247話 メルヴィル2年目(秋・北ダンジョン1)
ウォルフガングが炎帝に原始ダンジョンの注意点をレクチャーした。
ジョアンとシルバが復唱している。
「ええと。中に入ったらダンジョンの変化に注意しろ。どんなに些細な事でも気になったらすかさず出口へダッシュしろ、と。 わかった」
「気付かれないようにあの門番を殺れば良いんだな?」
「ああ、そうだ」
ウォルフガングは簡単に肯定したが、私は次の展開が予想できてしまった。
困ったな・・・
イルアンの場合、土地が起伏に富んでいて、丈の高い草も生えていた。
身を隠しながらダンジョンの守衛に近付くことができた。
ここメルヴィルの北の荒野は起伏に乏しく、草の丈は短い。
そしてターゲットのダンジョンは小高い丘の頂上にある。
守衛に気付かれずに近づくのは困難だと思う。
全員で車座になって作戦会議。
当然、誰が、どうやって、守衛のスケルトンを倒すかに議論が集中する。
「誰か、50m先の目標をピンポイントで打ち抜ける攻撃方法を持っている人はいますか?」
「あんた・・・ 変な笑いが出るからその質問はやめてくれ」 (ジョアン)
「でも闇討ちするならそうしなければなりません」
「だな」 (ウォルフガング)
「ソフィーでも無理ですか?」
「無理だ」 (ソフィー)
「クロエのウィンドカッターは?」
「隠密性でいえば私だけど、精度は伴わないよ。50m先のものを切るのは無理だよ」 (クロエ)
「そうですか」
「誰か・・・?」
みんな首を振った。
しょうが無いね。
「では、できるかどうかわかりませんが、私がやってみます」
「できるのか?」 (ジョアン)
「わかりません。駄目だったらごめんなさいです」
「駄目だったらっておまえ・・・それでいいのか?」 (ジョアン)
「え~っと、誰が、どんなやり方をしても、失敗する可能性が高い。誰が失敗しても結果は一緒ですよね? ウォルフ?」
「ああ。原始ダンジョンが警戒態勢に入る。それだけだ」 (ウォルフガング)
「では私がやって失敗した方が良いでしょう。オーナーですから」
「そうだな・・・ 俺が責められるよりはな」 (ウォルフガング)
ウォーカーは私の考え方に慣れているので何も言わなかった。
一方炎帝は凄くびっくりしていた。
何にびっくりしたかというと、
「おい・・・ いいのか? 本当に?」 (ジョアン以下炎帝一同)
「まあウチのオーナーはいつもこんな感じだ」 (ウォルフガング)
「貴族だろう? 子爵だろう? 貴族は絶対に責任から逃げるもんだ」 (ジョアン)
「そうね~ でもビトー様はいつもこんな感じよね~」 (クロエ)
「こんな感じって・・・ 本当にいいの?」 (ヴェロニカ)
「貴族らしくなくていいんじゃない? あんたらだってウチのビトー様とタメ口きいてるじゃない~ それを何とも思ってないみたいだし~」 (クロエ)
「う・・・」 (ジョアン)
炎帝の混乱が収まるのを待って準備を始めた。
「で? 何をする気なんだ?」 (ジョアン)
「タクトですね」
「全くわからん」 (ジョアン)
混乱する炎帝を横に置いて、私とエマとマロンが行動を開始した。
丘を中心に思い切り遠回りして守衛の背後に出た。
移動の最中は、マロンは自前の毛皮の模様でカモフラージュ。
私はダークレザーの効果でカモフラージュ。
エマは私の陰に隠す。
守衛の背後に着いたらジリジリと前進する。
2体のスケルトンをほぼ同時に火線に捉えられる距離まで接近する。
私がすることはエマに全て見せる。
感じさせる。
位置に付き、タクトを構えて射線の角度を確かめる。
もし攻撃が命中しなかった場合、空へ抜ける様に角度を調整。
そしてタクトに魔力を込めた。
赤い線が走った。
◇ ◇ ◇ ◇
私とマロンとエマはダンジョンの入口の脇に立った。
足下には上半身と下半身がバラバラになったスケルトンが2体。
ウォーカーと炎帝が走ってきた。
早速質問攻めに遭った。
「あんた何をした?」
「え~ どこから説明すれば良いか難しいですね」
「細い赤い棒が見えたんだが」
「あれは狙いを定めているんです」
「狙い?」
「ええ。遠距離攻撃ですから外れるとどこに飛んでいくかわからないでしょう?
ですから外さないように着弾する位置を確認しているのです」
「なるほど。失敗しても被害は最小限に止める、か」
「ええ」
「ところで赤い棒の正体は何だ?」
「光です」
「ひかり?」
「ええ。光です」
「光って見えるのか?」
「見えますよ。というか実際に見ているじゃないですか」
「だな・・・ それで何でコイツらをぶった切ったんだ? 刀や斧は見えなかったのだが」
「光です」
「・・・」
「光で切ります」
「全くわからん」
「でしょう?」
「・・・で? 何魔法なんだ?」
「光魔法ですね」
「・・・駄目だ。理解の外だ」
「ですよね~」
最近は私も説明を諦めている。
◇ ◇ ◇ ◇
「ではダンジョンを刺激するぞ」
ウォルフガングはそう言うとマロンを先頭に洞窟に潜っていった。
入口を潜るとスケルトン達が熱烈歓迎してくれた。
ダンジョン初層はスケルトンが定番なのかな?
水龍の呪いでそれだけいっぱい人が死んだのかな?
私とエマは最後尾を付いていく。
エマには原始ダンジョンの雰囲気を、そして変化のタイミングを憶えて貰う。
そして前衛や中衛が倒したスケルトン達を鑑定していく。
すると気になる点があった。
それはスケルトンの装備品(つまり死人と一緒に装備品がダンジョンに呑まれ、消化しきれずに排出されたアイテム)だった。
ここまで倒したスケルトンは7体。
スケルトンナイトは出てこない。
7体のスケルトンのうち、妙な装備品を持っていた奴が3体いた。
【Sandstorm】
大地神の加護が付与された土属性の長剣
土属性を持つ者だけが剣の力を引き出せる
土(岩・石・砂利・砂・埃)を自在に操る
武器としての切れ味はロングソード・アクセルと同等
自動修復機能(中)が付いている
【陰石】
魔除けのお守り
闇属性を持つ者だけが力を引き出せる
一定の範囲内の者の気配を断つ
注入する魔力量によって範囲を設定できる
【水鹿】
水のお守り
種類としては『お守り』なのだが、効果が斜め上を行っている
これを身に着けていると溺れない
誰よりも速く泳げる
潜水時間が延びる
水中で筋力が増す
総じて水辺では無双状態になる
この3つの装備品は、初層で出てくるレベルではない。
深層階で出るレベルだ。
特に【Sandstorm】はダンジョンに魔改造されているとは言え、元は相当な逸品だったと思われる。
どんな連中が死んだのだろう?
生前の持ち主の紋章などは綺麗に無くなっているので、見当も付かない。
私はスケルトンの所有物を注意して拾いながら最後尾を進んだ。




