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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
23 メルヴィル風雲編
259/302

259話 メルヴィル3年目(秋・異変)


ハーフォード公爵から驚くべき情報がもたらされた。


カトリーヌの実家・オリオル辺境伯領の港町ポートシャークが海賊の襲撃を受けて陥落したという。

海賊はポートシャーク攻略後、領都オリオルへ進軍したという。

結果は入っていない。



2日遅れでアンナがメルヴィルまで出張し、情報を届けてくれた。



「機密と思われる情報ですので文書にするのははばかられました」



普通は商人の方が情報は早い。

だが遅れたのには理由があった。

より詳細な、そして重要な情報が含まれていた。

情報の裏取りに時間を要したらしい。


それだけに、まるで自分がその場に居合わせたかのような臨場感溢れる報告だった。


アンナは報告は私だけにするので、私の判断で必要なメンバーにだけ情報を開示するように言った。

つまりはそういう情報らしい。



◇ ◇ ◇ ◇



海賊船は6隻。

ポートシャークはほぼ無抵抗で制圧された。

ポートシャーク制圧後、海賊は陸戦隊を編制して領都オリオルへ進軍した。

陸路オリオルへ向かった海賊は200人弱。


ここでアンナから注意された。



「旦那様は船についてお詳しくないと存じますが、この人数がおかしいのです」


「どうかご教授下さい」



美しい女教師に教えを請う体勢を取った。

アンナは満足そうに教えてくれた。



「ポートシャークに現れた海賊船は標準的なサイズでした。通常海賊船には25人ほど海賊が乗っています」


「はい」


「おかしいと思いませんか?」


「25×6で150。陸戦隊の数がやけに多いですね」


「その通りです。船に最低5人残しますので120名しか編成できないはずです」


「どういうことですか?」


「海賊船に陸戦隊を乗せていたのです」


「ポートシャークの奪取が目的では無く、最初から領都オリオルの攻略が目的だった?」


「そうです」


「乗組員が多すぎる・・・ 略奪品を積めるのですか?」


「戦闘で人死が出ることを織り込んでいたのでしょう」


「なるほど・・・」



アンナの報告は続く。



港を占領した海賊は陸戦隊を組織し、領都オリオルへ進軍。

オリオル辺境伯軍との間で領都攻防戦が行われた。



海賊の数の謎はまだある。

どこからかき集めた?

どこか一箇所にそれだけの人数がいたら人目に付く。

人を養うにはそれだけの食が必要だ。

大量の食料を積み込んだら人目に付く。

だがどこからもそのような報告は無かった。

どこから湧いた?



オリオルは丁度収穫期で兵が領内各地へ散ってしまっていた。

領都に残る騎士団では兵力が心許ない。

籠城を決めた。


一方寄せ手側は妙なことを始めた。

半数が武装を解いて麦の刈り取りを始めた。

どんどん刈り取り、運び去っていく。


オリオルは城門を閉めて様子を見ていたが、海賊共の手際がかなり良い。

その手際の良さは、元は農家であろうことが予想された。


緊急連絡で領内各地に散っている兵を呼び戻しているが、集結するまで3日。

既に領都周辺の畑は半分ほどの収穫が盗まれてしまっていた。



我慢の限界に達した。

陸上の戦いならこちらの土俵だ。

城門を開き、打って出た。

海賊など蹴散らしてみせる。

兵力差など問題ではない。



両軍がぶつかった。

オリオル騎士団は収穫中の海賊を簡単に駆逐した。

盗伐していた海賊共は一合も交えず逃げ散った。


ところが収穫に参加していなかった海賊共とぶつかると様相が変わった。

どうやらどこかの騎士団らしき兵が混ざっており、陸戦に慣れていた。


激戦になった。


激戦の最中、散り散りになったと思われていた海賊が城壁に取り付いた。

城壁に鉤縄かぎなわを掛けてよじ登り始めた。

海賊は職業柄、他船に鉤縄を掛けて船縁をよじ登って乗り移るのに慣れている。


城壁は揺れない上、ゴツゴツした足がかりもあるので、海賊共は簡単によじ登った。

そして城門の内側で激戦になった。

やがて内側から城門が開けられた。


城外の戦いの決着は付かなかったが、城門が開いたと見るや海賊共はオリオル騎士団との戦闘を放り出し、我先に城内に突入した。



海賊側の狙いは略奪・暴行・放火・誘拐。

オリオル騎士団が現れると隠れ、別の場所で略奪・放火に専念した。


やがて街のあちこちで火の手が上がった。

略奪するのも危険なほどの火の勢いになったのを見計らい、海賊共は城門の外へ逃れ、戦利品を抱えてポートシャークへ突っ走った。


その後をオリオル騎士団が追いかけた。



ポートシャークでは略奪に加わらなかった海賊共が刈り取った収穫を海賊船に乗せる作業をしていた。

そこに略奪を終えた海賊が合流すると、略奪品を積み込み、出港した。

積み残した収穫には火を付けた。



「アンナ。海賊の出自はどこだと思いますか?」


「主力は間違いなく国外。神聖ミリトス王国またはローラン王国。あるいは両方でしょう」


「今回の襲撃。オリオル辺境伯領の兵の配置を正確に把握して計画された様に感じます」


「私もそう思います」


「外国の海賊にそこまで綿密な諜報活動と計画立案ができますか?」


「できないと思います」


「すると今回の絵を描いた犯人の心当たりは1人しかいないのですが?」


「私も1人の名前しか思い浮かびません」


「個人名は言わなくて結構ですが・・・ 貴族同士の争いは王宮は静観でしたね?」


「はい」


「王宮の反応は?」


「静観です」


「王宮は正確な情報を掴んでいる?」


「はい」


「そう言い切れると言うことは・・・」


「マーラー商会王都支店が情報源になっています」


「では私は納得できない点が1つあります」


「何でしょう?」


「私の感覚ではこれは『外患誘致』です。犯人は裁判無しの死刑一択です」


「がいかんゆう・・・ とは何ですか?」



なるほど。

そこからか。

急に説明するのが疲れてきた。



「後で教えます。先をお願いします」



アンナの報告は続いた。



オリオル辺境伯領の被害推定。


騎士団はほぼ無傷。

領都住民の半数が死傷または誘拐。

領都周辺の穀物は半減。


領都は焼け落ちた。


辺境伯生存。

辺境伯夫人誘拐。

長男死亡。

長女誘拐。

次女カトリーヌ生存。


辺境伯とカトリーヌの間に何らかのトラブルがあったらしく、カトリーヌはオリオルを出奔。

行方不明。




「カトリーヌの捜索は必要と思う?」


「・・・ビトー様が第四夫人として御所望なさるなら」


「怒るよ」


「申し訳ありませぬ」


「カトリーヌは仲間だったが親御殿の意向で仲間から外れた。喧嘩別れをした訳じゃ無い。今は寄る辺の無い身で放浪しているだろう」


「貴族の子女ですので生活能力は無いでしょう」


「ひょっとしておおよその位置を掴んでいるとか?」


「・・・」


「拾いに行くか」


「・・・」


「何?」


「・・・」



夜。

アンナとじっくりと、これでもかっ! と話し合った。



アンナの情報を元に捜索隊が出発した。




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