190話 サンフォレスト
森の中に入りしばらく進むと、ノースフォレスト同様に森の中に高くて頑丈な城壁が現れた。サンフォレストだった。
中に入ると大歓迎を受けた。
【サンフォレスト】
街の構造はノースフォレストと同様、城壁で魔物から守られながら鉱石の露天掘りを行っている。城内で農業もしている。
街の広さはノースフォレストの2倍ほどある。
だが荒れ地が街の3割ほどを占める。農作物が育たないらしい。
荒れ地(耕作放棄地)には雑草がまばらに生えている。
あと数年したら砂漠化しそうだ。
騎士団もカトリーヌも市民から大歓迎を受ける。
夜はやはり市長主催の晩餐会に出席する。
領主一族の勤めだ。
晩餐会はカトリーヌと騎士団隊長を中心に領内の話題に花が咲いている。
カトリーヌは一通り街の顔役と談笑した後、ソフィーの所へやってきた。
「ソフィー様。レッドボアを倒した魔法を教えて下さいませ」
「うん・・ あれはカトリーヌも使う氷槍をずらりと並べたのものだ」
「並べた・・・ 何本くらいでしょう?」
「50本くらいかな」
「50・・・」
「それをレッドボアに向けて押し出すようにするのだ」
「理屈としてはわかるのですが・・・」
カトリーヌは目眩がしそうな雰囲気だった。
翌日。
ソフィーとマキとエマと私で城内の荒れ地を眺めている。
農地全体の1/3くらいが荒れ地になっている。
「何でしょうね?」
「鑑定してみようか」
エマと一緒に鑑定する。
まばらに生えている植物は麦らしい。
落ち穂から発芽した野生の麦のようだ。
しかし弱々しい。
種族:二条大麦
年齢:1
状態:衰弱
そういえばハーフォード公爵寮のメルヴィルにも耕作放棄地はあった。
洪水の結果湿地になってしまい、農業に適さなくなってしまったのだった。
こちらはどうも違う。
水を被った痕跡はない。
昨夜のパーティで懇意になった助役が朝の挨拶をしてきた。
事情を聞く。
やはり水は被っていない。
例年麦作をしているが年々収穫量が減り、今はほぼ麦が育たなくなった。
仕方なく街の規模を広げ新たな農地を開拓したのだが、まだまだ自給自足にはほど遠いという。
マキが助役に聞く。
「以前は何を作られていましたか?」
「昔から麦です」
「麦だけですか?」
「麦だけです」
「輪作はされないのですか?」
「りんさくとは何ですか?」
それからマキが一生懸命輪作について教え始めた。
助役は興味津々だった。
しかし理解できないようだった。
私も興味津々。
食い入るように聞いた。
非常に大雑把な理解だが、マキの話によると麦は「同じ場所に毎年植えると駄目になる」らしい。
麦が駄目なのか?
土地が駄目なのか?
土地が駄目になるらしい。
ではどうするかというと麦を収穫した次の年は違う作物を植えると良いという。
「駄目になっちゃった土地はどうするの?」
「豆を植えるのよ」
「よくわからないのだが・・・ 駄目になった土地じゃないの?」
「駄目になったって言うのは麦作が駄目になったっていう意味なの。他の作物は大丈夫なのよ」
「・・・」
「わたしもウロ覚えなんだけど、麦に必要な栄養とか、土の中の細菌のバランスとかがあるの。麦ってそれを使い果たしちゃうの。だから別の栄養が欲しい作物を栽培するの。別の作物を作っている間に少しずつ回復するの」
「豆って大豆かな?」
「多分そうだと思う」
「こっちの世界に大豆ってあったっけ?」
「わかんない」
おずおずと助役が話に入ってきた。
「私達はどうすれば・・・」
「どうせ耕作放棄地の扱いですから、ダメ元で豆を植えてみてはいかがですか? 翌年には地力が戻ってくると思います」
「なるほど・・・」
失敗してもマイナスじゃありませんよ、といったら助役はホッとした表情を浮かべた。
助役が退出されてからマキに聞いてみた。
「マキは詳しいね」
「うん。母方の実家が農家でね。昔遊びに行ったとき、そんなことを聞いたんだ」
「輪作っていうのか」
「うん。ただね。麦と豆の交互栽培だけでどこまで上手くいくかどうかわからない。たしか3つの作物を回していたような気がするの」
ソフィーが口を挟んだ。
「お前、何か持っていなかったか?」
「何かって?」
「何か面白い物だ。メルヴィルで出たろう」
背負い袋の中をごそごそかき回してみた。
アイテムボックスなので取り出す物をイメージしないと取り出せない。
何だっけ?
「面白い物、面白い物」と念じて手探りしたらタリスマンが出て来た。
コスピアジェ様から頂いたヤバそうなお守り。
何に使えるのかわからないがコイツでは無さそうだ。
更に手探りする。
タリスマンが呼び水になったのだろう。コスピアジェの布が出て来た。
そっと仕舞い直した。
更に手探りする。
ラミアの牙が出て来た。
ちが~う。こんなイメージではない。
お守りのような奴。
更に手探りすると同じものが2つ引っ掛かってきた。
【豊穣のブローチ】
デーメテールの力を宿したブローチ
2個持っていたのか。
恐らくこれのことだな。
ソフィーが私の手を掴まえてじっくり見ている。
「これは何だ?」
「豊穣のブローチ。説明は『デーメテールの力を宿したブローチ』とだけ・・・」
「豊穣の女神のブローチか。効きそうじゃないか」
「荒れ地の真ん中で魔力でも流してみますか?」
「そうだな。だが夜中にこっそりと、だな」
夜を待つことにして仕舞い直した。
この物語を読んで下さっている方々はお若いと思います。
ご自身は元より、身内が亡くなるなんて想像されたことが無いと思います。
私もそうでした。
今、私の身に遺品整理がのし掛かってきております。
これがお金に換えられるような物ならやる気も湧くのですが、現実は甘くない。
ふとん、毛布、服、タオル、バスタオル、食器・・・
そしてイヤでもわかったこと。
自治体のゴミ焼却炉が高性能だと遺品整理ははかどる。
その逆の場合、非道いことになる。
私は1年に1回は自分の持ち物を見直すことにしました。