245話 (幕間)ソンブラザーズ
(冒険者パーティ・ソンブラザーズのリーダー:ヘンダーソンの視点)
俺たちはレント出身の冒険者パーティ【ソンブラザーズ】だ。
本当の兄弟じゃ無い。
ただ皆の名前が「ソン」なのだ。
俺がリーダーで前衛の中心で剣士のヘンダーソン。
前衛右翼が剣士のミケルソン。
前衛左翼が剣士のメイソン。
後衛の魔法使いがモリソン、ロビンソン、ワトソン。
偶然だ。
だか気付いたときは天啓を感じた。
パーティ名はソンブラザーズに決まった。
俺たちは冒険者ギルドに登録すると、スライム狩りとイナゴ狩りで経験を積み、E級昇格と共に隊商の護衛の仕事を始めた。
初めてホーンドラビットから隊商を守ったときのことは鮮明に覚えている。
護衛を引き受ける前、俺たちはホーンドラビットを狩る練習をしていた。
本番で初めてホーンドラビットを狩るのでは駄目だ。
事前に何匹も狩って慣れておかねばならない。
そう思っていた。
それはそれで正しかったと思う。
だが実戦は練習と全然違った。
隊商の護衛。
それはホーンドラビットに “狩られる側” だった。
狩る側から狩られる側に変わった途端、ホーンドラビットの数の多さと速さが途轍もない重圧になった。
護衛任務は完遂した。
雇い主である商人には感謝された。
だが俺たちは青ざめていた。
怪我人も出ていた。
鍛え直さねばならない。
パーティの全員がそう思った。
傷が癒えると俺たちはホーンドラビットを狩りまくった。
「ゴブリンが出た!」という噂があればすぐに駆け付け、討伐した。
そして二度目の隊商の護衛を受注した。
任務を全うした。
今度は怪我人は出なかった。
だが違和感は拭えなかった。
皆で話し合った。
そこで「魔物に襲われるところから反撃する経験を積まなければならない」と意見が出た。
なるほど。
ではどこに行けばそんな経験を積めるのか?
右翼のミケルソンが恐る恐る言った。
「イルアン行けば魔物に襲われるらしいですぜ」
ワトソンが捕捉した。
「それどころかイルアンでは魔物に挟み撃ちにされるらしいですぜ。それであの【ジルゴン愚連隊】もやられたっちゅう話ですぜ」
おいおい。
俺たちゃ自殺に行くわけじゃねえぞ。腕を上げたいんだ。
とはいえイルアンにも行ってみた。
結果は言いたくない。
メンバー全員生きて帰ってきたのは数少ない成果だろう。
そう自分を慰めた。
隊商の護衛を続けた。
俺たちにとってこれが腕を上げる機会だった。
雇い主には悪いが、本番で訓練させて貰っていた。
◇ ◇ ◇ ◇
ハーフォードの冒険者ギルドで炎帝を見掛けた。
イルアンの深層階まで攻略している伝説のパーティ。
俺たちが苦しんでいる階層など鼻歌交じりで魔物を蹴散らしていく絶対強者。
思わず声を掛けていた。
声を掛けてから「しまった!」と思った。
俺が簡単に声を掛けていいパーティじゃ無い。
炎帝のリーダーのジョアンは気さくな男だった。
ペーペーの俺たちの悩みを辛抱強く訊いてくれた。
「魔物を狩る側から狩られる側に回った途端、魔物の強さが10倍にも感じる」
「どんな訓練をしたらいいのかわからないんだ」
気付いたら俺たちの周りに人だかりができていた。
皆、目を見開いて必死にジョアンの言葉を待っていた。
皆同じ悩みを持っていたんだ、と初めて気付いた。
ジョアンは周囲を見渡した。
「みな同じ悩みを抱えているんだな?」
大勢の冒険者共が一斉に頷いた。
「魔物から狙われる側になった時のプレッシャー。これは慣れるしか無い」
一斉にうめき声が上がった。
だがジョアンは続けた。
「だが訓練のやり方はある」
固唾を呑んで次の言葉を待った。
「メルヴィルへ行け。そこの南にちっぽけな洞窟がある。そこでは魔物が湧く。
ダンジョンというほどではない。上級者には物足りないが、初級者の訓練には丁度良い。そこで徹底的に腕を磨け」
「メルヴィルって・・・」
「ハミルトンの更に先だ」
「呪われた土地・・・」
「そんな噂もあったな。だが行ってみれば全然噂と違うぞ」
「そうなのか・・・」
「メルヴィルに慣れてから隊商の護衛をしてみろ。見方が変わるぞ。
それでもまだ心許ないならもう一度メルヴィルで訓練を積め。2~3回も訓練を積めばホーンドラビットごときに遅れを取ることはなくなる」
「「「「「「 おおお・・・ 」」」」」」
「イルアンは厳しすぎる。訓練には向かんよ」
最後にジョアンはボソリと言った。




