268話 メルヴィル3年目(冬)
感想ありがとうございます。
皆様深く読み込まれておられることがわかり、緊張致します。
書きたいことがもう少し(2~3)ありますのでお付き合い頂けると幸甚です。
頑張ります。
(ソフィーの視点で書かれています)
暦の上では春が近付いているとは言え、まだまだ冬。
農作業はまだ先だ。
隊商の護衛クエストを終えた冒険者達がメルヴィルに続々と集まってくる。
メルヴィルの冒険者ギルドを覗くと、かつてのイルアンの冒険者ギルドより賑わっているのがわかる。
冒険者同士の情報交換が聞こえてくる。
「おう『男伊達』の。 今シーズンの首尾はどうだい?」
「おお『水神』の旦那じゃねえか。 ヒックスへ2往復したが何も無かったな~。
ハーフォードとライムストーンは特に治安が良いからな。雇い主には悪いが護衛料金は丸儲けよ。
『男伊達』はどうだったんだいって、その様子じゃあ無事って訳じゃあねえな」
「ああ、俺達はオリオルからジルゴンの護衛だったんだがな・・・ 例の騒動があったろう? 一度は断ったんだがな。馴染みの客でどうしてもって頼まれてなぁ。割り増しで出すって言われてな。こりゃあ人助けだって引き受けたのよ。
そうしたらなぁ・・・」
「そんな有様になるって事は何が出たんだ?」
「ボアさ。1頭なら大丈夫だ。2頭でも何とかなる。だが6頭も出られた日にゃあどうしようもねぇ。雇い主を守るので精一杯よ」
「それでどうなったんだ?」
「雇い主は守り切った。荷も2/3は守った。雇い主は十分すぎる、って言ってくれてなぁ。だがこれじゃあ『男伊達』の名折れだ」
「それでメルヴィルか」
「応よ。ガブリエラ様に頼んでな。ウチのメンバーをシャンとさせて貰ったら南の2層へ直行よ」
「アレか。引き際だけは見極めてくれよ」
「わかってる」
「赤いのが出たらすっ飛んで逃げるんだぜ」
「ああ。赤いのと互角に戦えるようになったらボアなんぞ目じゃねえんだがなぁ」
―――――
「『豪炎』じゃねえか。どうした?」
「『剣王』か。どうしたもこうしたもねえよ・・・」
「なんだ。何があった?」
「ジルゴンのギルドでクエストを受けるハメになったんだよ」
「おまえ、なんでわざわざジルゴンで?」
「最初はスキラッチでクエストを受けたんだ。スキラッチ領から王都へ収穫を運ぶ護衛だ。それは問題なかったんだ。問題はジルゴンのギルドだ」
「何があった?」
「クエスト完了証を受け付けねえんだ」
「なんだとっ?」
「このクエストはオリオルからジルゴンへの輸送護衛とセットだ、と言い始めやがった」
「スキラッチでの受注書類を見ろ」
「ああ。そう言ったよ。そうしたら書類は既に無いと抜かしやがった」
「ギルドが廃棄したのかっ!?」
「そうとしか思えん」
「それでっ!?」
「仕方なくオリオルへ行ったよ」
「それでどうなったっ!?」
「俺たちも『こりゃ罠だな』と思ってな。準備していった。火魔法の魔石を大量に持っていったさ」
「おう。『豪炎』の本領発揮か!」
「まあな。爆破しまくった。お陰で荷主も俺たちも無傷だ。 だがな・・・ 利益は消し飛んだ」
「そうなるな・・・」
「もう信用できるのはハーフォード領のギルドとライムストーン領のギルドしかねえってことよ」
ダンジョンを二つ持つメルヴィルはこれから急激に発展する。
そして冒険者はここメルヴィルに活動拠点を移す。
集まる冒険者は年齢・実力様々だ。
将来を見越してビトーの手の回らぬところをカバーしておかねばなるまい。
これはウォルフガングへ回そう。
◇ ◇ ◇ ◇
我が家は室内でスウィフト育成中。
子供達は全員闇属性を持っているため、スウィフトを使い魔にした。
なんとリック(マキの子。3歳)までも「やる」といって聞かず、見事使い魔にしていた。
なんとなく使い魔と言うよりも「使われ魔」のような感じ。
だが良い子守になりそうだ。
春になったらハーフォードとイルアンの間の対魔樹並木の育成促進をして貰う。
今から信頼関係を構築しておきなさい。
◇ ◇ ◇ ◇
春が来ると何かと忙しくなる。
ビトーをせっついて冬の間に古森まで一っ走りする。
ビトー1人でも良いのだが、子爵なので供の者が絶対に必要。
護衛を兼ねて私が付いていく。
久しぶりのビトーと2人旅。
宿でまじまじと私の裸を見るビトー。
見慣れているだろうに。
「改めて見るけどソフィーって老けないよね。初めて逢った時と全く変わらない」
「お前のお陰だろう」
「そう?」
「そうだ。私だけじゃ無い。マキも全く老けない。アンナなんか子を産む度に若返っているぞ」
「そうなの?」
「お前の目は節穴か?」
「わかりません。アレクサンドラ様から熟女好きと言われたことがありますので、単にソフィーの魅力度が上がっているだけかも知れません」
「ババアになったと言いたいのか?」
「年を重ねても魅力が変わらないと言っています」
「なんだ? もう1人欲しいのか?」
「あ~ 5人もいればもう良いんじゃ無いですか?」
「たったの5人だろう?」
「私はネズミやウサギではありませんので・・・」
「先日は私を好き勝手したくせに・・・ わかった。あと1人に止めておこう」
「人の話、聞いてます?」
◇ ◇ ◇ ◇
ヒックスに着くとライムストーン公爵オーウェンを訪問。
メルヴィルにおけるイーサンの武者修行の報告。
カトリーヌと上手くやっている事の報告。
ビトーに任せる。
「結局イーサンはモノになるのか?」
「為政者としては問題ありますまい。色々なことを経験しておりますが、今は全て順調な時の経験です。災害時の経験を積めば完成でしょう」
「そうか・・・ 武の方はどうなのだ?」
「個人の武を誇るようなレベルには達しません。それは私も同じです。閣下も同じと思います」
「まあ、そうだ」
「武についてイーサンは特殊な研鑽を積んでいます。モノになるかどうかは半々ですが、期待せずに見守って差し上げて下さい」
「おお。それはどんな系統なのだ?」
「相手の魔法の発動を邪魔するのです」
「それは難しいのか?」
「大変に難しいです。ですが成功すれば小さな魔力で大きな効果を上げます」
「なるほど・・・ 期待せずに待つとしよう」
◇ ◇ ◇ ◇
公爵邸の一室でユミとレイと再会した。
いきなりビトーに求婚してきた。
「ビトー様。前にした約束、憶えておられますか?」
「憶えていません」
「30までに結婚相手が見つからなかったらビトー様の妾になるって約束」
「記憶に御座いません」
「ソフィーさんの前だからって、しらばっくれるんじゃないわよ」
「いえ、決してとぼけるなど・・・」
「ソフィーさんごめんなさいね。ビトー様が素直に吐かないので」
「いや、こやつの性癖はわかっている。そなたらに期待を持たせるような言葉を吐いたのだろう」
「ソフィー! 私はね・・・ もごmももっm 」
下手な言い訳をしようとしたので首を絞めた。
「こやつは私という者がありながらアンナに手を出し、3人も子供を産ませたろくでなしだ。更に同輩のマキにまで子供を産ませたのだ。領地持ちの貴族になったので辛うじて救われているが、平民なら鬼畜の所業と言っても過言ではあるまい」
「おがgyぐrkら**kgs・・・」
「私達もできれば普通の殿方に嫁ぎたいと思っておりました」
「ですがこちらの世界の殿方はどうも歪でございまして、到底馴染めるとは思えません」
「そこでビトー様に相談したところ、妾にして下さると快諾して下さり・・・」
「おごoわwあれeeeがああ」
「こいつうるさいから締めちまうか?」
「あら。最後まで聞かせないと駄目よ。自分の責任を自覚させないと」
「そうだな」
「ねっ、だから私達2人はビトー様の妾になるからね。会頭とギルド長の許可は取ってるから安心してね」
「だreうgzakkhw・・・」
「正妻にして欲しいなんて言わないから。そんなに喜ばないでよ」
「古森の窓口業務は良いのか?」
「うん。アイシャ様に確認したけど最近は調整事も無いし、もしなにかあってもメルヴィルまで簡単に行けるし、いなくても良いよって」
「もしそんな調整が増えたら、またヒックスへ常駐すればいいことだし。身軽な妾だから大丈夫よ」
「なるほど。だから妾か」
ビトーは観念したのかぐったりしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
古森へ行った。
ここはビトーでないと入れない聖域。
ここに来るとラミア達のプレッシャーを強く感じる。
特に私に対するプレッシャーは強い。
ビトーはラミア族の想われ人だ。
種族が異なるので「仕方なく」私との婚姻を認められたが、そうでなければラミア族はビトーを手放さなかった。私は処分されていただろう。
私はビトーとの子を成し、子にビトーの能力を継がせるよう命じられた。
エマにビトーの能力が色濃く遺伝したので事なきを得たが、あの当時私に掛かったプレッシャーは重かった。幾度も悪夢を見た。
大量の汗と共に夜中に飛び起き、ビトーに抱きしめられながら朝を迎えたことが幾度もあった。
幸いアンナもマキも子を成してくれ、全ての子にビトーの能力が遺伝したので、最近は安心して眠れる。
ここで更にユミとレイが子を成してくれると(対ラミア的に)相当安心できる。
ビトーから北ダンジョンの報告、アピスとの邂逅の報告、イルアンの報告、オリオルの報告をした。
人間間の争いの情報(オリオル情報、スキラッチ情報)は興味の対象外らしく、あっさり流された。
その中で、イルアン関係で逆にアイシャから情報が与えられ、緊張が走った。
「イルアンは面白いことになりますわよ」
「スタンピードですか?」
「完全に手入れを放棄しましたからね」
「ということは・・・」
「あなた方が考えるスタンピードとは異なるでしょう」
「スローな奴でしょうか?」
「あら。それに思い当たったの?」
「魔物の性質を見ると、なかなかいっぺんに『ウワッ!』と出てくる訳ではなさそうに思えました」
「ふふっ。よく見ておきなさい。スローと言っても波はありますからね」
「はい」
「対魔樹の並木。面白いこと考えるわね。あれはアンデッドには効き目があるわ」
「はい。昼はまだ良いのですが、夜に浸透されることを防ぎたかったので・・・」
「お前・・・ 人間社会に嫌気が差したらいつでも古森にいらっしゃい」
「勿体ない御言葉でございます」
古森を辞した。
だが、アイシャの言葉が耳に残る。
ビトーはイヤイヤ貴族を務めている。それは間違いない。
領民の命を預かるなど、考えたことすら無かったはずだ。
いや、領民の命の重みなど一切考えない貴族はいる。
むしろそんな貴族の方が多いだろう。
だがビトーは考える。
いつまでビトーは我慢してくれるのだろう?
いつビトーは我慢の限界を迎えるのだろう?
その時私はどうなるのだろう。
帰り道。
考え込んでいる私をビトーが心配した。
帰りの宿で問い詰められた。
婉曲に聞く事ができない私はストレートに聞いた。
「ビトーはいつまで私達と一緒にいるつもりだ?」
それから色々話した。
ビトーは言った。
考えが変わった、と。
根無し草の生活に終止符を打つ決心が付いた、と。
そしてビトーは私をベッドに押し倒した。
「ソフィー」
「何だ」
「ソフィー」
「・・・はい」
「アイシャ様とアレクサンドラ様に言ったことをもう一度言う」
「・・・」
「お前は私の女。私はお前の男だ」
「・・・」
「・・・」
◇ ◇ ◇ ◇
多分二人目を授かったと思う。




