238話 メルヴィル1年目(秋)
平凡勇者の異世界渡世
238話 メルヴィル1年目(秋)
引っ越しが始まる前。
一度だけ王立高等学院へ出向いた。
事務局に学生証を返却。
先生方に卒業の挨拶。
エミリオ先生(魔物学教授)
アルベルト先生(ダンジョン学教授)
ラファエル先生(魔法学教授)
ミゲル先生(魔道具学教授)
エミリオ先生とアルベルト先生には「次はいつダンジョンに潜るんだ?」と聞かれて閉口。
ミゲル先生からは土魔法の実験用魔道具を頂いた。
◇ ◇ ◇ ◇
メルヴィルへ移住が完了したのは秋が始まる頃だった。
移住者は、
ウォーカー:7名(ビトー、ソフィー、マキ、ウォルフ、クロエ、ジーク、
マロン)
子供達 :5名(エマ、カール、マヌエル、ガブリエラ、リック)
家臣団 :7名(パトリシア、サマンサ、マリアン、マルティナ、ミカエラ、
メリンダ、レベッカ)
子供が1人増えている。
マキの子。
マキが産気づいたと連絡を受けて駆け付けたが、パトリシアとサマンサに部屋の外に放り出された。
男子禁制だそうです。
「前の世界では旦那が妻の出産に立ち会うケースも普通にあったんです」
そう訴えたら心底キモイ物を見る目で見られた。
「御主人様はどれだけ野蛮な国の出身なのですか?」
「変態と思われたく無ければその様な言動は慎んで下さいませ」
言葉の暴力を受けた。
つらい。
生まれてきたのは男の子。
名前はリック(リチャード)と名付けた。
マキが。
由緒正しき強い統治者、という意味が込められているそうです。
使い魔達も一緒にお引っ越し。
オウムやフクロウ達は「どってことないよな」だったが、オコジョ一家は大変だった。
一から地理やら天敵やらを憶え直さなければならない。
ちょっと文句を言われた。
はい。ごめんなさい。
居残り組は アンナ(@ハーフォード)、ルーシー(@イルアン)の2名。
私は街の記録を付けることにした。
記録は
『メルヴィル開拓史』
勝手にそう名付けた。
開拓と言いつつ開墾は家庭菜園くらいしかしないのだが、この方が気分が出る。
◇ ◇ ◇ ◇
メルヴィルの現状を簡単に紹介する。
東の境界を水路が走っている。
水路は北から南に流れており、北にあるキャスター(ビーバーのような動物)の湖から水を引いている。
堤防上には『対魔樹』という魔物が嫌がる樹木が等間隔で植えられており、よほど強い魔物でないかぎり、メルヴィルからハーフォード公爵領の中心部へ行きたくないようになっている。
北側は標高が高く、『水龍の呪い』と恐れられる水害時も水を被らない。
居住地に適している。
中央部に平坦な土地が広がる。メルヴィルで最も広い面積を持つ。
標高が低く、元は農地として使われていた。
今は耕作放棄地となっている。
南側も標高が高く『水龍の呪い』でも水を被らない。
ここには規模の小さなダンジョンがある。
西側も標高が高くなっており『水龍の呪い』でも水を被らない。
その先には崖があり、海岸段丘になっている。
さらにその先は海だ。
◇ ◇ ◇ ◇
メルヴィルで徘徊している魔物を紹介する。
ビッグトード(馬鹿でかいカエル)
レッドニュート(馬鹿でかいイモリ)
ボア(イノシシ)
レッドボア(馬鹿でかい赤毛のイノシシ)
ゾンビ
ゴースト
絶賛徘徊中。
ゾンビ、ゴーストは南のダンジョンから湧いてくるので、コイツらがいるということは、コスピアジェ様はいない。
ちょっと安心する。
皆で魔物の扱いを決めた。
(ゾンビ、ゴースト)
問答無用で調伏。
調伏者は私とエマ。
君達は既に死んでいるのだから、いいかげん永遠の眠りにつきたまえ。
迷うんじゃない。
(ビッグトード、レッドニュート)
適度に間引く。
害虫を食べてくれるので減らし過ぎはいけない。
マキ、マロン、レベッカで対応。
マキはまず体を慣らして下さい。
(ボアとレッドボア)
こやつらは動物なのか魔物なのか?
ボアは増えすぎると畑を荒らすが、今は畑は無い。
そしてこやつは貴重なタンパク源なので絶滅は駄目。
数をコントロールするように丁重に間引く。
レッドボアは生態系のバランスを崩すほどの大食漢であること。
強すぎて人間に被害が出ることから、見つけ次第駆除対象。絶滅上等。
ということでソフィー、ウォルフ、クロエが暴れ回っている。
ガンガン保存食(干肉)が作られていく。
◇ ◇ ◇ ◇
居住地について。
北部高台にあった村落の残骸は全て取り払った。
真っ新な更地にした。
我々の住居と行政の施設を兼ねた建屋を作った。
まず土台を要塞風にした。
土魔道士がいると土にコンクリート並みの強度を持たせることができる。
骨材として大岩・小岩を混ぜ込みながら土台部分を強化した。
石垣のようになった。
相当数の井戸も掘った。
これも土魔道士なら「ひょい」とやってくれる。
土魔法凄い。
戦闘用では無く民生用の魔法だな。
◇ ◇ ◇ ◇
区画整理をした。
かつてイルアンでも似たようなことをしたが、あのときは既にできているものを流用し、足りない分を足すイメージだった。
今回は違う。
大通りを中心に産業毎にエリアを割り振っていく。
行政エリア (我々の居住区、政治中枢、各種ギルド)
第一商業エリア(武器、アイテム)
第二商業エリア(服飾、雑貨)
第三商業エリア(食品、酒)
第四商業エリア(食堂、酒場)
宿泊エリア (商人向けホテル、冒険者向け宿屋)
娯楽エリア (レストラン、バー、娼館)
リゾートエリア(高級ホテル、コテージ、カジノ)
少々力が入ってしまった。
娯楽エリア、リゾートエリアは先の話だ。
◇ ◇ ◇ ◇
キャス(キャスター:ビーバーのような動物)に挨拶に行った。
キャスは人の言葉は理解するが、人語そのものは話せない。
返事はジェスチャーになる。
友人登録してあるので、ジェスチャーから言いたいことは読み取れる。
端から見ると動物に向かって一方的に話し掛ける感じ。
危ない人に見える。
「しばらく会いに来られなくてごめね」
(そうだっけ?)
憶えちゃいなかった。
「今度はしばらくここにいるからね」
(そうなんだ)
「冬は大丈夫? この池は凍る?」
(底から温かい水がでる。凍らない)
湧き水が出るらしい。
温かい水?
へえ。
湖の北方にザラザラした何かを感じる?
ん?
大分前に購入して放置され、板のように硬くなった干し肉を進呈した。
大変喜ばれた。
可愛いお嫁さんを見つけて欲しいと頼まれたが、よそでキャスター自体を見かけたことないなぁ。
エマをお友達登録して貰った。
◇ ◇ ◇ ◇
土魔道士は井戸をひょいと掘る。
1人ボーリングである。
穴の壁を強化して固めるところまでデフォルトでやってくれる。
見事である。
「ジーク、ものは相談なのだが・・・」
「なんだ?」
「どのくらいまで掘れるの?」
「どのくらいってなぁ・・・」
「この4号井戸、水が温かいよねぇ」
「そうだねぇ」
「これ、もっと深く掘れる?」
「掘れるぞ」
更に深く掘って貰った。
出て来たのは・・・
凄く良い感じ。
そのままお風呂に引こう。




