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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
20 タイレルダンジョン編
219/302

219話 合流


我々がタイレルに到着したのは夕刻だった。

ちなみにパイン川を渡る時以来、コカトリスには遭遇していない。


街に着いて驚いた。

前回立ち寄った時とは比べものにならないほど、街に活気が溢れている。

カトリーヌもビックリしている。

ウォルフガングやソフィーは「冒険者が戻ってくりゃこんなもんだろ」という感じ。



冒険者ギルドに立ち寄る。


前回立ち寄った時は(時間帯もあったのだろうか?)冒険者が1人もいなかった。

受付嬢が1人で頑張っていた。


今回は冒険者が・・・ いる。

ザクザクいる。

ウハウハいる。


王都騎士団もいる。


素直に・・・ 凄い。



あ・・・


私はボヤッとギルドに入ったな。

その後、のほほ~んとロビーを見渡したな。

ということは・・・

絡まれるのかな?


あ・・・

絡まれそう・・・


筋骨隆々としたおっさんがにんまり笑って近寄ってきた。



「おう。あんちゃん、見慣れない顔・・・ 『『 やめておけ 』』 」



私に絡もうとした冒険者の横から2重に声が掛かった。

ジョアンとキャメロンだった。


炎帝のリーダーと王都騎士団の隊長に「やめろ」と言われてスゴスゴ引き返すおっさん。


素人臭丸出しでごめんなさいね。




王都騎士団のキャメロン隊長と再会を喜び合う。

ウォーカーはジョアンはじめ炎帝のメンバーとガッチリ握手をする。


ジークフリードとクロエと再会を喜び合う。

ウォーカーの全員がガッチリ握手をする。


クロエから声を掛けられる。



「やっときたわね。遅かったじゃない」


「バイン川で少々時間を食いました」


「どうしたの? なにがあったの?」


「橋を渡ったところの草むらにコカトリスの旦那が隠れておりまして・・・ どうやら我々を包囲殲滅するつもりだったようです」



それからコカトリスとの渡河戦の経緯を共有した。



「バイン川に架かる橋でしょ? そんなのいたんだ」


「気付かなかったな」



クロエもキャメロンも、横で聞いていた騎士団員も驚いていた。



「コカトリスってそんなに策を弄するのか?」


「ええ。フィールドで冒険者相手の時はずる賢くなる印象ですね」


「ダンジョン内ではそんな感じは受けなかったな」




冒険者に絡まれそうになったことについてジョアンから面白そうに言われる。



「あんたはウォーカーの中でいつも真っ先に冒険者ギルドに入るよな。俺ならウォルフガングを先に入れるんだが」


「すいません。冒険者ギルド職員だった時の癖です。何も考えていません」


「職員だったのか」


「はい。ソフィーの子分1号でした」


「へぇ」



ジョアンは何か言いそうになったのをグッと堪えていた。

下手なこと言えないよね。



◇ ◇ ◇ ◇



詳細な情報共有と今後の予定を立てることにした。


キャメロン隊長、炎帝のメンバー、ウォーカーのメンバー、シンディ(受付嬢)がギルド長室へ集合した。


ギルド長室にはなんとエミリオ先生(魔物学教授)、アルベルト先生(ダンジョン学教授)がいらっしゃった。



「この部屋、我々で使って良いんですかね?」


「かまわん。今ジョアンに臨時ギルド長をして貰っている」



キャメロン隊長が何気なく言う。



「本当ですか?」


「ああ。ちなみにシンディ、エミリオ先生、アルベルト先生には臨時ギルド長代理をして貰っている。全く問題無い」


「ウォルフガングが来たから彼に任せたいがな」


「儂はすぐタイレルを離れる」


「そうか。そりゃ残念」



本当に残念そうなジョアンにタイレルの現状を教えて貰う。


第一層はコカトリスが出てくるのを目撃された横穴以外は常に手入れをされている。

冒険者達、頑張ってる。



「あんたのお陰だ」


「?」


「安くポーションを卸してもらえなきゃ冒険者どもも騎士団もこのダンジョンに潜れない。ポーションが鍵だったんだ」


「頑張った甲斐がありました」



横穴は1箇所のみ。

横穴の奥は、まだ積極的に探っていない。

騎士団が対コカトリス戦の戦法に慣れているところ。

安定して戦えるようになったら先に進む予定。



コカトリスは、夜間など比較的冒険者の気配が薄い時間帯に横穴から出てくる。

ダンジョンの内部を彷徨っている個体はしばらくすると横穴に戻っていく。

一度ダンジョンの外に出てしまうと、二度とダンジョンに戻らない。


という習性がわかったのは最近のこと。


エミリオ先生に周辺を調査してもらったところ、相当数の移動の痕跡が見つかった。

既にかなりの個体が外に出てしまったと見る。

その殆どが北方に向かっている。



「何匹くらいですの?」


「100以上としか言えぬのう」



カトリーヌが唇を噛んでいる。

早く故郷へ帰りたいのだろう。



一方アルベルト先生は騎士団に守られてダンジョン内に入っていた。

先生の見立てではタイレルダンジョンにはスタンピードの気配は無い。

これは朗報。


ところがアルベルト先生は、安心しかけた我々に冷や水をぶっかけるようなことを言い始めた。



「コカトリスが出てくる横穴だが、別のダンジョンだ」


「?」


「タイレルダンジョンとは別のダンジョンだ」


「?」


「名前を付けないといけませんね」


「おまえ、そういう問題じゃねぇだろう」


「一緒の出入り口ですよね?」


「ダンジョンって子供を産むの?」


「ちょっと待ってください」



皆がバラバラに発言を始めたので落ち着かせる。



「先生が別のダンジョンと判断された理由は何でしょう?」


「騎士団に守られてダンジョンに入った話はしたな」


「はい」


「ダンジョンの魔力の色を測定した」


「?」


「ダンジョンとダンジョン産の魔物はコアの持つ魔力の色に染められている」


「色ですか?」


「正確には魔力の波長だが、波長は目に見えん。測定機器を使えない者には説明も難しい。だから便宜的に色と言っている」


「理解しました」


「タイレルダンジョンのキラーアントとレッドアイの色は同じ。しかし横穴のコカトリスの色は違う。つまり横穴は別のコアを持っている可能性が高い」


「ウォルフガング、ダンジョンを2個管理するってどうなのだ?」


「冒険者ギルドが2つ必要だと思うが・・・ 冒険者は均等にばらけてくれまい。

ということはどちらかのダンジョンの管理がおざなりになるぞ」


「それはまずいな」


「それよりもだっ!」



アルベルト先生の語気が鋭くなったのでみんな黙った。



「これはそんな簡単な問題ではないのだ。ダンジョン学の歴史を紐解くと、この様な状況は過去に1例だけ存在する。その時の苦い教訓があるのだ」


「いったいどのようなものでしょう?」


「両方管理しようとした。だがしきれなかったのだ」


「どちらかがおざなりになったのですか?」


「いや。上手に管理していたと記録にある」


「ではなにが・・・」


「古いダンジョンが新しいダンジョンに呑み込まれるのだ」


「・・・」


「すると新しいダンジョンが急激に成長する」


「・・・」


「急激な成長は階層を増やす方向ではなく、魔物を生み出す方向に早く影響が出る」


「・・・」


「スタンピードになるのだ」


「本当に?」


「そちも冒険者なら『ドルジの惨劇』を知っているだろう?」


「・・・」


「昨日まで安定していたダンジョンが何の前触れも無くスタンピードと化した。

ダンジョンのあった場所が辺境だったので国の崩壊は避けられたが、それでもノースランビア大陸一の強国と謳われたローラン王国は没落したのだ。

スタンピードの原因はダンジョンコアの融合にある、というのはダンジョン学者の間では常識だ」



ギルド長室が静まりかえった。

しばらくして我に返った私が質疑を続けた。



「どのような対処が必要ですか?」


「ダンジョンコアを止めなければならない」


「両方ですか?」


「新しい方だ」


「・・・」


「大多数の学者は、古い方を攻略しようとすると呑み込まれるのが早まると考えている。新しい方を攻略しても古い方に影響はないと考えている」


「先生、それは確定?」


「この大陸の学者が検討に検討を重ねた結果、導き出された解だ」


「万一外れることもありうる?」


「うむ。だから儂も一緒にダンジョンコアを止めるために潜る。仮説が間違えていた時はすぐに引き返す判断をする」


「先生、それは先生が危険では?」


「承知の上だ。新しいダンジョンはまだ階層が浅い。迷っている場合ではない。10日遅れれば解決は1ヶ月遅れると言われる。今がチャンスなのだ」



それからアルベルト先生とキャメロン隊長の間で色々なやり取りがあったが、最終的にキャメロン隊長が折れてアルベルト先生を連れてダンジョンに挑戦することになった。



◇ ◇ ◇ ◇



ジョアンがキャメロン隊長に力説していた。



「ウォーカーを一緒に連れていくべきです。これは絶対です」


「炎帝と騎士団では駄目なのか?」


「不確定要素が多すぎます」


「なんだそれは?」


「コカトリスへの対処は我々で出来ます」


「うむ」


「それ以外の魔物が出てきた時、すぐに対処出来ますか?」


「何だ。何が出てくるのだ?」


「例えばレッドサーペント、例えばブルーディアー、例えばガーゴイル」


「・・・本当に出てくるのか?」


「何かが出てくるのは間違いありません。コカトリスだけでハイお終い、ということはありえません」


「・・・彼らならその場で対処できるのか?」


「出来ます。ダンジョン攻略の最高戦力を連れていかない手はありません」


「わかった」




だが、アルベルト先生とウォーカーの話し合いは少々揉めた。

ウォーカーはカトリーヌをオリオルへ送り届けるようにハーフォード公爵の命を受けている。


大至急送り届け、すぐに戻ってくる。

そう決めようとしたがアルベルト先生が止めた。



「どのくらいで帰ってくる?」


「6日か7日か・・・」


「それはまずい。すぐにでも攻略を始めるべきだ」


「それほどですか?」


「エミリオの調査で既に相当数のコカトリスが外に出ていることがわかっている。これは事態がかなり進行している証左なのだ。明日攻略を始めても最深部に着くまえに事が始まってしまうかも知れぬ。儂の見立てでは半々だ」



ギルド長室が重苦しい空気に包まれた。

ウォーカーはここでカトリーヌの護衛を放り出す訳にはいかない。

ハーフォード公爵の命に背くわけにはいかない。


だがタイレルがスタンピードの危機にあることも確か。

そして危機を回避する最後のピースとして期待されていることもわかる。




ここまで発言せず、じっと考え込んでいたカトリーヌが口を開いた。



「私は新しいダンジョンを攻略します」




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