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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
17 オリオル辺境伯領編
186/272

186話 熊狩りならぬ・・・1


野戦司令部に戻り作戦会議を始めた。


本来ならカトリーヌまたは市長が座長となり、作戦目的を定義し、情報を整理し、広く意見を出させながら作戦を立案するのだが、カトリーヌは心労と寝不足でフラフラ。

市長は武寄りのことは一切駄目。

この場合、本来なら守備隊隊長が役目を引き継ぐのだろうが、怪我で伏せっている。


ここは領主一族としてカトリーヌが頑張るしか無い。

ということで私とソフィーが補佐に就くことにした。



カトリーヌとソフィーと私で部屋の隅で事前打ち合わせ。



「レッドベアは放置できませんか?」


「一度人間を襲った熊はその後も人を襲い続けます。放置できません」


「わかりました。 会議の流れは・・・ こんな感じでどうでしょう?」


「ええ」


「落とし所はここで」


「ええ」


「仕切っているのはカトリーヌ。実質は全て私に丸投げでどうでしょう」


「ええ」



会議開始。

出席者はカトリーヌ、市長、助役、役人、商業ギルド出張所の責任者、守備隊、そして乙女隊。

進行役は私。

マキがさりげなくメモを取る。


昨夜判明したレッドベアの襲撃を報告。

守備隊隊長が怪我を負ったことを報告。

ここで場がざわめいたが静粛にさせ、カトリーヌから隊長の状況を報告。

カトリーヌから1ヶ月で現場復帰が可能との言葉をもらい、全体にホッとした雰囲気が流れた。


領都に騎士団派遣を要請したが、回答は「時間をくれ」。



「そんな!」


「何故ですか!」



会場が一斉にざわめいた。

カトリーヌに一礼してから私が説明した。



「ノースウッドからレッドベア襲撃の報を入れるより半日前でございます。メイプルレインからベッドベア襲撃の報が領都に入りました。領都の騎士団は既にメイプルレインに派遣された後でございます」


「何と・・・」


「二匹同時に出るとは・・・」


「ですので当面我々だけで対処する必要があります」


「む・・・」


「騎士団が駆け付けるまでの間、レッドベアを退治する、追い払う、または時間稼ぎをする方策を検討したいのです」



会場がざわざわする。

これといった策は無いらしい。



「門を閉ざして堅く守りますか?」


「それだと南ノ村を見殺しにすることになるっ!」



南ノ村は守備隊隊長がレッドベアに襲われた場所に近い。

そして南ノ村の城壁が痛んでいる。



「では門を開き、打って出ますか?」


「いや・・・」


「では門を開かず、南ノ村を救う方法を・・・」


「・・・」


「お金を掛ければ可能性が出てくるとか、ありませんか?」


「・・・」


「やはり門を閉めるしかありませんか?」


「だがそれでは南ノ村が・・・」


「では『門を閉めて南ノ村を救う方法』『門を閉めずに南ノ村を救う方法』どちらでもよろしいので策を考えましょう。ヒントでも結構です」


「・・・」



出席者達は黙ってしまった。



「では・・・」


「いや、しかし・・・」



出席者はしたり顔で「南ノ村が・・・」というが。

レッドベアを倒さねば南ノ村は救えない。

だが肝心のレッドベアを倒す策が無い。

だが南ノ村は救わねばならない。

しかし策は無い。

救わねばならない。

しかし策は無い。

救わねばならない・・・



「結論の出ない堂々巡りは止めましょう。今までノースウッドではどうされていたのですか?」



そう問い掛けると皆さんそっぽを向いた。

カトリーヌと乙女隊に丸投げする気らしい。


馬鹿らしくなってきた。

元の世界にもこんな奴はいた。

大義を振りかざして何か指摘したつもりになっている奴。

困難を克服するために知恵を絞ったり、金を捻出したりは絶対にしない。

外野で反対するだけ。

究極の野党。

市に、領に、国に、何一つ益をもたらさない。


あとで仲間内では



「俺は反対したんだ」



と偉そうに言うのだろう。


こんな奴らの相手をするのは、底の抜けたバケツで水を汲むようなものだ。

まともに相手をするものでは無い。

幸いにしてこの国は民主国家ではない。

知恵も実力も無い者が多数派を占めていても一顧だにする必要は無い。

決めるのはカトリーヌだ。



「この一件、私が預かる。解散!」



カトリーヌは強引に会合を終わらせた。



◇ ◇ ◇ ◇



「申し訳ありません。お見苦しいものをお目にかけました」



カトリーヌもあの連中にウンザリしているらしい。



「知恵も実力も無い者が大義を振りかざすと不幸しか招きませんからね。強引に終わらせてよろしゅうございました。

カトリーヌお嬢様が話を聞いて差し上げた、という実績が重要なのでしょう。

あれが彼らのガス抜きになっているのでしょうから」


「そうだと良いのですが・・・ それでソフィー様。腹案がおありのような感じを受けましたが?」


「まずレッドベアが1頭なのか、複数いるのか、掴まなければならない。出来れば位置もだ」


「ええ。そうですわね」


「それでやっと作戦を立てられる。斥候を出そう」



レッドベア討伐前の情報収集の作戦を立てることにした。

とはいえこれは接敵する可能性が高い。

準備は討伐と変わらない。


カトリーヌに確認。


領都からノースウッドに来る途中で見たトーチカ。

あれは南ノ村近辺にもある?

=> ある。


我々も使って良い?

=> 魔物に追われる者なら誰でも使って良い。


保存食や武器は運び込まれている?

=> 保存食は常備されている。武器はない。


トーチカを使う上での注意事項は?

=> トーチカを使うと言うことは、レッドベアまたはグレーウルフの群れに追われて逃げ込んだと言うこと。奴らはトーチカの周囲うろついて立ち去らない。


と言うことは騎士団が助けにこないと餓死する?

=> そう。



するとマキが嬉しそうに、



「わたし、毒まんじゅう作ったよ」


「ん・・・?」



毒まんじゅうって何をするの? マキ。



◇ ◇ ◇ ◇



ソフィー、マキ、エマ、私の4人で斥候に出ることにした。

斥候に出る期間は3日プラスマイナス2日。



「本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫です」


「エマちゃんは安全なところにいた方が・・・」


「この4人だから大丈夫とも言えるのです。まあ、期待して待っていてください」



不安そうなオルタンスお嬢様に気楽な口調でソフィーが答え、出発した。

上空にはアルが控えている。


オルタンスお嬢様、カトリーヌ、アナスターシアには騎士団の迎え入れ準備をお願いした。



◇ ◇ ◇ ◇



ノースウッドの北門を徒歩で出た。


馬は目立つのでレッドベアに見つかる可能性が高くなる。

逃げるだけなら騎乗でも良いのだが。

トーチカの中に入れることも出来ないし。



エマと私で広く索敵をしながら麦畑を進む。

上空からアルが監視中。

進み方はトーチカからトーチカへ蛙跳びのように移動。

いつでも逃げ込める様に。



1日歩くと南ノ村が見えてきた。

陥落していない。

人の気配がある。

南ノ村に近付くと、監視の村人が門を開いて迎え入れてくれた。



「あんたらどこから来たんだ」


「ノースウッドからです」


「騎士団は来ないのか?」


「メイプルレインにレッドベアが出たという話で、先にそちらに向かったようです」


「なんと・・・」



詳しい話を聞く。

ホーンドラビットが10匹以上現れてノースウッドの守備隊に出動要請を掛けた。

だがホーンドラビットは消え失せてレッドベアが出た。

稀にあることらしい。

レッドベアから逃げるホーンドラビットを、畑を荒らしに来たと誤認するのだそうだ。



「レッドベアはどこへ行きましたか?」


「わからねえ。ホーンドラビットを追っかけていったと思うんだが、ホーンドラビットがどこへ行ったのかわからねえ」


「レッドベアは複数出ましたか?」


「いや1頭だ。あいつはこのあたりを縄張りにしている奴だ。他の熊がテリトリーに入ることを許さねえ」


「それは・・・貴重な情報です。ところでレッドベアはホーンドラビットを仕留めましたか?」


「そういえば・・・」



ホーンドラビットの死体が2~3匹転がっていたらしい。

放置していたが、いつの間にか見えなくなった。

食べたのかも知れないという。



「レッドベアの獲物に手を触れてはならない、という言い伝えがあってな。近寄らないようにしているんだ」



なるほど。

前の世界の熊と同じ習性があるのか。




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