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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
21 オリオル辺境伯領再び編
229/302

229話 ノースウッドへ


我々は徒歩でオリオル辺境伯領へ向かっている。


メンバーは ウォルフガング、ソフィー、ジークフリード、クロエ、ルーシー、マロン、ビトー

そしてカトリーヌを加えた8名。

上空に使い魔のアルが飛んでいる。



ちなみに馬車や馬は止めておけ、とタイレル冒険者ギルドできつく忠告された。

コカトリスどもは幾度も隊商を襲って味を占めており、馬を使うと闇討ちを受けやすいという。

全くロクな魔物じゃ無い。



カトリーヌは最初に出会った頃が想像できないほど精悍になった。

元々北国出身らしい金髪と青い瞳の美しい細身の美人さんだったが、年齢を重ねて少女から大人の女性になったこと。

鍛錬を積んで出るべき所は出て、引っ込むべき所は引っ込んだこと。

幾度も修羅場を潜ったこと。

トロールの皮のレザーアーマーの雰囲気も手伝って野趣溢れる美人さんに変貌した。


(未婚の貴族女性に対して適切な表現か悩ましいが)



それでもカトリーヌはウォーカーの通常の徒士の行軍に付いてくるにはもう一つで、ウォルフガングは行軍の速度を落とした。


結論から言うとそれが良かった。




街道を進むのは我々ウォーカーのみ。

すれ違う旅人もいない。

隊商も通らない。


旅人が通らないので街道に草が生え始めている。

地面は通行人に踏み固められていないので動物や魔物の痕跡を見つけやすい。


コカトリスの痕跡は?

ある。

いずれも概ね北に向かっている。

100?

100ではきかないらしい。


そしてゆっくり進むので見落としがちな物に気付く。

ウォルフガングとソフィーが痕跡を前に悩んでいる。



「難しいの?」


「いや・・・」


「なんなの?」


「サイズがな・・・」


「痕跡の?」


「コカトリスのだ」


「説明して下さい」


「かなり小さい個体が混ざっている」


「弱い?」


「そういう問題じゃねぇ」


「ではどういう問題?」


「繁殖してると思われる」



一同静まりかえった。



「マロン。このあたりにコカトリスが使っていた巣はあるかな?」



マロンには申し訳ないが、マロンが痕跡を探している間に小休止にしようと準備を始めたが、すぐにマロンが迎えに来た。

付いていくと街道沿いの茂みの中に雑に下草を押し潰した跡があり、卵の殻らしき破片が散らばっていた。



「まずいな。こんな北部でコカトリスが繁殖できるとは思っても見なかった」


「カトリーヌ、オリオル領は毒持ちの魔物はいる?」


「いいえ。寒冷地ですので毒で狩りをする動物、魔物はおりません。ですからコカトリスのような魔物には慣れておりません」


「お父上にお伝えしないと、な」




どうしようかと一同考え込んだ時。

抜群のタイミングでオリオル辺境伯からきた伝書鳥がカトリーヌの肩に止まった。

私宛の伝言とカトリーヌ宛の伝言を携えていた。


私宛の伝言は、娘を鍛えてくれたことに対する御礼と、ダンジョンから無事に連れ出してくれたことに対する感謝が綴られていたが、行間からそこはかとない困惑が滲み出ている。

カトリーヌ。

女っぷりは上がったけど、それ以上に精悍になったしなぁ。

次女だから許してもらえないかな。


カトリーヌ宛の伝言は一言。

『ノースウッドへ行け』



カトリーヌからオリオル辺境伯へ返信してもらう。


『現在領都から50マイルのところにいる ノースウッドへ向かう コカトリスが繁殖している痕跡を発見 サイズの小さい個体に注意 トーチカの銃眼をすり抜ける可能性あり』



オリオル辺境伯領の領都へ向かう道から右に折れ、ノースウッドへ向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



だいぶノースウッドに近付いたな、という頃。

ウォルフガングの指示で街道を外れ、草原の中の道無き道を進み始めた。

周囲を索敵しながらゆっくりと進む。



そろそろノースウッドの城壁が見えるかな、という頃。

マロンが我々を止めた。



「いる?」  いる。


「コカトリス?」 そう。


「場所は?」 茂みの向こう。


「何匹?」 4匹。


「こっちに気付いている?」 いない。



マロンの指摘する “茂み” とは街道沿いに生える灌木林。

その茂みの向こう側にいるということは、街道を通ってノースウッドへ向かう者を待ち伏せしている。



ウォルフガングの指示で草原を大きく迂回してコカトリスの背後に出た。


作戦会議で私から提案。



「試してみたい攻撃手段があります」


「何だ?」


「ナーガの魔石です」


「毒か。奴らも毒持ちだ。効くかな?」


「確証はありません。ですのでそこも含めて試しておきたいのです。ナーガの毒とコカトリスの毒。ナーガの毒の方が遥かに強力ですので期待はしています」


「全くの当てずっぽうというわけでは無いのか。いいだろう。やって見ろ」


「はい。では前衛が私とソフィーとマロン。後衛を皆さんでお願いします」



ソロソロとコカトリスに近付く。

コカトリスは鶏頭で顔の両側に目が付いているので、極端に視野が広い。

あまり近づけないよなと思っていたら案の定気付かれた。



「ケエーーーー」



1匹のコカトリスがニワトリそのものの奇声を上げ、仲間に注意を促した。


それを合図に前衛がコカトリスに向かって突進した。

別に中央突破から反転攻撃し、各個撃破しようと言うわけではない。

奴らを守勢にすればそれで良い。


案の定奴らは1箇所に固まった。



(ポイズン)



ナーガの魔石を握り込んだ左拳をコカトリスに向かって突き出し、頭の中で呪文を唱えた。


ズワッと魔石に魔力が吸い取られる感触があった。

4匹のコカトリス集団の先頭にいた個体に黒い魔力がまとわりつくイメージが脳裏に浮かんだ。

奴はすぐに苦しみ出した。成功だ。


だが残りの3匹には掛かっていない。


かまわん。

マロン。ソフィーの後に続け。

まずは一撃離脱。

ソフィーが一撃入れて走り去るから、その後ろを付いて回ろう。


そう思って突っ込んでいったら予想外のことが起きた。

ソフィーが1体のコカトリスにザクッと切りつけると、4匹のコカトリスが全て白くなって動きを止めた。



「え・・・」



思わず足を緩め、コカトリス共に向き直った。


コカトリス共は・・・ 動いていた。

ゆっくりと。


極端に動きが鈍くなっていた。


戻ってきたソフィーが 「ブンッ ブンッ」 と剣を振ると、あっけなくコカトリス共の首が落ちた。



「面白い剣だ。無詠唱で刀身から魔法を放つことはわかっていたが、その威力が普段の2倍から3倍だな。剣としての切れ味、耐久性も申し分ない」



ソフィーは【魔剣Naga】をテストしていたらしい。

そう言えばアルマ様もあっさりとアスタロッテを凍らせていた。

魔剣の名に恥じぬ性能だった。


とにかくソフィーが気に入ってくれて何より。



私が毒を与えたコカトリスは既に死んでいた。

かなり強力な毒と言うことがわかった。




さて。

勝った時こそ反省会。

皆さん自由に発言して下さい。



「ビトーの毒魔法は一度に一体しか掛からないのか?」 (ウォルフ)


「複数掛かるはずです。先ほどは焦ってギリギリの射程距離で撃ってしまったので先頭のコカトリスにしか掛かりませんでした」


「そういうことか」


「私は誤解していたのですが毒は遠隔攻撃ではなく、接近戦の攻撃手段なのですね。思い返せばナーガもツバが届く距離が射程距離でした」


「ふ~む」




「俺は全然知らなかったんだがコカトリスは待ち伏せ型なんだな」 (ジーク)


「大抵の魔物はそうじゃないの?」 (クロエ)


「賢い魔物はそうだろうってわかるんだが、コカトリスだろ? 頭は鳥だから考え無しかと思ってた」


「あら。ビトー様の使い魔はどちらも賢いわよ」


「・・・そうだなぁ」




「ソフィー様は何をなさったのですか?」 (カトリーヌ)


「ビトーのポイズン攻撃から漏れた連中の周囲の温度を下げたのだ。思った以上の威力だったな」


「凍らせたのですか?」


「体温を奪うつもりだった。爬虫類だから動きが鈍くなるだろう? 結果的に凍ったな。カトリーヌの参考になれば良いな」


「私も再現して見せます」



いよいよカトリーヌは武に傾倒する気らしい。


オリオル辺境伯に許してもらえるかな?




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