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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
03 出国編
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037話 追跡

不届き千万な勇者教育に対する戒めは一定の成果を得た。

取りこぼしが少々出たが、後できちんと潰した。

残った勇者もそれほど時間を掛けずに亡き者にできた。

首魁も潰した。


懸念は全て潰したな?

念には念を入れてな?


よろしい。

なにしろ我が教団は執拗さが “売り” だからな。



ところで無能すぎて冒険者ギルドへ追放された勇者はどうなった?

ああ、女3人組だったな。

念のためアレも殺しておけ。

ああ。

手段は問わぬ。

我らが手を下したとわからなければよい。



ダンジョンで行方不明だと?

死体は確認したのか?

行方不明だから確認できていない?

それを生きているというのだ。馬鹿者。

さっさと探し出して殺せ。


ダンジョンに潜れない?

なぜお前が潜る必要がある?

冒険者を雇え。

神聖魔法をチラつかせればいくらでも釣れるだろう?



冒険者が釣れないだと?

何故だ?

何故釣れない?


何故そこで黙る?



◇ ◇ ◇ ◇



最近のミリトス教会の治癒は効かない。

信じられないほど効かない。


それは冒険者だけでなく、商人・職人の間の共通認識になっていた。


曰く、


「今までだってパリッと効いた訳じゃねぇ。だがよぅ。最近よぅ、気休め程度に効いてた初級魔法のヒールがよぅ、全然効かねんだよぅ」


「あいつら簡単な止血もできないんだ。布を当てて押さえていた方がマシだよ」


「ヒール程度が使えないんじゃ、ハイヒールやキュアなんて使えるわけないよ」


「いよいよ教会も駄目だな」




ミリトス教会の治癒魔法が駄目になった理由は簡単だった。

呪いの “散らし” が地味に効いているのだった。

自分たちが美島を呪うことを止めれば呪いの散らしも止まるが、そこは疑心暗鬼と執拗さが売りの教会様。


美島は死んだと発表され、王宮が死体を確認して荼毘に付したと発表されたが、自分たちの目で確認できなかったので呪いを止める事ができない。

止めたら上から何を言われるかわからない。

疑心暗鬼と執拗さは、身内に対する方が苛烈だ。


今、ミリトス教会の治癒士は揃って無力化している。

そしてそれを上に報告できない。

信仰を疑われるから。


治癒を施した商人・職人に「効かない」と言われると、烈火のごとく怒る。

認めてしまうとミリトス教会の権威に傷が付き、カネが入らなくなるから。

地位を失うから。


こんな治癒士をだれが求めるのか。

そして誰もミリトス教会を頼らなくなり、教会は財政的に傾き始めていた。


こんな教会が王都アノールおよびメッサーの街で冒険者を募っても、報酬を踏み倒すと思われて、応じる者は一人もいないのは当然だった。



◇ ◇ ◇ ◇



フリット大司教が冒険者ギルドを訪問した。


「これは大司教猊下、こんなむさ苦しい事務所へようこそお越し下さいました」

「王宮から預かった勇者が3人おったろう。出して貰おう」


ギルド長は壁の告示を指差す。


*************************************

メッサー迷宮第2層に挑戦中のレイ、マキ、ユミのパーティが消息を絶った。

情報を求む。

*************************************


「なに・・・」

「戻らないのです」

「まさか逃亡したのか」

「ダンジョンに潜った記録はありますが、出た記録がありません」

「人知れず抜け出たのでは無いか?」

「可能性はゼロではありませんが彼女らはE級です。 まず無理でしょう」

「その方らが逃がしたのではあるまいな」

「・・・」


「このギルドに闇治癒士がいるという噂があるが」

「そのような者はおりません」

「そうかな。証言者もいると聞いておるぞ」

「ほほう。 実は私も不思議な噂を聞いております」

「なに」

「大司教猊下が闇治癒士を飼っておられると」

「嘘を申すな。不敬だぞ」

「なんでしたら証言者でこの部屋をいっぱいにして差し上げますが?」

「貴様・・・」

「私はそのような噂を信じてはおりません。ですが人の口に戸は立てられません」



フリット大司教は無言で帰って行った。


大司教は余計なことを言わず、単に「B級冒険者パーティを紹介してくれ」とだけ言えば、冒険者ギルドも断れなかっただろう。

余計なことを言ったので、冒険者ギルドも簡単に追い返すことができた。


大司教も自分の失敗をわかっていた。

常に他人に難癖を付け “みやげ” を要求するタカリの性癖が抜けないのだ。




冒険者ギルドの協力を得られなかった教会は、他国出身で、教会の借金漬けになっている冒険者を招集した。

教会に現れたのは、リュケア公国出身のB級冒険者パーティ『紅の牙』と、C級冒険者パーティ『炎の盾』だった。


2パーティがメッサーのダンジョンに潜り始めた。



5日後。

『紅の牙』のリーダーが報告した。


「お探しの冒険者はダンジョンの中にはいません」


翌日『紅の牙』と『炎の盾』に対して新たなクエストが発注された。


「冒険者レイ、マキ、ユミの3名を見つけ出し、殺せ」



◇ ◇ ◇ ◇



『紅の牙』のリーダーと『炎の盾』のリーダーが額を寄せ合って相談していた。


「公然と殺人のクエストをしてくるとは驚いた」

「なに、対象はE級でしょう? チョロいもんですよ」

「だが悪魔の証明になりかねぬぞ」

「なんですそれ??」


『炎の盾』のリーダーは悪魔の証明を知らなかった。


「3人が本当に生きているのか、わからんということさ」

「既に死んでたら手を汚さずに済むじゃないですか」

「死体があれば良いのだが・・・」

「ふむ。死体が無かったらどうなるんです?」

「そこさ。 教会は絶対に納得しないだろうなぁ」

「あー」

「その時は似た女を3人物色して殺して持ち帰るか?」

「あー」


「もし生きていたなら、お前ならどっちへ逃げると思う」

「南ですね。西と北はE級には難しいです」

「そうだな」


10日遅れで追跡が始まった。



◇ ◇ ◇ ◇



乗合馬車はイプシロンに着いた。


神聖ミリトス王国第2の都市。イプシロン。

ここには何でもある。

乗合馬車ターミナル、冒険者ギルド、商業ギルド、大衆食堂、酒場、宿屋、娼館、食料品店、武器屋、鍛冶屋、アイテム屋、衣料品店、教会・・・


だが私たちは目立ちたくないので4人+1匹まとめて街に入らない。

宿屋にも泊まらない。


私だけ街に入る。

入る前に変装もする。

被り物で髪を隠し、旅の間に生えた無精ひげを整えてそれらしくし、口に綿を詰めた。


レイ、マキ、ユミ、マロンは今日のキャンプ地選定。


私は冒険者ギルドにも寄らない。

商店にも寄らない。

街角に立って通行人や露店を鑑定する。


よそ者(イプシロンの住民ではない)の行商人を選別。

そこから保存食(干し肉やビスケット類)と夕食の食材を調達する。


最低限の必需品を調達したらすぐに街の外に出る。

レイたちが、街からほどよく離れ、街道からも離れ、火をおこしても目立たない場所をキャンプ地として選んでおいてくれる。


背負い袋から桶を出し、レイが水を貯め、ユミが暖める。

順番に髪を洗い、体を拭き、着替える。

火をおこし、背負い袋から鍋を出して本日の夕食。寄せ鍋。

夕食後は火を消す。


季節は春から夏に向かっているので、夜は多少ひんやりするが、耐えられないほどじゃない。

そして交代で不寝番。


メンバー全員が健康体で隙を見せず、静かにしていれば魔物も襲ってこないことがわかった。

野宿にも大分慣れてきた。




翌朝。

イプシロン発ミューロン方面行きの乗合馬車に乗る。


ミューロンはミューロン川の河口にある国境の街で、今回の逃避行の鍵となる街だ。

そこまで直接行ければ良いのだが、途中『岩の森』という難所があり、馬車で通過できるかどうかは行ってみないとわからない。

従って乗合馬車は


「行けるところまで行く。駄目な時は引き返す。引き返す分の運賃は頂きません」


という約束で運行されていた。


祈るような気持ちで馬車に乗った。



◇ ◇ ◇ ◇



教会のクエストを受けた『紅の牙』と『炎の盾』がイプシロンに着いたのは、ビトー達が出発した6日後だった。


彼らはミリトス教会から馬を貸し与えられており、移動は馬車より速い。

王都アノールからイプシロンまでの行程で4日詰めていた。


早速イプシロンで情報収集を開始した。


まずは冒険者ギルドで情報収集。

しかしメッサーの冒険者ギルドから「ミリトス教会が良からぬ事を企み、他国の冒険者を雇って怪しいことをしている」と地下の回状が回っており、何の情報も得られなかった。


商店(武器・アイテム・食料)で情報収集。

女3人組の情報無し。


冒険者がよく使う安宿で情報収集。

女3人組の情報無し。


冒険者がよく使う大衆食堂で情報収集。

女3人組の情報無し。


冒険者がよく使う大衆酒場で情報収集。

女3人組の情報無し。


念のためイプシロンの街のミリトス教会は・・・

当然情報無し。


女3人のパーティは目立つはずなのに、情報が無い。

イプシロンに来なかったのか。



そう思い始めたとき、『紅の牙』の斥候がイプシロン郊外で野営の跡を見つけた。

これがターゲットかどうかはわからない。

だが他に手がかりがない。

これが正しい手がかりと仮定すると、ターゲットはミューロンに向かうだろう。

今はこれをたどろう。



ミリトス教会へ要請し、新しい馬を調達。


ここからは二手に分かれる。

紅の牙は街道を進みつつ、野営の跡を探しながら追跡する。

炎の盾は一気にミューロンに先回りし、ミューロンの街で待ち構える。


間違っても岩の森には入るな。



『紅の牙』と『炎の盾』はビトー達から7日遅れでイプシロンを出発した。




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