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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
04 ブリサニア王国入国編
44/302

044話 ラミアの里 古森編1

ヒックスの街の出入り口は東門と西門の2つ。

南は海に面しているので門は無い。

では何故北門が無いのか。

北にはどこかに通じる街道が無いからである。


ヒックスの街の北側は『建国物語』に出てくる強力な魔物の住む古森に面するので、高く厚い城壁に守られている。

魔物も馬鹿ではないので、もしヒックスに攻め寄せるのなら東門か西門に回り込むと思うのだが。

東門と西門の周辺に罠でも用意されているのかな?


東門は “ほぼ” 貿易関係と漁業関係の専用口化しているので、西門を出る。


すぐにミューロン川の川沿いを歩き始めた。

川沿いに街道は無い。

草原(一部湿地あり)のど真ん中。

道なき道をゆっくり北上する。



道すがらマキと話をした。

マキはこちらの世界に飛ばされたときに白い靄の体験を共有していたし、一緒に神と接触したので難しい話もしやすい。

歩きながら「これから」について考えを整理していたら、マキの方からポツリポツリ話し出した。


なかなか難しい内容を、言葉を選びながら話してくれた。



私たちはこの世界に放り出された。

この世界で生きていかねばならない。

市井に隠れて暮らす選択肢もある。

それが可能ならそれでもいいと思う。

だけどミリトス教会に付け狙われている。


前の世界で経験があるけど、一度宗教団体に目を付けられると本当に酷い事になる。

宗教って全く話が通じない。

話し合いましょうって言いながら、絶対に話し合いにならない。

自分たちの要求を大声で言うだけ。

人の話は聞かない。

絶~対聞かない。

奴らは人間じゃ無い。

教会でプログラムされた人間の姿をしたロボットだ。

だからいくら禁教に指定しても信者は絶対にいる、というビトー君の指摘は正しい。

この世界でどう生きるか、どんな生き方があるのかを考えたとき、あらゆる面でミリトス教会が障害になる。

ミリトス教会に対抗するためには強い味方が必要だ。


ここまではいい? と聞いてきたので、全面的に同意した。


「いにしえの言葉で言うと “禿同” だね」


というと、涙を流して大笑いしてくれた。



「なつかしーーー!! ああっ! すっごく遠くに来ちゃったなぁ」

「あいつら、自分達だけが神の声を聞ける、神の教えを知っているって言うよね。でも実際に神に触れた我々からすると、ちゃんちゃらおかしいよね」

「ほんと! その通りだ!」


マキは真剣な目をして頷いた。


マキは話を続けた。


人間は結局駄目だと思う。

当てになら無いと思う。

イザというとき全く信用できない。

前の世界の経験だけど、学校で訴えても、市の相談会に行っても、警察に行っても、誰も助けてくれないんだ。

アドバイスすらないんだ。

相談したことすら “無かったこと” にされるんだ。

相手が宗教とわかるとみんな逃げるんだ。

知らん顔をするんだ。

友やめされるんだ。

結局レイとユミは同じ被害者だったから手を組めたんだ。



「うん。凄く良くわかるよ。毛一筋ほども異論は無いよ」

「ありがとう。それでね、どうしたらいいかわかんないのよ」



ゆっくり歩きながら考えをまとめていった。

無視したと思われないように、手をつないで歩いた。



「私たちが頼る人間が誠実か否かはひとまず横に置くよ。誠実であると仮定してね。仮に頼るとするよ」

「うん」

「最後にミリトス教会に出し抜かれて殺されると思う」

「・・・」


「一応この国ではミリトス教は禁教になっている。

でも殺るのはミリトス教徒である必要は無いんだ。

ミリトス教会にカネで雇われた殺し屋でいいんだ。

例えば料理人を買収して「これは精力剤だ」とか適当なことを言って、食事に一滴毒を入れれば済む話なんだ。

こんなところまでは防げないんだ」


マキは青い顔をして頷いて、


「そう。そうなのよ。 じゃあ人間以外の仲間はどうなんだろうな、って」


この子は鋭い。


「調べた訳じゃ無いけど、魔物にミリトス教信者はいないと思う」

「そうね。ミリトス教会は魔物を殺せ、って言っているくらいだからね」

「フェリックスにはミリトス教会につけ狙われていることを話したけど、気にしないで友人になってくれた。それどころか逃亡に力を貸してくれた」

「コスピアジェさんには話さなかったよね?」

「うん。ただ私が睨んだところでは、フェリックスから話は通っていると思う」

「そうなんだ」

「岩の森のラミア族には話したけど、味方になってくれた。それどころか、それとなくミリトス教会の胡散臭さをほのめかしていた」

「そうね。ミリトス教会が魔物を買収してる姿を想像できないわ」

「そうだね。だから私たちが最後に頼るのは魔物になると思う。だから古森のラミア族と太いパイプを持ちたいと思っている」

「うん。賛成」


神聖ミリトス王国では岩の森のラミア族が、ブリサニア王国では古森のラミア族が味方になってくれたら、これは相当心強いと思う。

イザと言うときはラミア族の里に逃げ込めるよう手配できたら・・・


実は岩の森のラミア族には既にお願いをして、アレクサンドラとペネロペの了承を貰っている。

古森のラミア族にも是非受け入れて貰いたいな、と。


しばらく歩いていたら、マキが照れくさそうに、


「でも私ってビトー君のお荷物だよね。ラミア族と仲良くなれるのはビトー君だけだもん」



確かに私は治癒魔法を使えるが。


「これは私の勘だけど。もし古森のラミア達と親しくなれたら、マキとラミア族との友誼は、マキが想像する以上に重要かもしれない」

「え・・・?」

「コスピアジェ様も、岩の森のラミア族もそうだけど、女の冒険者と面と向かって話をするのは初めてだったと思う。男の冒険者よりもよっぽど信用してくれると思う」

「そうなの?」


「これは私の感覚だけど、冒険者は、特に上級になるほど世知辛い計算高さ、セコさが鼻につくと思う。

男の冒険者は特にそうだと思う。それを彼女らは見抜くと思う。

でも駆け出しの女冒険者がのこのこと死地にやってきて、堂々と自説を論じて行けば、計算高さも裏も無いじゃないか。

男よりよっぽど信用してくれると思う」


マキは考え込んでいた。


まあ、これはラミア族と仲良くなれたらの話だよ。

全然駄目かも知れないし、殺されるかも知れない。

取らぬ狸のなんとかだよ。


そういうと、ぎゅっと手を握ってきた。



◇ ◇ ◇ ◇



1日歩いて日が傾いてきた頃に古森のシルエットが見えてきた。


途中、村人とも漁師とも商人とも冒険者ともすれ違わなかった。

そもそも道が無かったことから、誰も古森へ行かないのだろう。


このまま進むと古森の端に着いたときに真っ暗になる。

今日はここで野営することにした。

焚き火を中心にマキ、マロン、私が外を向いて警戒しながら干し肉を囓り、ドライフルーツを囓った。


不寝番はマキ、マロン、私の順にした。

マロンと交代するときの引き継ぎで、何者かが遠巻きにして我々を見ているようだ、と報告を受けた。


私は最初相手を感じることができなかった。

鑑定の練習がてら徐々に意識を広げていくと、意識の端っこに何かが触れた。

きっとこれだな。

私たちから見て、古森の反対方向に1人。ミューロン川沿いに2人。

計3人いる。


岩の森のラミアは3人1組で行動していた。ラミアかも知れない。

害意はなさそうだ。

リラックスしている感じが伝わってくる。

接触せず夜明けを待つことにした。


夜明け前に気配は消えた。


朝日が出てすぐにマキとマロンを起こし、昨夜の様子を話しながら軽く朝食。

すぐに出発した。



◇ ◇ ◇ ◇



マキとマロンと私は古森の南端に立って木々を見上げていた。


ここから先はラミア達の領域だ。

さて、どうしようか。

ラミア達は昨夜から私達を監視していたに違いない。

今もどこからか私たちを見ていると思う。

彼女らから何らか合図があれば良いのだが、何も無い。


マロンに聞く。

ラミア達はいるかな? 感知できない? そう。

でも彼女らの匂いはある。なるほど。

では一声掛けて森に入るとしましょう。

あまり大きな声ではなく、向こうまで声が通ればいいな、レベルで。


「私は人間族のビトー・スティールズと申します。こちらは人間族のマキです。そしてこちらは犬族のマロンです。

古森のラミア族にお願いがあって参りました。

失礼して古森に入らせて頂きます。

よろしくお願い致します」


そして入っていった。


マロンが先頭に立ち、ゆっくりと森の中を進む。

ふとマロンが立ち止まり、私を見上げた。


「行く? 行かない? 違う? そうか・・・ 一人で?」


どうやらこの先にラミアが1人でいるらしい。

こちらも1人で行ったほうが良いだろう、ということらしい。


「わかった。私が一人で行こう」


その場にマロンとマキを残し、1人でそろそろと先に進んだ。

50mほど進むと開けた場所が見えてきた。

直径20m程のほぼ円形の広場。

木は生えていない。

ちょっとした草原になっている。

広場には誰もいないが、誰かが近くにいる気配はある。


怯んでいても仕方ない。

ゆっくりと広場の真ん中まで進み、そっと声を掛けた。


「私は人間族のビトー・スティールズと申します。お願いの儀があり、お邪魔を致しております」


すると前方の茂みから1人のラミアが滑り出てきた。

全長約3m。

上半身は20前後の黒髪の美女。

岩の森の時も思ったが、ビキニを着た方がいいと思うぞ。


「古森のラミアの里へようこそ、ビトー様。貴殿を歓迎致します」

「私のことをご存じでしたか」

「ええ。連絡を受けておりました」

「私の仲間がおります。連れてきてよろしいでしょうか?」

「ええ。もちろんですわ」


広場から元来た方向へ引き返し、マロンとマキを呼びに行くと、いくらも行かないうちに2人に合流した。

その後ろにラミアが2人見える。

もう行ってもいいよ、と追い立てられるようにして来たらしい。


広場に全員集合し、改めて挨拶。

ラミアの小隊長の名はエリスと言った。


「皆様のことはコスピアジェ様から伺っております。族長へ紹介致します。どうぞこちらへ」


エリスの先導で、古森のラミアの里へ向かった。




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