表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
19/268

019話 (閑話)勇者たち2

王宮に残った勇者たちは適性に応じて、剣士、槍士、斥候、魔術師にクラス分けされ、職制毎に訓練を積む予定だった。


まずここで躓いた。

槍士、斥候に適正ありとされた者が文句を言い始めたのだ。


「槍なんてかっちょわりい~ だっせ~」

「斥候なんて盗人だろ。ふざけんな!」

「剣士以外やんねーから」


指導教官は希望通り、職を剣士に振り直した。


次に剣士、魔術師に別れて職制毎の訓練を始めたところ、剣士グループで問題が起きた。

財前蒼太、金田剛、日下大の3人が、香取麗華、田宮マキを虐めだしたのだ。

指導教官が止めに入り、虐める事情を聞いたが、何度聞いてもなぜ虐めるのか理解できなかった。


このままでは埒があかないため、職制毎の班分けをやめ、(財前グループ)(日下グループ)(香取グループ)の3つに再編して訓練することになった。



仕切り直して勇者たちの訓練が始まった。


(財前グループ)

前衛:財前蒼太(剣士・火魔法)、金田剛(剣士・土魔法)

後衛:鯨井尚子(水魔術師)、浅見エリカ(風魔術師)、朝倉エマ(火魔術師)


(日下グループ)

前衛:日下大(剣士・火魔法)、久米倫太郎(剣士・土魔法)、山前仁(剣士・土魔法)

後衛:道端レイコ(風魔術師)、山崎香奈子(水魔術師)、村上凛(風魔術師)


(香取グループ)

前衛:香取麗華(剣士・水魔法)、田宮マキ(剣士・土魔法)

後衛:及川由美(火魔術師)



宮廷内では財前グループが最も高く評価されている、とされた。

魔法はやや甘さが見えるが剣戟は鋭いとされ、ダンジョンに挑ませてダンジョンでレベルアップを目論むという噂がまことしやかに流れている。


ダンジョンに入るには冒険者ギルドでE級冒険者以上の認定を受ける必要があるが、この決まりには抜け道がある。

騎士団に所属すると『E級冒険者相当』としてダンジョンの探索が許されるのだ。

財前グループは騎士団属託となり、財前グループもその気になった。


これにより武器の稽古や魔術の訓練に身が入るかと期待されたが、逆に訓練をしなくなった。



「俺たちに訓練なんて不要だぜ。はやくダンジョン行こーぜ」

「実戦だよ、実戦。俺たち実戦あるのみよ」

「ねえねえ、ダンジョンに化粧品持って行っていいよね」

「日焼け困るんだよねー。はやくダンジョン行って日陰に入りたいわ」

「ふふふ、雑魚をまとめて蹴散らすわよ」

「朝倉、おめー魔法使えんのかよ」

「なめて貰っちゃ困るわよ。一面火の海よ」

「いつの間に。すげーなおい」


朝倉エマ(火魔術師)は結局自力で火を出すことができず、火属性の魔石を使って火魔法を発現していた。

以降、宮廷小間使いルッツに言い付けて、常に魔力充填済みの魔石を持ってこさせている。

ルッツがどこから魔石を調達しているかは不明である。



次に高く評価されるのが日下グループ。

魔法は財前グループを凌ぐとされ、前衛の能力の差で次点に評価される。


香取グループはじっくり育てると言われている。



◇ ◇ ◇ ◇



財前グループの実戦デビューが発表された。

この計画が本人達に伝わると大騒ぎとなった。

武器だ、防具だ、装備だ。

勝手に王宮の武器庫に入り込み、高級武具を奪うように持ち出し、装備しはじめた。


財前グループが去った後、王宮の武器庫にて確認が行われた。


「結局奴らは何を選んだのでしょう?」

「こちらで事前に用意したもの。つまり “見せ” 物を漁っております」

「ああ、見栄え重視のあれですか・・・ あれで満足したのですか?」

「満足しています」

「う~む。大臣から聞いてはいましたが、まだ信じられません」


「これは私見ではありますが、彼らは我々とはあらゆる面で考え方が違うように感じられます」

「それはどのような・・・」

「我々はまず自分の役目を考えます。そして役目にふさわしい、自分の扱いやすい武器を選びます」

「ふむ」

「彼らはまず好き嫌いを考えます」

「・・・」

「彼らの中では巨大な片手剣が至上のようです」

「彼らは剣士の才能は無いのでしたね?」

「ありません」

「・・・」

「奴らにとってあの剣は重すぎます。そこで鎧、盾は逆に軽い物を選びます」

「それでは危ないではないですか?」

「そうなのですが、我々の助言は聞き入れません」

「・・・」

「・・・」

「実は彼らは本物の勇者だったということは・・・」

「ありません」

「・・・」

「・・・」


「では当初の予定通り」

「はい」



財前グループは王宮内の一室でメッサーダンジョンの講義を受けた。

メッサーダンジョンの概要。

階層毎に出てくる魔物の傾向とその脅威度。

攻略のポイント。

階層毎の地図。

階層毎に存在する未踏破領域。

安全地帯。


全く聞いちゃいなかった。


そして騎士団属託の身分でメッサーダンジョンに入った。

ダンジョンを探索する勇者第1号となった。



◇ ◇ ◇ ◇



メッサーダンジョンの第一階層を勇者パーティが進む。

財前パーティ(財前蒼太、金田剛、鯨井尚子、浅見エリカ、朝倉エマ)の5人である。

一応財前、金田が前衛。鯨井、浅見、朝倉が後衛だが、そのような役割とは関係なく歩いている。


「くぅ~~う。これがダンジョンかー」

「すっげー かっちょいーわー」

「ねー タ・カ・ラ・バ・コッ」

「オタカラ オタカラ」

「早く見つけてよー」

「つまんな~い」


周囲を警戒する様子も無い。

全員が横一列、通路いっぱいに広がって、大声で意味の無いことをしゃべりながらダンジョンを歩く姿は異様だった。


他の冒険者達は異変を感じ、すぐに距離を置いた。

ベテラン冒険者に至っては、メッサー冒険者ギルドの新しいテスト(初心者の指導、あるいは過干渉のチェック)ではないかと訝しんだ。


警戒もせず、大声を出しながら歩けば周囲の魔物を呼び寄せる。

メッサーダンジョンの第一階層の入り口付近に出てくる魔物は、ゴブリンまたはキラーアントだ。

やって来たのはゴブリン3匹だった。


「財前君、前!」

「おおっ! こいつ・・・ 何だコイツ? とにかく雑魚のくせに生意気な」


前方から近づく魔物に偶然鯨井尚子が気付き、警告を発した。

これがゴブリンだという事を、財前グループの誰も知らなかった。

財前が巨大な剣を振りかぶるとゴブリンは散開した。


「ちょこまかウゼえ、雑魚がっ!」


財前が剣を振り下ろすがそこにゴブリンはいない。

財前の剣はダンジョンの床を叩いて火花が散った。


「おらっ! 今殺してやる。そこを動くな!」


剣が重すぎて動作が遅い。

それでも黙って剣を振れば少しは剣先の速度も上がるのだが、いちいち自分の実況中継をしないと気が済まないので、全てがワンテンポずつ遅れていく。


既にゴブリン達は財前パーティの中に入り込んでおり、棍棒で鯨井たちを殴り始めた。


「きゃー 何やってるのよっ!」

「早く殺してっ!」


財前と金田が剣を振るう。

金田の剣を躱したゴブリンに偶然財前の剣が当たり、ゴブリンは潰された。

仲間を殺されたゴブリン2匹は飛び退いた。


「よっしゃーー ぶっ殺したーーー」

「おーーーー」

「なー 見た見た? 今の」

「おー 見たぜ」

「コイツがお前の剣を躱すの読んだんだぜ」

「すっげー」

「一撃目の後でこう剣を返してだなー、返す刀でこう剣筋がなー」

「おー」

「手応えはなー、魔物の頭の中にこう『グズッ』と刃が潜り込む感触がだなー」


ゴブリンの死体を挟み、残りの2匹は放置して、殺し自慢や殺しの解説を大声でしていると、生き残ったゴブリン2匹がこっそり近づいて後衛の2人、浅見エリカと鯨井尚子に棍棒で殴りかかった。


ガスッ! ガスッ!


「ギャッ!」

「痛いっ!」


浅見エリカと鯨井尚子は足を殴られ尻餅をついた。


「貴様ーー 俺の話の邪魔をするなー」


財前は自慢話の腰を折られて激高し、巨大な剣を振り回し始めた。

剣の重さに振り回され、与太っている。


「うぉっ! あぶねっ!」

「きゃー!」

「ちょっと財前君!」


パーティメンバーと一緒にゴブリンが逃げ惑うと財前は更に剣を振り回す。

だが、あっという間に息切れしてぶっ倒れた。

膝をついてゼーゼー言っている財前にゴブリンが群がり、棍棒で殴り始めた。


いつの間にかゴブリンが5匹に増えている。

大声で騒いだために他のゴブリンを呼び寄せたらしい。


ガスッ! ガスッ! ガスッ!


「てめえっ! はぁはぁ このっ!」


ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!


「ぐわっ! だあああっ!」


ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!



パーティメンバーは財前が動かなくなっていくのを呆然と見ていた。


最初に我に返ったのは朝倉エマだった。

朝倉は怒り狂って魔石を取り出し、長ったらしい呪文を唱え始めた。


「貴様ら 覚悟しろー 聖なる炎よ、我が敵を撃つ弾となれ、女神のご加護・・・」


ゴブリン達は悠長に呪文を唱え終わるのを待っていなかった。

瀕死の財前を放り出し、朝倉に襲いかかった。


「ギャー ずるいぞー ワァーー」


ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!


「ギャー 痛い 痛い いやー」


ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!


朝倉は魔術師なので防具を身に着けていない。

両膝を殴られて倒れた朝倉にゴブリン達が群がって、一斉に棍棒を振るい始めた。

あっという間に血だるまになった。



大混乱に陥った。

金田はパーティメンバーを見捨てて逃げだした。

浅見エリカ、鯨井尚子も逃げたが、足に怪我を負っているため、ゴブリンに追いつかれた。


「ウギャー くるなー 聖なる水よ、球体となり、出でよ・・・」

「ギャー 聖なる風よ、我が敵に衝撃を与えよ・・・」


しかし呪文を唱え終わる前にゴブリンに囲まれて袋叩きにされた。


ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!


ゴブリンは二人が動かなくなったのを確認すると、ふたたび財前と朝倉に群がって棍棒を振るい続けた。


ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!

ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ! ガスッ!


じわじわと血だまりが広がっていった。



他の冒険者達は理解が追いつかない風で、遠巻きしながら黙って見ていた。



◇ ◇ ◇ ◇



金田剛は生き残った。


武器庫から勝手に持ち出し、ダンジョン内に捨ててきた武器を回収してくるように騎士団から命じられたが、金田は返事をしなかった。

騎士団から何を言われても目を合わせようとしなかった。

部屋に引きこもって言葉も交わさなくなった。

その割には飯を食い、トイレには行くようだった。


金田は騎士団属託なので騎士団の規定が適用される。

ダンジョン内における金田の行動に『敵前逃亡』の嫌疑が掛けられた。

また、理由も無く騎士団の命令に反抗したため『命令違反』の嫌疑が掛けられた。

軍事法廷で申し開きの機会を与えられたが、金田は


「弁護士が来るまで何もしゃべらない」


そう宣言して黙秘した。

そのため騎士団の嫌疑は事実と認定され、金田は奴隷へ落とされた。


「ふざけんなー」


騎士団は大声で叫んで暴れる金田を縛り上げ、猿ぐつわを噛ませ、顔面にベッタリと犯罪奴隷記号を入れ墨し、奴隷契約の魔術を掛け、鉱山へ送った。



数日後、王宮から公示があった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

勇者候補生:財前蒼太、鯨井尚子、浅見エリカ、金田剛、朝倉エマは、

迷宮攻略中に魔物に遭遇し、財前蒼太、鯨井尚子、浅見エリカ、朝倉エマは死亡。

遺体はメッサーダンジョンに呑まれた。


金田剛は『敵前逃亡』および『命令違反』の罪により、勇者資格を剥奪し、

奴隷階級へ落とす。

墨刑の後、錫鉱山へ送監済み。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ