265話 メルヴィル3年目(冬・南ダンジョン2)
2層へ降りる前に隊列を変更する。
前衛 私、イーサン、ジークフリード
後衛 カトリーヌ、オルタンス、ノワ
これには歴とした理由がある。
ここで出てくるのはボア。
イノシシの魔物。
ボアは目が悪い。
だが、そのボアの視力とイーサンの索敵範囲がほぼ同じ。
カトリーヌの索敵は届かない。
ボアは強力だ。
私でも正面から堂々と渡り合うのは分が悪い。
ボアに先にこちらを探知されると大怪我をする。
そこで私とジークフリードが前に出る。
私とジークフリードが先に探知し、迎え撃つ準備をしつつイーサンがボアを探知するのを待つ。
もしイーサンが探知に失敗しても、私とジークフリードがイーサンを守れる。
ノワとカトリーヌではイーサンを守れない。
さて。
イーサンの索敵。
最初は全然駄目だった。
うなり声を上げながらボアが突進してくるのを見て、初めてボアに気付いた。
ジークフリードがロックスピアで足止めし、私がデ・ヒールで弱体化させ、オルタンスが水魔法で更にHPを奪い、カトリーヌがトドメを刺した。
こんなパターンが2度続いた。
イーサンに確認した。
「イーサン。魔物探知に風を使っていますか?」
「いいえ?」
「使ってください」
「え・・・ どうやって使うのですか?」
「北ダンジョンでクロエが使っていたのを見たでしょう?」
「あ・・・」
「クロエに同調して使い方を憶えましたよね?」
「あ~~~~~」
「忘れてました?」
「・・・」
へねへなと崩れ落ちるイーサン。
今、初めて知識と実践が紐付いたのね。
「ちなみに敵の魔法を邪魔する魔法も忘れていたとか?」
「・・・」
無言で横たわるイーサン。
「死んだ? イーサン?」
「・・・」
死んだらしい。
しばらくして復活したイーサンは、割と斥候らしい斥候に変貌していた。
後衛の位置からボアを探知できる様になっていた。
◇ ◇ ◇ ◇
イーサンが一皮むけてからは、南ダンジョンの第2層の探索はカトリーヌとオルタンスの強化に充てた。
前衛 私、カトリーヌ、ジークフリード
後衛 イーサン、オルタンス、ノワ
私を鍛えて貰った時と同じ。
私とジークフリードがカトリーヌを挟んで立ち、カトリーヌは正面のボアを攻撃する。
ボアの変則的な動きは私とジークフリードが抑え込む。
頑張れカトリーヌ。
オルタンスは後衛から戦闘支援。
オルタンスは氷魔法が苦手なので水専念。
オルタンスはルーシーのような高圧放水はイメージできないらしく、相変わらず巨大水球をメイン武器にしている。
ダガーオブウンディーネを装備している時に比べると水球の大きさが二回りほど小さいが、それでも500kgはあると思う。
この水球、意外と良い。
敵も手練れになればなるほど水球を警戒する。
行動を制限される上、質量攻撃が怖いのだ。
ボアが走り出す前に考え込む姿が見られるようになった。
イーサンがボアを探知し、
オルタンスが水球で牽制し、
私とジークフリードが更に牽制し、
カトリーヌが剣と氷槍で倒す。
このパターンが確立された。
確実にボアを倒せるようになった。
「私達、強くなったんじゃない!?」
「はい。カトリーヌ先輩はあんな感じでダンジョンボスにトドメを刺したんですね」
「あら。私の水球も褒めてよ」
カトリーヌ、イーサン、オルタンスがそんな会話をしながらダンジョン内を歩いている。
少々気が緩んでいるかな。
勝った時こそ反省会。
ここらで気を引き締めようか。
そう思っていた時だった。
ボアが3匹出た。
オルタンスは水球でボアの足止めを狙うが、足止め対象のボアを絞りきれない。
変に水球を動かした結果、3匹とも水球をすり抜けてきた。
前衛は1対1になった。
ジークフリードは自分に向かってきたボアに石の槍を見舞い、カトリーヌに突進するボアの足下に石のスパイクを出すほどの余裕があった。
カトリーヌは体勢を崩してひっくり返ったボアに剣と氷槍を叩き付けていた。
私が一番余裕が無かった。
ウォーカーのメンバーだったら後ろを気にせず戦えたが、今日のメンバーではボアを後ろに流す訳にはいかない。
ボアの前足にデ・ヒールを掛けながら思いきりトロールの短剣を振った。
狙いは前足だったが、当たったのはボアの鼻だった。
反動で跳ね飛ばされ、哀れ私はダンジョン内をコロコロと転がった。
ボアは頭骨にトロールの短剣を食い込ませて息絶えていた。
「まいりましたね。今日はここまでにしましょうか」
私を心配して駈けよってきてくれた3人にそう言うと、帰り支度を始めて貰った。
さて。
もう一つのダンジョンの訓練。
「ジークはわかりましたか?」
「何のことだ?」
「ノワはわかったよね?」
「フンフン」 (わかってる)
「もしかしてアレか?」
「そうです。ここは初心者しか来ませんからね。みなさん見逃すんですよね」
それからイーサン、カトリーヌ、オルタンスを集めて宝探し。
「このあたりに宝箱があります」
「「「 え~~~~!! 」」」
「探して下さい」
「「「 は~い 」」」
私とジークフリードとノワは魔物が来ないか周辺警護。
5分後。
カトリーヌがおずおずと聞きに来た。
「ねぇ。丁度今イーサンが座っている岩。あれじゃない?」
「そうです。よくわかりましたね」
「「 え~~~!! 」」
イーサンとオルタンスはわからなかった。
「では今から宝箱を開けますが、罠が仕掛けられていることがあります」
「「「 ・・・ 」」」
「宝箱の罠を解除するには、ちょっとした才能とコツが要ります」
「「「 ・・・ 」」」
「自分なら開けられそうだな、と勘の働く人はいますか?」
「「「 ・・・ 」」」
「いませんね。では私が開けます」
ダガーの先端でチョイチョイと触れながら鑑定し、罠が有ることを確認。
「罠があります。皆さん宝箱の前からどいて下さい。 ・・・そう。横や後ろに回って下さい」
私は後ろからそ~っと蓋を開けていった。
ビーーンッ!!!
バネが弾けるような音がして短い矢が射出された。
矢は天井に当たって跳ね返り、遠くの方へ飛んでいった。
宝箱の中身は何かの牙が20本ほど入っていた。
鑑定。
【ボアの牙】
ボアの牙
整形し、槍の先端や矢尻に使う
ギルドで引き取ってもらえそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇
ダンジョンの外へ出ると夕方だった。
出張所で出ダンジョン記録を付け、冒険者ギルドで素材を売却。
「これでダンジョン探索を一通り経験したことになります。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「ビトー先生。私達だけでダンジョンに潜っては駄目ですか?」
「南ダンジョンの第1層なら良いでしょう。ですが2つ約束して下さい」
「何でしょう?」
「西の土手で走る訓練を続けて下さい」
「はい」
「2つ目。どんな些細なことでも良いです。いつもと違うな、と思ったらすぐにダンジョンの外に出て下さい。必ず走って出て下さい」
「わかりました」
それから毎日のように西の土手を走り、ダンジョンに潜る3人が見られた。
南のダンジョンは初層で十分に索敵を鍛えられる。
初心者だけで潜れる。
そして失敗しても大怪我をしない。
本当に良くできたダンジョンだと思う。




