211話 タイレル冒険者ギルド
タイレル冒険者ギルドのギルド長室。
シンディはついさっきギルド長が出て行った扉を睨みつけていた。
炎帝の報告でコカトリスの謎が解けたシンディはギルド長へ緊急連絡を入れた。
ギルド長が冒険者ギルドに姿を見せたのは、連絡を入れてから3時間後だった。
ギルド長はどこかに出張していたわけでは無い。
自宅に居たが出社を面倒臭がっただけだった。
シンディの報告をつまらなそうに聞いた後、シンディへ指示を出した。
指示内容は「冒険者にダンジョンの隠し通路を調査させろ」というものだった。
ここまでは良い。
「ギルド長。クエスト報酬をいくらに設定しますか?」
「何を言っているんだ?」
「ギルドが発注元のクエストです。報酬を設定する必要があります」
「そんな金がどこにあるのだ?」
「無いのですか?」
「あるなら教えてくれ」
「王都冒険者ギルドに報告して資金サポートを依頼してはいかがでしょうか」
ギルド長はシンディを睨みつけ、無言で部屋を出て行った。
シンディはしばらく扉を睨みつけていたが、やがて「私が王都冒険者ギルドへ連絡を入れます」と言うつもりでギルド長を追った。
だがギルド長は見つからなかった。
すでにギルド長は帰宅していた。
シンディが王都冒険者ギルドへ伝書鳥を飛ばす準備をしている丁度その時。
炎帝とジークフリードとクロエがギルドに入ってきた。
シンディがギロリとジョアンを睨んだ。
睨まれたジョアンが面食らって話し掛けた。
「何かあったか? シンディ」
「何かあったかって・・・」
それから炎帝とジークフリードとクロエで、無責任な上司に対するシンディの愚痴を延々と聞いた。
シンディの毒を吐かせ終えてから、改めてジョアンはジークフリードとクロエの二人に訊いた。
「ジーク、クロエ、お前らはどう思う?」
「私達に聞くのは間違いだよ~」
「そうか、ウォルフガング殿なら何というかな」
「そりゃ簡単よ~。スタンピードじゃないんだから冒険者の自己責任よ~」
「自己責任?」
「そう。冒険者ギルドは情報を全部開示するから冒険者頑張れ~って奴」
「なんか・・・すげえ割り切りだな」
「あはははは~」
「スタンピードじゃないか。確かにスタンピードだったらこの街は消滅してるな。だがスタンピードじゃなかったら何なんだ?」
「きっとコカトリスにとって扉の外は別の階層なのよ~。別の魔物のテリトリーだから恐る恐るなのよ~」
ぽん! と手を打つジョアン。
「なるほど! だからダンジョンの外も別の魔物のテリトリーと言う訳か。だから慎重に行動するし、すぐに自分のテリトリーに戻るんだ」
しばらく考えたジョアンは再びクロエに聞いた。
「するとこの場合、ウォルフガング殿ならはどうすると思う?」
「王都冒険者ギルドには情報共有はするけど共有だけ。援助も指示も求めないわね~」
「そうなんだ。だがコカトリスは既にダンジョン外で目撃され始めてるだろ。これどうする?」
「そこも含めて王都冒険者ギルドへ連絡よ~」
「ふむ。万一コカトリスが暴れ始めたらどうする?」
「ウォルフだったらダンジョン内で暴れたら冒険者よろしく~。ダンジョンの外で暴れたらウォルフとソフィーさんで血祭りに上げるわよ~」
ジョアンはしばらく考えていたが、やがて
「それはあの二人だから出来ることだろう?」
「そうよ~ だから私達に聞くのは間違いだよ~」
「そうか。そうだな。 クロエだったらどうする?」
「う~ん。難しいわね~。こういうときは正直に『ダンジョンに新しい通路が見つかって魔物がダンジョンの外で目撃され始めています』って言って判断は丸投げかな~」
「その言い方だとスタンピードと思われないかな?」
「う~ん。逆にスタンピードじゃないって証明できないわよ~ 難しいよ~」
「そうだな。説明を受ける側のスキルによるな」
ジョアンは王都冒険者ギルド職員の顔を思い浮かべていた。
隊商の護衛の見立ては得意だが、ダンジョン攻略は素人だ。
シンディがおずおずと話し掛けてくる。
「あの・・・私はどうすれば良いでしょうか?」
ジョアンはしばらくシンディの顔を見ていたが、やがてニヤリと悪い笑みを浮かべ
「よしっ! 王都冒険者ギルドへ連絡を入れろ。内容は
『タイレルダンジョンに新しい通路が発見された。新しい通路に棲息する魔物はコカトリス。コカトリスがダンジョンの外でも目撃され始めた。 目撃者【炎帝】 』
これでいい」
「送り主の名前は?」
「あんたの名前で。私がギルド長だ、くらいのつもりで送ってやれ」
炎帝からウォルフガングへも共有された。




