034話 (閑話)勇者たち4
日下大、久米倫太郎、道端レイコ、山前仁、山崎香奈子、村上凛。
いわゆる日下グループと呼ばれる者たち。
財前グループは全員死亡し、香取グループは追放され、邪魔者がいなくなって我が世の春を謳歌しているかと思いきや、逆に士気が振るわないこと甚だしかった。
ここに来て、ようやく自分達が標準を遥かに下回る力しか持っていない、箸にも棒にもかからない底辺であることに気づき始めたのだった。
ミリトス教司祭による魔法訓練は
「教えることは全て教えた。あとは彼ら次第だ」
と言われ、終了している。
もちろん実戦で使える魔法にはほど遠い。
日常生活にも支障を来すレベル。
これから各自訓練をしなければならない。
ちなみに
騎士団による剣士としての適性判断が行われたが、合格者はゼロ。
騎士団による槍士としての適性判断が行われたが、合格者はゼロ。
騎士団による弓士としての適性判断が行われたが、合格者はゼロ。
なぜか本人達の猛烈な抵抗で、斥候という選択肢はなかった。
結局日下グループは全員魔法使いとして鍛えられることになった。
適性は、日下大=火、久米倫太郎=土、道端レイコ=風、山前仁=土、山崎香奈子=水、村上凛=風。
王宮からすれば、あとは残った勇者を魔法使いとして鍛えるだけである。
元々持っている適正だけで無く、とにかく何でも良い。競い合って憶えよ。
特に神聖魔法を憶えるよう勧められた。
教育が始まって間もなく教師役の騎士団員の嘆きが聞こえ始めた。
「なぜあいつらは集団にならないと訓練ができないのだ?」
「わかりません。私も困っております」
「うむ。火と水ではイメージも呪文も全く異なるだろう」
「そうです。関係ない連中はただ見ているだけです」
「新しい魔法を憶えようとしているのか?」
「いいえ。まだ魔力の集中すら覚束ないのですから、適性の無い魔法を憶えようとしていたら馬鹿です」
「普通はそうなのだが、連中に限っては我々の常識が通用しない気がしてな」
「わかります。なにしろ小便も一人で出来ないような連中ですので」
「なにっ! そうなのか? 男と女で一緒に用を足すのか?!」
「いや、さすがに男同士、女同士です」
「そうか・・・ いや、少し安心したぞ。奴らならあり得ると思ってしまった」
「わかります。ああ・・・さすがに大便は別々にしていますよ」
「そうか。かなり安心したぞ」
後日。
「ようやく連中も初歩の魔法が使えるようになってきたな」
「ええ・・ え~と」
「どうした? 何かおかしいか?」
「ご存じありませんか?」
「知らん。なんだ?」
「連中に魔石を持たせています」
「・・・」
「全員に属性の魔石を持たせています」
「あの魔法は・・・」
「もちろん魔石の魔法です」
「・・・」
「・・・」
「なぜそんなことをする」
「やる気を引き出すためです」
「言っている意味がわからん」
「連中は1ヶ月も励んで全く魔法を使えるようになりませんでした」
「そうなのか」
「全く進歩しないので訓練をサボるようになりました」
「そんなもん、ぶん殴って義務を遂行させれば良いでは無いか」
「ヨーゼフ様がそうされたのですが・・・」
「国務大臣自らか!」
「よほど腹に据えかねたようです」
「うむ。それで改善したのか?」
「いえ・・・」
「どうした? なにがあった?」
「その・・・ 誰に説明しても伝わらないのですが・・・」
「なんだ。ありのままを話してくれ」
「はい。連中は金切り声を上げながら地面を転げ回りました」
「・・・うん?」
「意味不明の金切り声を上げ続け、涙とヨダレと鼻汁をタレ流しながら地面を転がり続けました」
「まさか悪魔憑きかっ!!!」
「すぐに鑑定致しましたが、悪魔は憑いておりませんでした」
「ではなにが憑いたのだ?」
「何も憑いておりません」
「?」
「それが連中の『素』の状態だと言うことです」
「・・・」
「ヨーゼフ様は連中を気味悪がってしまい、その後、進捗会議にお見えになることはなくなってしまわれました」
「俺も気持ち悪い。何が何だかわからん。わからないことが恐ろしい」
「でしょう? 誰に説明しても伝わらないのです」
「我が国に高名な人類学者がいるだろう。彼の意見を聞きたいところだ」
「聞きました。先生の御意見では、身体が虚弱な種族や精神が未発達な種族が、到底抗えない相手と相対したとき、自分を無害に見せるために狂人のふりをしたり、死んだふりをすることがあるそうです。おそらくそうではないかと」
「そうか。専門家なら理屈は付くのか。少しは安心したぞ」
「私も安心しました」
「・・・だがな。さっき見たときは、いっぱしの魔法使い気取りで『魔力を動かすには』とか『火玉のコントロールが』とか、偉そうに語っていたぞ」
「はい。ですので結局良くわからないのです」
「で、どうなのだ? 今の精神状態を維持できるのか?」
「え~と、魔石に魔力が残っているウチは大丈夫です」
「どういうことだ?」
「魔石がカラになるとしゃがみ込んで一言もしゃべりません」
「・・・やっぱり気味が悪いな。俺帰る」
「あっ! 待って!」
「放せっ! 俺は急用があるんだっ!」
「逃がしませんよ!」
「あ~~~ わ~~~ あばばばばば・・・・」
「狂人のフリをしたって駄目ですからね。もう古いですよ」
「頼む。見逃してくれっ!」
「ふっふっふ。もう上司にも連絡済みですからね。諦めて下さい」
「鬼っ! 悪魔っ!!」
「はいはい。おとなしくお役目について下さいね」
異世界召喚小説は隆盛を極めています。
作者が工夫を凝らし、魅力を引き出しています。
数多の面白い作品があります。
でも時折考え込みます。
悩みは次に集約されると思われます。
時空を越えて人間を召喚する技術、エネルギーは何か
かくも高い技術を持つ世界へ召喚されたはずなのに、召喚された先の技術レベルが中世ヨーロッパというのはいかがなものか
そもそも高い召喚技術を持つのなら、その道のエキスパート(塚原高幹とか、長尾景虎とか、村田蔵六とか、ゴルゴ13とか)を選別して召喚すれば良いではないか。なにゆえショーモナイ者を召喚し、成長を待つのか
魔法とは何か。そのエネルギー源は何か
しばしば○○神や○○女神が出てくる。人間を超越した者がいるなら、彼ら彼女らが魔王をぶっ殺せば良いではないか
召喚先は地球か? 異世界人と召喚された人間が、生物学的には変わりないように描かれているので、召喚先は地球であるはず。ということはパラレルワールドか
日本人が召喚された場合、その矮小な体格から、どれほど研鑽を積んでも非常識な膂力を誇る大勇者になれない。(塚原高幹、上泉秀綱、柳生厳包などという歴史上ほんの数名の偉人は横に置く。平均的な日本人の話である)
各国の騎士団が冒険者より圧倒的に弱い設定が多いが、その時点で騎士団は不要だと思うのだが・・・
そもそも異世界という時点で大虚構なのですが、そこは目をつぶり、こんなところの折り合いを付けて、違和感の少ない物語を組み立てることはできないでしょうか。
しかし、ただの違和感の無い物語では魅力に欠けること甚だしい。
日常からかけ離れた話だからこそ魅力があるのです。
と右往左往していました。
ですが、徐々に虚構の方へ片寄ってしまいます。
虚構は極力召喚した側の人に受け持って貰いたいと思います。




