210話 ウォーカーと炎帝の調査2
炎帝とジークフリードとクロエはタイレルの冒険者ギルドへ立ち寄っていた。
受付嬢が一人で頑張っている・・・と言えば聞こえが良いが、実際は一人で十分。
一人でも多すぎじゃないか? という感じだった。
客は誰もいない。
たった一人の受付嬢にダンジョンの話を聞くが、目新しい情報は何も無い。
最も新しい情報で1ヶ月前のものだった。
冒険者はだれも素材を売りに来ないらしい。
「それなりの素材ですと買い取るだけの資金も無いので・・・」
ある意味毎日開店しているだけでも凄いことだった。
タイレル冒険者ギルドのダンジョン前出張所に立ち寄る。
無人。
片手で数えるほどしかいない冒険者は、ダンジョン前出張所など見向きもしなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
まずタイレルダンジョン周辺の調査から始めた。
ジョアンの言った通り、ダンジョン周辺にコカトリスらしき足跡が残っている。
まだ新しい物を発見し、緊張が走った。
ダンジョンから離れると殆ど足跡が無い。
「確かにこれだとダンジョンから出て来ているみたいだなぁ」
「でもスタンピードじゃなさそうなのよね~」
「うん。でも怖いな」
「こんな状況でダンジョンに潜るなんて剛の者よね~」
数は少ないが、ダンジョンに潜る冒険者を見て感心したようにクロエが言う。
続いてダンジョンから出てきた剛の者(冒険者)をつかまえて話を聞く。
最初は胡散臭そうにしていた冒険者も【炎帝】と知ると快く情報をくれる。
(ウォーカーはおまけ)
「いや、2層へ続く階段の所まで行ったんですがね。コカトリスの気配は無いっすね」
「2層は厳しいっす」
では炎帝とウォーカーで潜ってみよう。
◇ ◇ ◇ ◇
入口をくぐるといつもの薄暮の世界。
メッサーのダンジョンでも見られたアリ(キラーアント)がウロウロしている。
ここのアリは集団ではなく、1匹1匹バラバラに動いている。
非常に戦いやすい。
アリの他にレッドアイ(蜘蛛)が居るはずだが見かけない。
全員で索敵しながら移動する。
近付いてくるアリは炎帝の前衛がサクッと倒す。
かなり進んだところでクロエが皆を止めた。
「ちょっと待って」
「どうした?」
「みんな止まって。なんかおかしい」
いつものほんわかしたクロエではなく、緊張感が漂っている。
「なんかって何だ?」
「この感覚わからない?」
「??? わからん」
「風使いでないとわかりにくいか・・・」
「なにがある?」
「ダンジョン内の空気の流れがおかしいのよ」
まだダンジョンの入口の光が遠くに見える。
こんなところで何がある?
ジョアンの合図で炎帝の魔法使いを守るように方円の陣を組んだ。
魔法使いの周囲を剣士と斥候が固める。
近くに他の冒険者パーティはいない。
何が起きても対処できるように、全員がそれぞれの得物を構えて周囲を見渡した。
◇ ◇ ◇ ◇
不意にジークフリードの前のダンジョンの壁が動いた。
ジークフリードが鋭く息を呑む音が聞こえた。
気付いた時はジークフリードは魔物と睨めっこをしていた。
鳥類にしては賢そうな目がジークフリードを見つめていた。
どのくらい睨み合っていたのかわからない。
魔物は壁の向こうに引っ込んで扉らしき岩が閉まった。
扉が閉まって10秒ほど経って、全員が無言で動き出した。
円陣を組んでいた地点から足早に入口近くへ移動し、炎帝の前衛が防衛ラインを構築し、後方をジークフリードとクロエが固めた。
しばらく前方を睨んでいたが何も起きなかった。
クロエがジョアンに耳打ちし、いったん外に出ることにした。
「まだ何かあるのか?」
「わからない」
「ん?」
「あれ以外にまだ隠し通路があるかどうかわからない」
「そういうことか」
「ありゃ間違いなくコカトリスだった」
「ああ」
「あの間合いで火を吹かれなくて良かった」
「吹かれたら死んでた」
「そうだな・・・」
全員の脇を冷たい汗が流れる。
「ギルドに報告しよう」
ジョアンの一言で、全員で冒険者ギルドへ戻った。




