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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
21 オリオル辺境伯領再び編
233/302

233話 密偵の拡大


ノースウッドに戻り、カトリーヌとカタリナに復命した。



「ウォーカー、全員無事に戻りました」


「ご苦労様です。成果はどれほどでしょう?」


「コカトリス59匹討伐致しました」


「えっと・・・ 5匹? 9匹?」


「59匹であります」


「・・・」



明らかに疑われている。



「証拠の魔石であります。ご確認を」


「まあ・・・」



目を輝かせて数え始めるカタリナ。

大変に喜んで頂けた。



「あの・・・ ビトー様」


「はっ」


「他の部位はいかが致しましたか?」


「アンデッド化を防ぐために全て焼却致しました」


「ええっ! もったいない」



カタリナによると、コカトリスの羽毛とトサカは良い値が付くので商人が高値で引き取ってくれるという。


水鳥の羽毛ならわかるのだが、ニワトリの羽毛を?


ニワトリのトサカを?

珍味なのだろうか?



「王立高等学院・魔物学のエミリオ教授によりますと、コカトリスは魔石以外に価値の無い残念な魔物と定義されております」


「ええっ! ノースウッドでは商人に高く売っていましたが・・・」


「冒険者ギルドの無いこの街で、誰が商人に売るのですか?」


「市長の親族が・・・」



なんだかどうしようも無い話の気配がある。




取りあえずカタリナの前をお暇して、商業ギルドへ行く。

この街には冒険者ギルドが無いから。


商業ギルドで魔石を売りがてら、情報収集してみる。

愛想良く魔石を買い取ってくれた受付嬢に、コカトリスの羽毛とトサカの話を聞く。



「あの~ この魔石の持ち主の羽毛を持ってきたら、買い取って下さりますか?」



さっきまでにこやかだった受付嬢が困った顔をして黙り込んでしまった。


そこで「我々はカトリーヌお嬢様のパーティである」と大見得を切って、商業ギルド長へ面会を申し入れた。

ギルド長はすぐに会ってくれた。



ギルド長は、最初は我々のことを疑っていたが、受付嬢からコカトリスの魔石59個を持ち込んだことを耳打ちされると、急に胸襟を開いて語り始めた。



ギルド長の話は市長一派の話だった。


どのような人脈があるのか不明ながら、市長一派は魔物について詳しい。

価値のありそうな魔物を討伐した冒険者が入城すると、冒険者ギルドよりも先に市長一派が買い上げ、商人に売りつけていた。


ところが一部の魔物の素材について冒険者ギルドが口を挟んだことがあった。

価値のない素材に高値が付いている、と。


直後から冒険者ギルドの職員が次々に事故死し、替わりに派遣された職員も原因不明の体調不良に悩まされ、人員不足からギルドは閉鎖された。


その後、幾度も冒険者ギルド再開の嘆願が出されたが、すべて市の上層部で握りつぶされている。




問題のコカトリスの羽毛とトサカについて。

商業ギルド長自身はどこに価値があるのかわからない。

この町の商人に訊いても誰もわからない。

他の町へ持っていって価値を聞いてみたが、笑い話として受け取られるか、目利きを疑われる始末。


それでも市長一派は(罠で捕らえたらしい)コカトリスを商人に持ち込み、高値買い取りを強要してくる。

拒否するとこの街で商売できなくなるどころか、命が危ない。

それ以上は誰も何も言わなくなった。



面倒臭いので商業ギルド長を連れていき、カトリーヌ、カタリナ、オリオル騎士団の前でもう一度同じ話をして貰った。



◇ ◇ ◇ ◇



毒でやられていた守備隊員、冒険者がコカトリス討伐へ出られるまでに回復した。


総勢、守備隊30名。冒険者25名。


このメンバーでノースウッド周辺のコカトリスを討伐する。

冬が来るまでの間、コカトリスが増えすぎないように間引く。



ということで、ウォルフガングにあたかも冒険者ギルド長であるかのごとく振る舞って貰い、全員を集めてカタリナ隊長から教えられたコカトリスの弱点、討伐の仕方をレクチャーさせた。


なぜウォルフガングにレクチャーさせたのか?

それは聴衆に冒険者がいたから。


この連中は権威にはなびかないが、強者には従順だ。

彼らの強者(魔物も含む)を嗅ぎ分ける能力は常に研ぎ澄まされており、生存に一役買っている。

私やカタリナの話はせせら笑って聞きもしない奴らだが、ウォルフガングのレクチャーなら目の色を変えて謹聴する。


ウォルフガングの威令はメッサー時代と変わらなかった。

一睨みで会場は水を打ったようになった。

冒険者共は目を見開いて聞き入っていた。


「息、してるか?」


と心配になるほどだった。


左斜め後方にソフィーが立ち、不機嫌そうに冷気を漂わせていたのもいけなかった。

天然のクーラー。いらないから。



ウォルフガングの話はまとめに入っていた。



「腕に自信の無い者は森の縁で戦え」


「夕方に出撃し、夜まで粘って帰ってくる戦法もアリだ」


「一に水、二に水、三四が無くて、五に水だ。

攻撃に水。退却時も水だ。

パーティに必ず水使いを入れろ。

わかったか!?」


「「「「「「 おおう!!! 」」」」」」



わかったらしい。


この地の冒険者に期待しよう。



◇ ◇ ◇ ◇



カタリナから会計監査の結果を聞く。

(別に聞きたくないけれど、無理矢理聞かされた)


大部分の期間はまともな運用をしていた。

問題があるのは昨年のレッドベア禍と今回のコカトリス禍。


危機が訪れると市長始め街の顔役の権限が拡大される。

その方が迅速で的確な指揮命令ができるから。

そのこと自体は悪くない。

むしろ良い制度だと思う。


問題は運用している人間が腐敗していたこと。


日常なら扱えない額の金を握った結果、狂った。

いや計画的に悪事を働いていた。


奴らは何をしていたか。

危機が訪れた際、街の予備費で貴重品(貴金属・宝石)を買い入れていた。

危急の際、貴重品は値上がりする。

元の世界でも世界的な経済危機や紛争が起きると金が高騰する。

それと同じ。


奴らは高騰したところで貴重品を買い入れていた。

そして危機が去って値崩れすると、貴重品を売りさばいていた。

高く買って安く売る。

つまりわざと街の財政を毀損させ、業者に利を与えていた。

そしてその業者からキャッシュバックを受けていた。



魔物の素材の扱いについても問題が見つかった。

コカトリスの素材の扱いに関する不正は前述の通り。


前回来たときからおかしいと思っていたが、この街には冒険者ギルドが無い。

そして冒険者ギルド誘致の嘆願を市長一派が握りつぶしている。

その理由がわかった。


市長一派は冒険者が狩る魔物を、冒険者ギルドに卸す前に買い取っていた。

この行為。

元の世界では不正でも何でも無いが、この世界ではギルドがある以上『抜け荷』と見なされ、重犯罪にあたる。

それでも相場より高く買い取っていたなら可愛げがあるが、不当に安く買い叩いていた。

これを合法なものにするために、冒険者ギルドを潰していた。




関係者(市長一派、その親族、市長の御用商人、職員、その親族)が捕縛された。



元の世界の常識から考えると不思議な感じがする。


奴らが素直に自白するはずが無い。

(ラミアの尋問は除く)

科学的な調査もしていない。

証拠も隠滅されている。

しかし魔道具(鑑定水晶)による鑑定で全てが赤裸々にされ、あっという間に有罪が確定する。


罪の重さによって連座範囲が決まる。

今回のような不正に利を得て親族の中に財を隠す事件の場合、三親等まで自動的に連座となる。実際に関わっていたかどうかは問われない。

調査結果により連座範囲は更に拡大する。


鑑定水晶で、隠し金庫、他人名義、投資、寄付などの隠し財産やマネーロンダリングを全て暴かれる。

全財産を没収される。

少しでも疑われたら全て没収される。


疑われた側は大変なことになる。

市長からはした金を受け取っただけでも全財産を没収される。


そして本人は当然だが、連座者も奴隷落ちする。



やり過ぎ感はある。



逆に元の世界はやらな過ぎ。

犯罪者とその家族(消極的共犯者)の人権が異様に保護されている。

犯罪で得た利益も見つからなければ没収されない。つまり隠し得。

それをカバーするための懲罰的罰金が無い。(外国にはあるが)

たとえ有罪になっても、経済事件なら刑が異様に軽い。

魔道具(鑑定水晶)も無い。



2つの世界の中間が良いのだがねぇ。



◇ ◇ ◇ ◇



今回のコカトリス討伐では、メンバーはなにがしかの新技を試し、得意技を開発していた。

だがアルだけ対象外にしていた。

アルのメイン業務は索敵&伝書なので。


ところがアルも色々と考えていた。

気付かなくてごめんなさい。



アルが何かを伝えようとしている。

かなり高度なことを提言しようとしているのがわかる。

だが残念なことに私が馬鹿なのか、アルの願いを汲み取れずにいる。


マロンが間に入ってくれる。

私、アル、マロンの3者会談。


アルの言いたいことがわかった。



「使い魔を増やせ。もっと鳥を増やせ」


「この地にはアルの親族がいる。仲間に引き入れろ」


「ただしアルとその仲間では草むらの下、地下は探れない」


「鳥だけで無く、地表・地下を探れる使い魔を増やせ」


「そんな使い魔を捜せ。できれば『アーミン』がよい」


「アーミンは小さくて強くて賢い。我々でも運べる」



アーミンって何?


マロンに聞くがマロンの説明では明確にイメージできなかった。

マロンの説明から何となくダックスフントかな? というイメージを持ったが、アル(フクロウ)はダックスフントを運べないだろう。



アルに連れられて探しに出た。


アーミンは、コカトリスが跋扈していたので森の中に避難しているという。

森に入った。

気配を断って小一時間経過。


マロンが何かに気付いた。

マロンに指摘された方を見ると、これまた何とも可愛いのがいた。

オコジョかぁ。


すぐに闇魔法『傀儡』発動。

オコジョは私の手の上に乗ってきた。

オコジョと会話。



「君は家族はいるの?」


「いる」


「どのくらい?」


「妻と子供2匹」


「君がいなくなったら家族は困るよね?」


「多分・・・」


「みんな連れてこれるかな? 私の家族になってくれるかな?」


「聞いてみる」



やがてゾロゾロときた。

傀儡発動。奥さんと可愛い2匹の子供も使い魔にする。

奥さんはぴょこんと手の上に乗って挨拶してくれた。



「よろしくお願いします」


「こちらこそ。決して君達にひもじい思いはさせないからね。よろしくお願いします」


「この子達は幼いのでお役に立てないと思います」


「了解致しました。でも旦那さんと奥さんがいなくなったらひもじいですよね?」


「はい」


「独り立ちできるまで一緒に来て頂くことは可能ですか? 子供達のごはんも用意します。独り立ち後は自由に出て行ってくれてかまいません」


「ではその様にお願いします」



オコジョ一家を迎え入れた。


名前を付けた。


旦那さんを「クロ」。

奥さんを「シロ」。


ヒゲの色から名付けた。



ノースウッドに戻る頃には暗くなりかけていた。

ウォーカーの定宿になっている守備隊宿舎についたらビックリした。


屋根の上にフクロウが3羽止まっていた。




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