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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
24 メルヴィル怒濤編
301/302

301話 メルヴィル5年目(夏・ピレ戦1)


王都騎士団に守られるように、私とソフィーとユミとネロが部隊の中心部にいる。

アルは私の肩の上。

重い・・・


部隊は王都ジルゴンを出発し、西へ向かっている。

ソフィーは剣士の出で立ちで通常の地味なローブを羽織っている。

ユミは魔法使いの格好。頭からローブを被っており、男女の見分けが付かない。

私は斥候の装備でいるが、深紅のローブを纏っている。

これはエンシェントリザードの皮で作られた毒無効のローブで、普段はソフィーが羽織っているが、今日は私が羽織っている。

非常に目立つ。


あえて私を目立たせ、ソフィーとユミを目立たせぬようにしている。


3人と2匹の周囲に展開しているのは王都騎士団。

指揮しているのはエドモンド隊長。伯爵の爵位持ち。



エドモンド隊が派遣されるのはサーディンヴィル方面。

騎兵200騎。

私の肩書きは「参謀」だが、必要とされているのは治癒士としての能力。




エドモンド隊長に作戦の概要を聞いた。

まずジルゴンから一気に西へ向かい、ピレの街に入る。

ピレは国内の西端に位置し、ブリサニア王国内から聖ソフィア公国へ抜ける街道沿いの国境の街。


ピレを作戦行動の本拠地とする。

ピレから徐々に北へ勢力を広げ、サーディンヴィルへ達することを目的とする。

非常に大雑把な計画だ。

もう少し、いやもっともっと詳細を詰めて欲しい。


ということで行軍しながら質疑が始まった。



「ピレを活動の中心に据えると言うことは、ピレ周辺には食糧が豊富にあると期待できますね」


「いや・・・ 不作という話は入っていないが・・・」


「ひょっとしてピレを下見されたことは」


「いや・・・」


「以前私はピレの街を見たことがあります。小さな田舎町です。街を取り囲む城壁も薄く、低い。まず城壁を拡充するところから始めないと、閣下の宸襟を騒がしかねないと存じます」


「そうか・・・」




「中隊の活動期間は決まっておりますか?」


「サーディンヴィルを墜とすまでだ」


「それは最終目標かと。この夏はそこまで行かぬでしょう?」


「いや、そんなことはない。途中には墜とさねばならぬ砦も街も無いのだぞ。直進するだけだ」


「逆に我々が使う前進基地がありません」


「それが必要か?」


「はい。ピレから前進すると我々は敵の海の中に孤立しますので、睡眠、休憩を取る砦が必要になります。閣下には常に頭脳明晰でいてもらわねばなりませぬ」


「ふん」




どうやら面白くないらしい。

ピレ到着後、軍議に呼ばれなくなったので自分からは関わらないようにした。



「いいのかそれで?」 とソフィー。


「良くはないですね」



ということで、軍議に出席する連中の副官の顔を見た。

すると王立高等学院時代に見知った顔がいた。

学院の警備隊だった人。


ピレの街に到着後、その夜は彼が非番であることを確認し、ピレの酒場に誘った。



酒場に入るとちょっと驚いた。


客はまばら。

と言うか王都騎士団がチラホラいるくらい。

地元の人間が一人もいない。


マスターは目ん玉が飛び出るほど痩せている。


酒は・・・ 1種類。エールのみ。

それも一人1杯のみ。

肴は? 無い? 入荷待ち、と。


どうやらしばらく営業していなかったらしく、テーブルに厚くホコリが積もっている。


私の背負い袋に入っていた干し肉を肴に一杯やり始めた。



「いやー、懐かしい」


「その節はお世話になりました」


「あれほど優秀な生徒がすぐにいなくなって(卒業して)しまったから寂しかったよ。というか子爵様だったのですね」


「よして下さいよ。子爵の責を負わされたのはあの後です」


「優秀な人は大変だ」


「またまた~ マリオ殿も優秀ですからこんな大変なお役目を背負わされて」


「いや、まったくだ」



それから軍議の様子を聞いた。



「いつのまにか卿が軍議に呼ばれなくなったので不思議だったのだ」


「わたしは騎士団勤務の経験もないですから。軍議に呼ぶにはちと力不足と判断されても仕方ないですね~」


「そうか? そうは思えんがなぁ」



それから軍議の内容を教えて貰った。


ここ(ピレ)で軍糧を調達する予定だったが、到着してみたら昨年から続く不作の影響でピレの街には全く食糧が無いという。

そこで既に王都から食糧を輸送するよう伝書鳥を飛ばした。

軍糧が到着したら北進を開始する。

2日後には到着するだろう。



「ピレの街の城壁、どう思います?」


「低いよなぁ。まっ、辺境の街ではこんなもんだがな」


「北進を開始するときはここに守備隊を残していくのですか?」


「ああ。予備隊として1個小隊50名を残す予定だ。どうやら卿が予備隊を任せられるらしいが聞いてるかい?」


「今聞きました(笑)」


「なんかおかしいよなぁ。だいたい卿がどうしても必要だから無理言って来てもらったと聞いていたのに、なんで本隊と行動を共にしないのかなぁ」



ピレの街を見て回ったが、前回訪れたときよりはるかにうらぶれている。

そもそも住民の姿を見ない。

廃屋が目立つ。

どうすればこうなるのだろう?



◇ ◇ ◇ ◇



軍糧は届かなかった。



軍糧が届かない。

エドモンド隊長が伝書鳥を飛ばして王都に督促をしたが、その返事も来ない。

ピレの街には食糧が全くない。

このまま駐留し続けると飢えることになる。

早く動いた方が良い。


ということで急遽軍議を開き(今回は私も呼ばれた)、エドモンド隊長が本体を率いて輸送隊を迎えに行き、私が予備隊を預かりピレを守備することになった。



本隊が出陣していった。




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