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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
22 メルヴィル立志編
254/301

254話 メルヴィル2年目(夏・北ダンジョン1)


メルヴィルの人口が増えている。

入植者と冒険者。



入植者はライムストーン公爵領から来る。

マーラー商会とヒックスの冒険者ギルドの厳しい身元チェックをクリアした者たちだけだ。


ライムストーン公爵は前職(宗教査問官)の経験をフルに生かされており、領内の不穏分子の洗い出しは得意中の得意。

つまり領内に秘密情報網が張り巡らされているのだ。


ライムストーン公爵領内は非常に治安が良く、旧神聖ミリトス王国からの移民の流入が耐えない。

身元を確認したらメルヴィルへ輸出して、領内の人口増圧力を下げている。


入植者はイーサンに管理させる。

本人は気付いていないようだが、イーサンは人間を見る目が優れている。

変な噂が広まりそうな(広まり掛けている)集団を的確に見抜く。

そして上手に矯正する。

ライムストーン公爵の血筋を強く感じる。




もう一つの人口増加の理由。

冒険者数が増えている。


増えた要因を探っていくと、一つは他領より移り住む冒険者が多い。

腕はG級~E級。

南のダンジョンで腕を磨くために集まってきている。


話を聞くと、ダンジョンに挑んで一攫千金を狙っているのではなく、隊商の護衛任務でもそれなりの腕が求められるようになったこと。

コカトリス騒動が契機になっているそうだ。



そして最大の要因は冒険者が死ななくなったこと。


こう書くと『今までどれだけ死んでいたんだよ!』と突っ込みたくなるが、実際に死んでいたことがわかった。

なんだか背中が薄ら寒くなった。


私のG級冒険者時代を思い起こし、改めてソフィーに手厚く守られていたことを実感する。



南のダンジョンを卒業した冒険者達は、北のダンジョンに挑むようになった。

北のダンジョンでは流石に死亡率は上がった。

それでもダンジョンとしては異例に低いという。


炎帝も南のダンジョンから北のダンジョンへ異動し、北ダンジョンの攻略をしつつ、冒険者が無駄死にしないように気を付けている。



北のダンジョンは、第一層はスケルトンが出てくる。

昔どれだけ人が死んだんだよ、という感じ。

有り難いことに挟み撃ちがないダンジョンで、素直に魔物を倒すトレーニングを積める。


最近は中央の情勢分析に掛かりきりだったマキが現役復帰し、オルタンス様も合流し、イーサンも合流し、ダンジョンに潜るようになった。



イーサンは南のダンジョンで腕を磨いてもらおうかなと思っていたら、ウォルフガングは最初から北と南の両方のダンジョンに同行させるという。



「どうしてですか?」


「イーサンはどんなに鍛えても前衛は務まるまい。風の素養は僅かにあるが、これも魔物を倒せるほどにはなるまい。ならば経験だけは積ませてやろう」



◇ ◇ ◇ ◇



北ダンジョンの初層はスケルトンしか出てこないので、マキとオルタンス様の鈍った腕を磨くには丁度良い。


オルタンス様には冒険者として訓練に励むときは呼び捨てにして欲しいと言われ、そうすることになった。



マロン、マキ、ルーシーが前衛。

ジークフリード、クロエ、オルタンス、イーサンが後衛。



ちなみにジークフリードには【魔剣Sandstorm】を渡してある。

Sandstormは土魔法なら何でも強化してくれる。

ダンジョンに持ち込む砂の消費量が減ったという。

遠慮無く後方から土魔法をぶっ放してくれたまえ。

任せた。




と思っていたら、早くも2日後に私を呼びに来た。

第二層から変な魔物が出るようになったらしい。



早速2つのパーティで潜ってみることにした。


第一パーティ

前衛:ノワ、ビトー、マキ

後衛:ウォルフガング、ソフィー、ルーシー


第二パーティ

前衛:マロン、オルタンス、ネロ

後衛:ジークフリード、クロエ、イーサン




第二層に降りる。



「本当にビトー先輩とマキ先輩は前衛なんですね・・・」



恐る恐る、といった感じでイーサンが話し掛ける。

別に怖くないぞ。



この階層はイルアンの第三層を思わせる。

ダンジョン内に植物が茂っている。

つまり土がある。

そしてその植物が・・・



「ねっ? 薄気味悪いでしょ?」



マキが言うのも当然。

ギョロギョロとした目玉がこっちを見ている。


植物だと言うことはわかる。

ハエトリソウの仲間なのだろう、と言うこともわかる。

ハエを捕る部分、つまり二枚貝の様な部分が人の目に見える。

あれを “目” だとすると、まぶたに当たる部分に立派なまつげが生えている。



「誰か知っている人はいませんか?」


「おそらくだが・・・ 【ヴィーナス】だと思う」 とソフィー。


「女神ですか・・・ あまり良い思い出がないのですが・・・」


「あの葉の模様が女神の目に似ているのでそう名付けられたはずだ。まつげも凄いのが生えているしな。名付けた奴のセンスを疑うが」


「あの目玉、我々の動きを追ってますね。本当に見えているのですね」


「ああ。薄暗いダンジョンの中でも見えているのだから、かなり優秀な目だ。そして冒険者が近付くとまぶたを閉じて捕らえるのだ。食人植物だ」


「力が強いのですか?」


「わからぬ。だがあのまつげには毒がある。毒でやられて動けなくなったところをゆっくりと溶かされながら食べられるらしいぞ」



見たところ通路の両脇にヴィーナスがびっしり生えていて、通路を通れば必ずヴィーナスに捕食されてしまう。



「では、ここは私が」



そう言ってハーピーの羽根を10本ほど漂わせた。



「皆さんに目を腕で隠してください。マロンとノワも隠してね」


「ではいきます」



光魔法でハーピーの羽根をカメラのフラッシュの様に光らせた。

予想どおり、強烈な光を浴びたヴィーナスは葉を閉じて左右に茎を振っている。

感覚器官を潰されて苦しいのだろう。



「ジーク。頼みます」


「おう」



ジークフリードが魔剣Sandstormの性能テストがてら、ヴィーナスに砂利の嵐を叩き付けている。

見る見るうちにヴィーナスが崩れていく。


2分後にはバラバラになったヴィーナスの残骸だけなった。

すぐに再生もしないようだ。


売れそうな素材は魔石だけだった。

植物の魔石。

なぜか水と土の2属性だった。

高く売れるのかも知れない。



先に進んだ。


次もヴィーナスの群落だった。



「俺にやらせてくれるか?」



ウォルフガングに任せた。

ウォルフガングは火球を4つ浮かべた。

火球を叩き付けるのではなく、炙りに掛かった。


ヴィーナスは茎を左右に振って火から逃れようとしたが、いかんせん根っこは動かない。

それなりに時間は掛かったが、全て黒焦げにした。



ソフィーとクロエは一株ずつ攻撃してみて、それ以上試さなかった。



「どうも、それほど相性の良い魔物ではないな・・・」



水(氷)と風で攻撃すると確かに無力化できるが、死体に毒針が残ってしまい、結局火魔法か土魔法で始末して貰うしかないらしい。



◇ ◇ ◇ ◇



第2層のどん詰まり。


ヴィーナスでは無いものがいる。

やはり植物。

この階は食虫植物の階なのね。



「なんだあれは・・・」


「見たことないですね」


「ソフィーは知っているか?」


「いや、私も初めて見る。資料でも見たことがない」



だがマキと私は知っている。

モウセンゴケのお化けだ。


早速鑑定する。

ある程度予備知識を持って鑑定すると、事細かに教えてくれる。



種族:ドローセラ

年齢:1歳

魔法:無し

脅威度:D

特殊能力:溶解液


体中に生える繊毛の先端に溶解液を持つ

繊毛がセンサーになっており、触れるものに巻き付き、動きを封じる

溶解液には強い粘性があり、一度付着すると容易に剥がれない

体内に多量の溶解液を持つ



全員に情報共有。



「倒し方は鑑定で出てこないのか?」


「出ませんね」


「どうする? 炙ってみるか?」


「炙るときは氷か土で覆った方が良いですね」


「どうしてだ?」


「多分ですが炙ると爆発しますよ。溶解液を撒き散らします」


「あの体の中で水が暴れるのか」


「そうですね」


「どうするのがいい?」


「水魔法で凍結して、土魔法で粉砕して、粉々になった溶解液を炙るのが一番安全だと思います」


「面倒くせえな・・・」


「手間は掛かりますが危険はありません。最も良い手かと」


「なるほど」



その通りに処理した。


毒が残っていないか鑑定しながら先を進むと宝箱があった。

岩陰に種らしきものがぎっしり入った袋があった。


鑑定してみる。



【ドローセラ・種】

毒性なし。

解毒ポーションの原料。

上級ポーションの原料。



背負い袋に回収。



その先は3層へ降りる階段があった。




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