261話 メルヴィル3年目(秋・捜索)
スティールズ子爵家の全員+アンナ+イーサンを集め、情報を開示した。
「わかっているとは思いますが念を押します。他言無用です」
すぐにソフィーが私の腹を叩いてきた。
「ビトーはどうする気だ?」
「捜索隊を出します」
「出してどうする?」
「ここに連れてきます」
「連れてきてどうする?」
「働いて貰います」
「働くって・・・ 何をさせる?」
「何だってできます。イーサンだってここに来た当初は誰も気付かなかった才能を開花させたのです。カトリーヌだってできる」
「オリオル辺境伯には・・・?」
「断る必要はありません」
「ハーフォード公爵には?」
「共有する必要はありません。ただの村民79号です」
「わかった。ビトーが腹をくくっているなら我らは命令どおり動くだけだ」
カトリーヌ捜索隊を編成した。
ソフィー。
ジークフリード。
クロエ。
レベッカ。
エマ。
マロン。
ノワ。
ネロ。
「そして、イーサン」
「はいっ! って。 えっ?」
「捜索隊のメンバーです」
「私がっ!?」
「東の土手を走れる様になったと聞きましたよ」
「はい。走れます。 ・・・え?」
「行きなさい。そしてカトリーヌを連れてきなさい」
「は・・ はいっ!」
捜索隊を送り出した。
◇ ◇ ◇ ◇
カトリーヌは顔を隠し、身分を隠し、名前を偽ってタイレルまで来ていた。
タイレルは土地勘がある。
タイレルダンジョンで生活費を稼ぐつもりだった。
だがカトリーヌは知らなかった。
ダンジョンに潜れるのはE級冒険者以上であることを。
そしてカトリーヌは冒険者証を持っていない。
ダンジョン前のギルド出張所で冒険者証の提示を求められてしまった。
冒険者登録をするにはタイレルの冒険者ギルドへ行くしか無いが、受付嬢のシンディは顔なじみだ。正体がバレる。
カトリーヌの知識ではここまでだった。
この先どうすれば良いかはわからなかった。
途方に暮れた。
食事も満足に取れず、睡眠も満足に取れず、風呂にも入れず、限界が近かった。
◇ ◇ ◇ ◇
アンナ情報に従って、ソフィーはパーティを真っ直ぐタイレルへ導いた。
そして真っ直ぐにダンジョン前出張所へ行き、冒険者証を持っていないソロの冒険者がいたことを確認した。
それから
ソフィー、レベッカ、エマ組。
ジークフリード、クロエ組。
マロン、ノワ、ネロ、イーサン組。
に分かれて周辺の探索を始めた。
ジークフリード組は宿屋、武器屋、道具屋を回った。
ソフィー組はダンジョンと街の間の街道を見張った。
通行人が多いのでエマに鑑定させながら回った。
本命はマロン組。
ダンジョン周辺を広く捜索する。
そして当てたのはマロン組だった。
焚き火をボンヤリ見つめているカトリーヌを見つけたのはイーサンだった。
(マロンが見つけてそれとなくイーサンを誘導したのは秘密)
「カトリーヌ先輩っ!!」
「誰? ・・・イーサン? イーサンなの?」
「はい。私です」
「・・・こんなところで会うなんて偶然ですね。息災でしたか?」
「偶然ではありません。カトリーヌ先輩を捜しておりました」
「えっ! 何かありましたか?」
「何かありましたか、ではありませんっ! どれだけ心配したと思っているのですか・・・」
イーサンの言葉の語尾が滲んで不明瞭になると、カトリーヌはハッとしてイーサンを見つめたが、やがて意識を失って倒れそうになった。
イーサンが抱きしめて支えた。
イーサンはカトリーヌを抱きしめ続けた。
カトリーヌはイーサンに身を任せたままだった。
◇ ◇ ◇ ◇
メルヴィルに戻ったイーサンがこっそり教えてくれた。
「実はカトリーヌ先輩は少し臭ったんです」
「ほう」
「どれだけ辛い日々を過ごしてこられたのだろう・・・と想像すると、その臭いさえも愛おしくて・・・」
「なるほど。イーサンは新しい世界に目覚めたのですね?」
「違いますよ」
「違うのですか」
「他の人に言わないで下さいよ」
「言うものですか。カトリーヌは貴族のお嬢様です。そのカトリーヌが経験した日々を想像すれば、その臭いさえも勲章なのです。でも本人にとっては辛い記憶でしょう」
「はい」
「もしカトリーヌがあの日々のことをイーサンに話すことがありましたら『勲章だ』と言って差し上げて下さい。否定的にさせてはいけません」
「はいっ!」
「それで、イーサンはカトリーヌに求婚するのですね?」
「はい・・・ カトリーヌ先輩が承諾してくれるなら」
「早めにカトリーヌの意思を確認しなさい。そして承諾をもらえたらすぐにお父上に話しなさい」
「はい・・・」
「ここメルヴィルではカトリーヌのことを隠し通しますが、カトリーヌは難しい立場に置かれています。お父上もお時間があればあれほど良いはずです」
「わかりました」
その日のうちにカトリーヌの承諾をもらえたイーサンは、すぐにライムストーン公爵へ伝書鳥を飛ばした。
◇ ◇ ◇ ◇
後日。
カトリーヌを伴ってイーサンが里帰りをした。
カトリーヌはライムストーン公爵へお目見えした。
この辺りは歴とした貴族の子女なので、礼儀作法に何の問題も無かった。
公式会見を終え、家族の団欒になると海賊襲撃事件の顛末を訊かれた。
話の後で、
「辛い記憶を蘇らせて誠に申し訳ない。だがバリオス家は全力を挙げてカトリーヌの後ろ盾になりますぞ」
「お義父様・・・」
ライムストーン公爵はイーサンに命じて経緯をいちいち書き留めさせた。
後に史実文書になった。
ライムストーン公爵は(イーサンの持っていない)カトリーヌの武力、決断力、行動力に感じ入り、イーサンの生涯の伴侶として認めた。
ライムストーン公爵は、ほとぼりが冷めるまで二人がメルヴィルに駐在することを認めた。
「二人の前途には険しい道があるだろう。メルヴィルで力を蓄えなさい」
結局私が預かるのか。




