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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
01 異世界召喚編
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002話 世界の仕組み

ヨーゼフ国務大臣というナイスミドルがこの世界の仕組みを説明して下さった。


ここはノースランビア大陸の一角を占める神聖ミリトス王国の首都・アノールにある王宮内の一室。


ノースランビア大陸には


ローラン王国

聖ソフィア公国

リュケア公国

ブリサニア王国

神聖ミリトス王国


の5つの国があり、中でもブリサニア王国と神聖ミリトス王国が2大大国である。


神聖ミリトス王国の王はエルンスト・フォン・ゴールデンバッハ陛下。

立派なお名前だ。

この部屋で最も巨大な椅子に座り、背後に護衛騎士を控えさせた御方だ。


何が言いたいかというと、今ここで俺が見ている光景は映画でもなく、ゲームでもなく、仮想現実でもなく、本当にどこかの世界に飛ばされた(召喚された)ということだった。

この世界は俺の感覚では日本なら戦国時代。西欧なら絶対王政時代。



理解がすすむにつれ、俺は戦慄した。

目の前にいるのは本物の王だ。

現代の日本やヨーロッパにおける民主的な王ではない。絶対王政の王だ。

感覚的には全体主義国家の独裁者か、軍事独裁国家の独裁者。

おそらくこの世界の民の命は羽毛のごとく軽い。


法はあるかもしれない。

「王の御言葉が法である」という法が。


俺は王族、貴族に相応しい言辞・作法を知らない。

些細な言葉遣い、言い回し、振る舞いが原因で斬首されることが十分にありうる。



宗教関係者は、女神、枢機卿、大司教、司教、司祭といった人たちだった。

女神という神(現人神かな?) が、本当に “神” なのかどうか、俺には判断できない。

俺のイメージする神は、こんな人間そのものに見える存在ではない。

だがここは口を慎む。

いずれにせよ、肩書きを見ればこちらにも王や貴族と同じ対応が必要だ。


俺はこれまで見てきたアニメや小説の中で、王や貴族が出てくる作品を思い出そうとしていた。絶対者に対する言葉遣いを思い出そうとしていた。


なにはともあれ “俺” は論外。

“私” で統一。

だれが上位者かわからない状況では、子供に対しても “私” で通す。

口を開くときは取引先の社長クラスと話すイメージで下手に出ること。

たしか王に対して直接声を掛けてはいけないのだったな。

王に奏上する人を憶えておかないと。

王の顔を直接見てもいけないはずだ。


教会について。

神聖ミリトス王国というくらいなのだから国教はミリトス教。

ミリトス神を主神として祭る宗教。

ではあそこに座る女神とは何だろう?


『女神:アスピレンナ』


ミリトス教の中の何かの女神? 例えば豊穣の女神とか?

本当に神?

まだ詮索しない方が良い。



◇ ◇ ◇ ◇



フリット大司教という方が、県立川良高校の生徒をこの世界に召喚した理由を説明してくださった。


この世界はミリトス神が造り賜い、ミリトス神の思し召しで人間、動物、魔物、魔族、竜などの生き物が生息し、均衡を保って暮らしていた。

魔物は千差万別。亜種まで含めれば山ほど種類があるらしい。

魔物についていろいろ説明してくださったが記憶領域からスワップアウトした。

あとでじっくり勉強し直さなければなるまい。


10年ほど前からこの世界の均衡が崩れ始めた。

具体的には魔物の数が増え過ぎてノースランビア大陸の各国を圧迫し始めている。

魔物は知性を持たない種が大半だが、近年魔物の行動に明確な目的が見られる様になった。組織的に作物を荒らしたり、人を襲ったりするケースが増えてきた。

これは背後に魔物を統べる存在がある。

それは魔物との親和性から考えて魔族と考えられる。

そして魔族の中に魔族と魔物を統べる『王』が立ったという情報がもたらされた。

これを魔王と呼ぶ。

魔王と人間の対決は不可避である。

世界の均衡を元に戻すため、魔物を間引き、魔王を倒さねばならない。

各国の軍隊は魔物を間引くために鋭意努力しているが、むしろ押され気味である。

魔王と対決するまでは手が回らないのが実情である。


ミリトス教の経典に『世界が破滅に瀕したとき勇者現れ世界を救う』という文言がある。

ミリトス神は世界が危機に陥った時のことまでお考え下さり、世界を救う手段を遺して下さった。

そこで我らは勇者召喚の儀を執り行い、諸君らを召喚した。

諸君らには魔王を倒すために励んでもらいたい。

諸君らに期待するところ大である。

魔王を倒した暁には栄耀栄華は思いのままぞ。



◇ ◇ ◇ ◇



スーツ姿でいたのが悪かったのかも知れない。

つい仕事の受注モードで聞いていた。

確認が必要な箇所がいろいろある。どこから手を付けるべきか。

頭の中で質問が渦巻いている。


ノースランビア大陸はわかりました。

神聖ミリトス王国もわかりました。

ローラン王国、聖ソフィア公国、リュケア公国、ブリサニア王国とか言う国々があることもわかりました。


魔王、魔族、魔物もわかりました。

きっと古代生物が絶滅せずに進化を遂げたのですね。


『魔王と人間の対決は不可避である』という結論がどのように導き出されたのか。

元となった出来事、証言、論理の展開に興味があります。

双方の条件さえ整えば、和解の道が残されているのですよね?

これだけは譲れないというポイントもありますよね?

相手側にもありますよね?

それを知りたいです。

このあたりの疑問は底の底まで突き詰めないととんでもない間違いにつながるので、じっくりと聞かねばなりません。



あなた方は相手のことを『魔王』とか『魔族』と呼びます。

相手はあなた方のことを何と呼んでいるのでしょうか?

まさか、相手もあなた方のことを『魔王』とか『魔族』とか呼んでいる、というオチはありませんよね?


(我慢)



私たちが勇者候補生として召喚されたことはわかりました。

勇者召喚を行う前に、まずミリトス神に世界の均衡が崩れつつあることを奏上し、崩れた理由を伺い、均衡を正すようお願いはされましたか?

その結果、ミリトス神の神託はどのような内容でしたか?

女神様もいらっしゃるのですから、ミリトス神への繋ぎは可能ですよね?

神託は「勇者を召喚し、自ら均衡を正せ」という内容でしたでしょうか?


(我慢、我慢)



皆様は我々のことを勇者とおっしゃられる。

勇者とは何を指すのでしょうか。

私たちの世界には勇者という職業、または勇者という階級はありませんでした。

勇者とは、具体的にどのような者を指すのでしょう?

剣の一振りで竜を退治するような非常識な膂力を誇る者でしょうか。

それとも小枝の一振りで山を崩し、海を干し上げ、神とも見紛う魔法を操る者でしょうか。

それとも軍を指揮させれば古今無双、戦えば連戦連勝。瞬く間に魔王の指揮する魔物軍を駆逐し、生き残った魔物を慰撫し、それぞれの居場所を得さしめる者を指すのでしょうか。

それとも魔王に挑戦する者を、一般に勇者と呼ぶのでしょうか。


(・・・)



勇者召喚の儀は『勇者の資質を持つ者』を選別して召喚するのでしょうか?

私たちは元の世界では勇者ではありませんでした。

こちらの世界に召喚された時、私たちに勇者の資質が付与されたのでしょうか?

既に私たちはその力を持っているのでしょうか?


(我慢だ、と)



あなたさまは異世界から我々を召喚なさった。

とてつもなく高度な魔術を駆使されたものと理解します。

おそらく数十次元の存在がおられるのでありましょう。

また費やすエネルギー量も想像を絶すると思われます。

この世界を何百年、ひょっとすると何千年も賄ってゆけるほどのエネルギー量かと拝察致します。

それを魔王討伐に使うことは許されなかったのですか?


(・・・うむ)



他の国は勇者召喚をされたのですか?


(・・・聞きたい)



魔王は勇者召喚をされないのですか?


(・・・聞きたい)



◇ ◇ ◇ ◇



これだけは知らないと後々危ないと思い、声に出して聞いてみた。


「私たちが今いるこの星は『地球』でしょうか」

「・・・」

「この世界の形状は球体でしょうか? 宗教的な教えはありますか?」

「・・・」

「地球と太陽の位置関係は・・・ 宗教的な教えはありますか?」

「・・・」

「ここの太陽が属するのは『銀河系』でよろしゅう御座いますか?」

「・・・」

「世界の仕組み、宇宙の仕組みを説明する宗教的解釈はありますか?」

「・・・」

「不敬に当たる解釈はありますか?」

「・・・」


これは地球における宗教と科学の歴史を鑑みて、知らないとやばい。

だが回答は無かった。



「魔王を倒したら元の世界に戻れると理解してよろしゅう御座いますか?」

「・・・」

「勇者なら誰でも魔王を倒せると理解してよろしゅう御座いますか?」

「・・・」


当然のように回答は無かった。

余計なことを聞いたのかもしれない。



ちなみに、


「フリット大司教様が栄耀栄華について話されましたが、教会がお金を出されるのですか?」


とは聞かなかった。



後日、夜空を見て月が2つあることに気付いた。

ここが地球だとしても、私の知っている地球とはかなり歴史が異なるようだ。



何はともあれ私は魔王を倒すことになった。

魔王がどこにいるのか、どんな姿をしているのか、私は知らない。



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