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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
23 メルヴィル風雲編
257/302

257話 スキラッチ始動


(スキラッチ伯爵の視点で書かれています)



大ベルトゥーリ公爵が突然逝去された。

途端に武闘派は空中分解した。

崩壊を食い止める手立ては全く効かなかった。

いかにベルトゥーリ公爵の威光が大きかったか知れる。


武闘派は無能揃いだったということも露呈した。

ベルトゥーリ公爵のおこぼれにたかるだけしか能のないハエども。

ベルトゥーリ公爵という甘い菓子が消えた途端、四方八方に飛び去った。



穏健派は腰抜けだ。

良い機会とばかりにバラバラになった武闘派の取り込みに掛かったが、少し脅すとすぐに引っ込む。

どんなに小さな武闘派貴族でもお前らのごとき腑抜けの言いなりになる訳が無かろう。

馬鹿め。



だがこのままで良いはずがない。


周囲がお膳立てをして、ラビーネ侯爵を旗頭にして武闘派再建に向けて動き出した。

だがすぐに頓挫した。


ラビーネ・・・

侯爵ともあろう者が身内の出来損ない1人切ることすらできぬとは・・・

しかもたかが三男をだ。

見損なった。

武闘派にとっても太平の世が長すぎたのだろうか。

侯爵家にしてここまでレベルが落ちているとは思いも寄らなかった。


もはや私が立つしかあるまい。

そう腹をくくった。




『国家存亡の危機に際し、名だたる貴顕が次々に遠慮され、不肖スキラッチ家が旗幟を鮮明にすることに相成りました。つきましては・・・』




武闘派貴族の間に檄を飛ばした。

決起大会の日を指定し、自家が武闘派であると自覚あるものは結集せよと明記した。


すぐに2つの家から接触があった。

ル・テリエ子爵家。

パストーレ子爵家。


事前会合を重ね、3家を中心に武闘派を再興する計画が出来上がった。

決起大会に向けて多数派工作に乗り出した。


その矢先だった。



◇ ◇ ◇ ◇



三家の間の定期連絡要員が忽然と消えることがあった。

そのまま行方不明となった。


おかしい。


汚らわしい商人や、見ることすら厭わしい冒険者共が消えることはある。

それは不思議ではない。

下賤の者はそういうものだ。


貴族の使者は違う。

命よりも重い任務を帯び、使命感に燃えて目的地へ向かう。

だが、その様な者どもが任務の途中で姿を消した。


他家の妨害を疑い、密かに街道の監視を始めた。

だが、他家に雇われたとおぼしき馬賊や山賊を見つけることはできなかった。


代わりにとんでもないものを見つけた。


蛇の化け物が街道沿いにたむろしている。


国内の治安はどうなっているのだ?

どこから湧き出た?


冒険者共。

下賤のお前らの仕事だ。

さっさと討伐せんか!


冒険者共は討伐できないと抜かした。

この・・・ 使えないクズ共め。

討伐にはなにが必要か言って見ろ。

そう問い詰めたら「騎士団に出陣をお願いします」と抜かした。



貴重なっ!


騎士団をっ!


ゴミ掃除にっ!


使えるかっ!!!


馬鹿者――っ!!!



冒険者共は我が領地から去った。

ゴミ共がいなくなって清々する。


さあ、後は誰か蛇を退治しろ。



◇ ◇ ◇ ◇



誰も蛇を退治せぬまま決起大会の3日前になった。


執事を問い詰めた。


俺は蛇を退治しろと言ったよな?

10日前にも確認したよな?

なぜしていない?


だからゴミ掃除に騎士団を使うバカがどこにいる?


俺は伯爵だよな?

伯爵の命令だよな?

お前聞いたよな?

なぜしない?


それともお前の中では俺は伯爵では無いのか?




翌日執事は姿を消した。



◇ ◇ ◇ ◇



決起大会当日。


集まった貴族は当初の予定より遥かに少なかった。

その割にはやたらと人数がいる。

皆騎士団を連れてきていた。

いくら我が領地が伯爵領とは言え、そんなに大勢に駐留されると困る。

どうしようか考えあぐねていると急報が飛び込んできた。


国内各地でコカトリスが暴れているという。


コカトリスとはなんだ?

蛇の魔物?

アレか。


大したことは無い。

大会を始めましょうぞ。


だが集まった貴族達は続々と帰って行った。



・・・


・・・



失礼だろう!!!

この大会を準備するためにどれだけの金と時間を掛けたかわかっているのか。

大損だっ!!




その後、武闘派貴族の間でコカトリス騒動でダメージを受けた貴族に対し、経済的援助を検討する話が密かにされているという噂を掴んだ。

すかさず決起大会へ参加予定だった貴族へ文書を出した。



「我が領地は武闘派再興の舞台を用意したにもかかわらず、コカトリス騒動で会合が流れた。補償を要求する」



これは援助ではない。補償だ。

準備に対する正当な対価だ。



誰も返事をよこさなかった。


ふざけるなよ・・・



◇ ◇ ◇ ◇



有象無象の貴族は当てにならぬ。

王宮と太いパイプを持てばその他の貴族は放っておいても蟻のように群がってくる。


俺には王宮とパイプを持つ秘策がある。

イルアンだ。


イルアンにダンジョンが見つかって数年。

イルアンは国内随一の経済規模のダンジョン都市に成り上がった。

これを腰抜け貴族に持たせておくのは勿体ない。

武闘派が持つべきだ。


だがイルアンは我が領から離れている。

ここは王宮に持って貰うのが良かろう。

利益は王宮と折半で。



王宮との交渉は厳しかった。

イルアンの管理は当方ですることになった。

ゴミ共(冒険者)の管理か・・・

クソッ!

だが王宮がゴミの管理をしたくない気持ちはわかる。

腐っても王家だからな。

王宮の汚れ仕事を引き受ける代わりに利益を・・・


利は7:3で王宮に献上することになった。


・・・


結果は渋かったがまあ良かろう。

イルアンをターゲットにしたのはそれだけではない。

イルアンには国内最高峰の遊女が揃っている。

ゆくゆくは彼女ら全員をサーディンヴィル(スキラッチ伯爵領領都)へ連れてくる予定だ。


まあ、しばらくは部下のやる気を引き出すためにイルアンに置くが。



珍しく部下共が自主的に動いている。

俺に隠れてコソコソと動いている。

これも遊女効果だ。

いつもそのくらい働け。

馬鹿共め。



◇ ◇ ◇ ◇



イルアンの利益が上がっていない・・・


なぜだ?

そんな馬鹿な話があるか。

ダンジョンがガンガン貴重な素材を生み出すのだぞ。

利が出ない訳がないではないか。


例えばブルーディアーの毛皮。

例えばストライブトディアーの毛皮。

例えばリッチの魔石。

オーガキングの全身鎧も出たそうだな。


それをどうした?

ゴミ共(冒険者)から安く巻き上げて高値転売すれば良いだけだろう?


ない?

そんな素材見たことないだと?

ゴブリンかスケルトンの魔石しかないだと?


そんな訳あるかーーーーーーっ!!!


ゴミ共に探索させろ!




『六佳仙』がいないだと!?

嘘をつくなっ!

絶対にいるっ!


娼館が潰れた!?

それで『六佳仙』いなくなった!?


貴様ら・・・


俺を馬鹿にするのもたいがいにせいよ。



◇ ◇ ◇ ◇



王宮の信は失われた・・・


くそ・・・


もはや誰も信用できぬ。



許せん。

許せん許せん許せん許せん許せん許せん。


ここまでコケにされてこのまま引き下がれるか。

復讐してやる。

俺をコケにした奴ら全員を地獄に突き落としてやる。


俺をただの貴族と思うなよ・・・




俺をコケにした奴らの領地を手当たり次第荒らすことにした。





スキラッチ伯爵。


一つの典型例として書いてみました。

こういう人、民間企業にも割といます。


そしてここからが重要。

この手の人は経営陣から高く評価されます。



地球上に手付かずのフロンティアなど残っていない現代。

自社の(自組織の)利益を拡大しようとすると、巡り巡って誰かの利益を奪うことになります。


今、企業や組織はSDGSだのコンプラだのと念仏を唱えていますが、経営者からすると利益を上げなければ意味が無い。

SDGSやコンプラを守って自社が衰退しては意味が無いのです。

なのでSDGSやコンプラは表看板として掲げる。

裏では多少強引でもよい。

閉塞した現状を打破して利益を分捕ってくるエネルギーが欲しいのです。

だから高く評価されるのです。



問題は誰が尻拭いをするのだ? と言うところですが、それを気にするのは実際に尻拭いをする下々で、上の人は問題とは思っていないようです。

尻拭いしきれずに公になるとSNSやマスコミに叩かれます。


この物語上にはSNSもマスコミもありませんので・・・




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