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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
22 メルヴィル立志編
249/302

249話 (幕間)イルアン冒険者ギルド長


(名も無きイルアン冒険者ギルド長の視線で書かれています)



ダンジョン都市イルアンが王領になってすぐ、俺は密命を帯びて王都の冒険者ギルド本部からイルアンへ送り込まれた。


表向きはイルアン冒険者ギルド長としてギルドの運営に携わる。

真の目的は冒険者ギルドの上がり(売り上げ)から一部を抜いてスキラッチ伯爵へ送金すること。



なにしろイルアンの売り上げは凄い。

王都冒険者ギルドの売り上げを遥かに凌ぎ、国内随一。

いや大陸一かもしれない。

イルアンを手中に収めれば領地経営の太柱になる。

兵も武器も一気に増やせる・・・ のだが、イルアンは王領である。

王宮から不審に思われない程度の利を献上しつつ、こっそりと抜いていくのだ。

手腕を問われる。



俺をイルアンに送り込むためにスキラッチ伯爵は裏で色々と動かれた。


自分の意のままに動かない奴を抹殺し、私を推した。

私はある貴族の財務を管理していた家臣だった。

元の主人はベルトゥーリ公爵失脚の余波を受けて没落してしまった。

行き場のない私を拾い上げ、借財を綺麗にしてくれたのがスキラッチ伯爵だった。


本来王都冒険者ギルド本部の人事にスキラッチ伯爵が口を挟めるはずが無い。

だが平然と横車を押した。

これは間違いなく王宮の暗黙の了解がある。

そう感じ取った者から口をつぐんでいった。


私はスキラッチ伯爵のために身を粉にして働かねばならない。




スキラッチ伯爵は入念だった。


売り上げが合わないときの保険として、王都商業ギルド本部にもかなりのカネをばら撒いた。


さらにイルアンに集結中の高名な遊女『六佳仙』を、優先的に予約指名できるように命じた。

先客がいても無理矢理ねじ込めるように命じた。

これはスキラッチ伯爵の息の掛かっていない役人の視察に対する保険だ。

その名が国内に鳴り響いた超有名姫に接待をさせて口を封じようというのだ。


ただし、その代金を全額冒険者ギルドが建て替えなければならない。

それでは冒険者ギルドが保たないので、我々が利用するときは格安料金で利用できるようにせよ、と王都から娼館に命じてもらった。



これは俺の勝手な考えだが、田舎へ左遷された者への慰安という面もあると思う。

私もイルアン赴任を命ぜられたときは目の前が真っ暗になった。

だが六佳仙がいる街と聞いたときはやる気が満ちあふれてきたものだ。


“接待” と称して六佳仙を予約し、格安の料金で全員を賞味してやろうとわくわくしながらイルアンへ赴任した。


そもそも、なぜ六佳仙がイルアンという田舎町に集結していたのかがよくわからないのだが・・・




赴任してすぐに愕然とした。

イルアンに六佳仙は一人もいなかった。


いや、確かに最近までいたらしい。

だが俺が赴任した時には一人もいなかった。


それどころか『次世代の六佳仙』と目されていた若手有名姫も一人もいなかった。


六佳仙が在籍していたはずの高級店や準高級店は既に廃業しており、残っていたのは大衆店と地元で採用したとおぼしき姫達だった。



想定外だ。



元高級店のオーナーという者がいたので詰問した。



「六佳仙はどこへ行った!?」


「ウチに在籍していた姫は『辞めます』と一言だけ言って行き先も告げずに姿をくらませました。他店も確認しましたが似たような状況です」


「どこに行ったのかと訊いている!!」


「存じ上げません。秘密裏に姿を隠されました。私どもも困っているのでございます」


「奴隷に逃げられて・・・ 貴様、それでも店主かっ!!」


「姫は奴隷ではございませぬ。自営業を営む商人でございます」


「言い訳はいいっ!!」


「姫がいなければ店も閉めざるを得ません。もし行方がわかりましたらご一報お願いできますでしょうか?」


「ふざけるなっ! お前に教える義理などあるかっ!」




想定外は続く。


就任当初の冒険者ギルドの売り上げは素晴らしい物だった。

いや、もっと凄いという噂もあった。

最初のスキラッチ領への送金は十分に満足の行くものだった。

もちろん王都への送金も豪華なものだった。



徐々に売り上げが落ちてきた。


冒険者が売りに来る魔物の素材が “ショボい” ものばかりになった。

ゴブリンとスケルトンの魔石ばかりだ。

ごく稀にトレントの樹皮を持ち込む奴がいたが、極めて稀だ。


イルアンの売り上げは王都冒険者ギルドを遥かに凌ぎ、国内随一、いや大陸一なのではなかったか?

イルアンには炎帝という我が国随一の冒険者パーティが常駐し、深層階を攻略しているのではなかったのか?

深層階の魔物の素材はどこへ行った?


そもそも炎帝はどこにいる?




想定外はまだ続く。


半年も経つとスキラッチ伯爵へ送金する闇金が全く集まらなくなった。

そもそもギルドの全売り上げを足しても課せられた目標額に届かない。

仕方が無いので冒険者が売りに来る魔物の素材の買い取り価格を下げた。

途端に冒険者共は文句を言い始めた。


冒険者ごときが何を言うか。



「ふん。お前らはゴブリンとスケルトンの魔石しか売りに来ないではないか。もっとまともなものを売りに来い。少しは考えてやる」



だが次の日からギルドを訪れる冒険者が激減した。

それどころかイルアンから冒険者自体がいなくなった。

奴らはどこに行った?


こうなったら仕方が無い。

炎帝の居場所を探れ。

炎帝をイルアンに常駐させろ。

奴らにイルアンを攻略させろ。




想定外は更に続く。


炎帝の居場所がわかった。

ハーフォードにいた。

さっそくハーフォードの冒険者ギルドへ命令書を出した。



「炎帝をイルアンへ派遣しろ」



返事が来なかった。

もう一度命令書を出した。


妙な回答が来た。



「冒険者パーティ【炎帝】は当ハーフォード冒険者ギルドの専属冒険者にあらず。

当ギルドは【炎帝】にクエストを発注することはあるが、受けるか否かは【炎帝】自身の判断による。

貴ギルドからの要請は【炎帝】に対するクエストの発注と推察するが、何をして欲しいのか、報酬はいかほどか、全く書かれておらず、当方としてはどのように【炎帝】に伝えれば良いか判断がつかぬ。

あしからず」



呆れた。

たかだか冒険者パーティごときに命令一つ出せぬとは。

これだから田舎のギルドは・・・


だが何としてでも炎帝をイルアンで働かせなければならない。

私は破格の条件をチラつかせ、炎帝を呼び寄せることにした。



「炎帝をイルアン冒険者ギルド専属としてイルアンダンジョンの魔物の間引きに専念させる。報酬として冒険者ギルド職員の給与を保証する。働きによっては王都冒険者ギルドの幹部へ取り立てる道もある」




想定外はまだまだ続く。


ハーフォードの冒険者ギルドからの返答がきた。



「貴ギルドのクエストを提示したところ【炎帝】は行き先を告げずにハーフォードを去る。あしからず」



この返答を見て、何がどうなっているのか、この文書をどこから切れば良いのか判断が付かなかった。

文字一つ一つの意味はわかるが、文章としての意味が掴めず、しばらく眺めていた。




スキラッチ伯爵の使いの者が来た・・・




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