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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
20 タイレルダンジョン編
218/302

218話 タイレルダンジョン


タイレルダンジョンでは王都騎士団と冒険者達による魔物の間引きが始まっていた。



公式には公表されていないにもかかわらず、少し前から「タイレルダンジョンでスタンピードが起きるかも知れない」という噂が国内の冒険者たちの間でジワジワと流れ始めていた。

こういうときの地下の噂は広まるのが早く、しかも驚くほど正確だ。


噂を聞きつけてタイレルから冒険者が一斉に去るのかと思いきや、逆にタイレルを目指す冒険者が増えた。

そして彼らは果敢にタイレルダンジョンに挑戦した。



閑古鳥が泣き荒ぶのが常態化していたタイレルの冒険者ギルドでは、突如訪れた冒険者ラッシュに対応できなかった。

道具屋も武器屋も右往左往するばかりだった。


それでもなんとか冒険者ギルドが運営を続けられたのは、王都騎士団が睨みを効かせているため。そして【炎帝】が常駐しているためだった。




冒険者達に対する炎帝の威令は大変なものだった。


大勢集まってくれた冒険者達。

だがコカトリス相手に勝負できる実力を持った冒険者は殆どいない。

慌てて出社した冒険者ギルド長は集まってくれた冒険者達に対し、漫然とイルアンダンジョンの魔物の間引きを頼んだ。

これは冒険者達から冷笑を持って迎えられた。



「それじゃあ今までと変わらねぇだろ」


「湿気たクエストなんざぁお断りだぜ」



確かにこれではタイレルにダンジョンが発見されて以来ず~っと人気の無かった暗黒時代と何も変わらない。



王都騎士団から頼んでも冒険者達の反応は変わらなかった。

(失礼の無いように言葉遣いには気を付けていたが)



だが炎帝の頼みに対する反応は違った。

ジョアン(炎帝のリーダー)は冒険者ギルドのロビーに冒険者達を集め、話した。



「お前たちに従来のタイレルダンジョンの手入れを頼みたい。これはコカトリス討伐の目処めどが立つまでのサポートだ。

コカトリスが出てくる横穴の位置は教えた通りだ。そこは無視してくれ。

そしてダンジョン内でコカトリスを見たら逃げて良し! 周囲の冒険者達にも声を掛けてダンジョンの外へ逃げよ。命を最優先に考えて行動してくれ」



ジョアンが依頼内容を明確化する。



「ジョアン。あんたの頼みだ。邪険には出来ねぇ。

だが俺たちにも生活がある。

タイレルダンジョンの厄介さはあんたに説明するまでもねえ。

なんとか上手い落とし所を見つけちゃあくれねえか」


「わかった。それについてだが、まずタイレルダンジョンで入手した素材を冒険者ギルドで買い取る際、ギルドでマージンは取らぬ。その分は買い取り価格に上乗せする」


「「「「 おお・・・ 」」」」



ギルド内にどよめきが起きた。

ギルド長は何かを言いかけたが、騎士団隊長が睨むと口をつぐんだ。



「それから最大の懸念が毒だ。1層にはレッドアイが、2層にはキラービーがいる。どんなに気を付けていても毒を受けることはあるだろう。そこでだ」



一度言葉を切って冒険者の注目を集めてから切り出した。



「タイレル冒険者ギルドでは解毒ポーションの値段を下げて売ることにする。目標価格は時価の半値だ」


「「「「「「 お” お” お” お” お” お” お” お” お” お”・・・・ 」」」」」」



キルド内に野郎共の雄叫びが響き渡った。



「だが十分に気を付けてくれ。いくらポーションを使っても、毒を受けたらしばらく活動できない。そこは変わらないぞ」


「ああ。わかってるぜ。十分だ」


「十分過ぎるぜ。こんな話聞いたこと無いぜ」


「ジョアン。やってやるぜ。タイレルでスタンピードなんて起こさせねぇ」


「俺たちに任せてくれ」



冒険者達は勢い込んでタイレルダンジョンに挑み始めた。



◇ ◇ ◇ ◇



ジョアンが冒険者達のやる気を引き出した裏で幾人かが動いていた。


まずジョアンとジークフリードとクロエが話し合い、結局解毒ポーションが潤沢に無いと、そして手に入れやすい価格でないとタイレルダンジョンの魔物の間引きは出来ない、と言う結論に至った。


これは冒険者だけで無く、王都騎士団も一緒だ。

むしろダンジョンに慣れていない分、人数が多い分、騎士団の方がたくさん使うのでは無いか?


そこで騎士団隊長を呼んで話を聞くと、ポーションを全く持ってきていないという。



「冒険者ギルドを接収したのだ。ギルドに常備されているだろう?」



タイレルの冒険者ギルドに対するイメージが間違えていること、必要な解毒ポーションの本数のイメージが合っていないこと、タイレルダンジョンの魔物に対する認識があやふやなことが判明した。


ここのギルドは倒産寸前だったので解毒ポーションなど高価なものは置いていないこと。

タイレルダンジョンは毒虫ダンジョンとして有名で、被毒の確率が高いこと。


以上を説明したところ隊長は青ざめはじめた。

王都本部には一定量のストックがあるが、それを取り寄せたとしても騎士団が使う分であって冒険者にまで回らない。それすら足りないかも知れない。



「冒険者どもは自前で持っていないのか?」


「いくらすると思っているのです? 何本必要になると思っているのです?」



騎士団隊長の疑問に鋭く切り返したジョアンだった。



ジョアンから相談を受けたウォルフガングが私に繋いだ。

私からアンナ~マーラーへ繋いで貰い、ヒックスでダブついていた特級ポーション(解毒ポーション)を回して貰った。

神聖ミリトス王国が崩壊し、ライムストーン公爵領の成立以降、政情が安定するとポーションの需要が落ち着いたのだった。


支払いはアンナが「任せろ」と言ってくれた。

アンナには私のパテント料を好きに使ってくれ、とお願いした。




と言う訳でタイレル冒険者ギルドに解毒ポーションがザクザクと入荷し始めた。


そしてジョアンの音頭でタイレルの冒険者ギルドの受付で解毒ポーションの廉価販売を始めた。


問題の解毒ポーションの販売価格は、



 (ヒックス冒険者ギルド調査 XXXX年XX月)


  ヒカリオルキス前    一瓶 白金貨1枚 (1000万円)

  ヒカリオルキス後    一瓶 大金貨7枚 ( 700万円)

  神聖ミリトス王国崩壊後 一瓶 大金貨5枚 ( 500万円)

  直近          一瓶 大金貨4枚 ( 400万円)



タイレル冒険者ギルドでは一瓶大金貨2枚(200万円)で売り出した。

冒険者の体重換算で一瓶が約3服分。

1服66万円。


これを高いと見るか、安いと見るか。


冒険者の感覚では激安、爆安、超安。



「自分の目が信じられねぇ」


「天地がひっくりけぇった」



しばらくはそんな声が聞こえた。


ポーションだけ購入してタイレルを去ろうとする冒険者もいたが、見つかったときは他の冒険者にフクロにされていた。



ジョアンはすっかりタイレル冒険者ギルドの顔になった。

騎士団の勧告で元のギルド長は引退し、ジョアンを臨時ギルド長として据えた。

ただし炎帝もダンジョンに入るため、シンディ(受付嬢)を臨時ギルド長代理に据えた。


冒険者達は、シンディは最も辛い時期を1人でギルドを支えていたことを知っていたので、誰も文句を言わなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



冒険者達の魔物の間引きは順調だ。

炎帝の前で良い格好を見せる為に張り切り過ぎている感じはするが、気力は横溢している。



王都騎士団のダンジョン攻略の訓練も始まっている。


騎士団はどうしても10人、20人、50人、100人といった分隊~中隊単位による集団戦に特化しており、ダンジョンという狭小空間での少人数戦闘に慣れていない。


一般に冒険者の場合、ダンジョン内では前衛の3人が横一列になって防衛ラインを構築し、後衛3人が遠隔攻撃するのが基本だ。


騎士団も冒険者に習って6名で分隊を組織したが、3名が横に並ぶと窮屈だった。

そこで前衛を2名とし、槍や大剣や大盾を自由に振り回すスペースを作った。

そして2列目にも槍士、剣士を置き、すり抜けてくる魔物を潰す隊列を採用した。

3列目に魔術師を置いた。

斥候代わりに前衛に風魔法使いを入れた。



最初はジークフリードやクロエや炎帝がサポートとして一緒に潜った。


コカトリスが出てくる横穴にたどり着くまでに必ず1~2回はキラーアント、レッドアイと遭遇するが、1回経験すれば落ち着いて対処できるようになった。

さすがは戦闘の専門職だった。


ただし炎帝から後衛職(魔術師)には注意が与えられた。



「あんたらは日頃は広大な原野で巨大な攻撃魔法を撃つ訓練を積んでいると思う。

だがダンジョン内でそのつもりで攻撃魔法を撃つとオーブンになっちまうぞ。

見慣れぬ魔物にはついデカイ魔法を撃ちたくなる気持ちはわかるが、味方を巻き込まないように細心の注意を払ってくれ」



◇ ◇ ◇ ◇



遂にキャメロンが率いる分隊がコカトリスと遭遇した。

場所はコカトリスが湧き出してくる横道へ向かう途中の通路。


真っ先に気付いたのは中衛にいたクロエだった。

クロエが小さな声で警告を発した。



「魔物・・・」


「なにっ! 接敵したのか?」


「大きい声を出さない」


「あ・・・ すまぬ」


「前方30m。コカトリス1匹」


「まだ横穴まであるぜ」


「巣から出て来たのね。戦闘準備」


「おう」



前衛2名は大盾を構えつつ、いつでも長剣を振るう体勢を取る。

中衛も同様。

後衛は火魔法を撃つ用意をする。

クロエはいつでもサポートに入れるように、ジークフリードから借りてきた砂袋を握りしめた。



「くる・・・」


「見えた!」



クロエの合図とキャメロンが魔物を視認したのがほぼ同時。

キャメロンともう一人の前衛が火球を放ち、突進した・・・




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