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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
17 オリオル辺境伯領編
184/270

184話 巡察とエマの訓練


カトリーヌからオリオル辺境伯領のレクチャーを受ける。


オリオル辺境伯領はノースランビア大陸の東大陸の北辺に位置し、北は海、南は大森林に挟まれた土地。

領地は広いが農業生産は大きくない。

そのため騎士を多く召し抱えることが出来ない。


領地に出没する魔物は大きく2つに分類される。

農作物を荒らす魔物と、それをエサにする魔物。

前者がラビット系、ディアー系、ボア系。

後者がウルフ系、ベア系。

後者は人間も食料と見なすことがあるので特に注意が必要。


私はメルヴィルでボア系の強さは身に染みているので、そのボア系を捕食する連中の強さを想像すると呆然とする。



昨年から今年にかけて山林が不作だったらしく、早くもラビット系、ディアー系が人間の生活圏でちらほら目撃されるようになった。

これら害獣は街の守備隊が退治する。

ベア系、ウルフ系は守備隊の手に負えないため、目撃したら城壁内に引き籠もる。

騎士団へ急報し、騎士団が退治してくれるのを待つ。


ちなみにオリオルの職制だが、守備隊は外敵から街を守ることを任務とする。

討伐対象は魔物。

一方自警団は内部の敵から街を守ることを任務とする。

討伐対象は人間(犯罪者)。


騎士団は辺境伯直属の部隊だが、地位は守備隊の上位にあたる。


と教えられた。



乙女隊は領内を巡察して領民を慰撫しつつ、魔物と遭遇したときはこれを退治する。

騎士団と守備隊の中間的な任務を依頼された。



◇ ◇ ◇ ◇



カトリーヌの先導で領内巡察に出発した。

全員騎乗。

エマは私の前。

巡察ルートおよび途中の宿については完全にカトリーヌにお任せである。


城を出て城門まで向かう途中、カトリーヌに聞いてみた。



「城壁内が凄く広いけど、これはどんな意味があるの?」


「この地は魔物の食料も少ないので、農産物は魔物に狙われやすいのです」


「農地も囲ってしまおうと?」


「ええ。本当はもっと広く囲いたいのですけどこれが精一杯なんです。城外にも作物を作っていますが、収穫まで魔物との戦いになります」


「理解しました」



巡察は反時計回りに領内を一周するイメージ。

まずはオリオルから南下してノースウッドという街へ向かう。


オリオルの城外にも畑が拡がる。

畑の中にポツリポツリとトーチカのようなものがある。



「あれは何ですか?」


「土魔法で固めたミニ要塞です。農作業の最中に魔物に襲われたときに逃げ込んで、反撃の機会をうかがいます」



魔物と一戦交えるときの拠点になるそうだ。



「あの中に籠もれば悠々と呪文を詠唱する時間がとれるのです。それが私の当たり前になっていました。ソフィー様に指摘されて、実際にダンジョンに潜って、初めてそれが間違いだと気付いたのです」



恥ずかしそうに言うカトリーヌだが、昨年の休暇中に無詠唱をモノにしているのだから相当優秀なのである。


ちなみにエマは最初から無詠唱が基本である、と教えられている。

ベビーシッター(パトリシア)が優秀なのである。




ノースウッドへ向かう道は畑の中を突っ切る。

私とエマは一緒に周囲を索敵しながら進むのだが、なんとなく武者修行の意味がわかってきた。

エマは水・光・闇属性を持つ。

水に関してはソフィーが相当仕込んだようだ。

だが光と闇は私しか教える者がいない。

そしてエマは私の光と闇の魔法を感じ取って貪欲に吸収し始めている。


エマは早くも広範囲の索敵と、対象を絞った詳細な鑑定を使い分けている。

すでに上空のアルと意思疎通が可能になっている。

認識阻害も習得している。


ということで、惜しみなく私の魔法を伝えることにした。

私もエマの広範囲の索敵を憶えた。




一面の麦畑の中を進む。

だが麦に勢いが感じられない。何だろう?

進みながら麦を鑑定していく。


・・・元気がない。

病気?



「パパ。麦さん病気なの?」


「う~ん。ちょっと診察してみよう」



全員にいったん止まって貰い、馬から降りて麦をまじまじと見た。



種族:二条大麦

年齢:1

状態:衰弱



病らしい。


エマと顔を見合わせた。

私が見える物はエマにも見える。

エマの武者修行のために麦にヒールを掛けてみることにした。


エマをフトコロに抱え込む。

麦の茎をエマの小さな両手で包むようにさせ、その外側から私がエマの手の甲に手のひらを重ねる。

そして麦を鑑定しながらヒールを掛ける。


私のヒールの魔力がエマの両手を通して麦に流れていく。

エマは口を開け、目を見開いて麦を見ている。

麦の緑色が濃くなり、茎がシャキッとした。(目の前の一束だけ)

改めて鑑定すると



種族:二条大麦

年齢:1

状態:健康



エマが小声で聞いてくる。



「麦さん元気になったね」


「そうだね」


「あれがヒールなの?」


「そうだよ」


「パパしか使えない?」


「これでエマも使えるようになったでしょ?」


「うん」


「秘密だよ」


「うん」



私とエマが何をしたのか、ソフィーだけがわかっているようだった。




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