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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
24 メルヴィル怒濤編
287/302

287話 メルヴィル4年目(冬・噴火)


地震は続いていた。

発生頻度が上がってきている。


頻度が上がったので、当初は地震の都度ハーフォードへ出向いて報告していたが、最近は伝書鳥で済ませるようになっていた。



ハーフォード公爵領の北東部は震源に近いらしく、揺れが激しいという情報が入った。

立っているのも困難な時がある。

震度5くらいだろうか?


震度5といえば地震に慣れている日本人にとってもなかなかスパルタンな震度だ。

この世界の住民は地震に慣れていないので、リアルにこの世の終わりを感じているだろう。

そろそろメンタルがやられる頃合いか。



◇ ◇ ◇ ◇



それから一月が経過したある日の真夜中。


シロが直接私を起こしに来た。


何?

外を見ろ?

はいはい。


暖かくしてソフィーと一緒に屋敷の外に出た。



周囲が明るい。

赤い。

なんで?


フクロウ軍団がずらりと並んで一方向を見ている。

その方向を見ると・・・ 



おおおおお・・・


山が赤い。

赤い光のせいで、闇夜なのに山の稜線がわかる。


微かな音が聞こえる。

音かな?

空気の振動か・・・

振動は音か・・・


時折山頂近くでフワッと赤い花が咲く。


噴火だ!



おおおおお・・・・



火山大国ニッポン。

そのニッポンの元住民。

それでも肉眼で噴火を見たことはなかった。



あれはこの大陸の中央を貫くランビア山脈の主峰、ランビア山だ。

そのランビア山が噴火したのだ。


遙か彼方で雷が鳴っているような音が聞こえる。

この音源を正確に測ろうと思ったら風魔法使いでないと無理だな。


そんなどうでも良いことを考えて、皆を起こそうかどうか迷っていたら、不意に空が赤く輝いた。

今までの倍くらいの明るさになった。

館が光を受けて赤く輝いた。



「おお・・・ 見事な噴火だ。あんなにマグマを噴き出して・・・」



と口に出して見とれていたら、割と近くに落雷があったかのような音が鳴り響いた。

ソフィーが私を抱き抱えて地面に伏せた。


ソフィーに抱きしめられ、体の下に匿われながら小声で話し掛けた。



「ソフィー、大丈夫。これは雷じゃ無い」


「何故わかる?」


「一瞬山が明るく輝いたでしょ。あの音なんだ」


「本当か? ずいぶんタイミングがずれていたぞ」


「音は遅れるからね」


「音と光はほぼ同時に届くのでは無いのか?」


「違うよ。光に比べると音はかなり遅いよ」


「・・・にわかに信じられぬ」


「じゃあ山を見ていて。次の噴火でわかるよ」



少し待つと再び『パアァァッ!』とマグマを噴出した。

真っ赤な光の花が連続して夜空に広がった。

それからしばらくして「バリバリバリバリ・・・」と音が響いてきた。



「ね?」


「本当だ。お前の言う通りだ」


「面白いでしょう?」


「ああ。一つ賢くなったぞ。では皆を起こすか」



屋敷に戻ると皆起き始めていた。


ミカエラが私の寝室のほうから走ってくるのが見えた。起こしに行ったんだな。



「子爵様、もうお目覚めだったのですか?」


「ああ。一足先に見物していたよ。君達も見ておくといいよ」



皆起きてきたのでみんなで見物した。

寒いのでホットウィスキー片手に夜の火山見物と洒落込んだ。


マルティナが軽食を作ってくれた。

贅沢なひととき。



「寒くなったら部屋に戻ってね」



皆にそう声を掛けて私とソフィーは一足先に部屋に戻った。



◇ ◇ ◇ ◇



噴火は冬の間中続いた。


助かったのは風向き。

メルヴィルは灰を被らなかった。


メルヴィルの妓楼の窓から見る噴火の夜景は名物となり、客が押し寄せた。

六佳仙は元より、冬の間の全妓女の予約が完全に埋まった。

そのため裏方は異様な緊張に包まれた。

絶対に風邪を流行らせてはならない。



「ちょっとでもおかしいと思ったらすぐに連絡下さい」


「お客さんの具合が悪い時も一緒ですよ。すぐ連絡下さい」


「すぐにエマ様に繋ぎます」



マホームズから連日注意して貰った。


お陰様で、風邪で寝込んだ客が5人出た他は無事に乗り切った。


メルヴィル始まって以来の売り上げを記録した。



◇ ◇ ◇ ◇



メルヴィルへの噴火の影響は無かった。


この世界でも年間を通して偏西風が吹いており、メルヴィルの東で起きた火山の噴煙は東へ東へと流れた。

風向きによっては稀にハーフォード領の北東部へ灰が降ることがあったが、その程度だった。


火山灰は主に旧神聖ミリトス王国の無政府地帯に降り積もった。


この冬は火山の熱でランビア山の山頂に雪が積もらず、いつもの冬とは違う景色を見せていた。



噴火は冬の始まりと共に始まり、冬の間は噴火したり休息したりを繰り返していたが、冬の終わり、2月某日に大噴火を起こした。


この時の噴火も夜に始まった。

眠っていた人は地震で、または爆音で起こされた。

誰もがすぐ近くに雷が落ちたような気がした。

慌てて外に出ると遙か彼方に赤々と輝く噴水が見えた。


噴火は2時間ほどで終息した。

山は溜め込んだマグマを出し切ったらしく、この日以降噴火は衰えていった。




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