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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
24 メルヴィル怒濤編
291/302

291話 メルヴィル5年目(晩秋)

誤字のご指摘ありがとうございます。

助かりました。



< ジルゴン王宮の一文官(実はアルマ)の独り言 >



人間にとってこの冬は大変なことになりそうだ。

人間達の食料が足りなくなりそうなのだ。


私がざっと計算した感じでは、全ての収穫を人間1人1人に均等に配れば、問題なくこの冬をしのげるだろう。

だがそうはならないのが人間というものである。


金持ちが余分に取り、貧乏人には十分な量は割り当てられない。



私の隠れ蓑になっている部署は、国内の農作物のうち、穀物を集計する。

つまり国内の作柄が一目瞭然でわかる。


北部は壊滅的凶作(そもそも北部の貴族は農業などする気は無かったに違いない)。

北西部も壊滅的凶作(北西部の貴族も農業などする気は無かったに違いない)。


国民の餓死を回避する気があるなら王都から救援物資を届けるべきだろうが、生き残った住民が野盗化しているので隊商では届けられない。

役人や護衛は全員殺され、積み荷は奪われるだろう。

騎士団を動かさなければ届けられない。


だが届けた先の住民も野盗化しているのだから、届ける意味があるのか疑問だ。


そんなことまでしてやる義理は無い、というのが王宮の基本的な姿勢だ。


それでも騎士団の分隊が常駐する、防衛に適した主要都市にだけは食糧を運び込む必要がある。

しぶしぶ騎士団を動かしているというのが現状だ。



北部貴族は金は持っているという。

もともと金で他領の収穫を買うつもりでいたらしい。

だが買っても運ぶことができない。

修羅の群れの中を隊商が通るなど不可能。

護衛を請け負う冒険者など1人もいない。

そして北部貴族は領地から騎士団を動かせまい。


この冬は、北部は地獄と化すだろう。



他人事のようにつぶやいたが、私はちょっと困っている。

私は人間と同じように普通に食事を摂って生命を維持するが、それだけでは無い。

私の中の魔女の部分は人間の負の感情を栄養にするため、この状況を悦んでいる。

だが私の中の夢魔の部分は人間の多幸感を栄養とするため、多幸感を吸い取るターゲットを探すのに苦労する。

ターゲットが少なくなると1人から吸い取る量が増え、正体がバレかねない。


ここはビトー様のお情けにすがりに行くべきか・・・





< ライムストーン公爵オーウェンの独り言 >



今年の春。

イーサンから今年は冷害になるかも知れないという一報を受け取った時は、何のことだかよくわかっていなかった。

それは私が農業の素人だからだ。

結果的にはそれが良かったのかも知れない。


ビトー子爵からもらった寒冷地向け種籾(麦と米)を思い出し「これを播いておけ」と文官に命じたのだった。

その際、寒冷種とか言わず、何も説明もしなかった。

受け取った文官も何も説明せず、農民に「これで作れ」と渡した。

もし説明していたら拒否されたかも知れない。


そう思うほど今年の春先は穏やかな気候に恵まれた。


火山の噴火が収まって日常が戻ってきたことの喜びが大きかった。

(当然のことながら)寒冷地向け種籾は領内全ての農地に播くほどの量は無く、大半は通常種でカバーした。

農民が「領主の気まぐれ」として別枠で植えてくれたのも、後々良かった。



収穫時期を迎えた時、面白いことがわかった。

麦はあまり差が出なかった。

ところが米には歴然と差が出た。

寒冷種は見事な穂を付け、通常種は残念な穂しか付かなかった。


つまり今年は冷害だったのだ。


ただし!

それよりも獣による食害の方が大きかった・・・



なにはともあれ寒冷種の種籾を増やし、王をがっかりさせぬほどの収穫が得られたのは良かった。





<ハミルトン村村長マルコ男爵の独り言>



今年の収穫は何故減少したのかわからない。

助役に訊いても首をかしげるばかりだった。


冬が明けると共にランビア山の噴火が収まったのは吉兆だった。

春先は温かかった。

誰もが今年に期待した。


そのせいで目が曇ったのだろうか?


記憶をたどればこの夏は夏とは思えぬほど涼しい日が続いた。

麦は暑すぎるのを嫌う。

だから大丈夫と思っていた。


だが思ったほどの手応えが無い。


そう感じ始めた矢先、畑が魔物に襲われるようになった。


別に珍しいことではない。

農業は害虫、害鳥、害獣との戦いだ。

ところが今年の害獣の数は尋常では無かった。


ホーンドラビットが群れを成して襲い掛かり、村人では歯が立たなかった。

それどころか怪我を負う者が続出した。

腕利きの冒険者を雇わなければならなかった。



そしてもっと厄介な害獣がいることに誰も気付かなかった。


ストライプドディアー。


木立や麦畑の中に紛れると、余程近付かないと村人では見つけることも出来ない。

気付いた時にはかなりの畑が丸裸にされていた。


ストライプドディアーは冒険者でもなかなか見つけられない獣だ。

冒険者に討伐依頼をしても断られるのが殆どだった。


村人全員が勢子になり、ストライプドディアーを村の外に追い出すしかなかった。

周辺の村には、特にメルヴィル村には申し訳なかったが、それより手が無かった。



害獣との戦いで怪我人が大勢出た。

こんなに怪我人が出たのはちょっと記憶に無い。


大問題だ。



今までは、酷い怪我人はこっそりとメルヴィルの聖女様に治癒して頂いていた。

だが昨年、愚か者がビトー子爵に因縁を付けたため、治癒をお断りになった。



今、村は愚か者に対して八分をしている。

しかし八分にされた者の縁者にも重傷者がいて、いかんともしがたい。


さすがに収穫は



「怪我をしていようがやれ!」


「何が何でもやれ!」



と強権を発動して収穫させた。

食害が酷くてむしろ助かったと思える程だった。


だが収穫をすると体を痛める者も出てくる。



愚か者どもは、独り者は逃散した。

だが家族持ち、親類縁者がいる者は逃げることも出来ず、毎日私の家の前で平伏している。一日中平伏している。

どんな罰でも受けるので何とかして欲しいと無言の訴えをしている。



いったい私に何が出来るというのだ・・・




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