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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
17 オリオル辺境伯領編
188/270

188話 ノースフォレスト


ノースウッドに戻った。


まっすぐ野戦司令部に向かうことにした。

カトリーヌ以外の連中とつまらぬ問答をする気はなかったので、いきなり皆の前でカトリーヌに報告することにした。


野戦司令部の前の庭にレッドベアの死体を置き、ソフィーとエマとマキに見張って貰い、私一人で司令所の中に入っていった。



「カトリーヌお嬢様。レッドベアの討伐、完了致しました」


「なんですって!!」


「どうやって!!」


「騎士団が回ってきたのか!!」



ざわめく司令部。



「レッドベアはどこに?」


「表にございます」



司令部に詰めていた全員がゾロゾロと外に出てきた。

出て来たのは良いが、全員が一点を見つめて固まってしまった。



種族:レッドベア

年齢:8

体長:3.1m

体重:650kg

爪長:8cm



きちんと鑑定すると体重は600kgを超えていた。

死んでいるとわかっていても圧倒される化け物だ。



「本当に討伐したのか・・・」


「こいつ『主』だ・・・ 間違いない・・・」



納得したようだった。



聞くとノースウッドには冒険者ギルドがないとのこと。

さらに南下してノースフォレストの街なら冒険者ギルドがあるとのことで、そこにレッドベアを卸すことにした。



早速カトリーヌをせっついてノースフォレストへ向かうことにする。

と言っても騎士団が来たりして、質問に答えなければならなくなって、2日ほど待たされた。


騎士団はメイプルレインに現れたレッドベアを退治したという。

私達がレッドベアを毒殺したという話を聞いて感心していた。



「なるほど。ただ正面から戦うのではないのですね。知恵で戦う、と。 さすがですお嬢様」


「倒したのは私じゃないんだけど・・・」



だが「何の毒を使ったのだ?」との質問に、マキが正直に「レッドサーペントよ」と言ったもんだから大変なことになった。

レッドサーペントを討伐したことがあると思われたのだ。



「イルアンの冒険者ギルドで購入したんですよ。高名な冒険者パーティ『炎帝』が持ち込んだレッドサーペントの毒袋が売りに出されたんです」



炎帝の名前を出してなんとか納得して貰った。


とにかくレッドベアの空白期間が生まれたので、今のうちにノースフォレストへ向かうことにした。



◇ ◇ ◇ ◇



ノースウッドから南ノ村を通過して更に南下する。

鬱蒼とした森の中に入っていく。

森の中の一本道を行く。


この森はマキが倒したレッドベアのテリトリーになっていたので、以前はここを通行するのは命懸けだったそうだ。


しばらく行くと森の中に要塞が見えてきた。




【ノースフォレスト】


森の中に佇む四方を壁に囲まれた要塞都市。

森の中を進んでいくと突如土色の壁が現れる。

壁の高さは10m超。

壁の厚みは4m。

壁の一辺は5km。


この壁で囲まれた内側に何があるかというと鉄鉱石の露天掘り。

レッドベアをはじめとする強力な魔物から鉱夫を守るため、壁で囲っている。

壁は幾重にも重なっており、村から町へ拡がっていった痕跡になっている。

年輪のようである。


その構造上、オープンな街とは言えない。

また貴重な金属を産しているため、人の出入りのチェックも厳重になる。

ソフィーの見立てでは鉄以外の稀少金属か宝石を産しているのではないかとのこと。

そんな中、カトリーヌの顔でフリーに近い形で街に入る。


すぐに市長へ挨拶。

領主一族の訪問を受けるのは晴れがましいことらしく、この街も歓迎ムード。

レッドベア退治の情報は真偽不明として伝わっており、真っ先に聞かれた。

市庁舎の中庭でレッドベア開陳。

多くを説明せず、カトリーヌが倒したと誤解を受けるような受け答えに終始した。




一通り表敬訪問を終えるとすぐに冒険者ギルドへ移動。

この街は周囲を森に囲まれ、ダンジョンとはまた違った意味で魔物の密度が濃い。

従って冒険者ギルドも盛況である。


冒険者ギルドの扉を開けると、たむろしていた冒険者が一斉にこっちを見た。

後で聞いたらレッドベアが暴れていたので街の外のクエストを受けることが出来ず、大量の冒険者がくすぶっていたらしい。


私を見ると「見慣れぬ奴が来た。弄ってやれ」と早速数人の冒険者が席を立つ。

だがすぐ後ろからソフィーが入ってきたのを見て、思い直して座る。

それでも一人の冒険者が私に絡んで来た。

ソフィーの後ろからカトリーヌが入ってきた。

私に絡んだ冒険者は領主一族の顔を知らなかったらしい。



「おう。見慣れぬ顔だな。挨拶もなしか? ああっ!?」


「はぁ~。領主一族のパーティに絡むとは随分剛の者ですね」


「ああん? なに言ってる。そんなのいるわけねぇだろうがっ!」


「オリオル辺境伯が次女。カトリーヌ・オリオルよ。我が血筋に疑問のある者は前に出よっ!!」



鞭のようなカトリーヌの声が響くと奥の扉から大男(ギルド長)と妙齢の美女フロントがすっ飛んできた。



「ご無沙汰をしております。カトリーヌお嬢様。昨年お姿を拝見したときにも感銘を受けましたが、昨年より更にご立派になられましてのご帰郷。身共は感動致しております」



大男と美女がカトリーヌに恭しく頭を下げる一方、因縁を付けた奴はコソコソと冒険者の群れの中に潜り込んでいった。

が、ギルド長の雷鳴のような声が轟いた。



「モーガン! こっちへ来いっ!」


「あ・・・ いや・・・」


「いいから来いっ!」



しぶしぶ前に出る冒険者。



「歯を食いしばれ」


「えっ?」


「歯を食いしばれぇーっ!」



バキンッ!


ギルド長の平手打ちを受けた冒険者は金属音のような打撃音を残し、壁まで吹っ飛ばされていた。



「お嬢様。どうかこれでお許し賜りたく」


「許します。それよりもギルド長。買い取ってほしいものがあるのですけど」


「なんなりと」


「ここでは狭いわね。裏へ行きましょう」



なんだかカトリーヌがベテラン冒険者のように見えてきた。


裏庭に出て背負い袋からレッドベアを出す。



「確かにこのあたりを縄張りにしていたレッドベアです。耳の形でわかります。これで滞っていたクエストが活性化することでしょう」


「良かったわ」


「ところでお嬢様。このレッドベアはどうされるおつもりで?」


「買い取って欲しいの」


「望むところでございます」



すぐに解体担当を呼び寄せたので注意喚起した。



「お嬢様。解体時と素材の扱いのご注意を」


「あら。ビトー様。説明して差し上げて下さる?」


「はい」



訝しげなギルド長に説明した。



「ギルド長。このレッドベアは服毒させて倒しました。内臓と肉に毒が含まれると考えます。扱いに配慮をお願い致します」


「そうか。食用にはむかんのか」


「左様でございます」



買取額に手心が加えられた。



◇ ◇ ◇ ◇



ノースフォレストは広大な壁の中に露天掘りの鉱山と農地が同居する不思議な街だ。

これは強力な魔物の襲撃を受けることを前提とした作りで、ときには内に閉じこもり、長期間の籠城を可能とする。

まさに要塞都市である。


周囲は魔物の密度が高いため、普通の商人は訪れることが出来ない。

従って食料の自給自足率を高めることが求められる。

野菜類・穀物類は要塞内の畑で作られており、自給が可能になっている。

しかしタンパク質は中では作れないため(そこまで広大な放牧地を用意できない)街の外に魔物を狩りに行く。冒険者ギルドのクエストは主にこれである。

ところがレッドベアという強すぎる魔物が居着いてしまったため、なかなか外へ食肉調達に行けなかったということだった。



鉄の露天掘りの現場を見学したかったが機密らしく、他領の者に見せることは出来ないと言われてしまった。


しゅんとして次の街、サンフォレストへ向かうことにした。




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