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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
01 異世界召喚編
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004話 魔法の基礎(講義)

我々は殺処分を免れた。

勇者候補生として鍛えられるらしい。

ただし剣や槍を取って戦う力は期待できないので、魔術を鍛えるとのこと。


剣や槍を取って戦う力は期待できないとはどういうことか?

それは体格を見れば一目瞭然だった。

護衛騎士を見ると身長2m、体重100kgが基本。

こちらの世界の剣士、槍士は重たい全身鎧を装着し、重たい盾を持ち、重たい長剣または矛を持ち、振り回す。

体のデカさが強さに比例する。


あなた方は古代ギリシアの重装歩兵か、ローマ帝国時代のグラディエーターを召喚するべきでした。

令和のニッポンのモヤシ高校生を召喚するなんて、間違えるにも程がある。

せめて柔道の強豪校から100kg超級の選手を厳選して召喚するべきでした。

いったいどのボタンを押したらそんな答えが・・・ と言いたくなったがやめた。


念のため、銃、大砲といった火器はありませんか? と聞いたら、なんだそれは? と聞き返された。

説明したが理解されなかった。

当然、戦闘機、戦車、戦艦、ドローンなども無かった。


どうしてこんな世界で異世界召喚などできるのだろう?



◇ ◇ ◇ ◇



魔法の説明と指導が始まった。

まずは座学から。

場所は迎賓館から会議室(のような場所)へ移動した。

会議室も凄く豪華。豪華すぎて落ち着けない。

説明と指導は教会関係者が行うらしい。

鑑定を行ったフース司教が


「では王宮関係者はここまでで・・・」


といったが、王と宮廷関係者は無視してついてくる。

困った顔をするフース司教にマルクス宰相が、


「まあまあ司教殿。勇者召喚など100年に1度も無いビッグイベントなのですから、一緒に楽しもうではありませんか」


そう言ってフース司教の肩に腕を回し、抱き抱えるようにして有無を言わさず誘導する。この宰相なかなかのやり手だ。

王を始め、宮廷関係者が付いてくるのを、女神、枢機卿、大司教といった面々が無表情に見ている。

どうやら気に食わないらしいが、何が気に食わないのかわからない。



◇ ◇ ◇ ◇



鑑定に引き続き、フース司教が魔法の概要説明をしてくれた。

くれたのだが・・・ 最初からわからない。

もう全くわからない。

一言もわからない。

1mmもわからない。

勇者候補生たちがブーブー言うが、この件に関しては、勇者候補生たちは悪くない。


元の世界の経験からいうと “わからない” にはレベルがある。

「ここがわからない」と言える時は、実はかなりわかっている。


「何がわからないのかわからない」


これが一番わかっていない。

最悪の状態なのだ。

私も含め、勇者候補生たちはこの状態。


私には心当たりがあった。

おそらくフース司教は「全員が魔法を使える」または「使えないまでもある程度知っている」前提で話をしている。

だが勇者候補生たちは誰一人として魔法を知らない。使ったこともない。

そもそも魔法の存在しない世界から来た。

だからフース司教の使う単語や言い回しが一つも理解できない。


そこで私がおずおずと手を上げて発言の許可を求めた。


「なにかね?」

「発言の機会を頂き、ありがとうございます」

「うむ」

「恐れ入ります。フース司教様はここにいる者どもが魔法を扱える前提でお話をされているものと拝察致します」

「うむ。その通りだ」

「大変申し上げにくいのですが、ここにいる者どもは、まったく魔法を扱えません」

「・・・なに?」

「ここにいる者どもは魔法が存在しない世界からまいりました」

「・・・」

「従って魔力を動かす、魔法を発動させる、魔法を使う、というイメージがそっくり欠落しております」

「・・・」


会場は大混乱に陥った。



◇ ◇ ◇ ◇



次の講義が始まるまで丸3日空いた。

この間に我々には休憩が与えられ、食事と睡眠が与えられ、服もこちらの世界の服に着替えることになった。

召喚されて以来、一着の服を着たきりだったので助かったが、王宮は我々を貴族として扱って良いのか、平民として扱うのか、判断できなかったのだろう。

古着を寄せ集めたようなちぐはぐな服を支給された。

女の子達は、心底イヤそうに着替えていた。


勇者候補生の扱いについて、だいぶ紛糾したらしい。

教会は廃棄を主張し、王宮はしばらく鍛えてから結論を出す意向だった。

結局王宮の意向が通り、我々勇者候補生はしばらく鍛えられ、『伸びる可能性』を期待されることになった。


廃棄とは、素直に読むなら鳥インフルエンザ、口蹄疫、豚熱なみの殺処分。

多少情を掛けるなら、無一文で郊外に放り出して自然に任せる(という名の魔物の餌)ということらしい。

王宮関係者の意向が通ったのは、我々にとってはありがたい。



我々の面倒を見てくれている王宮小間使いのルッツ君に事情を聞いたところ、なかなか興味深い情報を教えてくれた。


そもそも勇者召喚を言い出したのはミリトス教会。

魔王が出現し、魔族が魔物を従えて人間の国を襲ってくるので、勇者を召喚して魔王を抑え込もう、と各国に提言した。


教会の主張は、言葉としてはわかる。

だが魔王が出現したことを確認したのは誰だ?

そもそも強そうな魔族を目撃したとして、誰が「アレは魔王だ」と判断できるのだ?

本当に魔王は魔族と魔物を率いているのか?

魔物が田畑を荒らすのは、本当に魔王の指示か?

たとえば誰か見識ある者が、魔王や魔王の側近クラスの魔族と話をして、確認したのか?

魔王の目的は何か? 人間の国を侵略しようとしているのか?


全てミリトス教会から流れてくる噂に過ぎない。


だからノースランビア大陸の各国は危機感を共有していない。

というか、各国は危機感を持っていない。

危機感を持っているのは教会だけ。

また、これははっきり言わなかったが、ミリトス教会は神聖ミリトス王国以外の国では信用されていないらしい。


神聖ミリトス王国は(国名からわかる通り)教会の影響力が強いため、教会の主張に賛同し、勇者召喚を行うことになった。

内情は神聖ミリトス王国も各国同様に魔王と魔物に対して懐疑的である。

それにも関わらず勇者召喚を行ったのは、(穿った見方だが)勇者を国軍に組み込み、国軍を強化することが目的だったのでは無いかと考えられる。


今回の勇者召喚の儀に掛かる金は、全て神聖ミリトス王国が出している。

ミリトス教会は一銭も出していない。

ところが召喚した勇者候補生たちは無能揃い。

この世界の一般人より使えそうもないことが判明してしまった。

宮廷から見れば、教会の口車に乗って大金をつぎ込んだが、結果はスカ。

そして教会はその勇者を廃棄しろという。

教会に対する信頼はゼロ以下のマイナス。

また、無能なくせに不遜な態度を取った勇者候補生たちに対し、宮廷関係者も不快感を募らせ、廃棄を主張する者が一定数いた。


「でもね」


と、いたずらっぽくルッツ君が笑う。


「廃棄をやめさせた理由は美島さん、あなたですよ」


どういうことか聞き出そうとしたが、ルッツ君は「これ以上しゃべると危ないから・・・」といって教えてくれなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



講義が再開された。

講師はフース司教からハンス司祭に変わった。

講義内容が(実践編)から(入門編)にランクダウンしたのだ、と理解した。


とはいえ講義では、魔法に関する最低限の用語を使わない訳にはいかない。

理解の鍵となる用語の意味を想像するしかないため、やはりわかったような、わからないような状態が続く。

日本の小学生がスペイン語で高等数学の授業を受けているようなものか。

こんなに真剣に講義を受けるのは、勤めていた工場の社命でVisual Basicの講習会を受けた時以来だ。


勇者候補生のうち、香ばしい連中は既に理解することを放棄している。

しかし講義中に騒ぐと容赦ない制裁が加えられるため、奴らはイライラしながら黙っている。


教科書の類いは一切無い。

教科書は魔導書といって大変に貴重かつ、高価だという。

我々みたいな連中には拝むことも許されぬ貴重品らしい。

しかも今の我々が魔導書を読んでもチンプンカンプンらしい。


そもそもこっちの世界の文字を読めるかどうかわからない。

そして『異世界召喚パック』(異世界召喚時に話し言葉や文字を理解できるようになる)で読めたとしても、西洋語と同じ文字体系なら我々は魔導書を読めないはずだ。

魔法関連の単語を知らず、その意味も知らないから。

日本語のような漢文仮名遣いなら漢字から意味を推測できるのだが、西洋語の場合、ピンポイントで単語を知らないと全体を把握できない。


結局講義を聞きながら自己流に解釈するしかなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



この世界の生物は体内に魔力を発生させる器官を持つ。

元の世界の生物は持っていない器官だ。

その器官を使って体内の微量の有機化合物をエネルギーに変換することにより、魔力が発生する。(と理解した)


魔力は純エネルギーで、そのままでは方向性を持たない。

そこで魔力を効率よく使う方法として魔法が生み出された。(と理解した)


生物が死ぬと体内の魔力が魔力発生器官に集まり、石化する。これが魔石になる。

魔力の大きさは器官の性能で決まる。

魔力の大きな生物が死ぬと魔石も大きい。


我々勇者候補生たちは魔力を発生させる器官を持っていないから、魔法は使えないのでは無いか? と聞いたところ、初回鑑定時に体内の魔力の流れを確認しているので、間違いなく魔力は発生できるとのこと。

召喚されたときに付与されたのか、元々持っていた別用途の器官を流用したのかわからない。


魔法の訓練とは、魔力発生器官を使って魔力を生み出す訓練と、得られた魔力を魔法に変換する訓練の2つを指す。(と理解した)

魔力を生み出す訓練とは、魔力発生器官の筋トレのようなもの。

魔力発生器官の餌となる微量の有機化合物はこの世界の食事で生み出すことができる。

ただし、魔力発生器官を酷使すると器官が萎縮する。一度萎縮するとなかなか復活できないので、ほどほどに訓練すること。

魔力が暴走すると魔力発生器官が破裂する。その時は死ぬらしい。


ふ~ん。

物質のエネルギー変換か。

アイン○○タイン先生の領分かな?



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