242話 メルヴィル1年目(春・来客2)
マーラー商会員、マホームズ達の合流の後、大々的に建物を作り始めた。
流石にジークフリードだけでは無理なので、アンナに土魔法使いの商会員を回して貰った。
第四商業エリア(食堂、酒場)
宿泊エリア (商人向けホテル、冒険者向け宿屋)
娯楽エリア (レストラン、バー、娼館)
これを優先して作った。
娼館は設計だけで無く、建設も費用もマホームズに任せっきりにしたところ、凝った作りの建屋が出来上がった。
水回りはシャワーヘッド完備が基本で、温水が出るようになっていた。
さらには遊ぶだけでなく、宿泊と食事の提供もデフォルトだという。
昔の吉原みたいなものか。
その分、客単価は跳ね上がる。
食事は誰が作るのか謎だったが、ウチに頼みにきた。
仕出しをして欲しい。
まあ、ウチも本格稼働前なので余力はある。
稼働率を上げるには丁度良いか。
すると不思議なもので、すぐに客が付いた。
なんで?
姫自ら営業をしていた。
上得意の中のさらに上得意。
ほんの上澄みの客に声を掛けたらしい。
みなさん立場があるらしく、顔を隠して来訪していた。
◇ ◇ ◇ ◇
ある日の夕方。
使い魔が客の来訪を告げた。
来たのは古森の3巨頭。
アイシャ、エリス、アリアドネ。
川渡り隊の隊長がなぜ?
ああ・・
ハーフォード川を渡ったのね。
早速下にも置かぬおもてなし。
私はもちろんのこと、エマを始め我が子達によるヒールを掛けながら全身マッサージのおもてなし。
王侯貴族でも味わえない超贅沢マッサージ。
お三方とも大変に満足されていた。
リックのお目見え。
リックはアイシャの前に連れてこられた。眠っているけど。
アイシャは眠っているリックを胸に抱き、魔眼で鑑定。
やがて祝福の言葉を頂戴し、リックを退出させた。
「あなたの子供達はみな素性がよいですね。アルマの痕跡が微かに見られますが悪い影響を受けておりません。すくすくと育っています」
「ありがとう存じます」
ウチの館の賓客第二号として広間を使った正式な晩餐に招待し、シークレットゲストルーム宿泊第二号になって頂いた。
翌日。
アイシャの神託の時間。
「私に何を聞きたいのですか?」
「私が最も注意しなければならないことをお教え下さい」
「北よ」
「北と言うことはイルアン?」
「ではありません」
「南のダンジョンは気にしなくても良い?」
「今さらあんなの気になりますか?」
「う~ん」
「駆け出しの冒険者の腕を磨く場にしなさい。適度に突ついてやらないと、あのダンジョンは自然消滅するわよ」
「え~」
「イルアンの対価としてハーフォード公爵に下賜されるものは、黒森からメルヴィルの間の土地になるでしょう」
「対価と言う割には利用価値のない荒野が広がっていますが?」
「そうね。価値があるかどうかは私は判断しないけど。誰が管理することになると思いますか?」
「まさか私ですか?」
「貴方以外に誰がいるの?」
「・・・」
「アイシャ様の言われる『北』とはこの土地のことですね。ここに何かがある。毒にも薬にもなる何かがある、と?」
「ふふふ」
それから具体的に何があるのか聞き出そうとしたが、答えてくれなかった。
お土産に「ハーフォードの月」と「レントの誉れ」を6本ずつ持たせると、ほくほくしながらアイシャ達は帰って行った。
◇ ◇ ◇ ◇
すぐに会議。
北に何かがある。
ということでウォルフガング、ルーシー、マロンの子供達を偵察に出した。
途中、ルーシー、マロンの子供達はキャスに挨拶してから探索に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
それからほどなく、正式にイルアンが王領となったという知らせがきた。
ほぼ同時にハーフォード公爵から呼び出しを受けた。
私とソフィーでハーフォードへ向かう。
公爵、騎士団長と面会。
言い難そうにしていたが、こちらからは余計なことは言わずにいた。
やがてやっと「イルアンを王に譲渡した」とだけ言った。
「左様でございますか」
「・・・」
「・・・」
「異論はないのか?」
「閣下がお決めになったことです。少し懐かしさを感じないわけではありませぬが、身共が口を差し挟むことでは御座いますまい」
「そうか・・・」
私が特に反応を示さなかったため、公爵は急に気が楽になったように見えた。
「イルアンを譲渡した対価として、黒森からメルヴィルまでの広大な土地を得た」
「・・・」
「これをスティールズ子爵の管理下とする」
「はっ」
下手なことを聞いて自分の手を狭めることはするまい。
それ以上の話が無いことを確認し、一言御礼を述べて退出した。
「閣下がお任せ下さった地。必ずや輝かせて御覧に入れたいと存じます」
それだけ述べて即座にメルヴィルへ撤収した。
役人達は「領都ハーフォードにおける私の館の選定」の打ち合わせをしたかった様だったが、「どーも、どーも」と煙に巻いて撤収した。
領都に館を持つ必要性はない。
貰ったら貰ったで維持費が馬鹿にならない。
江戸時代の参勤交代じゃあるまいし。




