208話 タイレル冒険者ギルド周辺
寂寞感漂うタイレルの冒険者ギルド。
その受付嬢シンディは悩んでいた。
ダンジョンを抱える街であるにも関わらず冒険者が居着かない。
ギルド長はとっくの昔にやる気を失い、業務をシンディに丸投げして全然顔を出さない。前回出社したのはいつだったろう?
そんな状態でも困らないのがむしろ悲しい。
シンディは今日も一人出社して制服に着替え、開店準備をし、扉を開け、何一つ貼り出されていないクエスト掲示板を眺め、カウンターの後ろに立った。
今日も定時までこのまま一人で過ごすのだろう。
今日は解体担当も出社していなかった。
昼過ぎ。
どこかで見たことがあるような商人が入ってきた。
掲示板を眺め、何もクエストが出ていないことを知るとシンディの元にやってきた。
「失礼する。コカトリスの目撃情報が欲しいのだ」
シンディは首をかしげた。
コカトリスなど噂でも聞いたことが無い。
冒険者が寄りつかないこのギルドでは、魔物の噂が語られることはないのだった。
「コカトリスの噂など聞いたことがございません。何かのお間違いではありませんか」
商人は驚き、しばらくシンディの顔を見ていたが、やがてシンディが嘘をついているのでは無さそうと言うことがわかると
「失礼した・・・」
とだけ言い残して去って行った。
商人はマーラー商会王都支店の者だった。
国内北部をカバーする同商会は、ここタイレル地方の隊商に付ける護衛の確保に難儀し始めていた。
理由は強力な魔物の目撃情報だ。
最初は冒険者が契約単価を吊り上げるために使う古典的手法と高をくくっていた。
だが徐々に冒険者自体をつかまえることが難しくなり始めた。
商会で護衛実績のあるEクラス、Fクラスの冒険者たちは、価格交渉の前に依頼を断ってきた。
「前回のクエストの時にヤバイもんを見たんだ。あれが本当だと俺たちの手に負えねえ」
冒険者のクラスを上げる必要が出てきた。
Dクラス冒険者になると数が絞られる。
最初からそれなりの単価を示さねばならない。
だがそのDクラス冒険者からも断られた。
理由を聞くと
「シャレにならん魔物の噂がある。下手するとあんたら商人も含めて隊商全滅の恐れがある」
思い切って単価を上げると言ったが
「これは金の問題じゃねえ。自分の命は惜しい」
そう言って断ってきた。
◇ ◇ ◇ ◇
マーラー商会王都支店からヒックスの本社へ連絡が上がり、本店からハーフォード支社へ連絡が来た。
事情を説明し
「冒険者ギルドと魔物に造詣の深い貴社の意見を賜りたい」
と言ってきた。
早速アンナからウォーカーへ連絡が行き、ジークフリードとクロエが現地調査に向かった。
ウォルフガングは炎帝と連絡を取り始めた。




