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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
20 タイレルダンジョン編
223/302

223話 新ダンジョン探索4


(騎士団隊長キャメロンの視点で書かれています)


炎帝のベノムパイソン攻略は見事だった。

全く危なげなくあしらっていた。

あれはウチの隊の戦い方の参考になる。


だが途中で魔力切れを起こした。

非常に勿体なかった。

さすがは脅威度B上位の魔物といったところか。


だがよくわからない。


ウォーカーが討伐した1匹目と、炎帝が相対した2匹目。

どちらも同じ大きさ、同じ強さに見えた。

対戦していた時間も同じくらいだ。

ウォーカーは討伐し切ったが炎帝は討伐し切れなかった。


ウォーカーの攻撃と炎帝の攻撃。

全員が火魔法を使う分、炎帝の方が攻撃力は上だ。

なぜ炎帝はHPを削りきれなかったのだろう。


ウォーカーは対戦前に何かをしていたが、何だろう。



答えが出ないまま先に進む。

次は騎士団の番だ。

当たってみれば答えがわかるかも知れない。


騎士団が先頭に立って通路を進む。

隣にはマロン殿が付いてくれる。

非常に心強い。

ベノムパイソン、さあこい。



◇ ◇ ◇ ◇



なぜか通路が肌寒い。

急に温度が下がったようだ。

前方にうっすらと霧が出ているようだ。

目視確認距離が縮まる。

慎重に進まねばならん。


そう思って通路を進んでいるとマロン殿が私の鎧の裾を噛んで止めた。

マロン殿は声を出さない。

私達にも “黙れ” と言うことらしい。



敵がいる? (いる)


気付かれた? (いいや)



私もこの短期間でマロン殿と意思疎通ができるようになった。

マロン殿はこの先に魔物がいるという。


私には何も見えない。

ベノムパイソンなら小山のようなシルエットが見えるはずだが。


タイラー(風使い・剣士)に前方を探らせると困惑している。

タイラーは無言で後ろに下がれと合図。

後ろのパーティにも合図して、全員で下がった。


十分に下がると空気が暖かくなってきた。


小声で話した。



「タイラー、どうした? 何がいた?」


「ベノムパイソンではありません。もっと強いと思います」


「影は見えなかったが?」


「ベノムパイソンよりも遥かに小さいです」


「マロン殿はわかるか?」


「グル・・・」



マロン殿の考えが読めない。



「? ビトー?」



ビトーがマロンと会話をしている。

かなり長い話をしている。


やがてビトーが全員に話し始めた。



「この先に冷気と水を操る魔物がいます。名はわかりません。脅威度はおそらくA」


「Aだと・・・」 これはウォルフガング。


「はい」


「この中に脅威度Aの魔物とやり合った経験を持つ者はいるか?」


「・・・」



我ら騎士団は御下命あれば、脅威度Aだろうが脅威度Sだろうが、討伐に赴く。

そしてどれほどの犠牲を払ってでも任務を遂行する。

騎士団は日々その様に薫陶を受け、訓練を積み重ねる。

ただそれはフィールドの話だ。

ダンジョンではどう戦えばよいかわからない。

全員命を落として目的を達成できないということもあり得る。


迷っているとウォルフガングがいう。



「今日は諦めるか?」


「一刻も早くダンジョンを攻略しないと危険だ」 これはアルベルト教授。


「では正体だけでも確かめるか?」


「・・・そうだな」




クロエ、タイラー、マロン、ビトーの4人が先鋒になって前進している。

その後ろはかなり距離を開けて我ら騎士団の5人が続く。

イザと言う時は先鋒の4人が走って逃げてくるので、追ってくる魔物を迎撃する態勢である。

その様な事態を招かないことを望む。



しばらく進むと通路に霧が掛かっているのが見える。

それを見た先鋒は隊列を変えた。


第一列:マロン、ビトー

第二列:クロエ、タイラー


じわじわと霧に近付いていく。

マロンとビトーが霧に呑み込まれそうで呑まれないギリギリのところにいる。

ビトーがコソコソと何かをしているが、何をしているのかまではわからない。


しばらくすると4人が戻ってきた。

4人の合図で霧からかなり距離を取った。



「それで何だった?」


「ナーガです」


「何だそれは? 誰か知っている奴はいるか?」


「・・・」


「エミリオ教授、お願いします」



エミリオ教授は少し言葉に詰まったようだった。

が、気を取り直してビトーと話し始めた。



「ナーガと言ったか?」


「はい」


「見たのか?」


「細部までは確認できませんでしたが、シルエットは見ました」


「どんなじゃった?」


「最初はヒュドラかと思いました。ですが首が7つでしたので、ナーガで間違いないでしょう。霧も操りますし」


「う~む」



珍しくエミリオ教授が考え込んでいる。

私は衝撃を受けている。


ヒュドラとはまたとんでもない名が出た。

ヒュドラはこれまで確認されている6種の「脅威度S」の魔物の一つだ。

脅威度Sは「終末級」と言われ、これが暴れ始めたら人間の手ではどうすることもできず、運を天に任せて大陸中を逃げ回るしか無いとされる。


だがヒュドラではないらしい。

よく似たシルエットのナーガという魔物。

私は知らぬ。

詳しい話を聞いて作戦を立てねばならぬ。


引き続きエミリオ教授にお願いする。



「皆はナーガを知らぬのだな? わかった。

ナーガは7つの首を持つ蛇の魔物じゃ。

別名『蛇神』とも言われる脅威度Aの魔物じゃ」



声にならぬどよめきが起きた。

脅威度Aだと・・・ キマイラやケルベロスといった魔物と同格じゃないか。

そんな奴をこれだけの人数で討伐できるのか?



「ナーガの脅威度Aたる所以ゆえんはその毒じゃ。あらゆる毒蛇、毒トカゲの中で、クリムゾンリザード、サラマンダーと並んで最も毒が強いのじゃ。

噛まれたら解毒ポーションを使っても間に合わぬ。即死レベルじゃ。皮膚に付いただけでも焼けるような痛みに襲われる。その毒を吐く首が7つもあるのじゃ」



炎帝の何人かが体を震わせている。

何か心当たりがあるのだろうか。



「7方向から噛みつこうとするので非常に避けづらいとされる。一方では7つの頭がそれぞれ別のターゲットを襲おうとするので統制はとれない。付け入る隙はそこじゃ」


「毒以外の特徴はありますか?」


「奴は水属性じゃ。水魔法を操る」


「物理攻撃は通りますか? 火魔法は通りますか?」


「通る。ただし弱い火魔法では打ち消されるじゃろう。それから奴は毒を吐く。飛距離は2mほどと言われとる」



ううむ。

何だかやたらと面倒臭い敵という印象が強くなってきた。



ここでビトーが変な質問をした。



「先生。奴の周囲に漂う霧はなんですか?」


「あれは奴が水魔法で出している霧じゃ」


「何でそんなことをしているのですか?」


「わからぬ。一説によると奴は常に体が湿っていないと具合が悪いらしい」


「そうなのですね」


「もう一説は、あの霧は奴のセンサーになっていると言うのじゃ」


「詳しく」


「奴は蛇の魔物なので目が悪い。なので索敵のために霧に己の魔力を乗せて漂わせているというのじゃ。誰も確かめたことは無い」



ふむ。

たとえ弱い火魔法でも奴を乾かすために撃ち続ける価値はありそうだ。




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