表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
29/302

029話 メッサー迷宮探索3

メッサーのダンジョン1階層。

先日まで未踏破だった、そして先日私が初踏破したゴブリンエリア。


私たちは恐る恐る進んでいる。

前衛はマキ、マロン、私。

後衛はレイ、ユミ、フェリックス。

ちなみに麗華の呼び名はレイとした。

皆2文字で統一。


私は6人分の食料(2kgの牛肉の干肉)と水を背負っている。

強力(ごうりき)である。



◇ ◇ ◇ ◇



ここに至るまではお約束だった。


レイ、マキ、ユミは実戦経験が全く無い。

まずは草原の「ゴブリン探索&討伐パック」(初心者向け)で慣れてもらった。

私、マロン、フェリックスは、いつでも飛び込めるように後衛の位置で待機。

レイ、マキ、ユミが、3匹セットで出てくるゴブリンと1対1の戦い。

これを何度も繰り返した。


最初の1匹を殺すと過呼吸になって意識を失いかけるところ。

しばし呆然として心がどこかにいってしまうところ。

魔石のありかがわからず死体をめったやたらと切り刻むところ。

無残な死体から目を背けるところはお約束。


ただ、後ろに強い者が控えている、という安心感は格別だったろう。

また私よりもよほど気持ちは強いようで、すぐに気合いが入り直していた。



「馬鹿にしないでよ。最初戸惑っただけよ」

「私ら大量出血には慣れてるのよ。男と一緒にしないで」


はい。すみません。


冒険者ギルドで魔石を買い取ってもらう経験もしてもらった。

これをすると自分が冒険者になったという実感が湧く。

励みになる。


ゴブリン狩りに慣れるのと並行して、スタミナを付けてもらった。

例の持久走と800mダッシュのセットだ。


強敵から逃れるときはダッシュが物を言う。

もちろん800mをダッシュできれば逃げ切れるという保証はない。

だが、出来なければ逃げ切れる確率も下がる。


800mダッシュは短時間にエネルギーを集中する訓練でもあるので、敵に囲まれたときに剣を振り回すスタミナにもつながる。

さらに心肺機能を向上させておけば、たとえスタミナ切れを起こしても、少し休めばふたたび体は動くようになる。

冒険者にとって良いこと尽くしだ。


これはコツコツ積み上げるしかないので、毎日ずっと走ってもらった。

武器・防具・その他備品はフル装備で走った。

もちろん私も走った。



◇ ◇ ◇ ◇



草原のゴブリン間引きに慣れたので、ダンジョンに挑戦した。


パーティは6名になったので、ダンジョンに潜るときの構成を前衛3名、後衛3名と普通のパーティらしくした。

前衛は私とマロンは良いとして、もう一人誰にする? と迷ったとき「マキにしな」と師匠の入れ知恵があった。

師匠の見立てではマキは斥候らしい斥候。レイは剣士に近い斥候。

マキの斥候としての腕を磨け、とのこと。


現場では先にマロンとフェリックスが魔物を感知するが、二人はあえて警告を発せずにスルーし、私とマキが感知するまで待ってくれた。

かなり良い訓練になった。



ということで、話は戻ってホブゴブリン+ゴブリンのパーティエリア。


息を潜め、気配を消し、ホブゴブリンどもに近づく。

マロンは慣れている。

私も慣れている。

マキがどこまで近づけるか。


7mまでいけた。

異変に気付いたホブゴブリンが周囲を警戒し始める。

ホブゴブリンは私が引き受ける。

マキとマロンがゴブリンと戦う。

回り込もうとするゴブリンどもをレイとフェリックスが足止めし、そのまま倒す。

ユミが火魔法で最後の一匹を攻撃する。

一人一匹ずつ公平にゴブリンを倒す。

このパターンで行く。



ここでもお約束。

ホブゴブリンが配下に指示を出す前に、最初の一刀で倒す。

噴水のように血がまき散らされ、ゴブリンどもが右往左往。

レイ、マキ、ユミの3人は顔色がなくなる。


だが3人はあっという間に慣れた。

かつておろおろしていた自分が恥ずかしくなるほどだった。

3人は鑑定能力を持っていないはずだが、本能だけでホブゴブリンの本質を感じ取ったようだ。


「ホブゴブリンって、な~んか財前に似てるよね」

「うん。私も感じた」

「殺すのに罪悪感が無いわ~」

「「 同感 」」


斥候として、私より優秀なのかもしれない。


「ビトー君はどう思ってるの?」


突然聞かれてたじろいだ。


「え~っと」

「誤魔化さなくてもいいわよ。言っちゃいなさいよ」

「う~~~ ホブゴブリンと財前が似ているっていうのはわかる」

「ふ~ん」

「少し違うのは、ホブゴブリンは相手が誰でも悪意を前面に出して殺しに来る」

「ほー それで?」

「財前は、相手がレイやマキのときは悪意を前面に出して殺しに来る。でも相手が怖~い人のときは愛想笑いを浮かべてゴマをすり始める。ホブゴブリンよりもずっと下品で陰湿だと思う」

「あら、良くわかってるじゃない」


お褒めの言葉を頂戴しました。




このフィールドを3往復して、ダンジョン内の戦闘に慣れてもらった。

チーム戦にも慣れてもらった。


慣れたところで前衛をマロン、マキ、レイに交代して、さらに1往復した。

レイにも前衛の感覚を知ってもらった。

マロン、マキ、レイにはホブゴブリンの相手も担当して貰った。

さすがにマキとレイは一人でホブゴブリンを倒すのは大変そうだったので、周囲が援護した。


戦闘を行うとどうしても怪我をする。

だが私が治癒魔法で傷一つ残さず癒やす。

ダンジョンに潜って怪我をしてもその場で癒やして探索を継続できるのは、短期レベルアップを目指す我々にはありがたいスキルだった。



ダンジョン内における斥候の戦い方を学んでもらった。

先に魔物を探知し、気配を消し、やり過ごして背後から闇討ち。

ちょっと後ろ暗い戦い方。

斥候のマキ、レイだけでなく、魔術師のユミも気配を消すのが上手く、何の抵抗もなく後ろ暗い戦いをした。

なんだか自信をなくした。



蟻エリアにも行った。

蟻エリアはマロンがげんなりするので、前衛は私、マキ、レイ。

アリは12匹が1パックで襲ってくるので、前衛の3人が通路いっぱいに広がり、アリを通さないように戦い、それでもすり抜けようとするアリをフェリックスの風魔法とユミの火魔法で押さえつける。マロンは予備選力として待機。

このやり方で2往復。宝箱は出なかった。



◇ ◇ ◇ ◇



レイ、マキ、ユミがダンジョンに慣れてきたので、1階層の最後の未踏破エリアにチャレンジしてみることにした。

やはり他のパーティとは別方向に向かう。


このエリアの未踏破の理由ははっきりしている。

すごく縁起が悪いのだ。

冒険者は死と隣り合わせのため、みな縁起を担ぐ。

ここは40年前のスタンピード発生時の発端となった場所だった。


元々あった洞窟に新たな横穴が開き、そこから魔物が大量に湧き出た。

横穴から出てきた魔物どもに退路を断たれ、死んだ冒険者はかなりの数にのぼる。

死者がゾンビ化した、グール化したという噂が先行し、誰も調査に足を踏み入れなかった。

その後、その横穴は(ダンジョンの意思で)勝手に閉じられたが、元の洞窟がどうなったのか不明のまま残された。


スタンピードで出てきた魔物はアリ系。

クイーンアント、キラーアントが山ほど出てきたそうだ。

スタンピードが収まって、今は魔物は出てこないらしい。

でも気分が乗らないねぇ。

アリと聞いてマロンがげんなりしている。


でもフェリックスは「大丈夫」という。

フェリックスは自信満々。

先頭に立ってゆっくりと進んでいく。

かつて横穴が開き、今は塞がったところをチラッとみて、さらに先に進む。

魔物は1回、アリが3匹出てきた。

レイ、マキ、ユミで倒した。


そして宝箱があった。

アリが死んでポップした宝箱ではない。元々あったものだ。

つまり40年前の冒険者の遺物。

最初3人は気づかなかった。


「これ宝箱」


レイ、マキ、ユミに宝箱を教える。


「これ岩でしょ?」

「いや宝箱なんだ」

「うっそー」

「宝箱だと思って見てごらん」

「あ・・・」

「これフタ?」

「そう」


ワッと駆け寄ろうとする3人を押しとどめた。


「罠が仕掛けられている場合があるから気をつけて」

「えーー」

「それを解除するのも斥候の役割だよ」

「ブーーー」


罠と聞いて皆開けるのをためらったので、私が開けた。

中にあったのは



【ノームの首飾り】

土魔法の効果UP、魔力消費半減



これは凄い。

え~。ウチのパーティで土魔法の使い手は・・・ マキか。

でも女の子にアクセサリーを贈るのは特別な意味があるよな。

マキのことは嫌いでは無いけど、マキもどう反応して良いか困るだろう。

しかもダンジョンの中で。

背負い袋に保管だな。

でも初めて宝箱を見た彼女らの陰りの無い笑顔を見ることが出来て良かった。


さらに進む。

また宝箱を見つけた。罠はない。

フェリックスにも立ち止まってもらう。


「近くに宝箱があります。レイ、マキ、ユミで見つけて見てください」

「罠の有無を確認してから開けてくださいね」


しばらくの間、冒険が宝探しに変わった。


宝箱は2個見つかった。

罠の有無を鑑定するのに時間が掛かった。

私は鑑定で見てしまうが、彼女らはアイスピックみたいな道具を使い、罠が起動する留め金を探るようなことをしていた。

出てきたのは



【ノームの短剣】

土属性の短剣

土属性を持つ者が装備すると力を引き出せる

石の刀身で刀身の長さを変えられる

剣先から石弾を撃つことができる

剣そのものの攻撃力は、普通のショートソードと同じ



【ノームの小盾】

土魔法で防御力を強化された小盾

土属性を持つ者が装備すると力を引き出せる

防御力は大盾と同じ(+10)

石で盾の大きさを変えられる

自動修復機能あり



3人は飛び上がって喜んだ。

やっぱり自分で宝箱を見つけ、自分で罠を外し、自分で宝箱を開ける、というのは冒険の醍醐味だよね。

でも土属性の物ばかり出て来たので、レイとユミは「ブーブー」言っていた。

こんな女子高生っぽい姿を見ることが出来て本当に良かった。


マキの装備が豪華になり、魔法を使えるようになった。


アリの魔物の巣窟だったので、死んだ冒険者の武器に土魔法が付与されたのだと理解した。




通路の突き当たりまで行くと扉があった。

ダンジョン内に扉。

違和感しか無い。

しかもこの扉、それなりに装飾が施されている。

これってアレだよね。


「フェリックス、これはボス部屋?」

「そうだね」

「入るの?」

「入る。でも部屋の主人と敵対は駄目。絶対勝てない」

「絶対勝てない?」

「絶対勝てない。でも安心して。話をするだけ」


そう言うとフェリックスは扉を開けて部屋に入っていった




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ