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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
34/302

034話 (閑話)勇者たち4

日下大、久米倫太郎、道端レイコ、山前仁、山崎香奈子、村上凛。

いわゆる日下グループと呼ばれる者たち。


財前グループは全員死亡し、香取グループは追放され、邪魔者がいなくなって我が世の春を謳歌しているかと思いきや、逆に士気が振るわないこと甚だしかった。


ここに来て、ようやく自分達が標準を遥かに下回る力しか持っていない、箸にも棒にもかからない底辺であることに気づき始めたのだった。



ミリトス教司祭による魔法訓練は


「教えることは全て教えた。あとは彼ら次第だ」


と言われ、終了している。



もちろん実戦で使える魔法にはほど遠い。

日常生活にも支障を来すレベル。


これから各自訓練をしなければならない。



ちなみに


騎士団による剣士としての適性判断が行われたが、合格者はゼロ。

騎士団による槍士としての適性判断が行われたが、合格者はゼロ。

騎士団による弓士としての適性判断が行われたが、合格者はゼロ。


なぜか本人達の猛烈な抵抗で、斥候という選択肢はなかった。


結局日下グループは全員魔法使いとして鍛えられることになった。


適性は、日下大=火、久米倫太郎=土、道端レイコ=風、山前仁=土、山崎香奈子=水、村上凛=風。


王宮からすれば、あとは残った勇者を魔法使いとして鍛えるだけである。

元々持っている適正だけで無く、とにかく何でも良い。競い合って憶えよ。


特に神聖魔法を憶えるよう勧められた。




教育が始まって間もなく教師役の騎士団員の嘆きが聞こえ始めた。


「なぜあいつらは集団にならないと訓練ができないのだ?」

「わかりません。私も困っております」

「うむ。火と水ではイメージも呪文も全く異なるだろう」

「そうです。関係ない連中はただ見ているだけです」

「新しい魔法を憶えようとしているのか?」

「いいえ。まだ魔力の集中すら覚束ないのですから、適性の無い魔法を憶えようとしていたら馬鹿です」

「普通はそうなのだが、連中に限っては我々の常識が通用しない気がしてな」

「わかります。なにしろ小便も一人で出来ないような連中ですので」

「なにっ! そうなのか? 男と女で一緒に用を足すのか?!」

「いや、さすがに男同士、女同士です」

「そうか・・・ いや、少し安心したぞ。奴らならあり得ると思ってしまった」

「わかります。ああ・・・さすがに大便は別々にしていますよ」

「そうか。かなり安心したぞ」



後日。



「ようやく連中も初歩の魔法が使えるようになってきたな」

「ええ・・ え~と」

「どうした? 何かおかしいか?」

「ご存じありませんか?」

「知らん。なんだ?」

「連中に魔石を持たせています」

「・・・」

「全員に属性の魔石を持たせています」

「あの魔法は・・・」

「もちろん魔石の魔法です」

「・・・」

「・・・」


「なぜそんなことをする」

「やる気を引き出すためです」

「言っている意味がわからん」

「連中は1ヶ月も励んで全く魔法を使えるようになりませんでした」

「そうなのか」

「全く進歩しないので訓練をサボるようになりました」

「そんなもん、ぶん殴って義務を遂行させれば良いでは無いか」

「ヨーゼフ様がそうされたのですが・・・」

「国務大臣自らか!」

「よほど腹に据えかねたようです」

「うむ。それで改善したのか?」

「いえ・・・」

「どうした? なにがあった?」

「その・・・ 誰に説明しても伝わらないのですが・・・」

「なんだ。ありのままを話してくれ」

「はい。連中は金切り声を上げながら地面を転げ回りました」

「・・・うん?」

「意味不明の金切り声を上げ続け、涙とヨダレと鼻汁をタレ流しながら地面を転がり続けました」

「まさか悪魔憑きかっ!!!」

「すぐに鑑定致しましたが、悪魔は憑いておりませんでした」

「ではなにが憑いたのだ?」

「何も憑いておりません」

「?」

「それが連中の『素』の状態だと言うことです」

「・・・」


「ヨーゼフ様は連中を気味悪がってしまい、その後、進捗会議にお見えになることはなくなってしまわれました」

「俺も気持ち悪い。何が何だかわからん。わからないことが恐ろしい」

「でしょう? 誰に説明しても伝わらないのです」



「我が国に高名な人類学者がいるだろう。彼の意見を聞きたいところだ」

「聞きました。先生の御意見では、身体が虚弱な種族や精神が未発達な種族が、到底抗えない相手と相対したとき、自分を無害に見せるために狂人のふりをしたり、死んだふりをすることがあるそうです。おそらくそうではないかと」

「そうか。専門家なら理屈は付くのか。少しは安心したぞ」

「私も安心しました」

「・・・だがな。さっき見たときは、いっぱしの魔法使い気取りで『魔力を動かすには』とか『火玉のコントロールが』とか、偉そうに語っていたぞ」

「はい。ですので結局良くわからないのです」


「で、どうなのだ? 今の精神状態を維持できるのか?」

「え~と、魔石に魔力が残っているウチは大丈夫です」

「どういうことだ?」

「魔石がカラになるとしゃがみ込んで一言もしゃべりません」

「・・・やっぱり気味が悪いな。俺帰る」

「あっ! 待って!」

「放せっ! 俺は急用があるんだっ!」

「逃がしませんよ!」


「あ~~~ わ~~~ あばばばばば・・・・」


「狂人のフリをしたって駄目ですからね。もう古いですよ」

「頼む。見逃してくれっ!」

「ふっふっふ。もう上司にも連絡済みですからね。諦めて下さい」

「鬼っ! 悪魔っ!!」

「はいはい。おとなしくお役目について下さいね」





異世界召喚小説は隆盛を極めています。

作者が工夫を凝らし、魅力を引き出しています。

数多の面白い作品があります。


でも時折考え込みます。

悩みは次に集約されると思われます。


時空を越えて人間を召喚する技術、エネルギーは何か


かくも高い技術を持つ世界へ召喚されたはずなのに、召喚された先の技術レベルが中世ヨーロッパというのはいかがなものか


そもそも高い召喚技術を持つのなら、その道のエキスパート(塚原高幹とか、長尾景虎とか、村田蔵六とか、ゴルゴ13とか)を選別して召喚すれば良いではないか。なにゆえショーモナイ者を召喚し、成長を待つのか


魔法とは何か。そのエネルギー源は何か


しばしば○○神や○○女神が出てくる。人間を超越した者がいるなら、彼ら彼女らが魔王をぶっ殺せば良いではないか


召喚先は地球か? 異世界人と召喚された人間が、生物学的には変わりないように描かれているので、召喚先は地球であるはず。ということはパラレルワールドか


日本人が召喚された場合、その矮小な体格から、どれほど研鑽を積んでも非常識な膂力を誇る大勇者になれない。(塚原高幹、上泉秀綱、柳生厳包などという歴史上ほんの数名の偉人は横に置く。平均的な日本人の話である)


各国の騎士団が冒険者より圧倒的に弱い設定が多いが、その時点で騎士団は不要だと思うのだが・・・


そもそも異世界という時点で大虚構なのですが、そこは目をつぶり、こんなところの折り合いを付けて、違和感の少ない物語を組み立てることはできないでしょうか。

しかし、ただの違和感の無い物語では魅力に欠けること甚だしい。

日常からかけ離れた話だからこそ魅力があるのです。


と右往左往していました。

ですが、徐々に虚構の方へ片寄ってしまいます。

虚構は極力召喚した側の人に受け持って貰いたいと思います。



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