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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
22 メルヴィル立志編
253/302

253話 オルタンス


(ハーフォード公爵次女オルタンス・ハミルトンの視点で書かれています)



今から2年前。


私は学院を中途半端な形で卒業しました。

いや、卒業させられました。


別に私が悪かった訳ではないと思います。



頭の悪い学生にターゲットにされ、因縁を付けられ、終いには学校の行事を襲撃の舞台にされ、全貴族注視の中で返り討ちにしました。

そうしたら学院側が音を上げたのです。



「穏健派は大人しく武闘派のいじめに耐えろ」


「おまえらが我慢すれば余計な仕事は増えない」



というのが学院の本音なのでしょう。


ですが学院は各貴族の子弟が集まる出先機関のようなものです。

そして貴族間の争いの解決には必ず代償が伴います。

理不尽な事を要求されて我慢すれば “負け” と見なされます。

その後の領地間取引で無理難題を吹っ掛けられるのです。

だから絶対にいい加減に幕引きをさせる訳にはまいりません。



とは言え、今回の騒動は武闘派はもちろん、中立を保っていた貴族におかれても後味の良いものではなかったでしょう。


いくら武闘派が「自分で作った罠に自分で引っ掛かった」とは言えです。




休校騒動の最中、ビトーはカトリーヌをオリオル領へ送り届けに行きました。


途中、カトリーヌがタイレルのダンジョンに挑戦して騒動の原因を止める、という予期せぬイベントが発生しました。

ウォーカーも同行しましたが、あれはカトリーヌの我が儘に振り回されただけでしょう。




ですがお父様はビトーの行いを認めることはできませんでした。


形の上ではビトーを陞爵し、それによって領地持ちとしましたが、呪われた領地を与え、事実上領都から追放したのです。

私と母上に近しいのも目障りだったのでしょう。



ビトーが何を考えて辞令を受けたのかはわかりません。

ビトーは素直に、というよりも、喜んで領都を去ったように見えました。



お母様と私はこのままビトーとの関係が切れることは避けたいと思っていました。

細い繋がりでも残しておきたいと思っていました。

ですがビトーはお母様の呼び掛けに対し、自分はもはやその様な立場ではないと謙遜し、爽やかに領地へ去って行ったのです。



◇ ◇ ◇ ◇



それからの2年間。

私は領地経営に寄与することを主眼に過ごしました。


私は次女ですので将来は統治者にはなりません。

姉上が配偶者を迎え、共同統治をするのでしょう。

私は補佐役となるはずです。

ですので領地に密着した調整役になることが期待されます。


領内各地を巡察して回りました。



そして余力があれば体を鍛えること、魔法を磨くことに費やしました。


私がビトーから預かった【ダガーオブウンディーネ】。

ビトーに返却せず、お父様が接収してしまった魔剣。

今は館の宝物庫に眠っています。


魔法の訓練をして愕然としました・・・

魔剣を持たない私の魔法は発現が遅く、かつ威力が弱いのです。


私は荒神祭で脅威度Cのオークキングを蹴散らしました。

その時の魔法は撃てない事がわかりました。

どんなに集中しても撃てません。


カトリーヌはダンジョンボスにトドメを刺したと言われています。

話7割としても、大きな差をつけられてしまったことを感じます。


もう一度。

もう一度鍛え直さねば。

でもどこで?

どうやって?




イルアンは王領になりました。

ビトーがダンジョンを発見し、整備し、村も整備し、ダンジョン都市として発展する礎を築き、領内第二の都市に発展させたイルアン。

私、カトリーヌ、アナスターシアを鍛えたイルアン。

それを惜しげも無く手放したお父様。


イルアンの代わりに得たものは荒野。

北は黒森(魔物の跋扈する森)に接するという鬼門の土地。

その荒野もビトーに押しつけたのです。


お父様ははそこまでビトーを疎ましく思っていたのでしょうか。



◇ ◇ ◇ ◇



イルアンを取り上げた王宮が、イルアンを管理できないことが明らかになりました。

王宮はハーフォードを頼ろうとしてきました。

ですが利はそのまま王宮が吸い上げるつもりらしいです。

無能を曝け出しています。

醜いです。


ですが、醜くても王宮です。


お父様はビトーを呼び出しました。

もう一度ビトーにイルアンを管理させようとしているようです。



私は考え込んでしまいました。

こんなことをしていて、ビトーはハーフォードに残ってくれるのか? と。



ビトーはライムストーン公爵とのご縁でハーフォードを訪れました。

もしこのご縁がなかったら、母上は、姉上は、どうなっていたのでしょう?

裏でミリトス教と繋がっていた、その名を口にするのも汚らわしい奴はどうしていたでしょう?

そしてビトーはハーフォード公爵領の厄介事を全て解消してきました。

いつまでビトーはハーフォードに留まってくれるのでしょう?



お母様も同じ事を考えておられました。

お父様に凄い剣幕で直談判をされておられました。



お母様はビトーに頭を下げ、ビトーはハーフォードに留まってくれました。



「あなたももう学生ではありません。ビトー子爵と呼びなさい」



とお母様に窘められました。


私は定期的にビトー子爵の元を訪れ、鍛えてもらえることになりました。



◇ ◇ ◇ ◇



ビトー子爵が治めるメルヴィルを訪れました。


何から何まで聞いていたことと違うことに驚きました。



噂では人っ子1人いない廃村のはずです。

 => 大勢とは申しませんが、農民がいます。小さな村程度はあります

 => 冒険者がたくさんいます

 => 冒険者相手の店やギルドが揃っています


噂では建屋は崩れ、がれきの山のはずです。

 => 城塞と見紛う建造物が建っています

 => 大都市に必要な店舗は全て揃っています

 => 西の外れにヴィラらしき建物があります。あれは何でしょう?


噂では村中をアンデッドが跋扈しているはずです。

 => どこにもいません

 => そんなのがいたら冒険者達に袋叩きにされるでしょう



ということで、噂と全然違います。

ビトー子爵は早くもこの村を領内有数の都市に育てつつあります。



気になった点、気付いた点。


身分を隠した大店の店主らしき者たちをチラホラ見かけます。

何をしているのでしょう?

買い付けでしょうか。



イーサンと再会しました。

イーサンはライムストーン公爵の嫡男です。



「イーサン!」


「オルタンス先輩! ご無沙汰をしております」


「まあ、こんなところで何をしているの?」


「・・・」



イーサンは嬉しそうな、恥ずかしそうな、嬉しく無さそうな、なんとも複雑な顔をしました。

あまり追求して欲しく無さそうな感じ。

しかし意を決したように話してくれました。



「私は少しでもカトリーヌ先輩に近づけるよう、武者修行に来ているのです」


「あら。私は眼中にないのね」


「そんな・・・ 私は2年前にカトリーヌ先輩の前で醜態を晒しました。にも拘わらずオルタンス先輩にまでお声をお掛けしたら、軽率の誹りを免れません」


「ふふっ 冗談よ」



それからイーサンが取り組んでいる訓練を聞き、ビトー子爵にお願いして私も訓練に参加させて貰いました。



どこで訓練をするのかと思ったら・・・


メルヴィルの中にダンジョンがあったのです。

駆け出しの冒険者にぴったりの飛びっきり小さいのが。




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