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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
19 王国高等学院編(3年生)
210/302

210話 ウォーカーと炎帝の調査2


炎帝とジークフリードとクロエはタイレルの冒険者ギルドへ立ち寄っていた。


受付嬢が一人で頑張っている・・・と言えば聞こえが良いが、実際は一人で十分。

一人でも多すぎじゃないか? という感じだった。

客は誰もいない。


たった一人の受付嬢にダンジョンの話を聞くが、目新しい情報は何も無い。

最も新しい情報で1ヶ月前のものだった。

冒険者はだれも素材を売りに来ないらしい。



「それなりの素材ですと買い取るだけの資金も無いので・・・」



ある意味毎日開店しているだけでも凄いことだった。



タイレル冒険者ギルドのダンジョン前出張所に立ち寄る。


無人。


片手で数えるほどしかいない冒険者は、ダンジョン前出張所など見向きもしなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



まずタイレルダンジョン周辺の調査から始めた。

ジョアンの言った通り、ダンジョン周辺にコカトリスらしき足跡が残っている。

まだ新しい物を発見し、緊張が走った。

ダンジョンから離れると殆ど足跡が無い。



「確かにこれだとダンジョンから出て来ているみたいだなぁ」


「でもスタンピードじゃなさそうなのよね~」


「うん。でも怖いな」


「こんな状況でダンジョンに潜るなんて剛の者よね~」



数は少ないが、ダンジョンに潜る冒険者を見て感心したようにクロエが言う。


続いてダンジョンから出てきた剛の者(冒険者)をつかまえて話を聞く。

最初は胡散臭そうにしていた冒険者も【炎帝】と知ると快く情報をくれる。

(ウォーカーはおまけ)



「いや、2層へ続く階段の所まで行ったんですがね。コカトリスの気配は無いっすね」


「2層は厳しいっす」



では炎帝とウォーカーで潜ってみよう。



◇ ◇ ◇ ◇



入口をくぐるといつもの薄暮の世界。

メッサーのダンジョンでも見られたアリ(キラーアント)がウロウロしている。

ここのアリは集団ではなく、1匹1匹バラバラに動いている。

非常に戦いやすい。

アリの他にレッドアイ(蜘蛛)が居るはずだが見かけない。


全員で索敵しながら移動する。

近付いてくるアリは炎帝の前衛がサクッと倒す。



かなり進んだところでクロエが皆を止めた。



「ちょっと待って」


「どうした?」


「みんな止まって。なんかおかしい」



いつものほんわかしたクロエではなく、緊張感が漂っている。



「なんかって何だ?」


「この感覚わからない?」


「??? わからん」


「風使いでないとわかりにくいか・・・」


「なにがある?」


「ダンジョン内の空気の流れがおかしいのよ」



まだダンジョンの入口の光が遠くに見える。

こんなところで何がある?


ジョアンの合図で炎帝の魔法使いを守るように方円の陣を組んだ。

魔法使いの周囲を剣士と斥候が固める。


近くに他の冒険者パーティはいない。


何が起きても対処できるように、全員がそれぞれの得物を構えて周囲を見渡した。



◇ ◇ ◇ ◇



不意にジークフリードの前のダンジョンの壁が動いた。

ジークフリードが鋭く息を呑む音が聞こえた。



気付いた時はジークフリードは魔物と睨めっこをしていた。


鳥類にしては賢そうな目がジークフリードを見つめていた。

どのくらい睨み合っていたのかわからない。

魔物は壁の向こうに引っ込んで扉らしき岩が閉まった。



扉が閉まって10秒ほど経って、全員が無言で動き出した。

円陣を組んでいた地点から足早に入口近くへ移動し、炎帝の前衛が防衛ラインを構築し、後方をジークフリードとクロエが固めた。

しばらく前方を睨んでいたが何も起きなかった。


クロエがジョアンに耳打ちし、いったん外に出ることにした。



「まだ何かあるのか?」


「わからない」


「ん?」


「あれ以外にまだ隠し通路があるかどうかわからない」


「そういうことか」


「ありゃ間違いなくコカトリスだった」


「ああ」


「あの間合いで火を吹かれなくて良かった」


「吹かれたら死んでた」


「そうだな・・・」



全員の脇を冷たい汗が流れる。



「ギルドに報告しよう」



ジョアンの一言で、全員で冒険者ギルドへ戻った。




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