225話 新ダンジョン探索6
(ソフィーの視点で書かれています)
騎士団と炎帝の並びを見て飽和攻撃をする気だとわかった。
私は他の者を熱波から守るために後ろに下がろうとした。
だがエミリオ先生が下がらない。
先生の服の裾を掴んで後ろに引っ張ったが、先生はお手製の機械を抱えたまま下がろうとしない。
しかたなく先生の横に立ち、先生の前に冷気を漂わせ始めた。
ナーガが動き始めるのと、騎士団と炎帝の攻撃が始まるのは同時だった。
◇ ◇ ◇ ◇
騎士団と炎帝は十分に作戦を練っていたらしい。
攻撃は一分の隙も無かった。
騎士団はキャメロンが火球。
それ以外の5人が火槍。
キャメロンの火球が攻撃のリズムを作っている。
キャメロンが火球を「ワン、ツー」のリズムで撃ち続ける。
「ツー」に合わせて他の5人が火槍を一斉射撃する。
5本の火槍の一斉射撃。
物凄い熱量だ。
これほどの攻撃は私も初めて見る。
恐らく野戦で使う攻撃をダンジョン内で使っているのだろう。
ナーガがなすすべ無く圧倒されているのがわかる。
火槍は、攻撃力は高いが質量が無い。
もしナーガが痛みを我慢しながら前に出ようとすれば出られるはずだ。
だがナーガは前に出られない。
あの一斉射撃はナーガのHPを削るだけでなく、ナーガをして打つ手が無いと思わせるのだろう。
ナーガは逃げないのか?
炎帝が火球を操っている。
炎帝は火球をコントロールして常にナーガの周囲に(特にナーガの背後に)漂わせ、ナーガの霧を晴らし、冷気を相殺し、火傷を負わせている。
炎帝がナーガの動きを牽制し、騎士団の放つ火槍が次々にナーガに着弾している。
ナーガがもがき苦しんでいる。
ナーガを測定していたエミリオ先生が、
「いいぞ。あと僅かじゃ」
と声を掛けた時だった。
ナーガが苦し紛れに毒を吐いた。
◇ ◇ ◇ ◇
私はナーガを甘く見ていたのかもしれない。
ナーガの毒液。
あれほどの量を飛ばすとは思っても見なかった。
奴は3つの首から毒液を噴出させた。
4つの首は騎士団の攻撃で既に焼け落ちていた。
残った3つの首から毒液を放水。
3本の毒放水の内、2本は火槍と火球に掻き消された。
だが1本が火を掻い潜り、前衛の騎士団に届いた。
騎士団とて無防備に毒を浴びない。
咄嗟に盾を構えた。
キャメロンが盾で毒液を受けた。
盾に当たった毒液が飛び散った。
尋常で無い量の飛沫が飛び散った。
タイラーとクロエは優秀な風使いだ。
反射的に毒の飛沫を吹き飛ばしていた。
エミリオ先生と私に向かって飛んできた飛沫は私が氷の壁で防いだ。
だが前衛の騎士団から一斉にうめき声が上がった。
「ビト・・・」
大声でビトーの名を叫びかけた時、奴はすでに私がして欲しいことをしていた。
ビトーはスリングショットでナーガの頭部に小箱をぶつけ、粉が飛び散った所に火を付けた。
ナーガの首が爆炎に包まれた。
ナーガが苦しんでいる。
よしっ!
時間の余裕ができた。
「ルーシー!!」
私が叫んだ時はもうルーシーは駆け付けており、大量の水で騎士団員を洗い流していた。
ルーシーとビトーが騎士団員を引き摺って後退。
ビトーは・・・
よし。
治癒を始めている。
騎士団員は2人を残して4人ダウン。
既に炎帝のシルバ、トーレス、ゴルディ(魔法剣士3人組)とウォルフガングが前衛に入り、火槍を撃っている。
キャメロンが倒れて攻撃のリズムを取る者がいなくなったので、各々の感覚で火槍を撃っている。
奴の反撃に上手く対処した。
この時はそう思っていた。
これがナーガの付け入る隙になってしまったと気付いたのは、だいぶ後になってからだった。
私は前衛で頑張っている者に指示した。
「5分保たせてくれ。自分の魔力量と相談して攻撃の回転数を調整してくれ」
その間にビトーの治癒が終わる。
そう声を掛けると火槍を撃つ回転数が急に落ちた。
火球の数は変わらない。
ナーガを抑え込めているか?
・・・大丈夫だ。
ナーガの様子を見ると7つの首の内、4つ焼け落ちて、2つ死んでいるようだ。
あと一つ。
「あと一押しじゃ」
私の横でエミリオ先生が声を掛けたときだった。
突然色々なことが同時に起きた。
前衛に残っていた騎士団員2人が突然倒れた。
ピクリとも動かない。
炎帝のシルバ、トーレス、ゴルディ(魔法剣士)が体を丸めて痙攣している。
タイラーとクロエも苦しんでいる。
ウォルフガングが鼻血を出しながら突然最大出力の火壁を出現させた。
炎帝のジョアン、サンチェス、ヴェロニカは!?
ジョアン、サンチェスは鼻血をたらしながら後退してくる。
が、様子がおかしい。
目がよく見えないようだ。
タイラーとクロエがよろめきながら後退してくる。
ヴェロニカは!?
ウォルフガングの火壁をサポートしている。
「ビトー!!!」
私は叫びながらウォルフガングとヴェロニカと倒れている騎士団員の周囲に氷壁を展開し始めた。
ウォルフガングの火壁。
魔力残量を考えず、出力全開で展開している。
あの出力ではウォルフガングとヴェロニカと倒れている騎士団員は焼け死ぬ。
ウォルフガングは自分が死ぬとわかっていながら展開している。
展開しないと全滅の危険がある。
そう判断したのだ。
ならば私は全力で4人を守る。
ビトーとルーシーとカトリーヌがきた。
ビトーは倒れている騎士団員の元へ突っ込もうとするルーシーとカトリーヌの襟首を掴み、後ろに引き倒した。
そして前方にいる4人にヒールを掛け始めた。
「ビトー様! 何を・・・」
「カトリーヌ。ここで霧を出せるか?」
「何を・・・」
「出せるかっ!?」
「はいっ!」
「出せっ!!」
ビトーの語気に気圧されながらカトリーヌは霧を出し始めた。
私と氷壁の間の空間が霧に包まれた時、ビトーの次の指示が飛んだ。
「カトリーヌ。霧を結露させて雨にしろっ!!」
「はいっ!!」
狭い空間で一瞬雨が降った。
「ルーシー、カトリーヌ。 騎士団員を救出しろっ!!」
「「 はいっ!! 」」
ルーシーとカトリーヌが倒れている騎士団員を引き摺って後方に下がる。
「ルーシー。炎帝と騎士団員、全員を頭から洗浄しろ」
「はいっ!」
「ソフィー。前に出るぞ!」
「はっ!」
こいつ。
何が起きたのか正確に把握しているらしい。
その上で自分と一緒に死地に赴けと命令してきた。
私は身震いしながらビトーと一緒に前に出た。
私とビトーはウォルフガングとヴェロニカのすぐ後ろに立つ。
空気は十分に冷えている。
ウォルフガングとヴェロニカは目を閉じている。
無事だろうか?
ビトーが2人にキュアとヒールを交互に掛けている。
掛け続けている。
「ナーガはどうなった?」
ウォルフガングの声は落ち着いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
エミリオ先生がナーガの死を確認するのとマロンが私を呼びに来るのは同時だった。
ジークフリードが後ろで苦戦しているらしい。
と言うことは挟み撃ちか。
相手がナーガだったら我々は全滅する。
ナーガともう一戦はできない。
急いで駆け付けると・・・
コカトリスだった。
3匹。
ホッとした。
ホッとし過ぎて膝から崩れ落ちそうになった。
ジークフリードは目潰しを駆使して1人で防衛線を維持している。
「ジーク。加勢する」
一言声を掛け、氷槍を撃った。
私はホッとし過ぎてハイになっていたらしい。
コカトリスには価値ある部位が無いことも悪かった。
狭いダンジョン内でコカトリスが逃げ回る余地が無かったことも理由の一つだろう。
私は黒い笑みを浮かべていたらしい。
ビトーから贈られた『藍玉の首飾りEX』頼みで後先考えず、撃って撃って撃ちまくった。
気付いた時はコカトリスは原形をとどめていなかった。




