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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
18 カネルの森の成立編
197/269

197話 アルマ1


私とエマはラミアの背に乗って爆走した。

なんと5日でオリオルから古森へ到着した。

ラミアの背の乗り心地は実に良い。

不快な揺れとは無縁だ。


しかしそれでも5日も乗りっぱなしと言うのは疲れる。

古森に着いたときは私もエマも疲労困憊だった。


いや。私を乗せて突っ走ってくれたエリスの方がもっと疲れる。

ラミアの皆さんにヒールを掛けて差し上げた。


エマにもヒールを掛けた。




まずアイシャに挨拶。

アイシャがエマを可愛がる。

エマ大満足。



「大母しゃま」



そう言われたアイシャ大満足。


アイシャから問われる。



「お前、お守りを持っていますね?」



背負い袋を探るとタリスマンとアミュレットが出てくる。



「これをどこで手に入れたの?」


「メルヴィルで入手しました」


「誰から?」


「・・・コスピアジェ様です」


「短命の人間がコスピアジェ殿と二度も会うとは・・・ 縁があるのですね」



アイシャがタリスマンとアミュレットに魔力を吹き込んだ。

アイシャはタリスマンをエマに持たせ、アミュレットを私に持たせた。




アイシャも一緒にミューロン川を渡り、岩の森へ。

アレクサンドラに挨拶。


アレクサンドラもエマを可愛がる。

エマ大満足。



「大母しゃま」



そう言われたアレクサンドラも大満足。



「母者からお守りをもらったな? ではカネルの森へ行くぞ」



ペネロペの背に乗ってどこかに向かう。

ミューロン川沿いに北上する。ここは初めて通る道だ。


カネルの森へ到着した。

私とエマは初めて足を踏み入れる場所なので、森の前で名乗りを上げる。



「古森の友、岩の森の友、ビトー・スティールズで御座います。

 こちらに控えておりますのは私の娘エマ・スティールズで御座います。

 御招待を受けて参上致しました。

 御検分をお願いいたします」



すぐにラミアが現れた。

岩の森で懇意になったラミア達だった。

我々を森の中へ案内した。



◇ ◇ ◇ ◇



瀕死の全裸の女を見せられる。


千切れ掛けた右腕。

千切れ掛けた右脚。

右半身が真っ黒に変色している。

肉は元より骨まで黒ずんでいる。

美しい顔がどす黒く変色し、右半分が崩れている。

初めて見る顔である。


これはバフォメットが受けた傷と似ている。

魔力攻撃による傷だ。

治癒を阻害する呪いのような術式が組み込まれている。


さらに鑑定していく。

この魔力の色はアルマだ。

アルマは会う度に印象が変わるが、これが素顔なのかも知れない。

あまりにも無残な傷。

それでも美しさの片鱗がある。


一見息をしていない様に見えるが、微かに息がある。

アンナマリアが心配そうに訊いてくる。



「救えますか?」


「やってみなければわかりません。 論より・・・ やります」



エマはこれ程重い傷を見るのは初めて。

私が傷の鑑定をしたので、傷の深さ、治癒の困難さも全て伝わっている。

エマは震えている。



「エマ、大丈夫か? 無理はするな」


「こんなに綺麗なお姉ちゃんが一生消えない傷を付けられるなんてイヤっ! 絶対治す!」



涙ぐみながら叫んだ。


早速エマを抱き抱え、エマの両手を通して治癒魔法を掛けていく。



「エマはヒールを」


「うん」


「パパはディスペルとキュアを掛けるからね」


「どうして?」


「この傷。ここを見て」


「うん」


「これが体の内部を破壊する魔法攻撃の特徴で、ヒールを邪魔する呪いなんだ。パパがこの呪いを解いていくからエマがヒールを掛けるんだ」


「うん」



それから親子で治癒に掛かった。

完治するかどうかはわからない。

バフォメットは完治した。

アルマの傷はバフォメットに比べると遥かに重い。

もしトリアージをするなら黒タグ(ほぼ死亡。治療は最低限のみ)が付けられてしまうだろう。

だがアルマは魔族だ。

人間よりも遥かに回復する可能性が高いはず。

治ることを信じてヒール、キュア、ディスペルを掛け続ける。


底なし沼のように、いくらでも治癒魔法を吸い込み続けるアルマ。

表面の傷は後回し。

内部の傷、魔法によって治癒しにくい呪いを掛けられている傷を集中的に治癒する。

少しずつ治っても良さそうに見えるのだが・・・ 明確な手応えがない。


これは長丁場になる。

エマを休憩させながら治癒継続。

エマは休憩時はアイシャに抱かれながら仮眠をとる。

アレクサンドラが羨ましそう。



そんな治療を2時間も続けるとエマが「ウンウン」言い始めた。

どうしたの? と訊くと、エマは上手く答えられない。

切羽詰まったような、混乱しているような感じ。

私にしがみ付いて私の手元をじっと見ている。


エマを抱き抱えてディスペル、キュア、ヒールを掛ける。

エマは私の手元を見ている。

キュア、ヒールを掛ける。

掛け続ける。



「パパ・・・」



エマが何を言いたいのかわかった。

エマを抱き抱え、エマの手を包み込むようにして、私の手からエマの手を通して治癒の魔力が流れていく。

私の見ている視界がエマに共有される。


表皮

真皮

皮下脂肪

筋組織

神経


これらを鑑定しながら『呪いに汚染された組織』にディスペルの魔法を塗り込んでいく。

『寸断された組織』にキュアの魔法を塗り込み、組織と組織を繋げていく。

ヒールを掛け、修復した組織を整えていく。


エマは魔力の流れをまじまじと見ている。

これまでのエマは漠然とヒールを掛けていた。

だがキュアとディスペルはヒールと全然違う。

それを初めて感覚で理解したようだ。


そして生き物の体の構造。

これを知らなければキュアとディスペルは殆ど効かない。

魔法はイメージの産物とされる。

体の構造を知らなければキュアとディスペルの正しいイメージなど持ちようがない。


今、エマは凄い勢いで勉強している。



半日後、エマはキュアとディスペルを覚えた。

私とエマがダブルでディスペル、キュア、ヒールを掛けていく。

すると明らかに治癒の手応えがある。

グイグイ治っていく。

この感じ。

私のディスペルよりエマのディスペルの方が遥かに効いている。

ディスペルだけじゃ無い。ヒールもキュアも私よりも遥かに効いている。

エマは何かに目覚めたようだ。




翌日、アルマの意識が戻った。

内部の傷はかなり治した。

表面の傷はまだ。

アルマはまだ口がきけない。

身振りで「まだ喋るな」と合図して、ディスペル、キュア、ヒールを掛け続ける。



「聞こえますか?」



微かに頷くアルマ。



「右目は見えますか?」



微かに頷くアルマ。


エマは右腕、右脚の治癒に専念して貰い、私は頭部の怪我の治癒に専念した。

アルマが目覚めたのでつい力が入りすぎ 魔力切れを起こすまでやった。


エマと私が討ち死にしたので治癒は一時中断。

エマはアイシャに抱かれ、私はアレクサンドラに抱かれて半日寝た。


目が覚めたとき、アルマは喋ることができるまで回復していた。



◇ ◇ ◇ ◇



アルマの治癒を続ける。

引き続きエマに腕と足を頼み、私が顔と頭を重点的に治す。


治癒を受けながらポツリポツリとアルマが話し出した。

となりでアイシャとアレクサンドラとアンナマリアが聞いている。



◇ ◇ ◇ ◇



バフォメットの指示でコナハラのダンジョンの調査をしていた。


バフォメットが言うにはコナハラにアスタロッテの痕跡があるはず。

ノースランビア大陸に残るアスタロッテの痕跡(魔力の残滓)を見ると、アスタロッテは一時コナハラダンジョンを根城にしていたと考えられる。


そこでアルマがダンジョンを探っていたところ、ダンジョンに戻ってきたアスタロッテの襲撃を受けた。

瀕死のアルマは追撃を逃れるため、周囲に彼女の固有スキル『白昼夢』を掛けた。

白昼夢は特定の個人に掛けるモードと、エリアに掛けるモードがある。

当然のことながらエリアに掛けるモードは魔力消費が激しい。

アルマは怪我と魔力切れから人事不省に陥ったが、彼女の『白昼夢』はそのまま残った。


白昼夢の影響下に入ると、目覚めているにも拘わらず、空想や想像の映像を現実の物として見てしまう。

この術の厄介なところは「こうあって欲しい」「こうなるに違いない」という願望を見てしまうこと。

アスタロッテは自身の脳で作り出したアルマの幻影を本物と認識し、逃げるアルマをあさっての方向へ追跡していった。


白日夢の影響はそれだけに留まらなかった。

白昼夢を掛けた位置がコナハラダンジョンの初層階だったため、ダンジョンの入口が白昼夢の影響下に入った。

その結果コナハラの冒険者ギルド(ダンジョン出張所)の職員はダンジョンから彷徨い出る魔物が見えなくなった。

冒険者もダンジョンから出てくる魔物が見えなくなった。


逆に魔物はギルドが見えず、冒険者の姿も見えなくなった。


その結果、人間も魔物もダンジョンの入口を大人しく出入りするようになった。


魔物はダンジョン内を彷徨っているつもりでダンジョンの外に溢れ出た。

この魔物たちがカネルの森まで流れてきたらしい。




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