020話 風邪流行
秋が過ぎて冬が始まりかけている。
闇の治癒バイトは順調で、治癒魔法のレベルは順調に上がっている。
マロンとのコンビによる草原のゴブリン退治も順調で、闇魔法のレベルが上がり、ゴブリンを殺しても精神的ダメージを負わなくなった。
それどころか、どうやって安全にゴブリンを倒すか、どんな倒し方が効率的か、4体出てきたらどう倒すか、5体出てきたらどう倒すか、などと恐ろしいことを検討する様になっていた。
お金も順調に貯まっている。
◇ ◇ ◇ ◇
季節が進んで真冬になった。
この世界の冬は日本の東北地方の冬と同等の寒さだった。
つまりかなり寒い。
雪も積もる。
2度目の雪が降った頃。
メッサーの街に風邪が流行し始めた。
こちらの世界でも風邪は咳、くしゃみ、鼻水、喉の痛み、熱だ。
困ったことに私も風邪をひいた。
風邪を引いた状態で怪我人を治癒する訳にはいかない。
重症患者以外は勘弁して貰った。
急いで風邪を治さねばならない。
自分で自分を鑑定したりキュアを掛けたりしたが、どうも効いているのかどうか確信が無い。
そこで師匠に相談すると、こちらの世界では病には祈祷だという。
そういえばギルド長もそのようなことを言っていた。
祈祷とはまたマニアな話だ。
後学のため、祈祷について師匠に聞いてみた。
祈祷師はミリトス教会に属していない。
もっといかがわしいモノの扱いらしい。
その分値段は安い。
こちらの世界の教会は充分いかがわしいと思うが、まあそれは横に置く。
祈祷と一言で言っても病の治療から失せ物の探索、さらには悪霊退散まで、その守備範囲は大変に広い。
また、呪いを専門にする闇祈祷士、解呪を専門にする闇祈祷士もいるらしい。
それなら私が呪われたときに頼れば良かったのでは? と聞くと、
「あんな奴ら信用できるか」
の一言で終わった。
祈祷業界にはギルドが無く、完全に個人商店になる。
そのためレベルや価格体系がバラバラで統制がとれない世界らしい。
「ではギルドを作ってレベル分けしてはどうでしょう?」
「どうやって祈祷の効果を計る? 無理だろう」
う~む。無理かも知れない。
とにかく私が治癒師としての活動ができないので冒険者ギルドも困ってしまった。
ギルド長から「祈祷、行ってみるか?」と勧められた。
好奇心が勝り、薦められたところへ行ってみた。
◇ ◇ ◇ ◇
「カミラ婆の祈祷所」は、冒険者御用達の商店街と貧民街の境目にあった。
外観は意外と清潔で、入りやすい雰囲気だった。
だが一歩中に入るとまさしく魔女の巣窟。
薄気味悪いブツが山ほどある。
大鍋、蛇の干物、イモリの干物、昆虫の干物、木の根、キノコ、なにかの魔物のミイラ、何がはいっているのかわからない無数の壺、壁には何かの曼荼羅の様な絵が掛かっている。
初見で圧倒されたが、よく見ると漢方薬かな? と思っているとカミラ婆登場。
「風邪かい?」
「ええ」
「ウチは風邪にゃ祈祷しないよ」
「ええっ?」
それからカミラ婆と囲炉裏端で病気談義。
どうやらカミラ婆は「病」と「呪い」を明確に分けており、病には祈祷は効かないと認識されている御様子。
「よそは知らないよ。だがウチは病には祈祷しない。だから客が来ないだろ」
「あはははは」
店の中にずらりと並んだインパクト大のブツについて聞く。
「この凄い物たちは何ですか?」
「こりゃウチの秘伝のあれの原料よ、アレに効くのよ。ひひひ・・・」
異世界版バイ○グラらしい。
効能は・・・ほうほう、体がカッと熱くなり、汗が噴き出し、血の巡りが良くなり、魔力の巡りも良くなり、アレに血液が集中し、ビッグになる、と。
15の朝の角度と硬度と回数を再び・・・ そりゃ凄い!!
女は体が火照って何やら苦しくなり、湿度が上がるそうだ。
よくわからない。
風邪に効きそうだな・・・
「婆、ちょっと弱めに一服作ってくれないか?」
「何じゃおまえ、その年で不能かや?」
「いや・・・そういうわけじゃないんだが」
「恥ずかしがらんでよいぞえ。ここはそういう店じゃ。なんなら今宵凄腕のおなごを派遣するぞえ」
「そったらこと・・・ おっそろしい・・・」
「なに言うとる。その道20年のプロ中のプロじゃぞ。死人すらおっ立てるという神の技の持ち主じゃ」
「20年て・・・ まさか婆じゃないだろうな」
「げへへへ、わしにしてもらいたいのかえ」
「死んでも御免こうむる。よだれ垂らすな」
そんな下品な押し問答が果てしなく続いた後で、なにやらあちこちからゴソゴソと材料をかき集め、薬研でゴリゴリし始めた。
「注文の一服じゃ」
銀貨5枚(約5000円)だった。
効く/効かないはともかく、一品物の調剤としては良心的な価格ではなかろうか。
試してみたら大量の汗をかいて、翌朝には快方に向かった。




