221話 新ダンジョン探索2
先鋒を炎帝に替わり、横穴を進む。
ここは完全な処女ダンジョン。
何があるかわからない。
何が出てくるかわからない。
ということでマロンが炎帝の剣士の間に入って斥候を買って出る。
「マロン、ありがてぇ。恩に着るぜ」
「フンフン」
ゆっくりと進む炎帝。
残りのメンバーは少しだけ間を開けて炎帝の後を追う。
私は騎士団員の動きを見ている。
騎士団員は、普段はプレートメールを着用しているが、ダンジョンに潜る時は小さな金属片を繋ぎ合わせた鎧を着ている。
鎖帷子(Chain Mail)とも違う。
上手い表現が思いつかないが、この様な鎧は映画の大魔神が着ていたような気がする。
その金属片が音を立てない。
きしみ音もしない。
そんな騎士団員が炎帝の後ろを付けていく。
騎士団員の後ろを我々ウォーカーが付いていく。
アルベルト先生とエミリオ先生が一番音を立てる。
仕方ないか。
炎帝が止まった。
手で合図をしてくる。
“前方に魔物がいる。これより討伐する”
任せた。思い切りやってくれ。
炎帝の戦いは、ある意味冒険者パーティの見本のような戦い方だった。
3匹のコカトリスに前衛(剣士)が付いて1対1を演出。
剣士は無理に倒そうとせず、コカトリスを後ろに通さないことと、火を吹かせないことに専念。
後衛の魔法使いが火球を操り、コカトリスを炙りに掛かる。
驚いたことにヴェロニカ(斥候)も上手に火球を操っている。
コカトリスは火球から逃れようと動き回るが、剣士が付き纏って自由にさせない。
そして後衛の魔法使いが火球を操る能力は憎いほど上手い。
コカトリスは逃れられず、ジワジワ焼かれていく。
火球を気にしすぎるコカトリスは剣士にザクザク切られていく。
そして3匹ほぼ同時に倒れた。
「流石だな・・・」
「全く隙が無いな」
「安定感はウォーカーよりもあるぞ」
騎士団から素直な感想が聞かれる。
炎帝のメンバーは無傷で討伐完了してホッとしていた。
炎帝が実際にコカトリスを討伐するのはこれが初めてだという。
炎帝も順調に力を付けていることを実感。
先鋒を騎士団に替わり、横穴を進む。
やはりマロンが騎士団員の間に入って斥候を買って出る。
「マロン殿。済まぬな」
「我々は慣れておらぬ。そなたがいてくれると心強いのだ」
「フンフン」
ゆっくりと進む騎士団。
第一列は剣士2名。
第二列は槍士2名。
第三列は魔術師(火)3名。
コカトリスは3匹出てくる可能性が高いがこれでいいのかな?
という感じで進んでいったが、やがてマロンが全員を止めた。
いるらしい。
キャメロン隊長とマロンが何かを確認している。
今までの魔物の出方と違うようだ。
キャメロン隊長が第二列、第三列に向かって指で合図を送った。
そして突然ダッシュした。
結論から言うとコカトリスは5匹いた。
一段後ろにいたウォーカーから見えていたのは3匹。
だがその後ろに2匹いた。
第一列にいたキャメロンともう1人の剣士が猛然とダッシュして3匹のコカトリスの間をすり抜け、後ろの2匹に襲い掛かった。
このとき第二列の槍士2名は様子を見ていた。
そして3匹のコカトリスの注意が後方に向かった瞬間、第二列の槍士2名がダッシュして襲い掛かった。
第二列の槍士は一突きでコカトリスの首を貫き、横に薙ぎ払った。
一瞬で2匹のコカトリスの首が落ちた。
残る1匹も問題では無かった。
槍士の戦いぶりが凄すぎて、最初に突進した剣士2名の働きが見えなかった。
気付いたら既に戦いは終わっていた。
私は初めて騎士団の魔法以外の戦闘を見たが、唸った。
そういえば以前ソフィーに聞いたことがある。
騎士団員は魔法も使うが、なによりも剣士または槍士として才能のある子供がスカウトされ、厳しい訓練を積む。
弱いはずが無いのだ。
今見た剣士と槍士は冒険者換算ならB級上位からA級だ。
特に槍士が凄い。
日本の戦国時代では、鉄砲が普及する前は槍が主役だったと聞く。
わかる。
間合い、鋭さ、力強さが剣とは全く異なる。
もちろん攻撃を躱されたり、フトコロに入られたりするとこれらのアドバンテージが一気に弱点に変わるのだろう。
だが槍士を横一列に密集させて弱点を埋めたら・・・
訓練を積んで全員が同じ呼吸で動けるようになったら・・・
気付いたら私はソフィーの手を握りしめていた。
ソフィーは私の耳元で、
「お前が何を感じたのかわかる。だが魔法との組み合わせでまた違う世界が生まれる。単純じゃないぞ」
と言った。
そうか。
鉄砲の代わりに魔法があるのか。
◇ ◇ ◇ ◇
横穴の第一層にはボス部屋は無かった。
下の階層へ降りる階段が見つかったが、階段というのもおこがましいほど貧弱だった。
滑り台のような感じ。
アルベルト先生が魔力の測定をする。
階下の魔力の色は同じ。
階段の魔力の色も同じ。
先生が言うには
「この階段はボロなのではない。今から形成されるものだ。魔力が活発に動いている」
今から形成されると聞いて私は内心穏やかでは無い。
「先生。これは原始ダンジョンですか?」
「お主、そんなことまで知っているのか?」
アルベルト先生が呆れたように言う。
「これは原始ダンジョンでは無い。ここまでずっと魔力の色を見ながら進んできたが原始ダンジョン特有の色の揺らぎは見られない。常に安定している。
これは若いダンジョンの成長期だ」
背後でウォルフガングとソフィーがホッとするのがわかる。
「なんだ、お主らも心配していたのか。安心せい。常に儂がモニタリングをしておる」
マロン。下に魔物の気配はある?
フンフン。(無い)
ではこのスロープを降りよう。
誰から行く?
希望者がいないなら私から・・・
「お待ちください。私が降ります」
ルーシーが名乗りを上げた。
ロープ(レッドアイの糸)をほどき、ウォルフガングに持って貰う。
ルーシーはロープを伝い、慎重に階下に降りた。
ルーシーが降りるとマロンも続いて降りた。
マロンはロープを咥えながら器用に降りた。
2人は魔物の気配を探っていたが「降りてこい」と合図した。
◇ ◇ ◇ ◇
第2層の探索が始まった。
スタート前にアルベルト先生から注意があった。
「この階層は出来たばかりなので魔物の湧く間隔が短いはずだ。前衛は疲労に注意せよ」
先鋒はウォーカー。
いくらも行かないうちにマロンが皆を止めた。
「いる?」 いる。
「コカトリス?」 ちがう。
「今まで遭遇したことある?」 ない。
「蛇?」 うん。
「でかい?」 うん。
「コカトリスより強そう?」 うん。
「3匹?」 1匹。
ウォーカー全員で相談。
「レッドサーペントではないらしい」
「コカトリスより強いのだからブラックサーペントでもないな」
「蛇だろ?」
「蛇の魔物で何が思いつく?」
「・・・」
「・・・」
「わかった。ゆっくり近付くぞ。前衛は儂とジークフリードとクロエとマロン」
「おう」
「ソフィーはいつでも氷魔法を撃てるように」
「はい」
「ルーシーとカトリーヌは怪我人を引き摺って後方に下げる役目」
「はい」
「ビトーは治癒」
「はい」
「では行くぞ」
そろそろ進む。
すぐに気付いた。
何かがいる。
小山のようなもの。
蛇に見えないが・・・
何だろう?




