの魔法” を掛けてくれなかったの?」


そう真顔で問われ、再び乳房に顔を沈められた。 ・・・死ぬ。

何とか息継ぎで顔を上げ、


「アレクサンドラ様は今が一番美しく・・・」


と言いかけると、


「そういえばそちは熟女好きだったの」


納得してくれた。


だが、


「妾はもう少し若返りたいの。少なくとも母者より年上に見られるのは困るのじゃ」


アレクサンドラはそう言うと艶然と微笑んだ。

そして再々度乳房の海に顔を沈められた。

意識が無くなりかけた。


「族長。ビトー殿が死にかけております」


ペネロペの助け船がなければ死んでいたかも知れない。


早速族長に若返りを施した。

アイシャと同い年くらいに仕上がった。



岩の森のラミア達にも若返りを施していった。

岩の森への出張期間は1週間と言われたが、10日も掛かった。

施術が終わったときは森に万歳三唱が轟いた。



◇ ◇ ◇ ◇



私が岩の森のラミア族に若返りの施術をしている間に、もう一つの殺し屋パーティ『閃光』がラミアに捕縛されていた。

レイとユミを見失い、範囲を広げて捜索しているところを捕まったらしい。

尋問はラミア族が行い、冒険者ギルド長のリーが立ち会った。

アイシャからは「無理して立ち会わなくてもいいのよ」と言われたそうだが、ヒックスを代表して自分に見届けさせて欲しい、と言って立ち会った。



雇い主は?

 =>ミリトス教総本山の枢機卿。


命令の内容は?

 =>冒険者レイ、マキ、ユミの殺害。

   およびレイ、マキ、ユミと同行しているらしい男の殺害。


お前たち以外に雇われた奴は?

 =>B級冒険者パーティ『燭光』


お前たちの役割分担は?

 =>『燭光』がマキと男を狙い、我々がレイとユミを狙った。


レイ、マキ、ユミと男はどうやって見分ける?

 =>ヒックスの冒険者ギルドの受付嬢オルガが教えてくれた。


『燭光』はどうなった?

 =>わからない。


レイとユミの行方は?

 =>わからない。見失った。


どこまで追跡した?

 =>他の冒険者と共同クエストを受けていたので、それを追った。

   途中から別行動になったので追跡した。

   すぐ捕捉できると思っていたが、足取りが途絶えた。


B級冒険者を捲けるとは思えないが?

 =>我々もそう思って探したが、消えた。

   ハーフォード方面へ範囲を広げて捜索したが、痕跡は見つからなかった。

   付近を広範囲に捜索したが、見つからなかった。

   消えた箇所をローラーしているとゴブリンの集団(50匹以上、脅威度C)

   にぶつかった。

   ゴブリンを追跡した。集落を見つけた。

   100匹以上。ゴブリンキングがいると予想。脅威度B。


   レイとユミはゴブリンに襲われて殺られた可能性がある。

   だが、ゴブリンが死んだ形跡、人間が死んだ形跡、いずれも無い。

   戦闘の痕跡自体が無い。

   ゴブリン集落も調べたいが迂闊に突っ込むわけにはいかない。

   『燭光』と合流しても2パーティではゴブリン集落を落とせない。

   仕方なくゴブリン集落の周辺を探したが、痕跡を見つけられなかった。

   その後更に範囲を広げて痕跡を探している内にラミアに包囲された。




岩の森から古森へ帰ってきた時に、何故か冒険者ギルドマスターのリーがいたので理由を聞くと、上記を教えられた。


「『閃光』は嘘をついていませんか? なんか謳い過ぎていませんか? 特に雇い主の情報なんて秘中の秘でしょう?」


そうリーに聞くと、


「おまえはアレを見ていないからそんなことを言えるんだ。俺はラミア族に隠し事をしない。金輪際だ」


何があったのか聞いたが、口をつぐんで教えてくれなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



ゴブリン集落を掃討することになった。

ヒックスからはリーが参加。

ラミア族からエリスを部隊長として27名参加。

私、マキ、マロンが参加。

総指揮はエリス。



ラミア族にとってレイとユミを捜索することは一見利が無いように思われるが、全容を解明して交易再開の判断材料にするとのこと。


ラミア族24名がゴブリン集落を広く薄く囲んだ。

そしてエリスを含むラミア3名+リー+私、マキ、マロンがゴブリン集落に侵入した。


急襲ではなく、最初から全身をあらわにし、真正面から敵に当たるラミア族の戦闘を初めて目の当たりにした。


ラミア族は魔法は得意では無いというが、あの拳、爪、尻尾は魔法じゃないのか?

拳で殴られたゴブリンは爆発したように血煙を上げて体の一部が無くなる。

爪を受けたゴブリンは体が欠損し、血を吹き上げる。

尻尾で殴られたゴブリンは、元の姿が想像できない血袋と化している。


エリス率いる突入部隊は三角形の隊列を組み、全員薄ら笑いを浮かべながら、まるで無人の荒野を往くがごとくゴブリン集落内を一直線に突き進む。

途中小屋があっても関係ない。一撃で潰していく。


ゴブリンの反撃など全く気にしていない。

ゴブリンは攻撃体勢に入る前にバラバラにされていく。

ゴブリンが何匹いようが関係ない。

何時間でもこの一方的な虐殺を続けそうだ。


我々はラミアの攻撃の巻き添えにならないように、隊列から少し離れて付いていく。

ラミア達が打ち漏らしたゴブリンのとどめを刺していくことと、ゴブリンどもがラミア達の背後に回り込まないように守備をする。


掘っ立て小屋ばかりのゴブリンの集落の中で、少々立派な小屋があった。

あれはゴブリンキングの館かな?

案の定ゴブリンキングが出てきた。

身長はゆうに2mはあるだろう。

リーといい勝負をしそうだ。


エリスが手近なゴブリンを掴み上げ、ゴブリンキングに投げつけた。

ゴブリンは砲弾のように飛んでゴブリンキングに激突。

ゴブリンキングは何もしないうちに瀕死の状態にされてもがいている。


「マキ。経験値にしなさい」


エリスはそう言い捨てると、どんどん先に進んでいく。

慌ててマキがゴブリンキングにとどめを刺した。


コブリンキングが死ぬとゴブリンどもは一斉に逃げ始めた。

だが集落はラミア達が取り囲んでいる。

たちまち周囲でゴブリンどもの悲鳴が湧き上がった。



しばらくしてラミア達が全員集結した。

打ち漏らしは1匹もいない。


アンデッド化を防ぐため、ゴブリンの死体を一箇所に積み上げ、火葬の薪とするべく周囲の小屋を壊し始めた。




ゴブリン集落に入ってから私とマロンはほぼ戦闘に参加せず、捜し物をしていた。


ゴブリンキングを殺した後、マロンはしきりにゴブリンキングの館を気にしている。

マロンは館の中にゴブリンはいないという。

そこでゴブリンを一掃したとラミアの報告を聞いてから館の中に踏み込んだ。

見覚えのある物が転がっていた。

レイとユミのポーチだ。



捜していたのはこれだ。




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