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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
01 異世界召喚編
3/243

003話 召喚された者たち

召喚された我々の能力を見極める鑑定が始まった。


高校生15名。


財前蒼太

鯨井尚子

浅見エリカ

金田剛

朝倉エマ

日下大

久米倫太郎

道端レイコ

山前仁

山崎香奈子

村上凛

香取麗華

田宮マキ

及川由美

美島鋼生


案内係が一人一人王の御前に連れ出し、姓名を紹介し、法衣をまとった聖職者(フース司教と紹介された)に鑑定されることになった。

最初に鑑定されたのは鯨井という女子生徒だった。

彼女は既に勇者としての自覚を持っているようで、意気揚々と王の前に出ると一礼し、フース司教の魔法で鑑定された。


「彼女は水魔法を扱えますぞ!」


司教がアクリル板のようなものを見ながら高らかに奏上すると、周囲から


「おおっ!」

「これは期待が持てますな!」


と歓喜の声が上がる。

続いてフース司教が彼女の能力を読み上げていく。


【名前】鯨井尚子

【種族】人間族

【状態】健康

【年齢】16歳

【HP】35/35

【MP】20/20

【STR】20

【INT】30

【AGI】35

【LUK】-

【魔法】水1


各項目はおおよそこんな意味だそうだ。


HP:体力(持久力、耐久力と思えば良い)

MP:魔力(魔法を扱う体力と思えば良い)

STR:筋力(武器を扱う腕力・瞬発力と思えば良い)

INT:知力(IQ。新しい魔法を憶える早さ。新しい武器に慣れる早さ)

AGI:瞬発力(身のこなし。攻撃の回避。武器を振る早さ。魔法を放つ早さ)

LUK:運の良さ

魔法:扱える魔法名とそのレベル。レベルは数字が大きくなると習熟度が増す


その類いのゲームをやり慣れている人にとっては馴染みがあるそうだが、私はゲームに詳しくないので分からなかった。


一番驚いたのが運の良さを測れること。

LUKは「-/低/中/高/豪」で計ることができる。

鯨井本人が尋ねていたのを横から聞いて知ったのだが、運が良いとはダンジョンなどの探索時に宝箱を見つけやすい、良いアイテムを引き当てやすい、ということではないらしい。

最初は誰でもがそう思うらしいが、実は宝箱は運に左右されるものでは無い。ある程度法則があるとのこと。

鯨井という女子生徒のLUKは(-)で、『運無し』らしい。

神の恩寵と無縁、という意味。

神の恩寵と言われてもピンと来なかった。

私はこのときは気付いていなかったが、後で大変なことだと知った。


この世界ではLUKが無いとあらゆる場面で人生ハードモードになり、大変生き辛い。

この世界では輪廻転生が信じられており、前世で重い犯罪(殺人、強盗、強姦など)を犯すと転生時にLUKが無くなることが広く知られている。

前世の悪行を知る魔法もある。

我々の場合は召喚なので転生と違うのではないか?と思ったのだが、関連はあると言われた。

周囲にLUK(-)が知られると第三者の協力が得られなくなり、いじめや嫌がらせの対象になるようだ。

どこまで信じて良いのだろう?


ところでこの鯨井という女子生徒の鑑定結果はどうなのだろう。

勇者としての能力を持っているのだろうか。

それとも勇者の片鱗を見せているのだろうか。


王は表情を変えない。

ヨーゼフ国務長官は呆然としているように見える。

女神はよそ見をしている。まともに鯨井という女子生徒を見ていない。

教会関係者一同顔色が無い。

鑑定者であるフース司教は何故か慌てたように、


「もう一度鑑定します。お待ちください」


と言って再度鑑定を行った。

関係結果は変わらなかった。


「フース司教、これは一体どういうことか」

「鑑定結果は変わりません・・・ この通りかと」


我に返ったヨーゼフ国務長官がフース司教を問い詰めると、フース司教も諦めたような回答を返す。

どうやら鯨井という女子生徒は、勇者としての期待値に届いていないらしい。


「ちょっと! どういうこと! あんた責任取りなさいよ!」

「なに黙ってるのよ! あんたのせいでしょ! 何か言いなさいよ!」


異変を察知した彼女はフース司教に向かってくってかかっていたが、屈強な護衛騎士に腕をねじり上げられ、我々勇者(?)の列に引き摺られてきた。

よく考えたら、勇者としての力を備えているなら護衛騎士に力負けしないだろうし、魔法で護衛騎士を弾き飛ばすこともできるだろう。

ああこの瞬間がニセ勇者だね、と納得してしまった。



2人目は財前という男子生徒だった。

彼は自分が勇者では無い可能性に気付いたようで、


「おい! 気軽に俺に触れるな! 下衆どもめ! 勝手に俺を鑑定するな!」

「ふざけるな! 親父に言いつけてやる! おまえらみんな破滅させてやる!」

「おい! 聞いてるのか! てめえ!」


財前は両手を振り回して案内係を振り払い、叫び続けた。

フース司教が目配せをすると護衛騎士が彼を取り囲み、3度ほど鈍い音が聞こえた。すると彼は急に腹をおさえて蹲った後、おとなしくなって鑑定されていた。

財前は火魔法を使えるらしい。

だがフース司教が読み上げる彼の能力を聞くと、鯨井という女子生徒と殆ど変わりなかった。

そしてやはりLUKが無かった。


にわかに暗雲が立ちこめてきた。


やっと漕ぎ着けたお客様に製品をお渡しする日の朝に、員数が足りないことに気付いたような気分。



3人目は日下という男子生徒だった。

彼は人権真理教徒だった。


「君たち、何の権利を持って僕を鑑定するのだ?」

「僕の人権をなんだと思っている? そんなことが許されると思っているのか? 僕は許可していないぞ」

「いい加減に目を覚ましたまえ。君たちは僕の人権を踏みにじっているのだぞ」

「人権が・・・ おい、聞いているのか? 人権だぞ! じんけ・・・」


人権様は相手の心に響かなかった。

彼も火魔法の素質があるらしい。

フース司教が読み上げる彼の能力を聞くと、鯨井という女子生徒よりちょっとだけ良いらしい。

しかも彼はLUKを持っていた。


【名前】日下大

【種族】人間族

【状態】健康

【年齢】16歳

【HP】45/45

【MP】20/20

【STR】25

【INT】35

【AGI】40

【LUK】低

【魔法】火1


よし、このまま風向きが変わってくれ。

そう強く願いながら王宮関係者と教会関係者を見ると・・・

王はやはり表情を変えない。

ヨーゼフ国務長官はしらけ始めているように見える。

女神は天井を向いている。既に関心を失っているらしい。

教会関係者は脂汗をかき始めているようだ。


フース司教は諦めたような感じで鑑定を続けている。

この程度の能力では箸にも棒にも掛からぬらしい。

とりあえず勇者たちの資質は横に置き、作業としての鑑定はおおむね順調に進んでいた。

フース司教は、


「彼は火魔法を扱えますぞ」

「彼女は水魔法を扱えますぞ」


と奏上するが、それに付随する勇者の能力は誰も彼も代わり映え無く、しらけた空気のまま静かに鑑定は進んでいった。



非常にまずい。

これはよくある異世界転生譚とは違う。

王が辞を低くして勇者に魔王退治を依頼する物語ではない。

召喚してみたら勇者は勇者では無く、ゴミでしたという話。

我々はどうなるのだろう。

下手すれば殺処分だ。


だが、誰もがそんな空気を読める訳ではない。

歓迎されていない空気に反抗的になったのか、鑑定される側にふてぶてしい者が出てきた。


金田という男子生徒は火魔法が使えることがわかると、


「おお、俺火魔法使えるぜ。やったぜ。これで褒美は俺のもんだ」

「おっさん、困ってんなら俺の力で助けてやっからよ。待遇は最高のもん用意しとけよ。あとその辺(女官を指差して)も2~3人頼むぜ」

「それからスマホ繋がらねーんだけど。エリアぐらい用意しとけっつーんだよ。つっかえねーな」


と言い捨てて勇者の元へ合流していた。

王宮関係者はもちろん、さすがの教会関係者も表情を消して彼を見送った。


鑑定結果を伝えるフース司教の声のトーンがだんだん落ちてくる。

教会関係者、王、宮廷関係者は無表情に我々を見ている。

残すはあと4人。

あきらかにやばい雰囲気。

だがこの状況をどうひっくり返せば良いかわからない。


最後に私の番が来た。

王の前に連れ出され、紹介され、鑑定を受ける。

しかし鑑定結果を見たフース司教は黙ってしまった。

私には奏上するような能力すら無かったらしい。

教会関係者が集まってきた。

やばい。


「どうかしたのか? 司教」


私の鑑定結果を見た教会関係者も黙っている。


やばい。やばい。やばい。


額から汗が吹き出るのがわかる。


ここで、それまで動きを見せなかったマルクス宰相が近づいてきた。


「神聖魔法・・・」


宰相の言葉が漏れ聞こえた。


「おお・・・」

「なんと・・・」


王とヨーゼフ国務長官が今日初めて湧いた。


ところが女神と教会関係者は能面のような顔をしている。

私は有能なのか? 無能なのか?


非常にやばい・・・ 

宮廷関係者が面白がっている感じがする。

だが教会関係者からは殺意のこもった視線を感じる。

憎しみさえ感じられる。

私は殺されるのか。



私は元の世界における仕事上の一場面を思い出していた。

社長や親方、あるいは取引先の役員から一度「こうする」という方針が示された場合、それを覆すのは困難だ。よほどの確信と数字の裏付けがないと覆せない。

そして、覆せたとしても良い結果には繋がらない。


相手は王か女神である。

一度王か女神の口から殺処分の命が発せられたら、それを覆すことはできない。

先手を打たねばならない。


とっさに王に向かって片膝をつき、胸に手を当て、視線は王の足元に固定。

そしてありったけの敬意を込めて、


「本日は陛下の御尊顔を拝し奉り、恐懼の極みに存じます。浅学非才の身ではありますが、陛下の御ためになりますよう、微力を尽くします・・・」


変な尊敬語・謙譲語だったかも知れない。

だが迷っている暇は無かった。


「ほぉ・・・」と感心したような声が聞こえた。

どうやら始末されずに済みそうだ。



「ぎゃはははは なにそれ だっさーー」

「バッカじゃねーー」


勇者たちの間から頭の悪そうな声が聞こえた。



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